37 / 1,060
Side View Story 01
04 Side 明 01話
しおりを挟む
まさか同じクラスになるとは思っていなかった。
窓際の、前から三番目の髪の長い女の子――御園生翠葉。
誰も知っている人がいない高校の中で、唯一俺が知っている女の子。
知っている、というのは少し語弊がある。
正しくは、何度も彼女を見かけている、だ。それも、俺たちの年には似つかわしくない場所、病院で――
最初はリハビリ仲間の噂に登場した。
「すっげーかわいい子が入院してんの知ってるか?」
そう言い出したのは青田省吾。
高校二年の彼はバイク事故で足や腕を骨折して入院していた。
「あ、知ってる! たまーにお昼時にここに来ますよね! 髪の長い子っ」
うんうん、と頷きながら話に加わったのは、俺と同学年の山田太郎。
いかにもマンガに出てきそうなバカキャラチックな名前だけど、意外と頭がいいらしく、たまに英語を教えてもらったりする。
こいつは自転車で悪ふざけしてこけたそうだ。
俺は軸足に問題があって、それを短期間で治すために入院した。
春休みいっぱい入院して徹底的に治療に励んだ。今は週に一度通院している程度。
五月には本格的に練習に戻れる予定。
「どうやら東棟三階の病室らしいことはわかったんだけどさ」
省吾さんがなけなしの情報を開示した。
でも、この人の病室、確か南棟の二階だった気がする……。どうやったらそこまで調べられるんだろう。
「東の三階ってことは循環器ですね」
太郎が無駄な知識を披露した。
「でもさ、この間すっげーかっこいい人と一緒にいたんだよねぇ。あれはさぁ、美男美女過ぎて反則。絶対声かけらんねーって思ったもん」
あっという間に省吾さんが撃沈。
ふーん、彼氏持ちか。
そんな話をしている最中だった。
リハビリルームのドアが少し開き、顔だけを覗かせ中をキョロキョロと見る女の子がいた。
不思議に思って見ていると、ほかのふたりも気づいたようでそちらに目をやる。
「あっ、あの子だよ、あの子っ! 超かわいくね?」
省吾さんが興奮気味だ。
「そうそう、色白でさ。ロングストレートの髪が清楚でいい!」
なんて、太郎も涎を垂らしそうな勢いで見ている。
確かに、ふたりが騒ぐのも頷けるほどにかわいかった。
かわいいっていっても甘ったるい感じじゃなくて、でもきれいっていうのとも少し違う気がする。なんていうか美少女。
彼女はリハビリルームの一番奥にあるマットに誰もいないのを確認すると、そろり、と入ってきた。
それに気づいた理学療法士の朝田さんが声をかけ近くに寄る。
「翠葉ちゃん、今日は許可が出たの?」
「はい、ちゃんと許可もらってきました。マット、お借りしてもいいですか?」
「いいわよ。無理はしないようにね?」
それだけの会話で朝田さんは違う患者のもとへと移動した。
どうやら、補助が必要なリハビリではないらしい。
そのままなんとなく目で追っていると、マットの上でストレッチを始めた。
うわ、身体柔らけー……。
あっさりと開脚をした。そして、のべーっと身体をマットに倒す。
自分も身体は柔らかいほうだと自負しているけど、あれには負ける。
「おい、明。そんなにじろじろ見てると怪しいから止めろよっ」
省吾さんに小突かれる。
「ま、見惚れるのはわかるけどよ~。しょせん目の保養だよな」
太郎は俺の影から不審者全開で彼女を見ていた。
俺はそのまま自分のリハビリに戻ったけど、どこかで見たことがある気がして、どこでだったかを必死に思い出そうとしていた。
集中してリハビリをすることもできず、ひたすら頭の中をひっくり返す。
どこかですれ違ったと思うんだけど……。
時期的にもそんなに前の話じゃない。
今年だったと思うんだよなぁ……。
その日のリハビリをこなすと、
「じゃ、俺帰るわ」
と、廊下に出た。
いつもと同じように、表玄関ではなく救急外来の搬出口へと向かう。
本当はいけないんだけど、こっちの方がバスの停留所が近くて。
そのとき、救急車が着いてストレッチャーで運ばれてきた人がいた。すぐに壁際へ身を寄せる。と――
「……思い出した」
そうだ、俺が退院するときに運び込まれてきた子。
すっごい真っ青で今日見た印象とはずいぶん違ったし、酸素マスクしてたから顔の半分は見えなかったんだ。
え……? ちょっと待てよ?
