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第十三章 紅葉祭
51話
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一、二年棟の前には大きなかぼちゃを使ったかぼちゃの馬車があった。
ライトアップされたそれはとてもきれいで、シンデレラが乗った馬車はきっとこんなすてきな馬車だったのだろうと想像する。
ライトアップされている様々なものに意識を持っていかれると、案の定、何もないところで躓いた。
「そこ、石も何もないんだけど……」
ツカサの言葉に何を言い返すこともできない。
今履いている靴はヒールが高いわけでもなんでもなく、いつも登下校時に履いている履き慣れた靴だというのに……。
校舎側は人の気配がなく、前方にある校庭からは音楽や賑やかな声が聞こえてくる。
観覧席にたどり着くと、耳にするものだけではなく、目に映るものすべてが賑やかに思えた。
校庭にはふたつの薪組みがしてあり、それぞれに火が入っている。そして、その周りをみんなが作った個性的なジャックオウランタンが囲っていた。
「かわいい……」
「あぁ、あれ……何気にみんなしっかり投票してた。それから、パンプキンスープも好評だったって」
「良かった……」
どうやら、私たちがここへたどりつくまでにフォークダンスは終わってしまったらしく、今はワルツが流れている。
くるくると器用に踊る人たちは様々な衣装を着ていた。
ハロウィンらしく魔女やお化けの格好をした人もちらほらいたけれど、たいていの女の子は裾が地面につきそうなドレスを着ており、男子もスーツやモーニングを着ている人が多い。
「みんな、ワルツとか普通に踊れるのね」
フォークダンスを踊れる人は多いだろう。でも、ここまで本格的なワルツを踊れる高校生はそういないのではないだろうか。
それとも、「藤宮」に通う人たちにとってはワルツなど踊れて当たり前なのか……。
「あぁ、そうか……。翠は体育がレポートだから知らないんだな。ダンスは体育の授業で習う」
「そうなのっ!?」
「この時期は一ヶ月間、週に二回は男女混合授業でダンスの練習。試験もあるから試験をパスする程度には踊れる」
私たちが校庭に下りたときには、とてもゆっくりなバラードが流れ始めた。
「ラスト二曲か……」
ツカサがそう言った直後、
「一曲お相手願えますか?」
急にかしこまった口調で尋ねられた。
作られた笑みも所作もきれいすぎて息が止まりそう。
「翠、返事」
「あっ、わ、私、ダンスなんて踊れないっ。踊ったことないものっ」
今話したとおり、私はダンスの授業だって受けてはいないし、ダンスを踊るようなパーティーにだって出たことはない。
周りの人やツカサの立ち振る舞いを目にすれば一気に気後れしてしまう。
「手……」
「え……?」
「手と身体を預けてくれたらそれでいい。あとは俺が誘導するままに動けばいいから」
「でもっ、足踏んじゃうかもしれないしっ」
「ワルツとは違うから安心していい。それに、踏まれても三回までなら許してやる」
そう言われ、手を引かれるままに近い方の輪に加わった。
ダンスが始まっても私の頭はごちゃごちゃしたままだ。
その私の思考を遮るように、ツカサの声が降ってきた。
「右手はこのまま。左手は俺の肩」
有無を言わせない指示に、左手をツカサの肩に乗せる。と、ツカサの右手が腰に添えられ心臓がぴょんと跳ねた。
「つ、ツカサっ、せっかくだから好きな人を誘ったら?」
本当はそんなこと言いたくないのに、どうして口から出ていってしまうのだろう。
「相手は俺の気持ちすら知らない」
あ――確か、昨日そんなことを朝陽先輩も海斗くんも飛翔くんも言っていた。
「……告白、しないの?」
どんどん深みにはまっていく自分をどうにかして止めたいのに、この口は主人の意向を無視して開く。
「そうだな……こんな場で言ったら逃げられるか、フリーズするんだろうな。……もしくは、告白しても気づかないか」
「……そういう人なの?」
「そう。意外と扱いが難しい人間」
