光のもとで2

葉野りるは

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December

それぞれのクリスマス Side 翠葉 02話

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 十一時になるとパーティーが始まった。
 司会進行は飛鳥ちゃんと海斗くんが買って出てくれて、そこに時々サザナミくんが乱入して会場の笑いを取っている。
 会場に流す音楽を編集してくれたのは佐野くん。ダンスミュージックを用意してくれたのは静音先輩。
 各々得意分野を担当してひとつの会を成り立たせる。
 こういうのを知ったの、この学校に入ってからだな。
 中学のときは行事に率先して取り組む人はいなくて、祭り上げられてしまった誰かひとりに負担がかかり、その人が必死に考えたものを発表すると、祭り上げた人たちが嘲笑って終わる、という最悪なものだった。
 もしくは、派手なグループが率先して取り決めをするけれど、結果的には全体が楽しめるものにはならず、関わった少数の人たちだけが楽しめるものだったり。
 ところ違えば何もかもが違う……。
 そんなことを感じながら、和やかに進むパーティーを楽しんでいた。
 
 ビンゴ大会が終わったあと、
「さて、皆さんお待ちかねのダンスタイムです! カントリーダンスとワルツを順繰りに流しますので、連れてきたパートナーと踊るもよし! 会場で見つけた気になる人を誘うもよし! 締めにはチークタイムもありますので、皆さんそれぞれお楽しみください! さっ、栄えあるファーストワルツを踊るペアは~?」
 そこまで言うと、周囲の視線が私とツカサに集まる。でも、ファーストワルツを踊るのは私たちではない。
「我らが女帝、簾条桃華嬢と御園生翠葉嬢の兄、御園生蒼樹さんですっ! はい、拍手ーーー!」
 拍手が沸き起こる中、桃華さんは両手で口元を覆い、目を見開きひどく驚いた形相をしている。
 そんな桃華さんをあたたかな眼差しで見つめる蒼兄は、フロックコートからタキシードへ着替えを済ませていた。
「一曲お相手願えますか?」
 桃華さんのすぐ近くで蒼兄が手を差し出すと、桃華さんは顔を真っ赤にして蒼兄の手を取った。
 そうしてフロアの中央で踊るふたりを眺めていると、
「簾条には話してなかったの?」
 ツカサに尋ねられた。
「うん、蒼兄たちが手伝ってくれることは話していたけれど、蒼兄がタキシードを着ることとかは秘密にしていたの。桃華さんにはいつも驚かされてばかりだから、今回は驚いてもらうことにしたんだ」
「簾条のあの顔、いい気味だな」
 言ってツカサは鼻で笑った。
 二コーラス目に入り、周りにいたペアたちがダンスに参加し始めると、
「翠、行ける?」
「もちろん!」
「今日までに足が治ってよかったな」
「本当。間に合わなかったらどうしようかと思っちゃった」
 そんな会話をしながらツカサにエスコートされ、ワルツの輪に加わった。
 カントリーダンスになると、給仕していた秋斗さんと唯兄の周りに女の子の人だかりができ、引っ張り出される形でふたりはダンスに加わる。
 ふたりとダンスを踊る女の子はキャーキャー騒いでいる子もいれば、緊張に動きを硬くしてしまう子もいた。
 そこへやってきた風間先輩と静音先輩が、
「あーあ、唯さんと秋斗先生なんか加わっちゃったもんだから、女子の皆さん目がハートじゃねぇか」
「仕方ないわよ。いつだって女の子たちは見目麗しい殿方が好きだもの」
「男だってかわいい子には目がないさ。俺だって御園生さんと踊りたいけど、アレが許してくれそうにないしな……」
 そんな会話をしているときだった。
 カントリーダンスが終わった秋斗さんがやってきた。
「翠葉ちゃん、司は?」
「あ、今飲み物を取りに行ってくれていて――」
 ツカサの姿を探そうとしたそのとき、
「じゃ、掻っ攫っちゃおうかな」
「え?」
 気づいたときには秋斗さんに手を取られ、ワルツが流れるフロアへといざなわれていた。
「翠葉姫、一曲お相手願えますか?」
 尋ねてはくれるけど、すでにフロアへ連れ出されてしまっているし、人の視線が集まる中でお断わりするのは非常に申し訳ない。
「今日のお手伝いの報酬に一曲。ね?」
 そこまで言われたらなおさら断われない。
「もぅ……あとでツカサの機嫌とるの手伝ってくださいよ?」
 渋々応じると、
「それは難しいかな? 俺、司の機嫌を損ねるのはうまいんだけどね」
 そんなふうに言っておどけて見せた。
 踊りながら、
「さっきも言ったけど、今日のドレス、本当によく似合ってる。淡い桜色に若葉を思わせる黄緑色の刺繍がとてもきれいだ。本当に、翠葉ちゃんのために設えられたドレスだね」
「ありがとうございます。秋斗さんもグレーのフロックコート、とても似合ってます」
「じゃ、このまま結婚式でも挙げちゃう?」
「それはないです」
 にっこり笑顔で尋ねられたので、同じくらいの笑顔で答えた。
 涼先生とツカサ、佐野くん以外の人と初めて踊るな、などと思いつつ、鮮やかなリードを感じながらワルツを踊る。そして、曲が終わりに近づくと、
「このまま口付けたいところだけど――」
 その言葉に身を引く。と、
「キスされるとお仕置きされちゃうんだっけ?」
 私は首振り人形のようにコクコク頷いた。
「手の甲でもだめかなぁ……」
 言われて右手を引こうとしたら、自分以外の手により秋斗さんから引き剥がされた。
「踊りたいなら唯さんでも女装させればいいだろ?」
「ツカサっ!?」
「さすがにそれはちょっと唯がかわいそうだし、俺はほかの誰でもない翠葉ちゃんと踊りたいわけで……」
 凄みの利いた視線を、秋斗さんは実に余裕そうな顔で真正面から受ける。
 そんな時間が数秒流れ、
「翠」
「はいっ」
 急にこちらを向いたツカサにびっくりする。
「これ、はめておいて」
「え?」
 ツカサは私の左手を取り、
「っ――指輪っ!?」
「しかも左手っ!」
「キャーーーッ!」
 それは一連のやり取りを見ていたギャラリーの声。
 私はというと、薬指に通された華奢なリングに呆然としていた。
「おまえ、この流れで渡すか.?」
 呆れたような秋斗さんの言葉に、
「誰のせいだよ」
「俺なの……?」
 ツカサは秋斗さんを睨みつけ、
「翠、クールダウンしに行くよ」
 私の左手を掴んだまま会場出口へ向かった。
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