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第一章 友達
11話
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桃華さんはすでに教室に戻ってきていて、窓際の席でひとつ机を挟んだ藤宮くんと話をしていた。
私と飛鳥さんに気づくなり、
「くっ……」
海斗くんに笑われた。
私は意味もわからず席に着く。
「それ、きれいだけど取ったほうがよくね?」
「そうね、若干取るのがもったいない気もするけれど」
桃華さんにも笑われ、いったいなんのことだろうと思う。
「わぁ……私全然気づかなかった。ごめん」
そう言うと、飛鳥さんの手が私の頭上に伸びてきた。
そうして指でつまんだものを見せられる。
「花びら……?」
三人の視線は私の目ではなく頭に注がれていた。
まさか、という思いで頭を左右に振ると、いくつかの花びらが机に落ちた。
「え……こんなについているの?」
言うとさらに笑われる。
「取ってやるからちょっとおとなしくしてろよ」
藤宮くんに言われ、そのあとは飛鳥さんと桃華さんと三人がかりで髪にからんだ桜の花びらを除去してくれた。
最後の花びらを取り終えると、
「きれいな髪の毛ね? ダメージもなければ癖のひとつもないなんて、羨ましい」
「でも、桃華さんも黒髪ストレートで傷み知らずって感じに見えるよ?」
「私? 私は毎日アイロン使わないとこうは真っ直ぐになってくれないわ。実際は少し髪の毛にうねりがあるの」
その言葉にびっくりする。とても癖っ毛のようには見えなかったから。
「ねぇ、カラーは?」
飛鳥ちゃんに訊かれて首を振る。
「カラーリングもしてないよ?」
生まれてこの方、美容院ではカットとトリートメントしかしてもらったことがない。
何をそんなに訊かれるのか、と思っていると、
「縮毛強制もカラーリングもしてなくてこれは羨ましいわ……」
桃華さんが嘆息する。さらには指先に髪を巻きつけて遊びだす。
「本当、羨ましいっ。私、癖っ毛伸ばすのにドライヤー使いすぎでダメージ受けまくりだよ~」
隣の席の飛鳥さんからも手が伸びてきて、桃華さんと同じように髪を指に絡め始めた。
私の髪の毛は腰までのロングヘア。色は、色素が少し薄いらしく、純粋な黒ではない。かといって、茶色というわけでもなく――この色はなんと言うのだろうか。
「翠葉ってさ……」
突如、前の席の藤宮くんに目をじっと見られて恥ずかしくなる。
けれど、じっと見られることで気づいたことがひとつ。
藤宮くんの目、黒じゃなくて褐色だ……。
しばし見つめあうと、
「瞳の色も明るいよね? 茶色じゃなくて黒が薄い感じ」
そう言われて、あぁ、と少し納得した。
私の髪の色は黒を薄くしたような色なのだ。まるで墨汁を少し薄めた感じというか……。
後ろの席の桃華さんが回りこんで私の目を見る。
「あら、本当……。髪の毛はアッシュカラーね。灰色とまではいかないけれど、日本人には珍しい色よ? 黒い髪の毛の人がこういう色にするには一度脱色してからじゃないと再現できないって何かの本で読んだことがあるわ。しかも、その色のキープはできないそうよ。だいたい、すぐに抜けちゃうんですって」
……そうなんだ。
「あぁ、なるほど。灰色って言われるとしっくりくる」
最後には藤宮くんの手も伸びてきて髪の毛を手に取るとまじまじと見つめられた。
現在、私の髪の毛は三方向に伸びているわけだけど、そんな状況はチャイムの音と共に終わりを告げ、先生が来るまでの五分間は部活の話へと変わる。
「翠葉はどうするの?」
部活一覧表を広げていると、飛鳥さんから声をかけられた。
「まだ悩んでる。飛鳥さんと藤宮くんはテニス部だよね?」
「「うん」」
「桃華さんは?」
普通に尋ねたつもりだった。けれど、
「かたいっ」
飛鳥さんによって話を中断され、首を捻る。
かたいって……なんのことだろう?
「確かにかたいわね」
後ろから桃華さんにも言われる。
「かたい」という言葉は漢字に変換する際、三つほど候補に挙がる。けれど、それのどれが適応されるのか……。
そんなことを考えていると、
「私の名前は?」
「桃華さん……?」
「それよ」
言いながら桃華さんが笑う。
それ……? それって、どれ?