「人間」と言われるのを聞いて、少し羨ましく思う。
私は「人外」扱いされているけれど、その人はちゃんと「人間」扱いなんだって……。
それはそうだよね。好きな人のことを悪く言う人はいないだろう。
こんな小さなことまで気になってしまう自分はちょっとおかしいのだ。
「翠こそ、言わないのか?」
「え……? 何を?」
「……好きなやつに告白。相手は、秋兄?」
「……ち、違う」
「……ふーん、意外。俺の知ってる人間?」
「……秘密」
ツカサは無言で私を見下ろしていた。
「別に隠してるわけじゃないよっ!? ただ、このまま話していったら全部話しちゃいそうな気がするから、黙秘っ」
「……それ、つまり俺に言いたくないって言ってるようなものだと思うけど?」
わっ、そうかもしれない。
音楽のリズムに揺られ、ツカサのリードに身を任せたままそんな会話を続けていた。
でも、これ以上何か訊かれたら、芋づる式にボロボロと話してしまう気がする。
それだけは困るから、ひとつだけ教えることにした。
「言えることがあるとしたらね、この人が好きなんだってわかったときにはもう失恋が決定していたの。でも、すぐには諦められそうにないから……だから、もう少し好きでいたいな――」
これ以上は話せない、と意思表示のつもりで話しただけなのに、告白をしたわけでもなんでもないのに、自然と涙が溢れくる。
なんで――なんでツカサにこんな話をしなくちゃいけないんだろう。
「……泣くくらいなら言わなくていいものを」
「ごめんっ、昨日いっぱい泣いたのに、まだ泣き足りないみたいで――やだ、どうしよう……。私、顔を洗いに――」
ツカサから離れようとしたら、逆にぐっと引き寄せられた。
「そんな顔で離れるな。……泣くならここで泣け」
そう言われた直後、私の頬はツカサの肩口に当てられた。
「そもそも、チークダンスってこういうもの。顔が見えないほうが都合いいだろ」
付け足された言葉は耳元で聞こえ、さらにはツカサの胸を伝って届いた声がじんわりと頭に響く。
ツカサの手も胸もあたたかくて、そんなことにすら泣きたくなる。
「……そんなに好きな相手?」
どうしてツカサに訊かれなくちゃいけないんだろう。
思いながら、コクリと頷いた。
「翠なら告白すれば一発OKな気がするけど……」
「意味わからない……。それを言うならツカサが、でしょう?」
鼻声でそう言うと、
「俺のは相手が悪い……。本当に、嫌になるほどうまくいかない」
すごく悔しそうに言うから、だから余計に悲しくなった。
「翠の好きなやつって風間?」
「違う……くないけど、秘密」
「何、今の答え……」
「……だって、私が話せる人や話したことのある人は限られているでしょう? だから、風間先輩じゃないって言ったら、限られた人数から頭数ひとり減っちゃうもの……。そしたら、もっと当てやすくなるでしょう? だから秘密」
「その時点で違うって言ってるようなものだと思うけど?」
「え? あ、わ……違うっ。違うけど違わなくないのっ」
「それ、日本語として成立してないから。あと、秘密にしておきたいなら、もう少し声のトーンを落としたほうがいいと思う」
ツカサの顔を見上げると、クスリ、と意地悪な笑みを浮かべていた。
その表情に、またカッ、と耳まで熱くなる。
一曲終わると、「休憩」と言われて観覧席へ戻ることになった。
私は情けない顔をして、手を引かれるままについていくだけ。
「翠の好きなやつってどんな人間?」
つながれた右手に、一瞬力がこめられた気がした。
「翠の好きなやつがどんな人間なのか知りたい」
「えっ!? 誰かなんて教えないよっ!?」
「……名前を知りたいとは言ってない」
「……ツカサも同じことを教えてくれるなら言う」
すると、ツカサは少し悩んでから話し始めた。
「とりあえず、鈍い。たぶん、あれの上を行く人間はいないだろうな。いたとしても、一切関わりたくない。それから、真っ直ぐ。相手がなんだろうとかまわないっていうか、自分の中にしっかりとした基準を持った人間。あとは……今まで会ったことがないくらい感受性が豊かな人間」
いいな、と思う。ツカサにこんなふうに思ってもらえて。
