光のもとで1

葉野りるは

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38 Side 蒼樹 01話

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「唯、先輩からSOSコールがあった。おまえの髪を乾かしたら向こうに移動」
 バスルームから出てきた唯に声をかけると、
「別にこのまんま行ってもいいよ?」
「だーめーだっ! それで風邪でもひいて翠葉にうつしたら許さん……というか、おまえが倒れたら先輩たちの仕事大打撃だろ?」
「俺は休養させてもらえていいけど?」
「俺のデートの時間を取り上げてくれるな……」
「あぁ、そういうことね」
 唯は苦笑しつつ、ドライヤーで髪を乾かし始める。
「やっぱ、リィは寝ちゃってた?」
「あぁ、バイタル見ててそんな気はしてたんだけどな」
「熱、ちょっと上がってるみたいだけど大丈夫かなぁ?」
「どっちとは言えないけど、生理前だから基礎体温が若干上がってはいると思う」
「あぁ、なるほど……ってか詳しいよね?」
「藤宮の性教育を受けてればこのくらい常識」
「……今度制服調達して、その性教育授業に紛れ込みたいかも」
「唯なら紛れ込めそうだけど……ってさすがにそれはまずいだろ」
「……あんちゃん、制服ってどっちの想像したわけ?」
「え? 高校の制服じゃないの?」
「俺、これでも一応藤宮警備に籍を置いている歴とした社員なんだよねぇ……。だから、制服仕入れるなら警備員の制服でしょ」
「……そっちのほうが無理ないか? おまえ、警備員に見えないぞ?」
 そんな会話をしてから部屋を出た。

