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02~03 Side 唯 01話
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セリが笑ってる。
手を伸ばせばすぐ届く場所で――
そんなはずはない、セリはもういない。
わかっているのに俺は手を伸ばす。
夢でも良かったんだ。
セリが笑って俺の手を取ってくれるなら。
夢でも、良かったんだ――
妙に生々しい感触だと思った。
夢なのに、超絶リアル。
そう思いながら、掴んだその手を引き寄せ抱きしめる。
このままキスして押し倒してもいいかな。
どうせ夢なんだから、少しくらいいい思いをしてもいいんじゃないか、と思う。
セリにキスするのなんて三年ぶり。
生身じゃなくてもいい。
夢でこんな生々しい感触を得られるのなら、キスの先まで望みたくなる。
なぁ、セリ……。
もっと頻繁に夢に出てこいよ。
この手にセリを抱きしめたい。その細い腕に抱きしめられたい。
もっともっと――
「唯兄、私、翠葉だよ。朝だから起きよう?」
何、今の声……。
セリの声にしては若干高いような気がする。
いや、待て……。
その前に、頭の中で声がするというよりは外部――
きちんと耳から聞こえてきた気がしてならない。
俺の両手にはまだ女の感触がある。
手の平に伝わる体温を感じ、さらには頬をつかれることで目を開けた。
「……すい、は……?」
幻聴のように聞こえたものを口にすると、俺の視界に見慣れたきれいなロングヘアが映りこむ。
セリの癖っ毛じゃない……?
「え? ……あ、わっ、リィっっっ!?」
焦って咄嗟に飛び退いた。
背中がガッツリ壁に当たり、一気に全身覚醒。
「ごめんっ。俺、何か変なことしなかったっ!?」
俺の中ではまだキスすらしていないわけだけど、自信があるかと問われれば限りなく怪しい。
「えぇと……お姉さんの名前を口にしていたのと、唯兄の手を取ったら、こぉ……ぐわっと引き寄せられてちょっとびっくりした。……でも、それだけだよ?」
「そう……なら、良かった……。いや、良くないか!?」
全然良くないだろっ!?
思わず頭を抱えて唸ってしまう。
やばいやばいやばいやばい――
俺、あのまま起きなかったら間違いなくリィのこと襲ってた気がする。
抱きしめてキスしてその先までしてた気がしてならない。
俺の欲求マジ怖ええええっっっ。
っつーか、リィ……。
もっと早い段階で拒んでおこうかっ!?
いや、もしかしてもっと早い段階から起こしにかかっていたんだろうか……。
いやいやいやいや――
俺、全然拒まれてる感じしなかったし。
秋斗さんに対してもリィってこんな感じだったのかな?
だとしたら、襲わなかった秋斗さんに感服だ。
あの人、キスとキスマークだけで未遂とか犯してないし……。
「……なんか、嫌な夢見た……?」
心配そうな面持ちで俺を見る視線に耐え切れない。
俺のいかがわしい思考を今すぐどっかに捨ててきたい。
「いや、そういうんじゃない……かな」
必然的に苦笑いしか浮かばない。
けど、そんな表情はさらにリィの心配を煽ったようだ。
「心配しなくていいよ。ほら、リィは今日家出るの早いんでしょ? 急がなくちゃ――って俺が早く起きろって話か……」
俺、ただいま絶賛動揺中。
頭冷やす方法というか、挙動不審すぎる自分を落ち着ける術が思いつかなくて、ゴツとわざと壁に頭をぶつけてみた。
「だ、大丈夫っ!? すごい音したよっ?」
大丈夫。大丈夫だよ、リィ。
寝覚めたばかりの後頭部がジンジンしてるけど、大丈夫……。
壁に頭を預けたまま天井を仰ぎ見る。
部屋は照明がついておらず、窓からの光だけでなんとなく仄暗い。
そんな中、目を瞑り深く息を吐き出した。
二酸化炭素とともに自分の欲求願望など全部出ていってしまえ……。
かなり切実な願い。
「五分……いや、七分ちょうだい。シャワー浴びたらすぐ行く」
「うん、わかった。じゃ、先に食べてるかもしれないけど、お母さんにも伝えておくね」
「ん、お願い」
目の前にいるのはリィ……。
頭で再度認識してから目を開ける。
そこにはまだ「心配」って顔をしたリィがいた。
大丈夫だから。
そう思いをこめて笑顔を向けると、リィの表情が緩む。
そう、大丈夫だよ。大丈夫なんだ。
セリやホントの親がいなくても、今はリィやあんちゃん、碧さんと零樹さんがいる。
セリに求めるものは未だなくなりはしないけど、それがすべてではなくなった。
「今」を一緒に生きてくれる家族を得たから。「今」を一緒に闘う仲間を得たから。
たださ、夢でいいから――時々でいいからセリに会いたいんだ。ただ、それだけ……。
「でーもっ、今日のはやばいだろ……。おい、セリ……おまえもうちょっと頻繁に出てこいよな。危うくリィを襲うとこだったじゃんか」
リィには俺の起こし方を伝授せねばならんだろう。
何も蹴飛ばされて起こされたいわけじゃない。
でも、寝とぼけてリィを襲うくらいなら殴って起こしてもらうほうが断然いい。
ひとつの結論を導き出し、俺はバスルームへ向かった。
「おはうようございます」
ダイニングに足を踏み入れ、「げ……」と思う。
「朝食に遅れてくるとはいい身分だな」
六時半という早い時間の朝食に、オーナーが来るとは思っていなかった。
リィ、有益な情報は先に流しておこうか。
「ここがオーナーの持ち物であることは存じています。が、今は一応自宅なので」
それっぽく答えては、リィが座るラグの左側のソファに座った。
本当はリィの左側に座ろうとしたんだけどね。
司っちの指定席っぽいそこに俺が毎日座ることで、テスト期間だけは彼に「譲ってあげる」的な状況を作ろうと意図してたから。
でも、食器はそうは並べられていなかった。
すでに用意されているそれらを移動させるのもアレだから、おとなしくソファに座っただけ。
俺の向かいにはあんちゃんが座っている。
「自宅でも会社でも、協調性は大切だろう?」
追加されたオーナーの言葉に、やっぱなぁ……と思う。
あれくらいじゃ逃がしてもらえるとは思っていなかった。
けど、これは諭されているんじゃなくて吹っかけられてる、が正解だと思う。
その完璧なまでに胡散臭い笑顔やめてください……。
この人、絶対楽しんでるしっ。
とりあえず、切り抜けろ、俺っ!