「次、翠の番」
佐野くんに注意されたから、なるべく悟られないように気をつけながら言葉を選んだ。
「んと……すごく、優しい。いつでも優しい。その人がいるとほっとする。ドキドキするのにほっとするの。……変だよね」
「別に変だとは思わないけど……」
どんな顔をして口にしてくれたのかが気になって、恐る恐るツカサの顔を見てみた。
すると、なんだかとても複雑そうな顔をしたツカサがいた。
けれども、次に口を開いたときにはいつもより優しい表情に変化する。
「俺も……それと一緒にいるときは素の自分になれる気がする」
心の底から羨ましいと思う。ツカサにこんな優しい顔をしてもらえる人が。
その人の前では、その優しい顔で笑顔になるのだろうか。
「気づけばペースは乱されっぱなし。自分の思いどおりにいくことなんてひとつもない。でも、それを煩わしいとは思わないし、逆に気になって仕方がない。挙句、目の届くところにいてほしいと思うから謎。自分すら知らない自分を引き出される」
こんなにも想われている人が、羨ましい――
その人はいったいどれだけのツカサを知っているのだろう。きっと、私の知らないツカサをたくさん知っているんだろうな……。
言いたくないのに、この口は勝手に喋る。
「気持ちが伝わるといいね」
「言葉にしないと無理ってわかってるから、そのうちどうにかする予定」
「……そっか」
心が凍ってしまうかと思った。
「翠は?」
「……私は――言うつもりがない、かな……」
「なんで?」
「だから、失恋決定ってさっき話したでしょ……」
「翠……」
「ん?」
声音が硬くなっていた。
「翠にとって俺って何……」
「えっ!?」
「普段、人にどう思われているのかなんて気にすることはないから訊いたことはない。でも、今はなんとなく知りたい。……教えてくれないか」
唯兄、神様は意地悪だね。蒼兄、家に帰ったらまた泣いてもいいかな……。
どうして……どうしてこんなタイミングでツカサにこんなことを訊かれなくちゃいけないんだろう。
でも、がんばって答えるよ。なんでもないふうを装って。
普通に、普通に答える。
だから、蒼兄、唯兄――あとで泣かせてね。
ライトアップされたそれはとてもきれいで、シンデレラが乗った馬車はきっとこんなすてきな馬車だったのだろうと想像する。
ライトアップされている様々なものに意識を持っていかれると、案の定、何もないところで躓いた。
「そこ、石も何もないんだけど……」
ツカサの言葉に何を言い返すこともできない。
今履いている靴はヒールが高いわけでもなんでもなく、いつも登下校時に履いている履き慣れた靴だというのに……。
校舎側は人の気配がなく、前方にある校庭からは音楽や賑やかな声が聞こえてくる。
観覧席にたどり着くと、耳にするものだけではなく、目に映るものすべてが賑やかに思えた。
校庭にはふたつの薪組みがしてあり、それぞれに火が入っている。そして、その周りをみんなが作った個性的なジャックオウランタンが囲っていた。
「かわいい……」
「あぁ、あれ……何気にみんなしっかり投票してた。それから、パンプキンスープも好評だったって」
「良かった……」
どうやら、私たちがここへたどりつくまでにフォークダンスは終わってしまったらしく、今はワルツが流れている。
くるくると器用に踊る人たちは様々な衣装を着ていた。
ハロウィンらしく魔女やお化けの格好をした人もちらほらいたけれど、たいていの女の子は裾が地面につきそうなドレスを着ており、男子もスーツやモーニングを着ている人が多い。
「みんな、ワルツとか普通に踊れるのね」
フォークダンスを踊れる人は多いだろう。でも、ここまで本格的なワルツを踊れる高校生はそういないのではないだろうか。
それとも、「藤宮」に通う人たちにとってはワルツなど踊れて当たり前なのか……。
「あぁ、そうか……。翠は体育がレポートだから知らないんだな。ダンスは体育の授業で習う」
「そうなのっ!?」
「この時期は一ヶ月間、週に二回は男女混合授業でダンスの練習。試験もあるから試験をパスする程度には踊れる」
