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第九章 化学反応
26話
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時間はあっという間に過ぎ昼食が運ばれてきた。
佐野くんは時計を見て、
「俺、これからマッサージだ」
「ここ?」
蒼兄が訊くと、
「はい。中学のときに手術して以来、ここでメンテナンスしてもらってます」
「そうなんだ。明日、がんばれよ」
その言葉にはっとする。
「明日からインターハイっ!?」
佐野くんはにっと口端を引き上げ、「そう」と答えた。
「マッサージ受けたら、その足で現地の宿泊施設に移動なんだ」
「……ごめんね、そんな忙しいときに」
「全然かまわないよ。もともと病院には来る予定だったし」
「ありがとう。試合、がんばってね」
佐野くんは顔を引き締め、「おう」と答えた。
「じゃ、俺らは翠葉のご飯たべ終わったら行くか」
「蒼兄、私のことは気にせずお昼食べに行ってきて?」
「でも……」
「心配してくれなくても大丈夫」
だって、藤原さんがいてくれるもの。
部屋の隅に立っている藤原さんに視線を向けると、
「御園生さんには私がついていますので、どうぞご飯を食べていらしてください」
藤原さんが言葉を添えると、
「……それじゃ、お言葉に甘えて」
蒼兄たちは私を気にしながら病室を出ていった。
少ししてから桃華さんが小走りで戻ってきて、
「翠葉、そのアルバム、夏休み中借りていられるから持ってて? それから、CD聴きなさいよね!」
それだけを言って出ていった。
ポカン、と呆気に取られていると、
「さ、ご飯の時間よ」
藤原さんが器の蓋を開けてくれた。
お昼ご飯を食べ終わると、ひどい倦怠感に襲われた。
「休めばいいわ」
「はい……」
少し熱っぽい気がして額に手をやる。
「……そういえば、昨日ツカサが――」
ふと思い出して携帯を手に取る。と、ディスプレイには私のバイタルが表示されていた。
「三十七度四分……本当にすごいアイテム」
こんなの、どうしたら作れるのかな……。
思いながら五分袖をめくってバングルを見る。
そこには相変わらずきれいなバングルがはまっていて、まるでこの腕にはまっているのが当たり前みたいな顔をしていた。
「……こんなすてきなものをいただいたのに――」
その人の名前もバングルをいただいたことも、何も覚えていないなんて……。
「私、いったいどんな顔をして会ったらいいのかな……」
なんだかひどく申し訳ない気がしてきた。
ぐっすり眠って起きると三時を回っていた。
窓に目をやれば、まだまだ外は暑そうで――
「あら、起きた?」
お母さんがお花をいけた花瓶を手に戻ってきた。
「これね、さっき桃華ちゃんと選んだのよ」
お花は向日葵オンリー。
最近は品種改良を重ね、小ぶりなひまわりが出回っている。それがブーケに入っていることも珍しくはない。
「ひまわりは見ているだけで元気になるね。色が明るくて姿勢がいいからかな」
「そうね。時々下を向いている向日葵を見るけれど、ついつい上を向けっ! って言いたくなるわよね」
「お母さんは口にしていそう」
外は暑いのだろう。でも、空調がきいた病室には軽快な笑い声が響いていた。
人がいるのはいい……。
病室にひとりだと、ただ時間が過ぎていくのを感じるだけで、体感時間が狂ったんじゃないかと思うほどに時間が過ぎるのが遅く感じる。そして、仕舞いにはひとり言が増えるのだ。
「お母さん、ありがとう。宮川さんを呼んでくれたのも、今日一日いてくれたのも」
「……翠葉?」
「ん?」
「自分の娘なんだから、当たり前なのよ」
お母さんは少し寂しそうに笑った。
「あのね、そろそろ藤原さんからコールが入ってお風呂だと思うの」
「え?」
「かわいくしてもらったからずっとこの髪型でいたいけど、今日はお風呂の日だからそろそろお風呂の時間なの。お母さんも今日は朝が早かったから疲れているでしょう? 今日はもう帰って?」
「……大丈夫よ?」
あまり大丈夫には見えないんだよ。
私ほどではないにせよ、それでも痩せたな、と思うお母さんにはここにずっといてほしくはない。
病院ということろは特異な場所だと思う。病気の人が集まっているのだから当たり前なのだろうけれど、調子がいいときに来ても、病院はなんだかとても疲れるのだ。だからこそ、お母さんには長時間ここにいてもらいたくない。
