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11~14 Side 桃華 02話
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翠葉の言葉に皆が唖然とした。
だって、普通年頃の男女が交えてする内容じゃない、わよね……?
なのに、翠葉ときたら「みんな息してる?」なんて不安そうな顔で尋ねてくる。
本当に……なんといったらいいのかこの子は……。一歳年上だなんて信じられない……。
「っていうか簾条……これって男女交えて話すことなのか? それとも、何かのバツゲームとか……?」
佐野が真面目な顔で訊いてきた。
そもそも、どうして私に訊くのよ……。
「佐野、違うわよ。翠葉がそんなこと考えるわけがないじゃない。もっとも……私もこんな境遇は初めてよ」
飛鳥が翠葉の額に手を伸ばし、「熱はないみたいだけど?」と海斗を見る。海斗は海斗で手にしていた携帯を見て、
「血圧も問題ないっぽい……。秋兄、これ改良して脳波とかも加えてくんないかな」
「「そういう問題じゃないから」」
思わず佐野と言葉がかぶりほっとする。
まともな考えを持った人間がもうひとりいてくれて良かった……。
翠葉を除く四人は顔を見合わせ黙ったまま視線をめぐらせる。
いつまでもこのままでいるわけにもいかないし――仕方ない、仕切るか……。
「意見がある人は挙手」
「はい、どうやって答えるわけ? っていうか、本当にこのメンバー全員で話すの?」
もっともなことを佐野が口にした。
「それは私も考えていたところ」
もしかしたら、佐野と私は思考回路が似ているのかもしれない。
「……あの、男女でする話ではないの? ……だから蒼兄も逃げたのかな……」
呟くように翠葉が口にすると、
「蒼樹さん、逃げんなよ」
海斗がボソリと零す。
でも、さすがにこれは仕方ないんじゃないかしら。だって、兄妹とはいえ男と女だし……。
「ねぇ、メールとかじゃだめ?」
飛鳥の提案を却下したのは海斗だった。
「長文メールは面倒だし誤解が生じやすいから却下。個人面談は?」
「「異議なし」」
もちろん、答えたのは私と佐野。
そうすると順番を決めなくてはいけない。
「じゃ。順番は――」
私が話している途中で海斗が手を上げた。
「俺からでいいよ。その間にあっちで次の順番決めてこいよ」
……なんで海斗は動じてないのかしら……。もしかして、男女でこの手の話をするのも平気だったりするタイプなの?
そもそも、これだけ長い付き合いをしている割に、海斗の恋愛主観はまったく掴めていない。
でも、私もトップバッターに名乗りをあげられるほど考えはまとまっていないし、ここはとりあえず海斗に任せよう。
飛鳥と佐野も異論はないらしく、何も言わずに部屋を出た。
リビングへ行くと、
「次、俺が行くわ」
佐野が早々に名乗りをあげた。
「えっ? なんでっ!?」
飛鳥が反射神経で尋ねると、
「女ふたり挟んだあとの最後とか超恐怖……」
冷や汗でもかきそうな顔をして佐野が言う。
「……一理あるわね」
それには少し同情をしなくもない。
「桃華、私たちはふたり同時でも良くない? 同性だしさ」
「それもそうね。じゃ、きりのいいところで佐野と海斗に声をかけるわ」
こんな会話で順番は決まった。
問題は、自分が何を答えるか――私は……。
ふと頭に浮かんだのが蒼樹さんだった。
きっと私は蒼樹さんのことが好きだ。もし付き合えたならデートもしたいし色んな話をしたい。どんなことが好きなのか、食べ物は何が好きで何が嫌いなのか。
手だってつなぎたいし、キスもしたい……かな。
不意に、あの端整な顔が脳裏に浮かび頬が熱を持つ。
「桃華、顔赤いよ?」
「えっ!? あ、少し暑いだけ……」
言ったあと、さらに恥ずかしくなる。
この部屋はしっかりとエアコンがきいていて涼しいくらいなのだ。
恥ずかしさを振り払い、意識を翠葉の相談内容へ戻す。
キスの先、翠葉が一番気にしている部分はきっと性行為――
これは別もの、かしらね……。
彼氏彼女恋人はいい。でも、婚約や結婚はそんなに安易に決められるものじゃない。
だから、お見合いなんて真っ平ごめんだわ……。
「お見合い」という言葉を思い出すだけでも嫌気がさす。
次の日曜日はどうやって切り抜けようか……。誰か隣に立ってくれる人はいないか……。
――蒼樹さんにお願いできないかしら……。
――違う、今は翠葉の相談内容を考えなくちゃ。
私の中では付き合うことと婚約や結婚はイコールにならない。
相手をよく知ってからじゃないと私には決められない。性行為もそこにつながる。
安易にしていい行為じゃない。好きだから、とそれだけでしていい行為じゃない。一歩間違えば子どもができる。
……そういうこと、よね?
