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08~10 Side 嵐子 02話
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つい……本当につい、だ。
「私も藤宮目指そうかな」
そんな言葉が口から零れた。
「目標があるならいいんじゃない?」
目標、ね……。目標なら目の前にいる。目標はあなた。
「春日くんが受ける高校だから」
それが私の告白だったと思う。
「……それってどう取ったらいい? 自分に都合良く勘違いしたいんだけど」
「いいよ、勘違いして。勘違いじゃないから」
「……なんで俺?」
「……なんでだろ? 私、同じクラスの早川くんが好きだったはずなんだけどな」
「……実は浮気性?」
「そんなことはないと思うんだけど」
「心変わり?」
「……かな?」
告白の続きがどうしてこんな会話なんだろう。
「心変わりは仕方ないってことにしよう。でも、浮気はなしね?」
そう言ってウィンクされた。
そのとき、私は同じ人に二度目の恋をした。
夏に進路変更をした私は猛勉強することになった。だって志望校よりも三ランクも上の高校を目指すことになったわけだから。
ギリギリでも受かることができたのは奇跡だった。そして今、生徒会役員でいられるほどの成績をキープできているのはひとえに優太のおかげ。それから司。
二年になってからは一緒のクラスになった司も時々勉強を見てくれる。というか、泣きついて教えてもらうことが多々ある。
司は「面倒」って言うけれど、それでも訊けば一通り教えてくれる。時々説明が難しくてわからないこともあるけれど。
教える面だけを見れば、司より優太のほうが上。
考えてみれば、あのとき優太に彼女がいるのかとか全然知らなかったな……。
告白するって意気込んでいたわけでもなく、つい言ってしまったから、というのもあるんだけど。
「ね、優太」
「ん?」
夏の間に少し伸びた髪の毛は塩素で色が少し抜けていた。でも、故意的に脱色したわけじゃないから、触ってもそんなにゴワゴワしない。
「中学のとき彼女いた?」
「……嵐子さん、なんで今さら?」
「……なんとなく?」
「……いたよ」
「えええええっ!?」
「いましたとも……」
そう言って苦笑する。
「だから言ったじゃん。心変わりは仕方ないとして浮気はだめって」
「……そういう意味だったのっ!? 私だけに言った言葉かと思ってた」
「嵐子は好きなやつがいるって言ってたけど、それは彼氏じゃなかったわけ?」
「うん、私の片思い」
「そっか……。俺は彼女いたんだよね。でも、嵐子と過ごす時間のほうが楽しかったし、気づいたら嵐子とばっかりいたからさ。ほとんど図書館が塾だったけど」
笑って言うけどさ、優太……。
「初耳……」
「うーん……そう言われてみればこういう話したことなかったな?」
「うん」
「ま、過ぎたことだし?」
「あ、言いたくないんだ」
「別に言ってもいいけど……それで俺たちに何かプラスになる?」
「私の知らない優太を知れる」
「俺のことなんて全部知ってるじゃん。あれ以上に何を知りたいわけ?」
意味深な笑みを向けられ、
「――っもう、優太のバカっっっ!」
「司には勝てないけど、嵐子には成績勝ってるよ」
私たちはなるべく時間をかけられるように、と桜林館の外周廊下を反対方向から回って食堂に入ろうとしていた。
「ね……」
「ん?」
「翠葉と司、うまくいくといいね?」
「そうだなぁ……あんな司が見られるとは思わなかったよ」
優太がクスクスと笑う。
「なんかさ、人間っぽくなってきたよね」
そう言うと、優太が盛大に吹きだした。
「でも、わかるわかる」
と、お腹を抱えて笑う。
「翠葉がもうちょっと積極的だったらいいのにねぇ」
「逆じゃん? 司がもっと動かなくちゃだめな気がする。それに、翠葉ちゃんが誰を好きなのかって俺たちわかってるわけじゃないしさ」