「帰って唯兄と一緒にご飯を食べてあげて? 蒼兄は大学か桃華さんとデートなのでしょう? 栞さんも昇さんが帰って来ているからマンションに戻るのだろうし……」
「……そう? じゃ、そうするけれど」
歯切れ悪く了承したお母さんをエレベーターホールまで送ると、私はその足でお風呂場へ連れて行ってもらった。
頭を洗って身体を洗う。ただそれだけなのに体力の消費は著しい。
お風呂に浸かってはいないのに、これだけの作業でぐったりだ。でも、まだ痛みが軽いだけいいのだろう。
「御園生さん、大丈夫?」
「はい、もう上がります」
外から声をかけられ、コックを捻る。と、ツキンと痛みが走った。
咄嗟に手を引っ込めたけれど、コックに問題があったわけではない。捻る行為が痛みにつながったのだ。
痛みはすぐそこまできているのかもしれない。
そんな思いを断ち切るように、バスルームをあとにする。
身体を拭いて、カップつきのキャミソールを着て、ルームウェアを着れば完了。
着替えが終わると車椅子に座り、そのままの状態で髪の毛を乾かしてくれる。
「ずいぶん切ったわね」
「はい。これでもう、しゃがみこんでも髪が床に付くことはなくなります。そしたら――」
あ、れ……?
「どうかした?」
藤原さんに訊かれ、
「いえ……」
「床に座り込んで誰かに怒られたの?」
「怒られたのかな? ……それを咎められたような気はするんですけど」
「じゃ、そういうことがあったんでしょうね」
そう言うと、藤原さんは髪の毛を乾かすのを再開した。
それは誰だったかな……。
少し考えたら海斗くんであることを思い出した。
海斗くんに髪の毛が汚れるから立って、と手を差し出されて……。でも、どうしてそんなことになったんだっけ……。
何かを思い出そうとすると、毎回こんな感じだ。ところどころは覚えているのに、状況がうまくつながらなくて気持ちが悪い。
その場にツカサがいたのかな。
訊いたら教えてくれるかもしれない。そう思ったけれど、明後日にインターハイを控えている人が来るわけがない。
電話、しようかな……。
でも、あの人はなんだかずっと本を読んでいるか勉強をしていそうなイメージがある。それこそ、邪魔をしたらものすごく機嫌の悪い声が返ってきそうだ。
「さっきから百面相ね?」
気がつけば髪の毛は乾かし終わり、藤原さんはドライヤーを片付け始めていた。
「え? そうでしたか?」
「それはもう、見ているのが面白いくらい」
考えていたことがそのまま顔に出ていたかと思うと少し恥ずかしい。
鏡の中の自分を見ると、両サイドの髪の毛が顎のあたりで揺れていた。
「似合ってるわ」
「嬉しい……」
似合っている、という言葉は少し気恥ずかしい。でも、初めての髪型が「似合っている」と言ってもらえてなんだかほっとする。
蒼兄や唯兄も似合うと言ってくれるかな。
病室に戻ると、信じられない光景を目の当たりにした。
「あら、眠れる森の王子様かしら?」
そんなふうに口にしたのは車椅子を押している藤原さんで、私はその王子様に釘付けだ。
ソファで横になっているのは紛れもなくツカサで、私たちの会話や気配では起きそうになかった。
「疲れているんでしょうね……」
「そうね。彼は弓道だったかしら? 精神力を要するものはなんでも疲れるわ」
私たちは起こさずにツカサを休ませてあげることにした。
私がベッドへ上がると、藤原さんは「またあとでね」と病室を出ていき、私の意識はツカサへと戻る。
「ぐっすり……」
でも、いくら健康優良児でも、何もかけずに寝ているのは身体によくない気がする。
ベッドの上にはタオルケットと羽毛布団があり、どっちにしようか悩んだ末、私はタオルケットをかけてあげることにした。
ベッドから下り、点滴スタンドを押すとカラン、と音が病室に響いた。そんな小さな音にすらビクリと驚く。
一度足を止め、ツカサの様子をうかがい見るも、起きる様子はない。
ほっとして胸を撫で下ろし、今度は音が鳴らないように点滴スタンドを押し進めた。
ソファの側まで近づいても起きる気配はなく、それはタオルケットをかけたときも同じだった。
ツカサは身動きひとつせずに寝ている。
つい、その場にしゃがみこんでまじまじと見てしまう。
見惚れるほどに整った顔は、メガネが良く似合い見かけだけで頭が良さそうに見える。
サラサラの黒髪がきれいだな、と眺めているうちにふとしたことが気になり始めた。
「メガネ……」
寝相は悪そうではないけれど、何かの拍子で落としたり割ったりしたら困るよね?
