光のもとで1

葉野りるは

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第十三章 紅葉祭

06話

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 教室にはほとんどのクラスメイトが揃っていて、あとは川岸先生が来るのを待つだけだった。
 そんな中、今は海斗くんが佐野くんにインカムの使い方を教えている。
 私も復習がてらに聞いているけれど、機械に対して苦手意識が強いだけに、メモ帳に書いて持ち歩きたい衝動に駆られる。
 私がメモ帳を取り出そうとする傍らで、佐野くんはリモコンをポチポチといじりだした。
「こういうのは使って慣れるが常套手段!」
「翠葉は不安そうな顔してるな?」
 海斗くんに言われて情けない顔になってしまう。
「海斗くん、私、自慢じゃないけど機械にはものすごく疎いんだから」
 私なりの抗議をしてみたけれど、それは笑いを助長させるだけだった。
「俺は結構得意」という佐野くんが羨ましい。
「壊しちゃったらどうしよう……」
「翠葉、大丈夫だって。翠葉たちが持ってるのは生徒が使いやすいように改良されたものだから、リモコン操作だって高が知れてる」
 その言葉に違和感を覚えた。
 それは佐野くんも同じだったようで、操作していた手を止め海斗くんを見る。
「俺が持ってるリモコンと佐野たちが持っているリモコンはちょっと違うんだ」
 海斗くんのリモコンは私たちに配られたリモコンよりは少し大きく、ボタンの数もそれに伴い多めについている。
「こっちは藤宮警備と直にやり取りができるスーパーリモコン。基本、これを持つのは中枢で指示を出す人間のみでいいんだけどね」
 海斗くんは笑って話しているのに、どうしてこんなにも痛々しく見えるのだろう……。
「俺の場合は藤宮の人間だから持っていなさい、って感じ?」
 おどけて話しては、使い方の説明に戻る。
 何かを話そうとしてやめた――そんなふうに見えたけれど……。
 桃華さんや飛鳥ちゃん、佐野くんの様子をうかがい見たけれど、誰も何も言わない。
「ほら、翠葉。ちゃんと聞いてないとあとで困るよー」
 飛鳥ちゃんに注意されて海斗くんの説明に意識を戻す。
 チャンネルを共有してみんなに通達する方法と、個別通信のやり方、その他あれこれ使い方を教えてもらったけど、使うときになってこれらを瞬時に思い出せるかは怪しいかぎりだ。
 やっぱりメモしておきたい……。
 そう思ってかばんからメモ帳を取り出すと、桃華さんに止められた。
「翠葉、大丈夫よ。使い方がわからなければインカムを通して話しかければ誰かしら答えてくれるわ」
 とりあえずのところ、通常モードで話す分には生徒会メンバー全員が聞ける状態に設定されているため、誰かしらが答えてくれる。そういうことらしい。
 インカムについては少しほっとしたけれど、海斗くんに感じた違和感が気になって仕方なかった。
 何かいつもと違う……。でも、海斗くんは普通に笑っている。
 いつもと同じ笑顔で――

 川岸先生が来て出欠を取ると、
「明日の集客は戦略合戦だから、今日中に確保できる来場者は数伸ばしておけよー!」
 そんな激励でホームルームが終わった。
「さっ! 女子も男子もオープンに向けて準備始めるよっ!」
 理美ちゃんの掛け声で一斉に準備に取り掛かる。
 バックヤード組は男女に分かれ、女子は調理室へ向かい、朝一で焼いたタルトやパイを取りに行く。
 男子は受付の準備やテーブルセッティングに取り掛かる。
 接客組は着替えるためにバックヤードへ移動した。女子はその中でさらに区切られた一角で着替えるのだ。
 以前一度試着した衣装に着替えたものの、スカートの丈が短くて落ち着かない。
「桃華さんっ、やっぱりこれ短いっ」
 同じように着替え終わった桃華さんに泣きつく。
 スカートの裾を引っ張ってみても、サテン生地が伸びてくれるはずもなく、私の行動はなんの意味もなさない。
「翠葉ちゃん、かわいいから大丈夫!」
 同じ時間帯にウェイトレスで表に出る香乃子ちゃんが太鼓判を押してくれるけど、慣れないものは慣れないのだ。
「普段からミニスカはけばいいのに」と言ったのは飛鳥ちゃん。
 飛鳥ちゃんも放送委員の花形なので、朝一ウェイトレス組。男子のウェイターは海斗くんと佐野くん。
 バックヤード組の希和ちゃんが戻ってくると、ため息をついた。
「このメンバーが朝一ってもったいないよねぇ……」
 メンバーを見渡してみたけれど、その言葉の真意がわからない。
 私の表情を読んだのか、希和ちゃんが疑問に答えてくれた。
「だって、姫や桃がいて、さらには海斗くんと佐野くんがいるんだよっ!?」
 それだけでは理解ができず、思わず首を傾げてしまう。
「つまりね」と補足説明をしてくれたのは河野くん。
「今の四人ってのは、姫の御園生ちゃんに中等部から女帝の座譲らずの簾条。それから学年人気ナンバーワンの海斗に人気急上昇中の佐野ってこと」
 あ――
「その顔、お嬢さん、姫だってことすっかり忘れてたでしょ?」
 河野くんの口元が少し引きつった。
「これだけで十分集客が望めるのに、朝は慌しいし、情報が流れるのにも時間がかかる。集客に生かせないのがもったいないよねぇ……」
 希和ちゃんがうな垂れると、それを見ていた男子ふたりが会話に混ざった。
「希和っち、なんのための俺たち?」
 にんまりと笑って声をかけてきたのは和光くんと時田くん。
「そうね、そっち方面は和光たちに任せるわ」
 窓際で外を眺めていた桃華さんが肩越しに振り返り、にこりと笑った。
 同じ衣装を着ているのに、私とは全然違う。
 桃華さんだって普段はこんな格好はしないだろう。それなのに、様になるというかしっくりと見える気がするのだ。
「あ、そっか! 情報戦略?」
 その声に振り返ると、希和ちゃんが手をポン、と叩いたところだった。
「そっ! 中等部では情報戦略にネットは使えなかったからね。今回はクラス用のアカウント取得して朝八時にメニューのお知らせと朝一スタッフの情報は送信済み」
 和光くんは楽しそうに話し、パソコンを見せてくれた。
 ディスプレイにはすでに送信された「1-B Classical Cafe」という名のメールが表示されていた。
「朝一がフリーの人間はこぞって来るに違いない」
 自信ありげに時田くんが言う。
「翠葉ちゃんたちが抜けたあとも客足を途絶えさせないためにもタイムセールとかやるし、逐一集客のための情報を配信していくよ」
 手際の良さに唖然としてしまったけど、来場者数やポイントを獲得するためにはここまでやらないとほかのクラスと差をつけることはできないんだ、と妙に納得してしまう。
「翠葉ちゃん、楽しもうねっ!」
 香乃子ちゃんの笑顔に心がほわ、とあたたかくなる。緊張よりも、楽しもうという気持ちが強くなる。
 人の笑顔は魔法みたいだね――
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