「くっ、まだ意味わかんないみたい」
藤宮くんがおかしそうに笑う。
「だーかーらっ! 名前っ」
飛鳥さんに答えらしきものをいただいたけれど、
「あの、ごめんなさい。名前、間違えて覚えてた?」
実は飛鳥さんだと思っていたほうが桃華さん? でも、そんなわけは……。
クラス名簿を取り出したけれど、とくだん名前を間違っているわけではなさそうだ。
そんな私の行動を見てか、呆れたようなため息をつかれる。
「翠葉、違うわよ。名前自体を間違えてるわけじゃないわ」
桃華さんは続けて、
「呼び方、敬称のこと」
と教えてくれた。
「確かに、『さん』付けで呼ばれるとちょっと硬いよな。桃華さんはありでも、飛鳥さんはないわ」
藤宮くんがカラカラと笑う。
「そうなのっ! 海斗に言われるのはなんだか癪だけど、『さん』付けで呼ばれると、なんか自分が呼ばれてる気がしないっていうか……むず痒くて。だから、翠葉、『さん』はやめて? せめて『ちゃん』か呼び捨てにして」
「私は桃華さんでも桃華でもどっちでもいいわよ?」
「俺は下の名前のほうがいいと思う。苗字なんかで呼ぼうものなら俺じゃない人間が振り向きかねないから」
「……あ、藤宮先輩や藤宮先生がいるから?」
思い当たったことを口にしてみると、驚いた顔がふたつ。
藤宮くんと飛鳥さ……ちゃんだ。
「もう司と会ったの? 先生ってどれ?」
藤宮くんに訊かれ、疑問が浮かび上がる。
「え……? どれって――藤宮くんのお兄さんって仰ってたけど……」
「なんだ、もう藤宮の人間三人制覇? 昨日の今日で早っ!」
制覇しようと思ってしたわけではなく、たまたま会ってしまっただけなのだけど……。
「翠葉っ、秋斗先生に会ったのー!? ちょっとずるいっ!」
「あ、ごめんね?」
条件反射で謝ると、
「謝る必要はないけどさ」
と、飛鳥ちゃんに笑われた。
「私、秋斗先生のファンなのっ! 秋斗先生に会えるなら先輩にどんなにこき使われようとかまわないのにぃ……。生徒会の門戸は狭いのよぅ」
ぷぅ、と飛鳥ちゃんが頬を膨らませた。
納得。飛鳥ちゃんが生徒会入りしたいのは司書先生目当てだったんだ。
少し呆気に取られつつ、気になることがひとつ。
「藤宮の人間三人制覇って……ほかには藤宮先輩のお姉さんがいらっしゃるって聞いたけれど……」
ほかにもいるのだろうか。
「あぁ、湊ちゃんね。湊ちゃん以外にもあと三人いるんだ」
なぜ……。どうしてそんなに親戚がうじゃうじゃいるのだろうか。
思わず頭を抱えたくなる。すると、
「……まさかと思うけど、翠葉、知らないの? 藤宮学園って藤宮グループの傘下よ?」
桃華さんに言われてびっくりした。
藤宮グループとは国内有数の財閥で、このあたりでは王様みたいな会社である。
「同族経営だからね。藤宮の姓をもつ先生も多いんだ。もちろん苗字が違っても分家筋だったり、遠縁だったり色々」
と、藤宮くんが補足する。
「藤宮くんは御曹司なの?」
不意に口をついた言葉。
「まぁね。御曹司ったら御曹司かな。でも、そんな大したものじゃないし、見る目変えるとか、そういうのはやめて?」
そうは言われても……。
「なんだか、別世界」
「んー、でも、俺には関係ないよ。家は家、俺は俺」
それはそうなのかもしれない。
家や親の仕事なんて子どもには何も関係ない。けど、そういう目で見てもらえないことも多いはず。
どうしたらこんなに真っ直ぐな人でいられるのだろう。この、真っ直ぐで芯の強そうな目に少し憧れる。
「そんなわけで、俺のことは苗字で呼ばないほうがいいよ。海斗でいいから。あ、海斗さんはやめて? 飛鳥じゃねーけどやっぱ自分じゃないみたいで気持ち悪い」
そう言うと、辟易とした顔を見せた。
「うん、海斗くんって呼ばせてもらうね。で、飛鳥さんは飛鳥ちゃん。……と、桃華さんは……桃華さんのままでもいいかな? なんだかそれがとてもしっくりくるの」
言うと、三人とも満足そうに笑ってくれた。
放課後になれば、私はまたしても部活一覧表と睨めっこをする羽目になる。