私は恐る恐るツカサのメガネに手を伸ばした。けれど、あとほんの少し、というところで手が届かない。もう少し近づこう、としゃがんだままソファの脇まで近寄ると――
「きゃっ……」
ルームウェアの裾踏んだっ!?
「っ……翠っ!?」
「……ごめんなさいっ」
ルームウェアの裾を踏んで躓いた私は、まんまとツカサの上に倒れこんでしまった。
寝ている人が起きる起きない、起こす起こさないの問題ではない。
「……いいけど、早く起きてくれる?」
「うん」
首の後ろあたりに声が響いてドキドキする。
早く身体を起こそうとは思うものの、どこに手をついたらいいのかわからなくて困惑した。
バランスを崩した私は、アームレストを枕にして寝ていたツカサの首元、ソファの背もたれへ頭を突っ込む勢いで圧し掛かっている。
とりあえず、手をどこかにつかなくちゃ……。
点滴が刺さっていない右手を手前に戻し、手探りをするとソファの座面に手の平が触れた。
そのまま体重を移動させ、髪の毛の隙間からツカサの顔を至近距離に捉える。
目が合った瞬間に心臓がトクリと音を立てた。
思わず左手を胸に引き寄せると、
「痛み……? 今、胸打った?」
すぐに身体を起こしたツカサに尋ねられる。でも、私は「違う」としか答えられなくて、顔を上げることもできなかった。
どうしよう……顔が、顔が熱い――
佐野くんは時計を見て、
「俺、これからマッサージだ」
「ここ?」
蒼兄が訊くと、
「はい。中学のときに手術して以来、ここでメンテナンスしてもらってます」
「そうなんだ。明日、がんばれよ」
その言葉にはっとする。
「明日からインターハイっ!?」
佐野くんはにっと口端を引き上げ、「そう」と答えた。
「マッサージ受けたら、その足で現地の宿泊施設に移動なんだ」
「……ごめんね、そんな忙しいときに」
「全然かまわないよ。もともと病院には来る予定だったし」
「ありがとう。試合、がんばってね」
佐野くんは顔を引き締め、「おう」と答えた。
「じゃ、俺らは翠葉のご飯たべ終わったら行くか」
「蒼兄、私のことは気にせずお昼食べに行ってきて?」
「でも……」
「心配してくれなくても大丈夫」
だって、藤原さんがいてくれるもの。
部屋の隅に立っている藤原さんに視線を向けると、
「御園生さんには私がついていますので、どうぞご飯を食べていらしてください」
藤原さんが言葉を添えると、
「……それじゃ、お言葉に甘えて」
蒼兄たちは私を気にしながら病室を出ていった。
少ししてから桃華さんが小走りで戻ってきて、
「翠葉、そのアルバム、夏休み中借りていられるから持ってて? それから、CD聴きなさいよね!」
それだけを言って出ていった。
ポカン、と呆気に取られていると、
「さ、ご飯の時間よ」
藤原さんが器の蓋を開けてくれた。
お昼ご飯を食べ終わると、ひどい倦怠感に襲われた。
「休めばいいわ」
「はい……」
少し熱っぽい気がして額に手をやる。
「……そういえば、昨日ツカサが――」
ふと思い出して携帯を手に取る。と、ディスプレイには私のバイタルが表示されていた。
「三十七度四分……本当にすごいアイテム」
こんなの、どうしたら作れるのかな……。
思いながら五分袖をめくってバングルを見る。
そこには相変わらずきれいなバングルがはまっていて、まるでこの腕にはまっているのが当たり前みたいな顔をしていた。
