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32~33 Side 司 01話
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病院までやってきたものの、どうやって話を切り出せばいいのか、と悩んでいた。どんな顔をしてこの病室に入ればいいのか、と――
病室の前で立ち止まっていると、相馬さんに捕まった。
「ようやくお出ましか? 遅ぇな」
何を言われても反論するつもりはない。
「翠の状態は?」
「薬の副作用がひどい」
「症状は?」
「主に吐き気だな。身体を起こすのは無理っぽいぜ」
それだけ聞いて、再度病室へ足を向けた。
きっと今も横になっているだろう。あわよくば寝ていてくれたらいいのに。
そんなことを思いながら病室へ踏み入る。
入ってすぐ、横になったままこちらを見ていた翠と視線が交わる。
ある程度予想はしていた。でも、そこまで驚いた顔をしなくてもいいと思う。
「来るって予告しておいたけど?」
緊張する必要はなかったかもしれない。翠は目をまん丸に見開いて瞬きすらしない。やっと口を開いたかと思えば、
「うん……。写真、ありがとう。すごく嬉しかった……ありがとう」
「どういたしまして……」
いつもと同じように返事をしたつもりだけど、どうしたことか次の会話につながらない。
気まずい原因はこちらにある。ならば、先に謝ってしまえばいい。困った顔をされる前に――
「……電話に出られなくて、メールにも気づかなくて悪かった」
やっぱり、言い訳はしたくなかった。
携帯が水没したとか、風邪をひいていたとか、そういうのは一切なしで、とりあえず謝りたいと思った。
翠は急に身体を起こそうとする。
何をしようとしているのか、言おうとしているのかの予想はできた。でも、今がどうとかそういうことではなく、急に起きるのは厳禁だったはずなんだけど。
「吐き気、ひどいんだろ? 無理して起きなくていい」
指先に触れた額を軽く押しただけで、翠はベッドにポスン、と倒れる。
身体に力が入らないほど具合が悪いのだろう。
俺のしたことが不満なのか、翠は少し顔を歪めた。
翠の表情は、口で話す以上に雄弁に語る。けど、俺は時に読み違えたり、読めなかったりするんだ……。
全部わかったつもりでいると自分が痛い目を見る。そんなのはもうたくさんだ。
「ツカサ……?」
翠は不安そうに俺の名前を口にした。
悪いな……もっと不安にさせるかもしれない。でも、これを言わないことには俺もすっきりしないし、今後どうやって翠と接していったらいいのかがわからない。
「来て早々で悪いんだけど……」
「……まだ体調悪い? 帰る?」
翠はバカだと思う。間違いなく、バカだ。
「完治してなかったらここへは来ない」
俺がなんで今日来るってメモを添えたと思っているんだ……。
兄さんから、俺が風邪をひいていたことだって聞いているはずだ。なら、俺がそんな体調で来るわけがないだろ、阿呆。
「俺、言いたいことは言う主義なんだ。だから、言わせてもらう」
時にどこまで話したらいいのか悩むけど、この際だから全部言ったほうがいい気がした。
母さんと兄さんに言われて悩んだ。
相手のことを知るのに、訊いてばかりなのはフェアじゃない。ならば、自分のことも伝えるべき。
翠の肩が少し上がる。横になったまま身構えるとああなるのか、なんて思いながら再度口を開いた。
「この間の、八日のは単なる八つ当たりだから」
「あ……あの、私っ――」
ここでまた謝られたりありがとうなんて言われたらたまったものじゃない。悪いけど、先手を打たせてもらう。
「俺は謝られたかったわけじゃないし、感謝してほしかったわけじゃない」
「え……?」
思わず、自分の手に力が入る。
人にここまで自分の感情を晒すのには慣れていない。
俺だって翠と同じだ……。翠に伝える努力は何ひとつしていない。それで気づいてほしいなんて都合が良すぎる。
これからは、思ったことは伝えることにする。そしたら――翠も俺に話をしてくれるか……?