俺が退院したのは三月二十六日だろ? ……ってことはあれからずっと入院してるってことか? 早一ヶ月半?
太郎が循環器って言ってたけど、どこが悪いんだろう?
ま、俺には関係ないか……。
とりあえず思い出せてすっきりしたので良しとした。
それからも俺は一週間に一度病院に通っていた。
術後の経過もいいし、陸上の練習も再開している。
けれど気になることがあった。
彼女だ……。
もう七月だというのに、未だに院内で見かける。
ごくたまに、リハビリルームで見かけることもあるし、点滴をしながら車椅子を押されているのも見たことがある。
かと思えば、中庭で小さいハープ弾いてたり。
すごい意味不明だった。
だけど、楽器を持つ姿は様になってたし、音も柔らかくてきれいな音だった。
病院に来ると彼女を探す癖がついてしまった。
ま、探したところで見かけることのほうが少ないんだけど。
その日、中庭でパンをかじっていてふと顔を上げたら彼女がいた。
いた、と言っても東棟三階。
あ、マジで東棟の三階だった……。
たぶんだけど、泣いていたと思う。
誰かに呼ばれたのか、パジャマの袖で涙を拭うと部屋の中を振り向いた。
その彼女の隣に背の高い、確かに格好良さ気な男が立っている。
彼女が泣いていたことに気づいたのか、彼女を抱きしめ宥めているようだ。
あぁ、確かに……。あれは省吾さんも太郎も声かけらんねーわ……。
すると奥からもうひとり。親かな? って思うような女の人が現れて、男と彼女の背中をポンポンと叩いた。
「なんだ、親公認じゃん」
シルエットのみではあるものの、とても様になるふたりを一階中庭から眺めていた。
あれ? 俺、何してるんだ……?
これって単なる覗きじゃねーの?
そう思った途端に恥ずかしくなって、周りをキョロキョロ見て誰もいないことを確認すると、足早にその場を立ち去った。
こうやって、彼女の記憶は断片ばかりが溜まっていった。
十一月に入ると彼女を全く見かけなくなった。
退院したかな?
そりゃ、あれだけ長く入院してたんだ。そろそろ退院しててもおかしくないだろう。むしろ。遅いくらい……。
……まさか、亡くなってたりしないよな。
なんだか変なことを考えてしまう。
自分の治療もほとんど終わって月一で通院してくるだけになった。
今は来年の高校受験に向けて勉強が追い込みで忙しい。
俺は来年、憧れの人が通っていた高校に行く。
いや、まだ受験してもいないから行く予定。
スプリンターの御園生蒼樹さん――あなたが俺の目標です。
俺の受ける高校は少し変わっていた。
自分は陸上の特待枠で受けるわけだけだから、一般に言うところの推薦入試ってやつだ。
けれど、この学校は推薦入試と一般入試の日が一緒である。
試験を受ける教室も同じ。
上限二十人という枠だけど、受験者は一〇〇人に届かないらしい。
かなり有名な進学校ではあるものの、レベルが高すぎてチャレンジする人はいても一〇〇人前後というのが毎年のことなのだとか……。
因みに、特待枠でも学力レベルが満たなければ受からないというシビアな学校。
一月の中旬、ひとりブラブラと願書を出しに行った。
ほかの高校は、受ける人間が一団となって願書を提出しに行くが、ここを受けるのは俺の学校で俺ひとり。よって、願書もひとりで出しに行く。
広い敷地内を十分ほど歩くと、職員棟らしき建物が見えてきた。
入り口を入って窓口を見たとき、正直目を疑った。
彼女が立っていた。
「よろしくお願いします」
と、封筒から願書を取り出し渡すところをバッチリ見た。
すれ違うとき、なんともない振りをしたけれど、内心はすごく驚いていた。
心臓がバクバクいう中、自分も願書を窓口の人に渡す。と、前に出されたであろう願書が見えてしまった。
見えてしまったのは一瞬で、一部しか見ることはできなかった。
でも、見えた部分に違和感を覚えた。
なんでなのかをすぐに考える。
名前の下に見えたのは生年月日――自分と同じ生まれ年ではない。
俺が早生まれだからとかそういう問題じゃなくて、物理的に一学年上……。
留年、したんだ……。
すぐに謎は解けた。
それはそうか……。
去年の三月二十六日に運びこまれて、少なくとも俺は彼女が十月頭までは病院にいたことを知っている。
……留年、したんだ。
でも、死んでなくて良かったと思った。
なんでかな……。病院で泣き顔を見てしまったからだろうか。
退院できて良かったな、って思った。思わず追いかけて声をかけそうになるくらい。
外に出た彼女は背の高い男と並んで歩いている。
もしかしたら、あのとき病室にいた男かもしれない。
手をつないで、どこかふわふわと歩く彼女。それをつなぎとめておこうとしているように見える男。
お互い、入学が決まったら話す機会はあるのかな?