その万が一の状態に自分が対応できないことは安易にしてはいけない。
自分の身を預けられる相手なのかどうか、はっきりと答えが出ないうちは絶対にしない。その場の雰囲気に流されたりしない――
相手が自分を本当に想ってくれているのなら、こういう考えだってわかってもらえるはず。
そう、思いたい……。
そうこう考えていると、廊下先のドアが開き海斗が出てきた。
「で? 次は誰が行くの?」
「俺」
佐野が立ち上がり、海斗とバトンタッチ。
「ジャンケンか何かで決めたの?」
「ううん、女子のあとはやだからって佐野が自分が先に行くって言った」
「なるほどね~」
海斗は妙に落ち着いた様子でソファに座る。
「で? ふたりは?」
「私たちは同性だからふたり同時に入るわ」
「そうだな、とくに問題ないだろ」
なんだろう……。この、今までその手の話をしてきたとも思わせない素振りは。
飛鳥も不思議に思ったのか、
「どうしてさっきからそんなに冷静なの?」
「冷静っていうか……訊かれた時点で自分の中に答えがあっただけだよ」
「因みに、その答えは?」
私が訊くと、海斗は小悪魔のような笑みを浮かべて「秘密」と楽しそうに口にした。
本当に読めないわ……。
妙にてんぱっているときもあるのに、周りが動揺しているときほど落ち着いているのが海斗なのだ。
割と大きな地震があったとき、クラス中が大騒ぎで先生の声すら通らなかったことがある。
余震が続く中、海斗は一気にクラスを治めた。
「はいっ、注目っ!」
手を叩いて意識を自分に向けると、
「窓際の連中は窓開ける。廊下側の前と後ろのドア開けて。そのほかの人間は机の下」
なんてことのない指示。教師ですら取らせるべき行動を取らせることができなかったのに、海斗が指示に声を発したのはその一度だけだった。
ほかの誰でもなく海斗だから――だからみんなは何を思うことなく指示に従った。
今の私ならそのくらいのことはできるだろう。でも、中学一年の時点ではできなかったことだ。
そんなとき、藤宮の血を感じる。上に立つものが持つ資質とでもいうのだろうか。
海斗だけではなく、藤宮司も間違いなくそれを備え持っている。人を従えさせる力を――
「簾条、立花っ。早く行って助けてやってっ」
さっき飛鳥に走るなと怒っていた佐野が走り出てきた。
異様な状態に席を立つ。
「あ、ちょうどいいわ。これ翠葉ちゃんにも持っていってもらえるかしら?」
栞さんに言われ、お茶の載ったトレイを受け取った。
翠葉の部屋へ行くと、翠葉は放心状態だった。
「何、どうかしたの?」
声をかけるも、「ううん、なんでもないの」とごまかしようのない作り笑いを浮かべる。
「佐野が早く行って助けてやれって言うから何事かと思ったよ」
飛鳥が突っ込むものの、翠葉は佐野との話はするつもりはないらしく、ひたすら苦笑を浮かべる。
こういうときの翠葉は簡単には口を割らない。
問い詰めたところで無駄ね。
軽くため息をつくとトレイをテーブルに載せ、グラスのひとつを翠葉に渡した。
「私たちは三者面談にしましょう」
そう声をかけると、翠葉はあからさまにほっとした顔をした。
だって、普通年頃の男女が交えてする内容じゃない、わよね……?