海斗くんと飛鳥ちゃんはテニス部。桃華さんは華道部と茶道部の掛け持ちとのこと。
私は――
「着付けが好きってことは、翠葉は着物が好き?」
「あ、そう。お着物が好きなの」
「じゃ、うちの部に来れば着物着たい放題よ?」
桃華さんが誘ってくれたのは茶道部と華道部。
どちらも身だしなみの一環として、着物を着て活動するらしい。
確かに着物は好きだし、お茶もお花も大好きだ。
でも、お花は自然に育っているものが好きだから、いけ花とは少し違う気がする。
「茶道には興味があるかも……。あと気になるのは写真部と和筝部かな」
「あら、三つとも週一でしか活動してないじゃない」
さらっと言われた。
プリントに記されている活動日をチェックすると、茶道が火曜日、写真部が金曜日、和筝部は水曜日だった。
確かに掛け持ちは可能だけれど……。
「うーん……」
水曜日は病院が入っているから和筝部は自然と却下される。
「ま、今月末までは悩めるわけだから、とりあえず、茶道部に来てみない? 案内するわよ。なんだったら和筝部も写真部も。私、顔だけは広いの」
桃華さんは、ふふ、と軽やかに笑った。
「でも……桃華さん自分の部活はいいの?」
「今日は火曜日だからもともと茶道部活動の日、華道部は月曜日だからほかの曜日は空いているの。だから気にすることないわ」
「じゃ、お願いしようかな……」
「任せなさい!」
私たちは行き先が決まると手早く支度を済ませ、教室をあとにした。
桃華さんはよく笑う。怖い笑顔に不適な笑み、優しさが溢れる笑顔。さらにはお腹の底から笑う笑顔。笑顔がとてもよく似合う。どんな笑顔でも嘘がないっていうか……。
使い分けこそしているものの、嘘や嘲笑が含まれない笑顔。
そのうえ、よく気がつくし優しくて頼れるお姉さんみたい。
自分が男子だったら好きになるだろうな、と思うほどに魅力的な女の子。
けれど、私はどこまで信用してどこまで好きになっていいのかに悩む……。
自分が傷つかずにいられる位置をキープしたい。
もう、信じて裏切られるのは嫌――
私と飛鳥さんに気づくなり、
「くっ……」
海斗くんに笑われた。
私は意味もわからず席に着く。
「それ、きれいだけど取ったほうがよくね?」
「そうね、若干取るのがもったいない気もするけれど」
桃華さんにも笑われ、いったいなんのことだろうと思う。
「わぁ……私全然気づかなかった。ごめん」
そう言うと、飛鳥さんの手が私の頭上に伸びてきた。
そうして指でつまんだものを見せられる。
「花びら……?」
三人の視線は私の目ではなく頭に注がれていた。
まさか、という思いで頭を左右に振ると、いくつかの花びらが机に落ちた。
「え……こんなについているの?」
言うとさらに笑われる。
「取ってやるからちょっとおとなしくしてろよ」
藤宮くんに言われ、そのあとは飛鳥さんと桃華さんと三人がかりで髪にからんだ桜の花びらを除去してくれた。
最後の花びらを取り終えると、
「きれいな髪の毛ね? ダメージもなければ癖のひとつもないなんて、羨ましい」
「でも、桃華さんも黒髪ストレートで傷み知らずって感じに見えるよ?」
「私? 私は毎日アイロン使わないとこうは真っ直ぐになってくれないわ。実際は少し髪の毛にうねりがあるの」
その言葉にびっくりする。とても癖っ毛のようには見えなかったから。
「ねぇ、カラーは?」
飛鳥ちゃんに訊かれて首を振る。
「カラーリングもしてないよ?」
生まれてこの方、美容院ではカットとトリートメントしかしてもらったことがない。
何をそんなに訊かれるのか、と思っていると、
「縮毛強制もカラーリングもしてなくてこれは羨ましいわ……」
桃華さんが嘆息する。さらには指先に髪を巻きつけて遊びだす。
「本当、羨ましいっ。私、癖っ毛伸ばすのにドライヤー使いすぎでダメージ受けまくりだよ~」
隣の席の飛鳥さんからも手が伸びてきて、桃華さんと同じように髪を指に絡め始めた。
私の髪の毛は腰までのロングヘア。色は、色素が少し薄いらしく、純粋な黒ではない。かといって、茶色というわけでもなく――この色はなんと言うのだろうか。