入学するには、まずその前の試験を勝ち抜かなくちゃいけないし、入学が決まったとしても同じクラスになる確率は七分の一。
そう思っていたのに――
このクラスの窓際には窓の外をぼーっと眺めている彼女がいる。
自己紹介のときはひどいうろたえぶりだった。
前の席のやつに何か言われたのか、そのあとはスラスラと話し始めたものの、声はどんどん小さくなる始末。
年上には全然見えない。
思わず笑みが零れる。
話しかけたいなとは思ったけど、どうやらホームルームが終わったら早々に職員室へ行かなくてはいけないらしい。
彼女はクラスメイトに囲まれてきょとんとしている。
まぁ、いいや。一年間は同じクラスだし、話す機会もあるだろう。
けど、安心して。
君がひとつ年上なことも、入院していたことも、誰にも言うつもりはないから。
窓際の、前から三番目の髪の長い女の子――御園生翠葉。
誰も知っている人がいない高校の中で、唯一俺が知っている女の子。
知っている、というのは少し語弊がある。
正しくは、何度も彼女を見かけている、だ。それも、俺たちの年には似つかわしくない場所、病院で――
最初はリハビリ仲間の噂に登場した。
「すっげーかわいい子が入院してんの知ってるか?」
そう言い出したのは青田省吾。
高校二年の彼はバイク事故で足や腕を骨折して入院していた。
「あ、知ってる! たまーにお昼時にここに来ますよね! 髪の長い子っ」
うんうん、と頷きながら話に加わったのは、俺と同学年の山田太郎。
いかにもマンガに出てきそうなバカキャラチックな名前だけど、意外と頭がいいらしく、たまに英語を教えてもらったりする。
こいつは自転車で悪ふざけしてこけたそうだ。
俺は軸足に問題があって、それを短期間で治すために入院した。
春休みいっぱい入院して徹底的に治療に励んだ。今は週に一度通院している程度。
五月には本格的に練習に戻れる予定。
「どうやら東棟三階の病室らしいことはわかったんだけどさ」
省吾さんがなけなしの情報を開示した。
でも、この人の病室、確か南棟の二階だった気がする……。どうやったらそこまで調べられるんだろう。
「東の三階ってことは循環器ですね」
太郎が無駄な知識を披露した。
「でもさ、この間すっげーかっこいい人と一緒にいたんだよねぇ。あれはさぁ、美男美女過ぎて反則。絶対声かけらんねーって思ったもん」
あっという間に省吾さんが撃沈。
ふーん、彼氏持ちか。
そんな話をしている最中だった。
リハビリルームのドアが少し開き、顔だけを覗かせ中をキョロキョロと見る女の子がいた。
不思議に思って見ていると、ほかのふたりも気づいたようでそちらに目をやる。
「あっ、あの子だよ、あの子っ! 超かわいくね?」
省吾さんが興奮気味だ。
「そうそう、色白でさ。ロングストレートの髪が清楚でいい!」
なんて、太郎も涎を垂らしそうな勢いで見ている。
確かに、ふたりが騒ぐのも頷けるほどにかわいかった。
かわいいっていっても甘ったるい感じじゃなくて、でもきれいっていうのとも少し違う気がする。なんていうか美少女。
彼女はリハビリルームの一番奥にあるマットに誰もいないのを確認すると、そろり、と入ってきた。
それに気づいた理学療法士の朝田さんが声をかけ近くに寄る。
「翠葉ちゃん、今日は許可が出たの?」
