光のもとで1

葉野りるは

文字の大きさ
78 / 1,060
第三章 恋の入口

08話

しおりを挟む
 翌朝も、何も変わることなく蒼兄と一緒に登校する。
 まだ、ひとりで電車通学、というのは実現していない。
 やってみたいとは思う。でも、いざとなるとチャレンジする勇気が出ない。
 トライするなら土曜日の帰りかな、とかプランを考えないわけではないけれど、テスト前に倒れたら、と考えると実行する日はきちんと選ばなくちゃいけない気がした。

 上履きに履き替え図書棟へ向かうと、図書棟前に秋斗さんが立っていた。
 図書室は相変わらず写真だらけで、小路のように床が見えるのみ。それはまるで迷路のよう。
 きっと今日の放課後も、生徒会メンバーが集って作業をするのだろう。
 昨日聞いた話だと、何枚あるのかわからない写真を今週中に一〇〇〇枚までに絞り、翌週から広報委員が加わって六〇〇枚に絞るのだという。
 それなら最初から広報委員も一緒に仕事をすればいいのに、と思っていたら、「それじゃだめなのよ」と里見先輩が教えてくれた。
「表に出しちゃまずいような写真も中には紛れていたりするから、それをピンはねするのも仕事のうち。まずい写真は大人数にさらすものじゃないでしょ?」
 言われて納得。
「それに、これだけの枚数だからね……。広報委員が入るスペースなんてないのよ」
 と、荒川先輩があたりを見回して「最悪」って顔をした。
 確かに……生徒会メンバーですら小路しか歩けない状態なのに、そこへ広報委員が入るスペースなどない。
 じゃぁ場所を変えれば……なんて言えないくらいの分量に、ここでの作業が妥当だと思わざるを得なかった。