少し深めに息を吸い込み、考えてきたものを一気に話した。
「翠が入院してから、かなり翠の近くにいられている気がしていた。記憶がなくなっても頼ってもらえていると思っていた。思っていることをだいぶ話してもらえるようになったとも思っていたし、なによりも側にいたら、顔を見ていたら何を考えているのかすらわかったつもりでいた。でも……八日にそれは違うって思い知った。翠は具合が悪くても言ってはくれないし、自分はバイタルを見るまで気づけなかった。その両方に腹が立って八つ当たりした。八つ当たりしたことは謝らない。けど、そのあと電話に出られなかったことやメールの返信ができなかったことは謝る」
言い終わっても翠はじっと俺を見つめるだけでほかの反応を見せない。
恥ずかしさと苛立ちが入り混じり、
「今ので内容伝わらないわけっ!?」
これで伝わらなかったら俺はどうしたらいいんだ。ほかには何も考えてきていないというのに。
「一昨日から嫌ってほど考えていたから内容くらいは伝わる文になってるはずだけどっ!?」
伝わらなかったら伝わらなかったで仕方がないわけだけど、とりあえず、わかれよ阿呆……と思う自分がいる。
「十一日からずっと考えてくれていたの?」
相手は翠だった……。
どうしたことか本題とは別のことが気になるらしい。
それも癪だけど……。
「しょうがないだろ……。それまで熱出しててほとんど寝てたし」
言い訳になるから言いたくなかったことを言わされる。本当に無神経なやつ……。
俺は不快に感じているにも関わらず、翠の表情は少し柔らかなものへと変化していた。そして、俺を見ては口を開けたり閉じたりしている。
何か言いたいことがあるのか、と目だけで訊くと、
「あのね……私は八日の夜に目が覚めてから、十日までずっと考えていたの。でも、連絡がつかないことが怖くなって、携帯はしまっちゃった」
「……は?」
それは俺のことを考えるのが嫌になって、ということか?
「……携帯が側にあるの、なんだか落ち着かなくて、サイドテーブルにしまっちゃったの。それからは一度も電源入れてない」
翠はサイドテーブルを指差した。
俺が引き出しを開けると、携帯はタオルの上に電源が切られた状態で置かれていた。
「ほかの人間からメールが届いていたらどうするんだよっ。電源入れてメールの受信だけしてくる」
携帯を取り出し、すぐさま携帯ゾーンへ向かった。
俺のせいで携帯を手放したりするな。もし秋兄からメールが入っていたらどうするんだ。
あの人、返信がなかったら落ち込んで仕事に手がつかないとか言い出しそうなどうしようもない人間なのに――
そんな暁には、被害を被る人間が数名出るのだ。
メールの受信をすれば、見事に三件の未読メールがあった。
思わずため息が漏れる。
当たり前だけど、中までは見ない。受信するのみ。
ただ、今までこのメールの存在に気づいてもらえなかったのはひとえに俺のせいだから、どこの誰だか知らないけど「悪い」と心の中で謝る。
病室に戻ると、首を傾げている翠がいた。こんな光景は見慣れている。
今までなら、その理由もなんとなくわかったつもりでいたけれど、その「なんとなくわかっているつもり」はもうやめる。
それに、今は何を考えているのか欠片すらもわからない。ならば訊けばいい。
「なんで首を傾げてるのか知りたいんだけど」
翠は身体を揺らすほどに驚いていた。
携帯を差し出し、
「メールの着信があったから確認するように」
翠は携帯を両手で受け取り、小さな声で話し始めた。
「ツカサ……あのね、私、ツカサのことはとても頼りにしていると思う。それから、八日なんだけど
――私……自分が具合悪いとは思っていなかったみたい……?」
この文章、どうして語尾に疑問符がつくのか教えてほしい……。
居心地悪そうに笑っている翠は怒られるとでも思っているのだろう。