「はい、ちゃんと許可もらってきました。マット、お借りしてもいいですか?」
「いいわよ。無理はしないようにね?」
それだけの会話で朝田さんは違う患者のもとへと移動した。
どうやら、補助が必要なリハビリではないらしい。
そのままなんとなく目で追っていると、マットの上でストレッチを始めた。
うわ、身体柔らけー……。
あっさりと開脚をした。そして、のべーっと身体をマットに倒す。
自分も身体は柔らかいほうだと自負しているけど、あれには負ける。
「おい、明。そんなにじろじろ見てると怪しいから止めろよっ」
省吾さんに小突かれる。
「ま、見惚れるのはわかるけどよ~。しょせん目の保養だよな」
太郎は俺の影から不審者全開で彼女を見ていた。
俺はそのまま自分のリハビリに戻ったけど、どこかで見たことがある気がして、どこでだったかを必死に思い出そうとしていた。
集中してリハビリをすることもできず、ひたすら頭の中をひっくり返す。
どこかですれ違ったと思うんだけど……。
時期的にもそんなに前の話じゃない。
今年だったと思うんだよなぁ……。
その日のリハビリをこなすと、
「じゃ、俺帰るわ」
と、廊下に出た。
いつもと同じように、表玄関ではなく救急外来の搬出口へと向かう。
本当はいけないんだけど、こっちの方がバスの停留所が近くて。
そのとき、救急車が着いてストレッチャーで運ばれてきた人がいた。すぐに壁際へ身を寄せる。と――
「……思い出した」
そうだ、俺が退院するときに運び込まれてきた子。
すっごい真っ青で今日見た印象とはずいぶん違ったし、酸素マスクしてたから顔の半分は見えなかったんだ。
え……? ちょっと待てよ?
俺が退院したのは三月二十六日だろ? ……ってことはあれからずっと入院してるってことか? 早一ヶ月半?
太郎が循環器って言ってたけど、どこが悪いんだろう?
ま、俺には関係ないか……。
とりあえず思い出せてすっきりしたので良しとした。
それからも俺は一週間に一度病院に通っていた。
術後の経過もいいし、陸上の練習も再開している。
けれど気になることがあった。
彼女だ……。
もう七月だというのに、未だに院内で見かける。
ごくたまに、リハビリルームで見かけることもあるし、点滴をしながら車椅子を押されているのも見たことがある。
かと思えば、中庭で小さいハープ弾いてたり。
すごい意味不明だった。
だけど、楽器を持つ姿は様になってたし、音も柔らかくてきれいな音だった。
病院に来ると彼女を探す癖がついてしまった。
ま、探したところで見かけることのほうが少ないんだけど。
その日、中庭でパンをかじっていてふと顔を上げたら彼女がいた。
いた、と言っても東棟三階。
あ、マジで東棟の三階だった……。
たぶんだけど、泣いていたと思う。
誰かに呼ばれたのか、パジャマの袖で涙を拭うと部屋の中を振り向いた。
その彼女の隣に背の高い、確かに格好良さ気な男が立っている。
彼女が泣いていたことに気づいたのか、彼女を抱きしめ宥めているようだ。
あぁ、確かに……。あれは省吾さんも太郎も声かけらんねーわ……。
すると奥からもうひとり。親かな? って思うような女の人が現れて、男と彼女の背中をポンポンと叩いた。
「なんだ、親公認じゃん」
シルエットのみではあるものの、とても様になるふたりを一階中庭から眺めていた。
あれ? 俺、何してるんだ……?