なのに、翠葉ときたら「みんな息してる?」なんて不安そうな顔で尋ねてくる。
本当に……なんといったらいいのかこの子は……。一歳年上だなんて信じられない……。
「っていうか簾条……これって男女交えて話すことなのか? それとも、何かのバツゲームとか……?」
佐野が真面目な顔で訊いてきた。
そもそも、どうして私に訊くのよ……。
「佐野、違うわよ。翠葉がそんなこと考えるわけがないじゃない。もっとも……私もこんな境遇は初めてよ」
飛鳥が翠葉の額に手を伸ばし、「熱はないみたいだけど?」と海斗を見る。海斗は海斗で手にしていた携帯を見て、
「血圧も問題ないっぽい……。秋兄、これ改良して脳波とかも加えてくんないかな」
「「そういう問題じゃないから」」
思わず佐野と言葉がかぶりほっとする。
まともな考えを持った人間がもうひとりいてくれて良かった……。
翠葉を除く四人は顔を見合わせ黙ったまま視線をめぐらせる。
いつまでもこのままでいるわけにもいかないし――仕方ない、仕切るか……。
「意見がある人は挙手」
「はい、どうやって答えるわけ? っていうか、本当にこのメンバー全員で話すの?」
もっともなことを佐野が口にした。
「それは私も考えていたところ」
もしかしたら、佐野と私は思考回路が似ているのかもしれない。
「……あの、男女でする話ではないの? ……だから蒼兄も逃げたのかな……」
呟くように翠葉が口にすると、
「蒼樹さん、逃げんなよ」
海斗がボソリと零す。
でも、さすがにこれは仕方ないんじゃないかしら。だって、兄妹とはいえ男と女だし……。
「ねぇ、メールとかじゃだめ?」
飛鳥の提案を却下したのは海斗だった。
「長文メールは面倒だし誤解が生じやすいから却下。個人面談は?」
「「異議なし」」
もちろん、答えたのは私と佐野。
そうすると順番を決めなくてはいけない。
「じゃ。順番は――」
私が話している途中で海斗が手を上げた。
「俺からでいいよ。その間にあっちで次の順番決めてこいよ」
……なんで海斗は動じてないのかしら……。もしかして、男女でこの手の話をするのも平気だったりするタイプなの?
そもそも、これだけ長い付き合いをしている割に、海斗の恋愛主観はまったく掴めていない。
でも、私もトップバッターに名乗りをあげられるほど考えはまとまっていないし、ここはとりあえず海斗に任せよう。
飛鳥と佐野も異論はないらしく、何も言わずに部屋を出た。
リビングへ行くと、
「次、俺が行くわ」
佐野が早々に名乗りをあげた。
「えっ? なんでっ!?」
飛鳥が反射神経で尋ねると、
「女ふたり挟んだあとの最後とか超恐怖……」
冷や汗でもかきそうな顔をして佐野が言う。
「……一理あるわね」
それには少し同情をしなくもない。
「桃華、私たちはふたり同時でも良くない? 同性だしさ」
「それもそうね。じゃ、きりのいいところで佐野と海斗に声をかけるわ」
こんな会話で順番は決まった。
問題は、自分が何を答えるか――私は……。
ふと頭に浮かんだのが蒼樹さんだった。
きっと私は蒼樹さんのことが好きだ。もし付き合えたならデートもしたいし色んな話をしたい。どんなことが好きなのか、食べ物は何が好きで何が嫌いなのか。
手だってつなぎたいし、キスもしたい……かな。
不意に、あの端整な顔が脳裏に浮かび頬が熱を持つ。
「桃華、顔赤いよ?」
「えっ!? あ、少し暑いだけ……」
言ったあと、さらに恥ずかしくなる。
この部屋はしっかりとエアコンがきいていて涼しいくらいなのだ。
恥ずかしさを振り払い、意識を翠葉の相談内容へ戻す。
キスの先、翠葉が一番気にしている部分はきっと性行為――
これは別もの、かしらね……。
彼氏彼女恋人はいい。でも、婚約や結婚はそんなに安易に決められるものじゃない。
だから、お見合いなんて真っ平ごめんだわ……。
「お見合い」という言葉を思い出すだけでも嫌気がさす。
次の日曜日はどうやって切り抜けようか……。誰か隣に立ってくれる人はいないか……。
――蒼樹さんにお願いできないかしら……。
――違う、今は翠葉の相談内容を考えなくちゃ。
私の中では付き合うことと婚約や結婚はイコールにならない。
相手をよく知ってからじゃないと私には決められない。性行為もそこにつながる。
安易にしていい行為じゃない。好きだから、とそれだけでしていい行為じゃない。一歩間違えば子どもができる。
……そういうこと、よね?