「そうだけど……でも、司は――司にしてはがんばってると思うんだよね」
「確かにね」
外は暑い。風も何もあったもんじゃない。
北側だというのに、こんな暑いなんてひどい……。
三文棟と桜林館の連結部分から食堂へ入ると、そこは人で溢れ返っていた。
「さすが……テラスに出る人間がいないから、学食は混んでるなぁ……」
そんなことを言いつつ、近くにあった自販機でお茶を買う。
うちの学食は桜林館の上に位置することもあり、かなり広い。けれど、そこに一気に人が押し寄せれば、そりゃ人口密度も必然と上がるわけで……。
人ごみの中で司の話をするのは得策じゃない。どこで誰が聞き耳を立てているかわからないから。
だから、私たちは意識して違う話を話題にする。
学食を出て一言。
「あんな噂、司が聞いたらぶち切れそうだな?」
「うん……。司が翠葉以外の子と付き合うなんてありえないし」
「ぶち切れるだけならまだいいけど、不機嫌モード全開で手ぇつけられそうにないよな」
「本当、こっちがいい迷惑だよ」
普段から人を寄せ付けない孤高の王子様は、自分のことをあれこれ言われるのが大嫌いだ。そして、不機嫌になると、生徒会メンバーの私たちですら取り付く島がなくなる。
「それにしても、ありえなさ過ぎる噂だったな」
「うん。お見合いとかはあるかもしれないけれど、あの司がそれを素直に受け入れるわけないじゃんね?」
ま、それは私たちだからわかることなのかもしれないけれど……。
でも、あの司の態度を見ていれば誰が見ても歴然だと思う。翠葉のことが好きだと。
司はそのあたりどう思っているんだろう。
司、微妙な位置関係ってさ、司の場合はあまり良くないと思うよ? 王子になるくらい人気者なんだから、翠葉に火の粉が飛ばないように少しは考えてあげないと……。翠葉、ただでさえかわいくてやっかまれる要素持ってるんだからさ。
優太も人気はある。その彼女である私だってやっかみの対象になったことはある。
要はいじめの対象だ。
外部生には珍しいことでもないんだけど……。
だいたいの外部生は何かあれば一学期中に絡まれる。そういうものなんだよね。
でも、私はそんなに弱くないからさ、女子数人に囲まれても闘えちゃうわけだ。ま、優太が必ず最後には来てくれるんだけど……。
そのたびに、「猫みたいなケンカだな」と言われていた。
引っかくとかひっぱたく、とか……。それも一時のことだったけどね。
外部生っていうのは良くも悪くも人の目を引くから、最初にそういうのに遭うのは仕方ないのかな、とは思う。でも、翠葉にはそういうのあってほしくないなぁ……。すぐ潰れちゃいそうなんだもん。
言葉だけならまだいいけど、体当たりとかされたらあの子倒れるよ。骨折れるかも。それに今朝、人とぶつかるのも怖いって言ってたし……。
何もないといいけど……。むしろ一学期に何もなかったことが奇跡のようにも思える。
「嵐子、風紀委員が動いてるって話、少し聞いてるから大丈夫だよ」
「えっ!? もう風紀委員が動いてるの?」
「さっき青木からメールがあった」
「沙耶ちゃん?」
「うん。今年は一年に優秀な弟分がいて、しかも翠葉ちゃんと同じクラスらしいから、そんなに心配しなくても大丈夫かも」
「そっか……風紀委員が動いてるなら少し安心」
私のときも多少は動いてくれていた風紀委員。優太がタイミング良く駆けつけてくれていたのは、全部風紀委員からの通達があったからだ。じゃなかったら、あんなにタイミング良くは駆けつけられなかっただろう。
両者に怪我人が出る手前、そんなタイミングで優太が駆けつけていた。
でも――お願いだから、翠葉のときはもう少しタイミングを早めてくれないかな? じゃないと私の心臓が持ちそうにない。
もしくは、自分の心臓保護のために私が翠葉にべったりくっついて、司に睨まれそうなんだけど……。
