光のもとで2

葉野りるは

文字の大きさ
上 下
205 / 271
December

それぞれのクリスマス Side 司 02話

しおりを挟む
 パーティーは海斗と立花の司会でテンポ良く進行する。
 考えてみれば、生徒会が主催じゃないパーティーに参加するのは初めてのことだし、学校外でのイベントに参加すること自体が初めてだ。
 それもこれも、隣に翠がいればこその話だけど。
 パーティーが始まってすぐは、フロアのところどころで再会を喜ぶ姿が見られ、中には面識のない人間同士を紹介する光景も見られた。
 翠はというと、俺から少し離れた場所で女子同士の歓談を楽しんでいる。
 ドレスがかわいいだの髪形がかわいいだの、アクセサリーがどうのこうのとそれぞれの格好を褒め合うそれの何が楽しいのかはさっぱりわからないが、数人で話している翠はとても嬉しそうに、または楽しそうに笑っていた。
 その様子を眺めていると、朝陽が飲み物を片手に寄ってくる。
「今日はどの子もドレスアップしていてかわいいよね」
「普段より飾り立ててるんだから、それなりに見えて当然なんじゃない?」
「相変わらず司は辛辣だなぁ……。でも、翠葉ちゃんには? 似合ってるなりなんなり言ってあげたんでしょ? あの子の喜ぶ様が――」
 朝陽は俺の顔を見て、
「……まさか何も言ってないの?」
 無言で顔を背けると、
「司、その辺は改めないと……。秋斗先生に掻っ攫われても知らないよ?」
 余計なお世話だ。どうにかできるならとっくに改めてる。
 そんな俺の気持ちを悟ったのか、朝陽は俺の肩を二回叩き、人ごみへと紛れた。
 自分にあと少し余裕があれば、さりげなく褒めることができる……と思いたい。
 今のところ、ドレスを着た翠を見て、赤面しないよう堪えるのに必死だし、そんな状況では言葉を発するとか、褒めるどころの話ではない。
 そう思っているところに翠が戻ってきた。
 笑顔で寄ってくる様が、ハナが尻尾を振って近づいてくるのと酷似している。
 口元が緩みそうになるのを我慢しながら、
「友達と話してたんじゃないの?」
「うん。でも、そろそろビンゴ大会が始まるし」
 ビンゴ大会が始まるからなんだというのか。
 翠をじっと見下ろしていると、
「ビンゴ大会はツカサと一緒に参加したいから」
 はにかみながら言う翠に言葉を失った。
 あまりにもかわいいことを言うものだから、うっかり翠の頬に手を添えキスをしそうになる。
 寸でのところで我に返り、両頬をつまみ引っ張るにとどまった。
 すると、「どうしてっ!?」と言葉にはならない声で訴えられ、横に伸びたちょっとひどい顔の翠に思わず笑みが漏れた。
「ツカサと一緒に参加したいから」――たったこの一言で、俺の機嫌は直ってしまったようだ。
 
 ビンゴ大会が終わると、
「さて、皆さんお待ちかねのダンスタイムです! カントリーダンスとワルツを順繰りに流しますので、連れてきたパートナーと踊るもよし! 会場で見つけた気になる人を誘うもよし! 締めにはチークタイムもありますので、皆さんそれぞれお楽しみください! さっ、栄えあるファーストワルツを踊るペアは~?」
 海斗の進行に、会場の視線が自分たちに集まる。
 事前に話があったわけではないが、俺たちが踊る流れなのだろうか。
 そっと翠の右手を取ると、翠が俺を引き止めるように力をこめた。その直後、
「我らが女帝、簾条桃華嬢と御園生翠葉嬢の兄、御園生蒼樹さんですっ! はい、拍手ーーー!」
 そのアナウンスに、自分たちに向けられていた視線が一斉に逸れる。
 俺たちから三メートルほど離れた場所にいた簾条は、珍しく驚いた顔で口元を押さえていた。
 そんな簾条に手を差し出した御園生さんは、
「一曲お相手願えますか?」
 実に穏やかな眼差しで簾条を見つめている。
 簾条は柄じゃないほどたどたどしく右手を預けた。
 その様子から、
「簾条には話してなかったの?」
 翠は満足そうに頷く。
「蒼兄たちが手伝ってくれることは話していたけれど、蒼兄がタキシードを着ることとかは秘密にしていたの。桃華さんにはいつも驚かされてばかりだから、今回は驚いてもらうことにしたんだ」
 それはさぞかし驚いたことだろう。
「簾条のあの顔、いい気味だな」
 翠は隣でクスクスと笑っていた。
 二コーラス目に入ると、フロアを囲っていたペアがダンスに加わる。
「翠、行ける?」
 翠は満面の笑みで、
「もちろん!」
 その顔を見て、自分の表情筋が緩むのを感じる。
「今日までに足が治ってよかったな」
「本当。間に合わなかったらどうしようかと思っちゃった」
 事実、松葉杖が取れたのは三日前のことで、それからというもの、翠は自由に動けることをひどく喜んでいた。
 今もことさら嬉しそうにワルツを踊っている。
 その笑顔を見られただけで、クリスマスパーティーに参加してよかったと思えた。