その万が一の状態に自分が対応できないことは安易にしてはいけない。
自分の身を預けられる相手なのかどうか、はっきりと答えが出ないうちは絶対にしない。その場の雰囲気に流されたりしない――
相手が自分を本当に想ってくれているのなら、こういう考えだってわかってもらえるはず。
そう、思いたい……。
そうこう考えていると、廊下先のドアが開き海斗が出てきた。
「で? 次は誰が行くの?」
「俺」
佐野が立ち上がり、海斗とバトンタッチ。
「ジャンケンか何かで決めたの?」
「ううん、女子のあとはやだからって佐野が自分が先に行くって言った」
「なるほどね~」
海斗は妙に落ち着いた様子でソファに座る。
「で? ふたりは?」
「私たちは同性だからふたり同時に入るわ」
「そうだな、とくに問題ないだろ」
なんだろう……。この、今までその手の話をしてきたとも思わせない素振りは。
飛鳥も不思議に思ったのか、
「どうしてさっきからそんなに冷静なの?」
「冷静っていうか……訊かれた時点で自分の中に答えがあっただけだよ」
「因みに、その答えは?」
私が訊くと、海斗は小悪魔のような笑みを浮かべて「秘密」と楽しそうに口にした。
本当に読めないわ……。
妙にてんぱっているときもあるのに、周りが動揺しているときほど落ち着いているのが海斗なのだ。
割と大きな地震があったとき、クラス中が大騒ぎで先生の声すら通らなかったことがある。
余震が続く中、海斗は一気にクラスを治めた。
「はいっ、注目っ!」
手を叩いて意識を自分に向けると、
「窓際の連中は窓開ける。廊下側の前と後ろのドア開けて。そのほかの人間は机の下」
なんてことのない指示。教師ですら取らせるべき行動を取らせることができなかったのに、海斗が指示に声を発したのはその一度だけだった。
ほかの誰でもなく海斗だから――だからみんなは何を思うことなく指示に従った。
今の私ならそのくらいのことはできるだろう。でも、中学一年の時点ではできなかったことだ。
そんなとき、藤宮の血を感じる。上に立つものが持つ資質とでもいうのだろうか。
海斗だけではなく、藤宮司も間違いなくそれを備え持っている。人を従えさせる力を――
「簾条、立花っ。早く行って助けてやってっ」
さっき飛鳥に走るなと怒っていた佐野が走り出てきた。
異様な状態に席を立つ。
「あ、ちょうどいいわ。これ翠葉ちゃんにも持っていってもらえるかしら?」
栞さんに言われ、お茶の載ったトレイを受け取った。
翠葉の部屋へ行くと、翠葉は放心状態だった。
「何、どうかしたの?」
声をかけるも、「ううん、なんでもないの」とごまかしようのない作り笑いを浮かべる。
「佐野が早く行って助けてやれって言うから何事かと思ったよ」
飛鳥が突っ込むものの、翠葉は佐野との話はするつもりはないらしく、ひたすら苦笑を浮かべる。
こういうときの翠葉は簡単には口を割らない。
問い詰めたところで無駄ね。
軽くため息をつくとトレイをテーブルに載せ、グラスのひとつを翠葉に渡した。
「私たちは三者面談にしましょう」
そう声をかけると、翠葉はあからさまにほっとした顔をした。
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