これって単なる覗きじゃねーの?
そう思った途端に恥ずかしくなって、周りをキョロキョロ見て誰もいないことを確認すると、足早にその場を立ち去った。
こうやって、彼女の記憶は断片ばかりが溜まっていった。
十一月に入ると彼女を全く見かけなくなった。
退院したかな?
そりゃ、あれだけ長く入院してたんだ。そろそろ退院しててもおかしくないだろう。むしろ。遅いくらい……。
……まさか、亡くなってたりしないよな。
なんだか変なことを考えてしまう。
自分の治療もほとんど終わって月一で通院してくるだけになった。
今は来年の高校受験に向けて勉強が追い込みで忙しい。
俺は来年、憧れの人が通っていた高校に行く。
いや、まだ受験してもいないから行く予定。
スプリンターの御園生蒼樹さん――あなたが俺の目標です。
俺の受ける高校は少し変わっていた。
自分は陸上の特待枠で受けるわけだけだから、一般に言うところの推薦入試ってやつだ。
けれど、この学校は推薦入試と一般入試の日が一緒である。
試験を受ける教室も同じ。
上限二十人という枠だけど、受験者は一〇〇人に届かないらしい。
かなり有名な進学校ではあるものの、レベルが高すぎてチャレンジする人はいても一〇〇人前後というのが毎年のことなのだとか……。
因みに、特待枠でも学力レベルが満たなければ受からないというシビアな学校。
一月の中旬、ひとりブラブラと願書を出しに行った。
ほかの高校は、受ける人間が一団となって願書を提出しに行くが、ここを受けるのは俺の学校で俺ひとり。よって、願書もひとりで出しに行く。
広い敷地内を十分ほど歩くと、職員棟らしき建物が見えてきた。
入り口を入って窓口を見たとき、正直目を疑った。
彼女が立っていた。
「よろしくお願いします」
と、封筒から願書を取り出し渡すところをバッチリ見た。
すれ違うとき、なんともない振りをしたけれど、内心はすごく驚いていた。
心臓がバクバクいう中、自分も願書を窓口の人に渡す。と、前に出されたであろう願書が見えてしまった。
見えてしまったのは一瞬で、一部しか見ることはできなかった。
でも、見えた部分に違和感を覚えた。
なんでなのかをすぐに考える。
名前の下に見えたのは生年月日――自分と同じ生まれ年ではない。
俺が早生まれだからとかそういう問題じゃなくて、物理的に一学年上……。
留年、したんだ……。
すぐに謎は解けた。
それはそうか……。
去年の三月二十六日に運びこまれて、少なくとも俺は彼女が十月頭までは病院にいたことを知っている。
……留年、したんだ。
でも、死んでなくて良かったと思った。
なんでかな……。病院で泣き顔を見てしまったからだろうか。
退院できて良かったな、って思った。思わず追いかけて声をかけそうになるくらい。
外に出た彼女は背の高い男と並んで歩いている。
もしかしたら、あのとき病室にいた男かもしれない。
手をつないで、どこかふわふわと歩く彼女。それをつなぎとめておこうとしているように見える男。
お互い、入学が決まったら話す機会はあるのかな?
入学するには、まずその前の試験を勝ち抜かなくちゃいけないし、入学が決まったとしても同じクラスになる確率は七分の一。
そう思っていたのに――
このクラスの窓際には窓の外をぼーっと眺めている彼女がいる。
自己紹介のときはひどいうろたえぶりだった。
前の席のやつに何か言われたのか、そのあとはスラスラと話し始めたものの、声はどんどん小さくなる始末。
年上には全然見えない。
思わず笑みが零れる。
話しかけたいなとは思ったけど、どうやらホームルームが終わったら早々に職員室へ行かなくてはいけないらしい。
彼女はクラスメイトに囲まれてきょとんとしている。
まぁ、いいや。一年間は同じクラスだし、話す機会もあるだろう。
けど、安心して。
君がひとつ年上なことも、入院していたことも、誰にも言うつもりはないから。
1
お気に入りに追加
355
あなたにおすすめの小説
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
家政婦さんは同級生のメイド女子高生
coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる