光のもとで2

葉野りるは

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December

もうひとつのクリスマス Side 慧 05話

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 弓弦が運んできた軽食を摂りながらも、俺の意識は翠葉の左手薬指に掻っ攫われていた。
 我慢しきれなくなった俺は、
「翠葉、ひとつ質問!」
 右手を挙げて声をかけると、翠葉は驚きに身を引いた。
「な、なんだろう?」
「その……左手の指輪って?」
「えっ? あっ――」
 翠葉は途端に顔を真っ赤に染め上げた。
「あ、あの――」
 翠葉は右手で左手の指を隠しながら、
「昨日、好きな人からいただいて……」
 小さく答えたそれがかわいすぎて困った。
 俺にとって全然嬉しい回答じゃないのに、かわいすぎんだろこのやろー。
 どこから突っ込んでやろうかと考えていると弓弦が、
「好きな人って、もしかして司くん?」
 翠葉はコクリと頷いた。
 俺も腹を括って質問を繰り出す。
「ツカサって彼氏?」
 またしても翠葉はコクリと頷いた。
 あーあーあー……そうだよなぁ、これだけかわいけりゃ彼氏のひとりやふたりいてもおかしくないよなぁ……。でも、こんなに顔を真っ赤にして「好きな人」と言われる男が羨ましくて仕方ない。
 いったいどんな男なのだろう。
「どんなやつ? 写真とかねーの?」
 自分の心に塩を塗ったくる思いで尋ねると、昨日撮ってもらったという写真を見せてくれた。
 スマホのディスプレイにはピンクのドレスを着た翠葉と、タキシードを着たイケメンが写ってるわけで……。
 何これ、なんでこんなイケメンなんだよ。つか、なんだよ。翠葉の周りにゃイケメンしかいないのかっ!?
 思い切り悪態をつきたくなる。
 でも、写真に写る翠葉はものすごくかわいくて、幸せそうで、カメラ目線ではないその目が見ているのは、ツカサという男に握られている左手だった。
 何これ。超好きって感じじゃん。
 あーーー、くそっ! やってられんっ。
「あの、素朴な疑問なんですが、普通彼氏にもらった指輪って右手につけるものじゃないんですか?」
 弓弦が一歩踏み込んだ質問を口にした。すると、
「あの……婚約するまではこれをつけててって……」
 言うと、翠葉は蒸発してしまうんじゃないかと思うほど、さらに顔を赤く染め上げた。
 今にも頭から湯気が出てきそうだし、首や肩までピンクになっちゃうってどんだけ……。
 それにしても、「婚約するまでは」とか言えちゃう男が信じらんねぇっ!
 まだ高校生だろっ!? 婚約って何年先の話だよっ!
 そりゃ、これだけかわいけりゃ縛りたい気持ちもわかるけど、周りにいる男のことも考えやがれっ! ――って、俺がツカサってやつでも同等の牽制をしてしまいそうだ……。
 そこまで考えて腑に落ちる。
 そうか……つまり俺は、遠隔的手法により牽制されているのか、と。
 そんな話をしているところへ衣笠さんがやってきた。
「翠葉お嬢様、城井様がお帰りになられるそうです」
「ありがとうございます。今行きます。先生、慧くん、今日はありがとうございました。演奏、とってもすてきでした。私も練習がんばります! それと慧くん、まだスコアに手をつけられていないの。でも、冬休みに入ったから書く時間取れるので、渡すのは来年でもいい?」
「問題ない」
「じゃ、今日はこれで失礼します。本当にありがとうございました」
 翠葉はペコリと頭を下げ、衣笠さんと一緒に部屋を出た。

「あーあ、やっぱ彼氏だったかぁ……」
「残念だったね。で? ここで諦めるの?」
「んー……なんつーか、彼氏がいたってわかってショックなんだけど、じゃあ諦めようっていう選択肢が一向に現れないんだよな。むしろ、どんなやつなのか気になるくらい」
「あはは、確かに。写真まで見せてもらうとは思わなかったよ」
 弓弦はひたすら面白そうにクスクスと笑っている。そして、不敵に笑みを深めると、
「じゃ、次は実物を見に行ってみたらどう?」
「え?」
 どういうこと……?
「御園生さんのオリジナルスコアをもらうって口実があるでしょう?」
「あっ、そっか! スコアができたら俺がもらいに行けばいいのか!」
「僕のレッスンのときに来れば、漏れなく司くんと会えるよ」
「よしっ! 次はどんなやつなのか拝んでやるっ!」
 俺たちもその場をお開きにし、弓弦はパーティー会場へ戻り、俺は自室へと引っ込んだ。
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