私たちが校庭に下りたときには、とてもゆっくりなバラードが流れ始めた。
「ラスト二曲か……」
ツカサがそう言った直後、
「一曲お相手願えますか?」
急にかしこまった口調で尋ねられた。
作られた笑みも所作もきれいすぎて息が止まりそう。
「翠、返事」
「あっ、わ、私、ダンスなんて踊れないっ。踊ったことないものっ」
今話したとおり、私はダンスの授業だって受けてはいないし、ダンスを踊るようなパーティーにだって出たことはない。
周りの人やツカサの立ち振る舞いを目にすれば一気に気後れしてしまう。
「手……」
「え……?」
「手と身体を預けてくれたらそれでいい。あとは俺が誘導するままに動けばいいから」
「でもっ、足踏んじゃうかもしれないしっ」
「ワルツとは違うから安心していい。それに、踏まれても三回までなら許してやる」
そう言われ、手を引かれるままに近い方の輪に加わった。
ダンスが始まっても私の頭はごちゃごちゃしたままだ。
その私の思考を遮るように、ツカサの声が降ってきた。
「右手はこのまま。左手は俺の肩」
有無を言わせない指示に、左手をツカサの肩に乗せる。と、ツカサの右手が腰に添えられ心臓がぴょんと跳ねた。
「つ、ツカサっ、せっかくだから好きな人を誘ったら?」
本当はそんなこと言いたくないのに、どうして口から出ていってしまうのだろう。
「相手は俺の気持ちすら知らない」
あ――確か、昨日そんなことを朝陽先輩も海斗くんも飛翔くんも言っていた。
「……告白、しないの?」
どんどん深みにはまっていく自分をどうにかして止めたいのに、この口は主人の意向を無視して開く。
「そうだな……こんな場で言ったら逃げられるか、フリーズするんだろうな。……もしくは、告白しても気づかないか」
「……そういう人なの?」
「そう。意外と扱いが難しい人間」
「人間」と言われるのを聞いて、少し羨ましく思う。
私は「人外」扱いされているけれど、その人はちゃんと「人間」扱いなんだって……。
それはそうだよね。好きな人のことを悪く言う人はいないだろう。
こんな小さなことまで気になってしまう自分はちょっとおかしいのだ。
「翠こそ、言わないのか?」
「え……? 何を?」
「……好きなやつに告白。相手は、秋兄?」
「……ち、違う」
「……ふーん、意外。俺の知ってる人間?」
「……秘密」
ツカサは無言で私を見下ろしていた。
「別に隠してるわけじゃないよっ!? ただ、このまま話していったら全部話しちゃいそうな気がするから、黙秘っ」
「……それ、つまり俺に言いたくないって言ってるようなものだと思うけど?」
わっ、そうかもしれない。
音楽のリズムに揺られ、ツカサのリードに身を任せたままそんな会話を続けていた。
でも、これ以上何か訊かれたら、芋づる式にボロボロと話してしまう気がする。
それだけは困るから、ひとつだけ教えることにした。
「言えることがあるとしたらね、この人が好きなんだってわかったときにはもう失恋が決定していたの。でも、すぐには諦められそうにないから……だから、もう少し好きでいたいな――」
これ以上は話せない、と意思表示のつもりで話しただけなのに、告白をしたわけでもなんでもないのに、自然と涙が溢れくる。
なんで――なんでツカサにこんな話をしなくちゃいけないんだろう。
「……泣くくらいなら言わなくていいものを」
「ごめんっ、昨日いっぱい泣いたのに、まだ泣き足りないみたいで――やだ、どうしよう……。私、顔を洗いに――」
ツカサから離れようとしたら、逆にぐっと引き寄せられた。
「そんな顔で離れるな。……泣くならここで泣け」
そう言われた直後、私の頬はツカサの肩口に当てられた。
「そもそも、チークダンスってこういうもの。顔が見えないほうが都合いいだろ」
付け足された言葉は耳元で聞こえ、さらにはツカサの胸を伝って届いた声がじんわりと頭に響く。
ツカサの手も胸もあたたかくて、そんなことにすら泣きたくなる。
「……そんなに好きな相手?」
どうしてツカサに訊かれなくちゃいけないんだろう。
思いながら、コクリと頷いた。
「翠なら告白すれば一発OKな気がするけど……」