「翠葉ってさ……」
突如、前の席の藤宮くんに目をじっと見られて恥ずかしくなる。
けれど、じっと見られることで気づいたことがひとつ。
藤宮くんの目、黒じゃなくて褐色だ……。
しばし見つめあうと、
「瞳の色も明るいよね? 茶色じゃなくて黒が薄い感じ」
そう言われて、あぁ、と少し納得した。
私の髪の色は黒を薄くしたような色なのだ。まるで墨汁を少し薄めた感じというか……。
後ろの席の桃華さんが回りこんで私の目を見る。
「あら、本当……。髪の毛はアッシュカラーね。灰色とまではいかないけれど、日本人には珍しい色よ? 黒い髪の毛の人がこういう色にするには一度脱色してからじゃないと再現できないって何かの本で読んだことがあるわ。しかも、その色のキープはできないそうよ。だいたい、すぐに抜けちゃうんですって」
……そうなんだ。
「あぁ、なるほど。灰色って言われるとしっくりくる」
最後には藤宮くんの手も伸びてきて髪の毛を手に取るとまじまじと見つめられた。
現在、私の髪の毛は三方向に伸びているわけだけど、そんな状況はチャイムの音と共に終わりを告げ、先生が来るまでの五分間は部活の話へと変わる。
「翠葉はどうするの?」
部活一覧表を広げていると、飛鳥さんから声をかけられた。
「まだ悩んでる。飛鳥さんと藤宮くんはテニス部だよね?」
「「うん」」
「桃華さんは?」
普通に尋ねたつもりだった。けれど、
「かたいっ」
飛鳥さんによって話を中断され、首を捻る。
かたいって……なんのことだろう?
「確かにかたいわね」
後ろから桃華さんにも言われる。
「かたい」という言葉は漢字に変換する際、三つほど候補に挙がる。けれど、それのどれが適応されるのか……。
そんなことを考えていると、
「私の名前は?」
「桃華さん……?」
「それよ」
言いながら桃華さんが笑う。
それ……? それって、どれ?
「くっ、まだ意味わかんないみたい」
藤宮くんがおかしそうに笑う。
「だーかーらっ! 名前っ」
飛鳥さんに答えらしきものをいただいたけれど、
「あの、ごめんなさい。名前、間違えて覚えてた?」
実は飛鳥さんだと思っていたほうが桃華さん? でも、そんなわけは……。
クラス名簿を取り出したけれど、とくだん名前を間違っているわけではなさそうだ。
そんな私の行動を見てか、呆れたようなため息をつかれる。
「翠葉、違うわよ。名前自体を間違えてるわけじゃないわ」
桃華さんは続けて、
「呼び方、敬称のこと」
と教えてくれた。
「確かに、『さん』付けで呼ばれるとちょっと硬いよな。桃華さんはありでも、飛鳥さんはないわ」
藤宮くんがカラカラと笑う。
「そうなのっ! 海斗に言われるのはなんだか癪だけど、『さん』付けで呼ばれると、なんか自分が呼ばれてる気がしないっていうか……むず痒くて。だから、翠葉、『さん』はやめて? せめて『ちゃん』か呼び捨てにして」
「私は桃華さんでも桃華でもどっちでもいいわよ?」
「俺は下の名前のほうがいいと思う。苗字なんかで呼ぼうものなら俺じゃない人間が振り向きかねないから」
「……あ、藤宮先輩や藤宮先生がいるから?」
思い当たったことを口にしてみると、驚いた顔がふたつ。
藤宮くんと飛鳥さ……ちゃんだ。
「もう司と会ったの? 先生ってどれ?」
藤宮くんに訊かれ、疑問が浮かび上がる。
「え……? どれって――藤宮くんのお兄さんって仰ってたけど……」
「なんだ、もう藤宮の人間三人制覇? 昨日の今日で早っ!」
制覇しようと思ってしたわけではなく、たまたま会ってしまっただけなのだけど……。
「翠葉っ、秋斗先生に会ったのー!? ちょっとずるいっ!」
「あ、ごめんね?」
条件反射で謝ると、
「謝る必要はないけどさ」
と、飛鳥ちゃんに笑われた。
「私、秋斗先生のファンなのっ! 秋斗先生に会えるなら先輩にどんなにこき使われようとかまわないのにぃ……。生徒会の門戸は狭いのよぅ」
ぷぅ、と飛鳥ちゃんが頬を膨らませた。
納得。飛鳥ちゃんが生徒会入りしたいのは司書先生目当てだったんだ。