残念でした。怒りはしない。けど、これ以上ないくらいには呆れている。
「……翠はバカだと思っていたけど、思っていた以上にバカだ――悪い、俺相馬さんに愚痴らないと気が済まない」
病室の前で立ち止まっていると、相馬さんに捕まった。
「ようやくお出ましか? 遅ぇな」
何を言われても反論するつもりはない。
「翠の状態は?」
「薬の副作用がひどい」
「症状は?」
「主に吐き気だな。身体を起こすのは無理っぽいぜ」
それだけ聞いて、再度病室へ足を向けた。
きっと今も横になっているだろう。あわよくば寝ていてくれたらいいのに。
そんなことを思いながら病室へ踏み入る。
入ってすぐ、横になったままこちらを見ていた翠と視線が交わる。
ある程度予想はしていた。でも、そこまで驚いた顔をしなくてもいいと思う。
「来るって予告しておいたけど?」
緊張する必要はなかったかもしれない。翠は目をまん丸に見開いて瞬きすらしない。やっと口を開いたかと思えば、
「うん……。写真、ありがとう。すごく嬉しかった……ありがとう」
「どういたしまして……」
いつもと同じように返事をしたつもりだけど、どうしたことか次の会話につながらない。
気まずい原因はこちらにある。ならば、先に謝ってしまえばいい。困った顔をされる前に――
「……電話に出られなくて、メールにも気づかなくて悪かった」
やっぱり、言い訳はしたくなかった。
携帯が水没したとか、風邪をひいていたとか、そういうのは一切なしで、とりあえず謝りたいと思った。
翠は急に身体を起こそうとする。
何をしようとしているのか、言おうとしているのかの予想はできた。でも、今がどうとかそういうことではなく、急に起きるのは厳禁だったはずなんだけど。
「吐き気、ひどいんだろ? 無理して起きなくていい」
指先に触れた額を軽く押しただけで、翠はベッドにポスン、と倒れる。
身体に力が入らないほど具合が悪いのだろう。
俺のしたことが不満なのか、翠は少し顔を歪めた。
翠の表情は、口で話す以上に雄弁に語る。けど、俺は時に読み違えたり、読めなかったりするんだ……。
全部わかったつもりでいると自分が痛い目を見る。そんなのはもうたくさんだ。
「ツカサ……?」
翠は不安そうに俺の名前を口にした。
悪いな……もっと不安にさせるかもしれない。でも、これを言わないことには俺もすっきりしないし、今後どうやって翠と接していったらいいのかがわからない。
「来て早々で悪いんだけど……」
「……まだ体調悪い? 帰る?」
翠はバカだと思う。間違いなく、バカだ。
「完治してなかったらここへは来ない」
俺がなんで今日来るってメモを添えたと思っているんだ……。
兄さんから、俺が風邪をひいていたことだって聞いているはずだ。なら、俺がそんな体調で来るわけがないだろ、阿呆。
「俺、言いたいことは言う主義なんだ。だから、言わせてもらう」
時にどこまで話したらいいのか悩むけど、この際だから全部言ったほうがいい気がした。
母さんと兄さんに言われて悩んだ。
相手のことを知るのに、訊いてばかりなのはフェアじゃない。ならば、自分のことも伝えるべき。
翠の肩が少し上がる。横になったまま身構えるとああなるのか、なんて思いながら再度口を開いた。
「この間の、八日のは単なる八つ当たりだから」
「あ……あの、私っ――」
ここでまた謝られたりありがとうなんて言われたらたまったものじゃない。悪いけど、先手を打たせてもらう。
「俺は謝られたかったわけじゃないし、感謝してほしかったわけじゃない」
「え……?」
思わず、自分の手に力が入る。
人にここまで自分の感情を晒すのには慣れていない。
俺だって翠と同じだ……。翠に伝える努力は何ひとつしていない。それで気づいてほしいなんて都合が良すぎる。
これからは、思ったことは伝えることにする。そしたら――翠も俺に話をしてくれるか……?