図書室に入ると当然ながら司と翠葉がいるわけで、連絡網を回した私と優太が一番に着いてしまった。
「私も藤宮目指そうかな」
そんな言葉が口から零れた。
「目標があるならいいんじゃない?」
目標、ね……。目標なら目の前にいる。目標はあなた。
「春日くんが受ける高校だから」
それが私の告白だったと思う。
「……それってどう取ったらいい? 自分に都合良く勘違いしたいんだけど」
「いいよ、勘違いして。勘違いじゃないから」
「……なんで俺?」
「……なんでだろ? 私、同じクラスの早川くんが好きだったはずなんだけどな」
「……実は浮気性?」
「そんなことはないと思うんだけど」
「心変わり?」
「……かな?」
告白の続きがどうしてこんな会話なんだろう。
「心変わりは仕方ないってことにしよう。でも、浮気はなしね?」
そう言ってウィンクされた。
そのとき、私は同じ人に二度目の恋をした。
夏に進路変更をした私は猛勉強することになった。だって志望校よりも三ランクも上の高校を目指すことになったわけだから。
ギリギリでも受かることができたのは奇跡だった。そして今、生徒会役員でいられるほどの成績をキープできているのはひとえに優太のおかげ。それから司。
二年になってからは一緒のクラスになった司も時々勉強を見てくれる。というか、泣きついて教えてもらうことが多々ある。
司は「面倒」って言うけれど、それでも訊けば一通り教えてくれる。時々説明が難しくてわからないこともあるけれど。
教える面だけを見れば、司より優太のほうが上。
考えてみれば、あのとき優太に彼女がいるのかとか全然知らなかったな……。
告白するって意気込んでいたわけでもなく、つい言ってしまったから、というのもあるんだけど。
「ね、優太」
「ん?」
夏の間に少し伸びた髪の毛は塩素で色が少し抜けていた。でも、故意的に脱色したわけじゃないから、触ってもそんなにゴワゴワしない。
「中学のとき彼女いた?」
「……嵐子さん、なんで今さら?」
「……なんとなく?」
「……いたよ」
「えええええっ!?」
「いましたとも……」
そう言って苦笑する。
「だから言ったじゃん。心変わりは仕方ないとして浮気はだめって」
「……そういう意味だったのっ!? 私だけに言った言葉かと思ってた」
「嵐子は好きなやつがいるって言ってたけど、それは彼氏じゃなかったわけ?」
「うん、私の片思い」
「そっか……。俺は彼女いたんだよね。でも、嵐子と過ごす時間のほうが楽しかったし、気づいたら嵐子とばっかりいたからさ。ほとんど図書館が塾だったけど」
笑って言うけどさ、優太……。
「初耳……」
「うーん……そう言われてみればこういう話したことなかったな?」
「うん」
「ま、過ぎたことだし?」
「あ、言いたくないんだ」
「別に言ってもいいけど……それで俺たちに何かプラスになる?」
「私の知らない優太を知れる」
「俺のことなんて全部知ってるじゃん。あれ以上に何を知りたいわけ?」
意味深な笑みを向けられ、
「――っもう、優太のバカっっっ!」
「司には勝てないけど、嵐子には成績勝ってるよ」
私たちはなるべく時間をかけられるように、と桜林館の外周廊下を反対方向から回って食堂に入ろうとしていた。
「ね……」
「ん?」
「翠葉と司、うまくいくといいね?」
「そうだなぁ……あんな司が見られるとは思わなかったよ」
優太がクスクスと笑う。
「なんかさ、人間っぽくなってきたよね」
そう言うと、優太が盛大に吹きだした。
「でも、わかるわかる」
と、お腹を抱えて笑う。
「翠葉がもうちょっと積極的だったらいいのにねぇ」
「逆じゃん? 司がもっと動かなくちゃだめな気がする。それに、翠葉ちゃんが誰を好きなのかって俺たちわかってるわけじゃないしさ」
「そうだけど……でも、司は――司にしてはがんばってると思うんだよね」
「確かにね」
外は暑い。風も何もあったもんじゃない。