「意味わからない……。それを言うならツカサが、でしょう?」
鼻声でそう言うと、
「俺のは相手が悪い……。本当に、嫌になるほどうまくいかない」
すごく悔しそうに言うから、だから余計に悲しくなった。
「翠の好きなやつって風間?」
「違う……くないけど、秘密」
「何、今の答え……」
「……だって、私が話せる人や話したことのある人は限られているでしょう? だから、風間先輩じゃないって言ったら、限られた人数から頭数ひとり減っちゃうもの……。そしたら、もっと当てやすくなるでしょう? だから秘密」
「その時点で違うって言ってるようなものだと思うけど?」
「え? あ、わ……違うっ。違うけど違わなくないのっ」
「それ、日本語として成立してないから。あと、秘密にしておきたいなら、もう少し声のトーンを落としたほうがいいと思う」
ツカサの顔を見上げると、クスリ、と意地悪な笑みを浮かべていた。
その表情に、またカッ、と耳まで熱くなる。
一曲終わると、「休憩」と言われて観覧席へ戻ることになった。
私は情けない顔をして、手を引かれるままについていくだけ。
「翠の好きなやつってどんな人間?」
つながれた右手に、一瞬力がこめられた気がした。
「翠の好きなやつがどんな人間なのか知りたい」
「えっ!? 誰かなんて教えないよっ!?」
「……名前を知りたいとは言ってない」
「……ツカサも同じことを教えてくれるなら言う」
すると、ツカサは少し悩んでから話し始めた。
「とりあえず、鈍い。たぶん、あれの上を行く人間はいないだろうな。いたとしても、一切関わりたくない。それから、真っ直ぐ。相手がなんだろうとかまわないっていうか、自分の中にしっかりとした基準を持った人間。あとは……今まで会ったことがないくらい感受性が豊かな人間」
いいな、と思う。ツカサにこんなふうに思ってもらえて。
「次、翠の番」
佐野くんに注意されたから、なるべく悟られないように気をつけながら言葉を選んだ。
「んと……すごく、優しい。いつでも優しい。その人がいるとほっとする。ドキドキするのにほっとするの。……変だよね」
「別に変だとは思わないけど……」
どんな顔をして口にしてくれたのかが気になって、恐る恐るツカサの顔を見てみた。
すると、なんだかとても複雑そうな顔をしたツカサがいた。
けれども、次に口を開いたときにはいつもより優しい表情に変化する。
「俺も……それと一緒にいるときは素の自分になれる気がする」
心の底から羨ましいと思う。ツカサにこんな優しい顔をしてもらえる人が。
その人の前では、その優しい顔で笑顔になるのだろうか。
「気づけばペースは乱されっぱなし。自分の思いどおりにいくことなんてひとつもない。でも、それを煩わしいとは思わないし、逆に気になって仕方がない。挙句、目の届くところにいてほしいと思うから謎。自分すら知らない自分を引き出される」
こんなにも想われている人が、羨ましい――
その人はいったいどれだけのツカサを知っているのだろう。きっと、私の知らないツカサをたくさん知っているんだろうな……。
言いたくないのに、この口は勝手に喋る。
「気持ちが伝わるといいね」
「言葉にしないと無理ってわかってるから、そのうちどうにかする予定」
「……そっか」
心が凍ってしまうかと思った。
「翠は?」
「……私は――言うつもりがない、かな……」
「なんで?」
「だから、失恋決定ってさっき話したでしょ……」
「翠……」
「ん?」
声音が硬くなっていた。
「翠にとって俺って何……」
「えっ!?」
「普段、人にどう思われているのかなんて気にすることはないから訊いたことはない。でも、今はなんとなく知りたい。……教えてくれないか」
唯兄、神様は意地悪だね。蒼兄、家に帰ったらまた泣いてもいいかな……。
どうして……どうしてこんなタイミングでツカサにこんなことを訊かれなくちゃいけないんだろう。
でも、がんばって答えるよ。なんでもないふうを装って。
普通に、普通に答える。
だから、蒼兄、唯兄――あとで泣かせてね。
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