少し深めに息を吸い込み、考えてきたものを一気に話した。
「翠が入院してから、かなり翠の近くにいられている気がしていた。記憶がなくなっても頼ってもらえていると思っていた。思っていることをだいぶ話してもらえるようになったとも思っていたし、なによりも側にいたら、顔を見ていたら何を考えているのかすらわかったつもりでいた。でも……八日にそれは違うって思い知った。翠は具合が悪くても言ってはくれないし、自分はバイタルを見るまで気づけなかった。その両方に腹が立って八つ当たりした。八つ当たりしたことは謝らない。けど、そのあと電話に出られなかったことやメールの返信ができなかったことは謝る」
言い終わっても翠はじっと俺を見つめるだけでほかの反応を見せない。
恥ずかしさと苛立ちが入り混じり、
「今ので内容伝わらないわけっ!?」
これで伝わらなかったら俺はどうしたらいいんだ。ほかには何も考えてきていないというのに。
「一昨日から嫌ってほど考えていたから内容くらいは伝わる文になってるはずだけどっ!?」
伝わらなかったら伝わらなかったで仕方がないわけだけど、とりあえず、わかれよ阿呆……と思う自分がいる。
「十一日からずっと考えてくれていたの?」
相手は翠だった……。
どうしたことか本題とは別のことが気になるらしい。
それも癪だけど……。
「しょうがないだろ……。それまで熱出しててほとんど寝てたし」
言い訳になるから言いたくなかったことを言わされる。本当に無神経なやつ……。
俺は不快に感じているにも関わらず、翠の表情は少し柔らかなものへと変化していた。そして、俺を見ては口を開けたり閉じたりしている。
何か言いたいことがあるのか、と目だけで訊くと、
「あのね……私は八日の夜に目が覚めてから、十日までずっと考えていたの。でも、連絡がつかないことが怖くなって、携帯はしまっちゃった」
「……は?」
それは俺のことを考えるのが嫌になって、ということか?
「……携帯が側にあるの、なんだか落ち着かなくて、サイドテーブルにしまっちゃったの。それからは一度も電源入れてない」
翠はサイドテーブルを指差した。
俺が引き出しを開けると、携帯はタオルの上に電源が切られた状態で置かれていた。
「ほかの人間からメールが届いていたらどうするんだよっ。電源入れてメールの受信だけしてくる」
携帯を取り出し、すぐさま携帯ゾーンへ向かった。
俺のせいで携帯を手放したりするな。もし秋兄からメールが入っていたらどうするんだ。
あの人、返信がなかったら落ち込んで仕事に手がつかないとか言い出しそうなどうしようもない人間なのに――
そんな暁には、被害を被る人間が数名出るのだ。
メールの受信をすれば、見事に三件の未読メールがあった。
思わずため息が漏れる。
当たり前だけど、中までは見ない。受信するのみ。
ただ、今までこのメールの存在に気づいてもらえなかったのはひとえに俺のせいだから、どこの誰だか知らないけど「悪い」と心の中で謝る。
病室に戻ると、首を傾げている翠がいた。こんな光景は見慣れている。
今までなら、その理由もなんとなくわかったつもりでいたけれど、その「なんとなくわかっているつもり」はもうやめる。
それに、今は何を考えているのか欠片すらもわからない。ならば訊けばいい。
「なんで首を傾げてるのか知りたいんだけど」
翠は身体を揺らすほどに驚いていた。
携帯を差し出し、
「メールの着信があったから確認するように」
翠は携帯を両手で受け取り、小さな声で話し始めた。
「ツカサ……あのね、私、ツカサのことはとても頼りにしていると思う。それから、八日なんだけど
――私……自分が具合悪いとは思っていなかったみたい……?」
この文章、どうして語尾に疑問符がつくのか教えてほしい……。
居心地悪そうに笑っている翠は怒られるとでも思っているのだろう。
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