少し呆気に取られつつ、気になることがひとつ。
「藤宮の人間三人制覇って……ほかには藤宮先輩のお姉さんがいらっしゃるって聞いたけれど……」
ほかにもいるのだろうか。
「あぁ、湊ちゃんね。湊ちゃん以外にもあと三人いるんだ」
なぜ……。どうしてそんなに親戚がうじゃうじゃいるのだろうか。
思わず頭を抱えたくなる。すると、
「……まさかと思うけど、翠葉、知らないの? 藤宮学園って藤宮グループの傘下よ?」
桃華さんに言われてびっくりした。
藤宮グループとは国内有数の財閥で、このあたりでは王様みたいな会社である。
「同族経営だからね。藤宮の姓をもつ先生も多いんだ。もちろん苗字が違っても分家筋だったり、遠縁だったり色々」
と、藤宮くんが補足する。
「藤宮くんは御曹司なの?」
不意に口をついた言葉。
「まぁね。御曹司ったら御曹司かな。でも、そんな大したものじゃないし、見る目変えるとか、そういうのはやめて?」
そうは言われても……。
「なんだか、別世界」
「んー、でも、俺には関係ないよ。家は家、俺は俺」
それはそうなのかもしれない。
家や親の仕事なんて子どもには何も関係ない。けど、そういう目で見てもらえないことも多いはず。
どうしたらこんなに真っ直ぐな人でいられるのだろう。この、真っ直ぐで芯の強そうな目に少し憧れる。
「そんなわけで、俺のことは苗字で呼ばないほうがいいよ。海斗でいいから。あ、海斗さんはやめて? 飛鳥じゃねーけどやっぱ自分じゃないみたいで気持ち悪い」
そう言うと、辟易とした顔を見せた。
「うん、海斗くんって呼ばせてもらうね。で、飛鳥さんは飛鳥ちゃん。……と、桃華さんは……桃華さんのままでもいいかな? なんだかそれがとてもしっくりくるの」
言うと、三人とも満足そうに笑ってくれた。
放課後になれば、私はまたしても部活一覧表と睨めっこをする羽目になる。
海斗くんと飛鳥ちゃんはテニス部。桃華さんは華道部と茶道部の掛け持ちとのこと。
私は――
「着付けが好きってことは、翠葉は着物が好き?」
「あ、そう。お着物が好きなの」
「じゃ、うちの部に来れば着物着たい放題よ?」
桃華さんが誘ってくれたのは茶道部と華道部。
どちらも身だしなみの一環として、着物を着て活動するらしい。
確かに着物は好きだし、お茶もお花も大好きだ。
でも、お花は自然に育っているものが好きだから、いけ花とは少し違う気がする。
「茶道には興味があるかも……。あと気になるのは写真部と和筝部かな」
「あら、三つとも週一でしか活動してないじゃない」
さらっと言われた。
プリントに記されている活動日をチェックすると、茶道が火曜日、写真部が金曜日、和筝部は水曜日だった。
確かに掛け持ちは可能だけれど……。
「うーん……」
水曜日は病院が入っているから和筝部は自然と却下される。
「ま、今月末までは悩めるわけだから、とりあえず、茶道部に来てみない? 案内するわよ。なんだったら和筝部も写真部も。私、顔だけは広いの」
桃華さんは、ふふ、と軽やかに笑った。
「でも……桃華さん自分の部活はいいの?」
「今日は火曜日だからもともと茶道部活動の日、華道部は月曜日だからほかの曜日は空いているの。だから気にすることないわ」
「じゃ、お願いしようかな……」
「任せなさい!」
私たちは行き先が決まると手早く支度を済ませ、教室をあとにした。
桃華さんはよく笑う。怖い笑顔に不適な笑み、優しさが溢れる笑顔。さらにはお腹の底から笑う笑顔。笑顔がとてもよく似合う。どんな笑顔でも嘘がないっていうか……。
使い分けこそしているものの、嘘や嘲笑が含まれない笑顔。
そのうえ、よく気がつくし優しくて頼れるお姉さんみたい。
自分が男子だったら好きになるだろうな、と思うほどに魅力的な女の子。
けれど、私はどこまで信用してどこまで好きになっていいのかに悩む……。
自分が傷つかずにいられる位置をキープしたい。
もう、信じて裏切られるのは嫌――
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