「……こんなすてきなものをいただいたのに――」
その人の名前もバングルをいただいたことも、何も覚えていないなんて……。
「私、いったいどんな顔をして会ったらいいのかな……」
なんだかひどく申し訳ない気がしてきた。
ぐっすり眠って起きると三時を回っていた。
窓に目をやれば、まだまだ外は暑そうで――
「あら、起きた?」
お母さんがお花をいけた花瓶を手に戻ってきた。
「これね、さっき桃華ちゃんと選んだのよ」
お花は向日葵オンリー。
最近は品種改良を重ね、小ぶりなひまわりが出回っている。それがブーケに入っていることも珍しくはない。
「ひまわりは見ているだけで元気になるね。色が明るくて姿勢がいいからかな」
「そうね。時々下を向いている向日葵を見るけれど、ついつい上を向けっ! って言いたくなるわよね」
「お母さんは口にしていそう」
外は暑いのだろう。でも、空調がきいた病室には軽快な笑い声が響いていた。
人がいるのはいい……。
病室にひとりだと、ただ時間が過ぎていくのを感じるだけで、体感時間が狂ったんじゃないかと思うほどに時間が過ぎるのが遅く感じる。そして、仕舞いにはひとり言が増えるのだ。
「お母さん、ありがとう。宮川さんを呼んでくれたのも、今日一日いてくれたのも」
「……翠葉?」
「ん?」
「自分の娘なんだから、当たり前なのよ」
お母さんは少し寂しそうに笑った。
「あのね、そろそろ藤原さんからコールが入ってお風呂だと思うの」
「え?」
「かわいくしてもらったからずっとこの髪型でいたいけど、今日はお風呂の日だからそろそろお風呂の時間なの。お母さんも今日は朝が早かったから疲れているでしょう? 今日はもう帰って?」
「……大丈夫よ?」
あまり大丈夫には見えないんだよ。
私ほどではないにせよ、それでも痩せたな、と思うお母さんにはここにずっといてほしくはない。
病院ということろは特異な場所だと思う。病気の人が集まっているのだから当たり前なのだろうけれど、調子がいいときに来ても、病院はなんだかとても疲れるのだ。だからこそ、お母さんには長時間ここにいてもらいたくない。
「帰って唯兄と一緒にご飯を食べてあげて? 蒼兄は大学か桃華さんとデートなのでしょう? 栞さんも昇さんが帰って来ているからマンションに戻るのだろうし……」
「……そう? じゃ、そうするけれど」
歯切れ悪く了承したお母さんをエレベーターホールまで送ると、私はその足でお風呂場へ連れて行ってもらった。
頭を洗って身体を洗う。ただそれだけなのに体力の消費は著しい。
お風呂に浸かってはいないのに、これだけの作業でぐったりだ。でも、まだ痛みが軽いだけいいのだろう。
「御園生さん、大丈夫?」
「はい、もう上がります」
外から声をかけられ、コックを捻る。と、ツキンと痛みが走った。
咄嗟に手を引っ込めたけれど、コックに問題があったわけではない。捻る行為が痛みにつながったのだ。
痛みはすぐそこまできているのかもしれない。
そんな思いを断ち切るように、バスルームをあとにする。
身体を拭いて、カップつきのキャミソールを着て、ルームウェアを着れば完了。
着替えが終わると車椅子に座り、そのままの状態で髪の毛を乾かしてくれる。
「ずいぶん切ったわね」
「はい。これでもう、しゃがみこんでも髪が床に付くことはなくなります。そしたら――」
あ、れ……?