 二度ほどワルツを踊ったあと、翠が各テーブルへ視線をめぐらす。
 その様子は何かを探しているように見え、
「どうかした?」
「少し喉が渇いて……」
 言われて納得する。
 近くのテーブルに新しいグラスはなく、コンシェルジュも近くにはいなかった。
「取ってくるから待ってて」
「ありがとう」
 そう言って翠から離れたのがすべての始まり。
 飲み物を持って戻ると翠はいなかった。
 あたりを見回すと、
「藤宮、あれあれ。秋斗先生が御園生さん連れてった」
 風間が指差した方、フロア中央には秋兄にリードされて踊る翠がいた。
 してやられた感満載……。
 まさか生徒の集まりで、秋兄が何か仕掛けてくるとは思ってもみなかった。
 現実を見たくないあまり、一瞬目を背けたけれど、すぐにふたりが気になり視線を戻す。
 ふたりのダンスは実に華麗で、ギャラリーはおろか、周囲で踊っている人間たちの視線まで集めていた。
「秋斗先生が御園生さんに求婚してるって噂、あれ本当なのかな?」
「どうだろう? でも、あの藤の会にも御園生さん出席してるんでしょう?」
「秋斗先生、学校にいたときから御園生さんのこと特別扱いしてたよね?」
 音楽がかかっているというのに、周りで話されている内容がやけに鮮明に耳に届く。
 煩わしい噂と視線がまとわりつく中、翠と秋兄は時折笑顔を見せ、言葉を交わしながら踊っていた。
 けれど、忙しなく動いているため唇を読むには至らない。
 今すぐ電源コードを引き抜いて曲を止めてしまいたい……。
 しかし、イベントをぶち壊すような傍若無人な振る舞いは憚られる。
 じっと堪えている中、自然と手に力がこもっていた。
 その手中に角ばったものを感じてはっとする。
 どうやら、ポケットに入れていたプレゼントを握りつぶしてしまったようだ。
 指輪はあとでふたりきりになったときに渡そうと思っていたけれど、ダンスが終わったらすぐにつけさせる――
 イラついたままに箱の中から指輪を取り出し、秋兄たちに視線を戻す。と、「このまま口付けたいところだけど」――秋兄の唇が読めた瞬間に抑制していたものが振り切れた。
 気づいたときにはホールへ大きく足を踏み出していた。
「手の甲でもだめかなぁ……」
 翠が自身で身を引こうとしたところ、俺は腰から翠を自分へと引き寄せる。
「踊りたいなら唯さんでも女装させればいいだろ?」
「さすがにそれはちょっと唯がかわいそうだし、俺はほかの誰でもない翠葉ちゃんと踊りたいわけで……」
 そんなの知るかっ。
「翠」
「はいっ」
 翠は腕の中で表情を硬くし、俺を見上げていた。
「これ、はめておいて」
 箱から取り出したばかりの指輪を左手の薬指にはめる。と、ギャラリーから耳をつんざくような声があがった。
 翠はというと、はめられた指輪に全神経を持っていかれていて、リアクションゼロ。
「おまえ、この流れで渡すか?」
 秋兄に言われ、思わず睨み返してしまう。
「誰のせいだよ」
「俺なの……?」
 むしろ、秋兄以外に誰がいるのか教えてほしいんだけど……。
 周りから注目される状況に耐え切れず、
「翠、クールダウンしに行くよ」
 俺は翠の左手を掴んだまま会場をあとにした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

亡き少女のためのベルガマスク

二階堂シア
青春
春若 杏梨(はるわか あんり)は聖ヴェリーヌ高等学校音楽科ピアノ専攻の1年生。 彼女はある日を境に、人前でピアノが弾けなくなってしまった。 風紀の厳しい高校で、髪を金色に染めて校則を破る杏梨は、クラスでも浮いている存在だ。 何度注意しても全く聞き入れる様子のない杏梨に業を煮やした教師は、彼女に『一ヶ月礼拝堂で祈りを捧げる』よう反省を促す。 仕方なく訪れた礼拝堂の告解室には、謎の男がいて……? 互いに顔は見ずに会話を交わすだけの、一ヶ月限定の不思議な関係が始まる。 これは、彼女の『再生』と彼の『贖罪』の物語。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

魔法使いの少年と学園の女神様

龍 翠玉
青春
高校生の相沢優希(あいざわゆうき)は人には言えない秘密がある。 前世の記憶があり現代では唯一無二の魔法使い。 力のことは隠しつつ、高校三年間過ごす予定だったが、同級生の美少女、一ノ瀬穂香(いちのせほのか)を助けた事から少しずつ変わっていく生活。 恩に報いるためか部屋の掃除や料理など何かと世話を焼いてくれる穂香。 人を好きになった事がない優希は段々穂香に惹かれていく。 一方、穂香も優希に惹かれていくが、誰にも言えない秘密があり…… ※魔法要素は少なめです。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...