 仕事部屋に入ると、
「まずはお茶にしようか」
 秋斗さんに言われて私が淹れることにした。
 時間はまだ八時を回ったところなので始業時間ではない。
 あと三十分ほどはのんびりできる。
 そこまで考えて、「あれ?」と思う。
 私が早く来ているから秋斗さんも早いのだろうか。
 普通、会社の始業時刻って何時?
「秋斗さんのお仕事は何時からなんですか?」
「ん? 始業時間は九時だけど?」
「もしかして、今日も昨日も早くにいらしてくださってたり……しますよね」
 秋斗さんはクスリと笑う。
「少しだけね。でも、家は近いから気にしなくていいよ」
「すみません……」
 ここに通ってくるのも今日が最後なので、謝ることしかできなかった。
「翠葉ちゃんはさ、そういうところには気づくのにそのほかは色々と鈍いよね?」
「え……?」
「いや、こっちの話。……君のアンテナがどの辺についていて、どんなことに反応するのかはちょっと興味がある」
「……意味がわからないです」
「うん、わからなくていいよ」
「それはなんだか面白くないです……」
 むぅ、と頬を膨らませると、さらに笑われた。
「あ、そういえば……昨日初めて知りました。バイタルチェックの受信側のシステム?」
 昨夜、栞さんに見せてもらったメールの話をする。と、
「あぁ、これね」
 秋斗さんは自分の携帯を見ながら答えた。
「それ、私の携帯でも見られるようにできますか?」
「できるけど……?」
「……お願いしてもいいですか?」
 自分自身が血圧や体温を知ることができれば、もう少し色んなことを回避できる気がした。
「いいけど……急にどうしたの?」
「……ただ、そのほうがもっと自分が自分に気をつけられる気がするから……。今の状態だと、全部人任せみたいな気がして……」
「……そんなことはないんだけどね。でも、翠葉ちゃんが望むなら設定するよ」
 秋斗さんに携帯を渡すと、携帯を手にした秋斗さんは不思議そうに携帯を眺めていた。
「どうかしましたか?」
「いや、女子高生らしからぬ携帯だと思って」
 その返答の意味もわからない。
 携帯に女子高生らしいってあるのだろうか……。
「最近の子はさ、手帳型のケースに入れていたり、ストラップがじゃらじゃらついていたり、主張の強いイヤホンジャックを付けてたりするじゃない?」
 ……そう言われてみれば、飛鳥ちゃんの携帯には何かのキャラクターと思われるストラップがじゃらじゃらついているし、希和ちゃんの携帯はウサギの耳がかわいいケースに入っている。桃華さんの携帯は、押し花を閉じ込めたケースに入っていたっけ……。
「そう言われてみると……そうですね?」
 まるで他人事のように答える。
「飾るのはあまり好きじゃないのかな?」
「うーん……好きなキャラクターがあるわけじゃないし、こてこてしたものよりはシンプルなものが好きで……」
「じゃ、ストラップは?」
「ストラップ……?」
「そう、ストラップ。僕がプレゼントしたら使ってくれる?」
 笑顔で訊かれ、私は秋斗さんをじっと観察する。
「ねぇ……この間は何かな。……いや、訊かなくてもなんとなくはわかるんだけど……」
「いえ、あえて訊きます。何か仕掛けつきですか?」
「くっ……やっぱりか! いいえ、もう仕掛けはしません。ねぇ、僕って実は結構信用なくしてる?」
 苦笑いで訊かれる。
「いえ、そういうわけではないんですけど……。湊先生に注意しなさいって言われたので……」
「出所は湊ちゃんか……」
 秋斗さんは、「まいったな」と頭を掻いた。
「今回は本当に仕掛けなし。どう?」
「……でも、いただきものばかりで申し訳ないです」
 一番はこのバイタルチェックのバングルだ。
「じゃあさ、またあのクッキー焼いて?」
 クッキーって……この間のフロランタンのこと?
「スライスアーモンドが乗ってるやつ。あれ、すごく美味しかったから」
「……ストラップを頂かなくても、あれくらいいつでも焼いてきますよ?」
「それじゃ意味がないよ。僕がストラップをあげるための口実なんだから」
 なんだか腑に落ちない気もしたけれど、あまり気にするのはやめよう。
 話している途中で始業チャイムが鳴り、私はローテーブルに移動し、秋斗さんはパソコンを稼動させて仕事を始めた。

 今日から世界史の問題集に手をつける。
 バスタイムや授業の空き時間に何度も教科書と参考書を読んだ。
 覚えるのを拒否したくなるよう長い首都名や、口が回らなさそうなカタカナも何度も書いた。
 それらを試すための問題集――
 未履修分野の試験は中間考査の午後に、と考えている。
 中間考査の間は午前中四時間、四教科の試験で終わる。それが三日間。
 うちの学校は中間も期末も関係なく全教科のテストが行われる。ただ、芸術選択だけは期末考査でのテストしかない。
 それはテスト期間にその時間が振り分けられているわけではなく、普通授業の時間に実技試験を受けることになる。
 テスト期間の午後はとくに予定もないし、どちらにせよ夕方までは蒼兄を待たなくてはいけない。
 だから、先生の都合がつけば、その時間に未履修分野のテストを終わらせてしまおうと思っていた。
 問題は苦手科目。
 世界史と英語と古典。
 とりあえず、これから問題集を解いてみて、手ごたえを確かめる予定。
 数学と違い、計算をする工程が入らない分、内容さえ頭に入っていれば昨日ほどの時間は要しないはず。
 どのくらいの時間で解けるか、というのもひとつのポイント。
 テストにかける時間は決められてはいない。
 五十分以内で解かなくてはいけない、という縛りがあるのみ。
 今、目の前にある問題集は一冊三十ページほど。しかも、数学ではほとんどが計算問題で埋まっていたのに対し、こちらは文章問題の穴埋めが主なので、問題量は少ないはず。
 今が八時半。三時間でどこまで解けるか――よしっ!
 心の中で気合を入れ、心してページをめくった。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...