光のもとで2

葉野りるは

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December

それぞれのクリスマス Side 桃華 01話

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「さて、皆さんお待ちかねのダンスタイムです! カントリーダンスとワルツを順繰りに流しますので、連れてきたパートナーと踊るもよし!  会場で見つけた気になる人を誘うもよし! 締めにはチークタイムもありますので、皆さんそれぞれお楽しみください! さ、栄えあるファーストワルツを踊るペアは~?」
 周囲の視線が翠葉たちへ集まる中、私は壁際へ下がろうと一歩を踏み出した。
 今日も壁の花ね……。
 せっかくお気に入りのドレスを着てきたのだから、できることなら蒼樹さんとワルツを踊りたい。
 でも、今日は裏方と言っていただけのことはあり、蒼樹さんは給仕に専念している。
 自分のドレス姿をきちんと見てもらえたのかすら怪しい。
 ふぅ、とため息をついたそのとき、
「我らが女帝、簾条桃華嬢と御園生翠葉嬢の兄、御園生蒼樹さんですっ! はい、拍手ーーー!」
 え? ……私と翠葉と蒼樹さんが何?
 会場を振り返ると、数メートル先に蒼樹さんの姿があった。
 ついさっきまでフロックコートを着ていたのに、今はタキシードに身を包んでいる。
 どうして……?
 真っ直ぐ私のもとへ歩いてきた蒼樹さんは、優雅に手を差し出した。
「一曲お相手願えますか?」
 驚いた私はその手を見つめることしかできない。
 すると、
「桃華、手を取って」
 蒼樹さんに促され、ゆっくりと右手を乗せる。と、実に紳士的なエスコートでフロア中央へ連れ出されていた。
 これは夢だろうか。都合のいい夢を見ているのだろうか。
 それにしては蒼樹さんに触れている部分から伝ってくる熱が生々しい。
 ドキドキしたまま一曲を踊り終えると、蒼樹さんは翠葉と飛鳥のもとへ向かった。
 ふたりはにこにこと笑って私を待ち受けている。そして、
「桃華さん、クリスマスプレゼントは気に入ってくれた?」
 期待に満ちた目で訊いてきたのは翠葉。隣に立つ飛鳥も同じような視線を向けてくる。
 我に返った私は、
「前もって教えてよっ!」
 照れ隠しにそんな言葉を返していた。
 けれど、ふたりは顔を見合わせ声を揃える。
「「プレゼントはサプライズであるべき!」」
 それは私の常套手段。
 やられた――でも、嬉しい……。
「ありがとうっ」
 私は勢いをつけてふたりに抱きついた。

 蒼樹さんと踊れるのはファーストワルツだけかと思っていたけれど、ダンスタイムはずっとそばにいてくれて、ワルツのたびにフロアへ連れ出してくれた。
 後夜祭のワルツを先輩に誘われて踊ったことは何度かあるけれど、好きな人と踊るのは初めて。
 好きな人とのダンスって、こんなにもふわふわとした気持ちになるのね……。
 流れてくる音楽すらいつもとは違って耳に届くし、見える景色すべてが彩りを増す。
 夢見心地でいるうちに最後のワルツが終わってしまった。
「このあとはどうする?」
 このあと――あ、チークダンス……?
 チークダンスは正真正銘の「初めて」だ。
 踊りたい気持ちは多分にある。でも、人前で身を寄せるのは恥ずかしい気がしなくもない。でも、この機会を逃したら次はいつこんな機会が訪れるのかわからない。
「……踊りたいです」
 勇気を出して答えると、「了解」という言葉とともに、そっと抱きしめられた。
 その密着具合に反応した身体がどんどん熱を上げていく。
 今までデートのときに何度か抱きしめられたことはあるけれど、こんなに長時間抱きしめられていたことはなくて、鼓動の駆け足がひどくて軽くパニックだ。
 それなのに、蒼樹さんの体温は心地よく感じる。
 そっと蒼樹さんを見上げると、優しい眼差しがこちらを向いていた。
 嬉しいのに恥ずかしくて、視線を逸らしてしまう。すると、
「チークダンスは初めて?」
 小さな声で尋ねられた。
「初めて、です」
「そっか。なんか嬉しいな」
 言うと、少し力をこめて抱きしめられる。
 愚問だと思いながら、「蒼樹さんは?」と尋ねる。
「チークダンス自体は初めてじゃないけど、こんなに好きな子と踊るのは初めてだよ」
 その答えはなんだかずるい……。
 そうは思うのに、嬉しい気持ちが大きすぎて何も言えなかった。

 クリスマスパーティーが終わると、女子たちは名残惜しそうにドレスから洋服へと着替える。
 どこぞの令嬢であっても、フルレングスのドレスを着る機会はそうないのだろう。
 そもそも、後夜祭のために仕立てる女子も少なくはないと言うのに、後夜祭でしか着る機会がないというのはいかがなものか。これは男子も同じだろう。
 何か生徒会でイベントを立ち上げるべきね。
 私は生徒会タスクにメモを追加して、今日のために用意したワンピースに袖を通した。
 今日はボルドーのシフォンワンピースに、黒いタイツを合わせている。アクセサリーはコットンパールのロングネックレス。
 クリスマスを意識した色味で、小物もシンプルにしたつもりだけど、少しは大人っぽく見えるだろうか……。
 少しの不安を抱えて更衣室を出ると、未だドレス姿の翠葉が待ってくれていた。
「桃華さん、きれいっ! ドレス姿もすてきだったけど、ドレスとは違って少しおとなっぽい感じね」
「似合ってる……?」
「とっても!」
 翠葉が嘘をつくことはない。そう思うと、少しほっとした。
 そういえば、翠葉もカラオケには行かずに藤宮司と過ごすのよね……。
「翠葉は明日何か予定があるの? それとも、藤宮司に用事があるとか?」
 何気なく質問すると、
「どうして?」
 きょとんとした顔がこちらを向く。
「だって、明日藤宮司と会えないから、今日一緒に過ごすんじゃないの?」
 それとも、今日も明日も一緒に過ごすのだろうか。
 そんなふうに考えた私は多いに予測を外す。
「あ……実は私に予定があって」
 彼氏を優先できない予定といったら――
「レッスンか何か?」
「ううん」
 翠葉はにこりと笑って、
「おじいちゃんと一緒に、おじいちゃんのお友達のおうちのパーティーにお呼ばれしているの」
「それ、断われなかったの?」
「え……どうして?」
 それはそれは不思議そうな顔がこちらを向く。
「だって、彼氏がいるのにイブにおじい様との予定を入れちゃったの?」
「ツカサとは今日会えるし、二十五日も元おじい様の誕生パーティーで会えるからいいかな、と思って……。だめ、だったかな?」
 あの男、相変わらず苦労していそうね……。
 そんな会話をしているところへ着替えを済ませた蒼樹さんがやってきて、私たちは翠葉に見送られてマンションをあとにした。
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