「どうかした?」
藤原さんに訊かれ、
「いえ……」
「床に座り込んで誰かに怒られたの?」
「怒られたのかな? ……それを咎められたような気はするんですけど」
「じゃ、そういうことがあったんでしょうね」
そう言うと、藤原さんは髪の毛を乾かすのを再開した。
それは誰だったかな……。
少し考えたら海斗くんであることを思い出した。
海斗くんに髪の毛が汚れるから立って、と手を差し出されて……。でも、どうしてそんなことになったんだっけ……。
何かを思い出そうとすると、毎回こんな感じだ。ところどころは覚えているのに、状況がうまくつながらなくて気持ちが悪い。
その場にツカサがいたのかな。
訊いたら教えてくれるかもしれない。そう思ったけれど、明後日にインターハイを控えている人が来るわけがない。
電話、しようかな……。
でも、あの人はなんだかずっと本を読んでいるか勉強をしていそうなイメージがある。それこそ、邪魔をしたらものすごく機嫌の悪い声が返ってきそうだ。
「さっきから百面相ね?」
気がつけば髪の毛は乾かし終わり、藤原さんはドライヤーを片付け始めていた。
「え? そうでしたか?」
「それはもう、見ているのが面白いくらい」
考えていたことがそのまま顔に出ていたかと思うと少し恥ずかしい。
鏡の中の自分を見ると、両サイドの髪の毛が顎のあたりで揺れていた。
「似合ってるわ」
「嬉しい……」
似合っている、という言葉は少し気恥ずかしい。でも、初めての髪型が「似合っている」と言ってもらえてなんだかほっとする。
蒼兄や唯兄も似合うと言ってくれるかな。
病室に戻ると、信じられない光景を目の当たりにした。
「あら、眠れる森の王子様かしら?」
そんなふうに口にしたのは車椅子を押している藤原さんで、私はその王子様に釘付けだ。
ソファで横になっているのは紛れもなくツカサで、私たちの会話や気配では起きそうになかった。
「疲れているんでしょうね……」
「そうね。彼は弓道だったかしら? 精神力を要するものはなんでも疲れるわ」
私たちは起こさずにツカサを休ませてあげることにした。
私がベッドへ上がると、藤原さんは「またあとでね」と病室を出ていき、私の意識はツカサへと戻る。
「ぐっすり……」
でも、いくら健康優良児でも、何もかけずに寝ているのは身体によくない気がする。
ベッドの上にはタオルケットと羽毛布団があり、どっちにしようか悩んだ末、私はタオルケットをかけてあげることにした。
ベッドから下り、点滴スタンドを押すとカラン、と音が病室に響いた。そんな小さな音にすらビクリと驚く。
一度足を止め、ツカサの様子をうかがい見るも、起きる様子はない。
ほっとして胸を撫で下ろし、今度は音が鳴らないように点滴スタンドを押し進めた。
ソファの側まで近づいても起きる気配はなく、それはタオルケットをかけたときも同じだった。
ツカサは身動きひとつせずに寝ている。
つい、その場にしゃがみこんでまじまじと見てしまう。
見惚れるほどに整った顔は、メガネが良く似合い見かけだけで頭が良さそうに見える。
サラサラの黒髪がきれいだな、と眺めているうちにふとしたことが気になり始めた。
「メガネ……」
寝相は悪そうではないけれど、何かの拍子で落としたり割ったりしたら困るよね?
私は恐る恐るツカサのメガネに手を伸ばした。けれど、あとほんの少し、というところで手が届かない。もう少し近づこう、としゃがんだままソファの脇まで近寄ると――
「きゃっ……」
ルームウェアの裾踏んだっ!?
「っ……翠っ!?」
「……ごめんなさいっ」
ルームウェアの裾を踏んで躓いた私は、まんまとツカサの上に倒れこんでしまった。
寝ている人が起きる起きない、起こす起こさないの問題ではない。
「……いいけど、早く起きてくれる?」
「うん」
首の後ろあたりに声が響いてドキドキする。
早く身体を起こそうとは思うものの、どこに手をついたらいいのかわからなくて困惑した。
バランスを崩した私は、アームレストを枕にして寝ていたツカサの首元、ソファの背もたれへ頭を突っ込む勢いで圧し掛かっている。
とりあえず、手をどこかにつかなくちゃ……。
点滴が刺さっていない右手を手前に戻し、手探りをするとソファの座面に手の平が触れた。
そのまま体重を移動させ、髪の毛の隙間からツカサの顔を至近距離に捉える。
目が合った瞬間に心臓がトクリと音を立てた。
思わず左手を胸に引き寄せると、
「痛み……? 今、胸打った?」
すぐに身体を起こしたツカサに尋ねられる。でも、私は「違う」としか答えられなくて、顔を上げることもできなかった。
どうしよう……顔が、顔が熱い――
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