「あれ? 自分、協調性とか順応力は高いって定評があった気がするんですけど。おっかしいなぁ……」
あんちゃんの隣には零樹さんが座っていて、オーナーはその隣に座っている。
何って、俺の前にあんちゃんが座っていてくれたことに感謝感激雨あられ。
コーヒーカップに口をつけた瞬間、容赦ない一言が飛んできた。
「おまえの順応力や協調性は無駄なところに使われすぎなんだ。自覚を持て」
「う゛、ゴホッゴホ――」
ちょっとっ! 人が飲み物飲んでいるときにそういうこと言わないでくださいよっ!
咽る俺の背中をさすってくれたのは、俺の左側に座る碧さん。
「家族だもの。ある程度自分のペースで行動できるくらいがいいわ。静、うちは職場でもなければ藤宮でもないのよ。ここは御園生家。こういう家なの」
やば、涙出そう……。
「そうそう、家族総じてマイペース。これ、御園生家の家訓にしようか?」
最後の零樹さんの言葉に目の前が少しぼやけた。
でも、みんな騙されてよね。
今、涙目なのは咽たせいだから。
絶対絶対そうだから。
手を伸ばせばすぐ届く場所で――
そんなはずはない、セリはもういない。
わかっているのに俺は手を伸ばす。
夢でも良かったんだ。
セリが笑って俺の手を取ってくれるなら。
夢でも、良かったんだ――
妙に生々しい感触だと思った。
夢なのに、超絶リアル。
そう思いながら、掴んだその手を引き寄せ抱きしめる。
このままキスして押し倒してもいいかな。
どうせ夢なんだから、少しくらいいい思いをしてもいいんじゃないか、と思う。
セリにキスするのなんて三年ぶり。
生身じゃなくてもいい。
夢でこんな生々しい感触を得られるのなら、キスの先まで望みたくなる。
なぁ、セリ……。
もっと頻繁に夢に出てこいよ。
この手にセリを抱きしめたい。その細い腕に抱きしめられたい。
もっともっと――
「唯兄、私、翠葉だよ。朝だから起きよう?」
何、今の声……。
セリの声にしては若干高いような気がする。
いや、待て……。
その前に、頭の中で声がするというよりは外部――
きちんと耳から聞こえてきた気がしてならない。
俺の両手にはまだ女の感触がある。
手の平に伝わる体温を感じ、さらには頬をつかれることで目を開けた。
「……すい、は……?」
幻聴のように聞こえたものを口にすると、俺の視界に見慣れたきれいなロングヘアが映りこむ。
セリの癖っ毛じゃない……?
「え? ……あ、わっ、リィっっっ!?」
焦って咄嗟に飛び退いた。
背中がガッツリ壁に当たり、一気に全身覚醒。
「ごめんっ。俺、何か変なことしなかったっ!?」
俺の中ではまだキスすらしていないわけだけど、自信があるかと問われれば限りなく怪しい。
「えぇと……お姉さんの名前を口にしていたのと、唯兄の手を取ったら、こぉ……ぐわっと引き寄せられてちょっとびっくりした。……でも、それだけだよ?」
「そう……なら、良かった……。いや、良くないか!?」
全然良くないだろっ!?
思わず頭を抱えて唸ってしまう。
やばいやばいやばいやばい――
俺、あのまま起きなかったら間違いなくリィのこと襲ってた気がする。
抱きしめてキスしてその先までしてた気がしてならない。
俺の欲求マジ怖ええええっっっ。
っつーか、リィ……。
もっと早い段階で拒んでおこうかっ!?
いや、もしかしてもっと早い段階から起こしにかかっていたんだろうか……。
いやいやいやいや――
俺、全然拒まれてる感じしなかったし。
秋斗さんに対してもリィってこんな感じだったのかな?