 噴水広場まで行くと、木田さんと数人の従業員が待っていた。
「お足元がかなり暗いので、どうかお気をつけください」
 先に寝具を持った人たちが歩き、手ぶらの従業員が俺たちの足元を照らしながら誘導してくれる。
 もちろん、俺たちの手にも懐中電灯はあるわけだけど……。
 ステラハウスに着くと、先輩がドアの前で待っていた。
「秋斗様、寝具をお持ちいたしました。それからこちら、ハーブティーの追加分です。あとはバスタオルなども多めにお持ちいたしましたので、使用済みのものはこちらでお預かりいたします」
「助かります」
 秋斗先輩はあらかじめ用意しておいたそれらを従業員に渡し、代わりに寝具類を受け取り部屋へ入った。
「あ~あ、本当にぐっすり寝てるね?」
 唯の感想に俺と先輩は笑う。
「俺と先輩はソファで寝るから、唯は翠葉と一緒にベッドで寝ちゃいな」
「えっ!? いいのっ!? この場合、あんちゃんがベッドじゃないのっ!?」
 少し大きくなった声に、俺と先輩が睨みをきかす。
「俺はこんなことじゃ風邪ひかないけど、唯はひきそうだから」
「あぁ……俺、薄幸の美青年だからね」
 それを自分で言うのもどうかとは思うが、たぶん間違いなく俺よりは体力も自己免疫力も低そうだ。
 先輩だって微妙だけれど、翠葉の隣に寝かせること自体が拷問だろう。
 だから、選択肢は間違っていないはず……。
「いいですね?」
 確認の意味をこめて先輩に訊けば、「異論なし」と言葉が返ってきた。
 そのあとすぐに寝たわけではなく、二時間ほどお茶を飲みながら他愛もない話をして過ごしていた。
 中には司と翠葉の話も含まれてはいたけれど――
「翠葉ちゃんさ、俺の髪飾りはすぐにはずしちゃうけど、司からもらったとんぼ玉はずっと持ってるみたいなんだよね。……最初は蒼樹か若槻からもらったものだと思ってたんだけど、司からもらったものって聞いて嫉妬しちゃったよ」
「まさか、取り上げたりしてないでしょうね」
 唯が訊けば、
「そのまさか……。短時間だけど、取り上げてた。ここに司の存在を持ち込んでほしくなかったんだよね。彼女は司の気持ちに少しも気づいてはいないけど……」
「……ほんっとに大人げないですねぇ……」
 先輩は唯に言われて困った顔をする。
「でも、もう返したよ。今は彼女の手首にある。……今まで本命の子なんていなかったしさ、正直、どんなプレゼントをしたら喜んでもらえるのかわからないんだ。その点においては、司に大いに負けてる気がする」
 ……そのくらいなら助言できるかも。
「翠葉は高価なものは欲しがりません。あくまでも、自分の好みのものがもらえたら嬉しい、そういう子ですよ。たとえば、ダイヤやエメラルドよりもガラスのアクセサリーのほうを好むでしょうし、本が好きなので、好きな色の栞とか。森林の写真集とか、そういったものでも喜ぶと思います。あとは植物……。観葉植物でも花束でも喜びます」
「……そっか。次からはそういうものを贈ろう」
 この人は、経験は豊富でも、こういうことに関しては疎いと思う。
 まぁ、女子高生が欲しがるものなんて検討もつかない、か……。
 桃華の誕生日はひな祭りだけれど、あの子はどんなものを欲しがるだろうか……。
 その前にクリスマスがあるな。
 高価なものではなく、それでもやっぱりアクセサリーを贈りたいと思うのは、独占の表れなのか。
 桃華ならピンクの石のネックレスが似合いそう。
 桃華にアレルギーがなければシルバーのネックレスをペアで買うのもいいかもしれない。
 最近はステンレス素材のアクセサリーも充実しているし……。
 俺は普段アクセサリーはあまりつけないけれど、彼女とペアならば、と思わなくもない。
 少しリサーチするか……。
「司くん、今ごろヤキモキしてんのかね?」
 唯の一言に先輩がため息をつく。
「俺、すんごい啖呵切ってきちゃったけど、何ひとつそれができてない気がする」
「先輩……いったい何言ってきたんですか」
「彼女に好きって伝えまくると申してきました。が、何度か言えたものの、まだまだ全然足りない」
「ま、明日一日まだありますよ」
「それなんだけどさ、明日は朝食を食べて彼女が大丈夫そうならばチャペルを見学、そしたらレイトチェックアウトではなく、少し早めに切り上げようと思う」
 これは間違いなく翠葉の身体を考慮してくれてのことだろう。
「ありがとうございます……。翠葉の身体のことを気にかけてくれて」
「昇さんも栞ちゃんも一緒だけど、何事もないのが一番良くて、明後日から彼女は学校だからね。今日の移動だけでこんなに疲れているのだとしたら、明日は帰ってから少し休む時間があったほうがいいと思うんだ」
「……秋斗さんってそういうところは頭回るのにね? 時々すごく回転率落ちるよね?」
「……認めたくはないけど、彼女に関することにおいてはそうみたい」
 先輩は苦笑した。
「さ、明日も運転がありますからね。そろそろ寝ましょう」
 最後、ストーブのチェックを済ませ、みんなそれぞれの場所で眠りについた。
 唯はお布団に入るなり、「リィ体温がぬくいっ」と声をあげる。
「若槻ぃ、おまえ帰ったら覚悟しとけよ? 仕事、振りに振ってやるから」
 先輩の笑顔の応酬が聞こえなかったわけはないはずだけど、唯は何も答えず布団に潜り込んだ。


 翌朝、目が冷めてすぐにバスルームへ向かった。
 シャワーを浴びて完全覚醒。
 バスルームから出ると、秋斗先輩が起きていた。
「先輩、翠葉が起きる前にシャワー浴びて、その勃ってるものどうにかしてきてください」
 引きつり笑いでバスルームに押し込める。
 残るは唯。
 あと十分くらいしたら叩き起こして、そのままバスルームへ直行させよう。
 朝勃ちなんて生理現象と言ったらそれまでだけど、まだ翠葉には見せたくないと思ってしまう。
 せめて、翠葉が藤宮の性教育を受けるまでは――
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