北側だというのに、こんな暑いなんてひどい……。
三文棟と桜林館の連結部分から食堂へ入ると、そこは人で溢れ返っていた。
「さすが……テラスに出る人間がいないから、学食は混んでるなぁ……」
そんなことを言いつつ、近くにあった自販機でお茶を買う。
うちの学食は桜林館の上に位置することもあり、かなり広い。けれど、そこに一気に人が押し寄せれば、そりゃ人口密度も必然と上がるわけで……。
人ごみの中で司の話をするのは得策じゃない。どこで誰が聞き耳を立てているかわからないから。
だから、私たちは意識して違う話を話題にする。
学食を出て一言。
「あんな噂、司が聞いたらぶち切れそうだな?」
「うん……。司が翠葉以外の子と付き合うなんてありえないし」
「ぶち切れるだけならまだいいけど、不機嫌モード全開で手ぇつけられそうにないよな」
「本当、こっちがいい迷惑だよ」
普段から人を寄せ付けない孤高の王子様は、自分のことをあれこれ言われるのが大嫌いだ。そして、不機嫌になると、生徒会メンバーの私たちですら取り付く島がなくなる。
「それにしても、ありえなさ過ぎる噂だったな」
「うん。お見合いとかはあるかもしれないけれど、あの司がそれを素直に受け入れるわけないじゃんね?」
ま、それは私たちだからわかることなのかもしれないけれど……。
でも、あの司の態度を見ていれば誰が見ても歴然だと思う。翠葉のことが好きだと。
司はそのあたりどう思っているんだろう。
司、微妙な位置関係ってさ、司の場合はあまり良くないと思うよ? 王子になるくらい人気者なんだから、翠葉に火の粉が飛ばないように少しは考えてあげないと……。翠葉、ただでさえかわいくてやっかまれる要素持ってるんだからさ。
優太も人気はある。その彼女である私だってやっかみの対象になったことはある。
要はいじめの対象だ。
外部生には珍しいことでもないんだけど……。
だいたいの外部生は何かあれば一学期中に絡まれる。そういうものなんだよね。
でも、私はそんなに弱くないからさ、女子数人に囲まれても闘えちゃうわけだ。ま、優太が必ず最後には来てくれるんだけど……。
そのたびに、「猫みたいなケンカだな」と言われていた。
引っかくとかひっぱたく、とか……。それも一時のことだったけどね。
外部生っていうのは良くも悪くも人の目を引くから、最初にそういうのに遭うのは仕方ないのかな、とは思う。でも、翠葉にはそういうのあってほしくないなぁ……。すぐ潰れちゃいそうなんだもん。
言葉だけならまだいいけど、体当たりとかされたらあの子倒れるよ。骨折れるかも。それに今朝、人とぶつかるのも怖いって言ってたし……。
何もないといいけど……。むしろ一学期に何もなかったことが奇跡のようにも思える。
「嵐子、風紀委員が動いてるって話、少し聞いてるから大丈夫だよ」
「えっ!? もう風紀委員が動いてるの?」
「さっき青木からメールがあった」
「沙耶ちゃん?」
「うん。今年は一年に優秀な弟分がいて、しかも翠葉ちゃんと同じクラスらしいから、そんなに心配しなくても大丈夫かも」
「そっか……風紀委員が動いてるなら少し安心」
私のときも多少は動いてくれていた風紀委員。優太がタイミング良く駆けつけてくれていたのは、全部風紀委員からの通達があったからだ。じゃなかったら、あんなにタイミング良くは駆けつけられなかっただろう。
両者に怪我人が出る手前、そんなタイミングで優太が駆けつけていた。
でも――お願いだから、翠葉のときはもう少しタイミングを早めてくれないかな? じゃないと私の心臓が持ちそうにない。
もしくは、自分の心臓保護のために私が翠葉にべったりくっついて、司に睨まれそうなんだけど……。
図書室に入ると当然ながら司と翠葉がいるわけで、連絡網を回した私と優太が一番に着いてしまった。
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