だとしたら、襲わなかった秋斗さんに感服だ。
あの人、キスとキスマークだけで未遂とか犯してないし……。
「……なんか、嫌な夢見た……?」
心配そうな面持ちで俺を見る視線に耐え切れない。
俺のいかがわしい思考を今すぐどっかに捨ててきたい。
「いや、そういうんじゃない……かな」
必然的に苦笑いしか浮かばない。
けど、そんな表情はさらにリィの心配を煽ったようだ。
「心配しなくていいよ。ほら、リィは今日家出るの早いんでしょ? 急がなくちゃ――って俺が早く起きろって話か……」
俺、ただいま絶賛動揺中。
頭冷やす方法というか、挙動不審すぎる自分を落ち着ける術が思いつかなくて、ゴツとわざと壁に頭をぶつけてみた。
「だ、大丈夫っ!? すごい音したよっ?」
大丈夫。大丈夫だよ、リィ。
寝覚めたばかりの後頭部がジンジンしてるけど、大丈夫……。
壁に頭を預けたまま天井を仰ぎ見る。
部屋は照明がついておらず、窓からの光だけでなんとなく仄暗い。
そんな中、目を瞑り深く息を吐き出した。
二酸化炭素とともに自分の欲求願望など全部出ていってしまえ……。
かなり切実な願い。
「五分……いや、七分ちょうだい。シャワー浴びたらすぐ行く」
「うん、わかった。じゃ、先に食べてるかもしれないけど、お母さんにも伝えておくね」
「ん、お願い」
目の前にいるのはリィ……。
頭で再度認識してから目を開ける。
そこにはまだ「心配」って顔をしたリィがいた。
大丈夫だから。
そう思いをこめて笑顔を向けると、リィの表情が緩む。
そう、大丈夫だよ。大丈夫なんだ。
セリやホントの親がいなくても、今はリィやあんちゃん、碧さんと零樹さんがいる。
セリに求めるものは未だなくなりはしないけど、それがすべてではなくなった。
「今」を一緒に生きてくれる家族を得たから。「今」を一緒に闘う仲間を得たから。
たださ、夢でいいから――時々でいいからセリに会いたいんだ。ただ、それだけ……。
「でーもっ、今日のはやばいだろ……。おい、セリ……おまえもうちょっと頻繁に出てこいよな。危うくリィを襲うとこだったじゃんか」
リィには俺の起こし方を伝授せねばならんだろう。
何も蹴飛ばされて起こされたいわけじゃない。
でも、寝とぼけてリィを襲うくらいなら殴って起こしてもらうほうが断然いい。
ひとつの結論を導き出し、俺はバスルームへ向かった。
「おはうようございます」
ダイニングに足を踏み入れ、「げ……」と思う。
「朝食に遅れてくるとはいい身分だな」
六時半という早い時間の朝食に、オーナーが来るとは思っていなかった。
リィ、有益な情報は先に流しておこうか。
「ここがオーナーの持ち物であることは存じています。が、今は一応自宅なので」
それっぽく答えては、リィが座るラグの左側のソファに座った。
本当はリィの左側に座ろうとしたんだけどね。
司っちの指定席っぽいそこに俺が毎日座ることで、テスト期間だけは彼に「譲ってあげる」的な状況を作ろうと意図してたから。
でも、食器はそうは並べられていなかった。
すでに用意されているそれらを移動させるのもアレだから、おとなしくソファに座っただけ。
俺の向かいにはあんちゃんが座っている。
「自宅でも会社でも、協調性は大切だろう?」
追加されたオーナーの言葉に、やっぱなぁ……と思う。
あれくらいじゃ逃がしてもらえるとは思っていなかった。
けど、これは諭されているんじゃなくて吹っかけられてる、が正解だと思う。
その完璧なまでに胡散臭い笑顔やめてください……。
この人、絶対楽しんでるしっ。
とりあえず、切り抜けろ、俺っ!
「あれ? 自分、協調性とか順応力は高いって定評があった気がするんですけど。おっかしいなぁ……」
あんちゃんの隣には零樹さんが座っていて、オーナーはその隣に座っている。
何って、俺の前にあんちゃんが座っていてくれたことに感謝感激雨あられ。
コーヒーカップに口をつけた瞬間、容赦ない一言が飛んできた。
「おまえの順応力や協調性は無駄なところに使われすぎなんだ。自覚を持て」
「う゛、ゴホッゴホ――」
ちょっとっ! 人が飲み物飲んでいるときにそういうこと言わないでくださいよっ!
咽る俺の背中をさすってくれたのは、俺の左側に座る碧さん。
「家族だもの。ある程度自分のペースで行動できるくらいがいいわ。静、うちは職場でもなければ藤宮でもないのよ。ここは御園生家。こういう家なの」
やば、涙出そう……。
「そうそう、家族総じてマイペース。これ、御園生家の家訓にしようか?」
最後の零樹さんの言葉に目の前が少しぼやけた。
でも、みんな騙されてよね。
今、涙目なのは咽たせいだから。
絶対絶対そうだから。
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