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November
娘の正しい守り方 Side 碧 01話
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「ふぁ……眠い」
でも、頭をたたき起こして電話をかけなくては。
「会長が確実につかまるの、この時間しかないのよね」
手早く洗顔を済ませた私は、まだ人が起きてこないゲストルームのリビングで、携帯を手に取っていた。
めったにかけることのない番号を呼び出し通話ボタンを押す。と、三コール目で応答があった。
「おはようございます、会長。ご無沙汰しております、碧です」
『おぉ、久しいのう。藤の会以来じゃが、元気でおったか?』
「えぇ、元気ですわ。会長こそ、ここ数日で朝晩冷え込むようになりましたがお身体に変わりありませんか?」
『そう年寄り扱いをするでない』
「あら、失礼しました」
多少の笑いを交えつつ、本題へ切り替える。
「お電話で恐縮なのですが、今日はお願いがあってご連絡させていただきました」
『ふむ、なんじゃ? 碧嬢の願いごととあっては断われまい』
「近々、会長のお時間を少しいただけませんか?」
『ほ?』
「学校で、娘とランチタイムを過ごしていただきたいのです」
『ふむ、お嬢さんとランチとな』
「すでにお耳に入っているかと存じますが、昨夜、娘が怪我を負って帰ってきました。このようなことは二度とあってほしくないのです。そのための対策として、会長のお力をお貸しいただければと……。それが一番有効で、穏便な方法ですので」
『ふぅむ……。自分のときは相手を傷害罪で訴え退学処分に追い込んだお嬢さんじゃが、今回はずいぶんと甘い対応じゃのう』
「ふふ、いやですわ。そんな昔のことを覚えていらっしゃるなんて……。あのころは若かったんです。あれ以上の牽制の仕方が思い浮かばなかった程度には。でも、今は少し年をとって、ほかの方法も考えられるようになりました。翠葉を怪我させた生徒たちに『傷害罪』についての作文と謝罪文を書かせることを条件に、謹慎処分で納得しましたが、それだけでは不十分でしょう?」
『ふぉっふぉっふぉ……よいよい。休み明け、高校を訪れお嬢さんと共に昼食を摂ることを約束しよう』
「よろしくお願いします」
通話を切り時計に目をやる。
「まだ五時十分……」
もう一眠りすることもできるけど、どうしようかしら……。
せっかく早起きしたのだ。二度寝するのはもったいなくも思える。
仕事で出かけるのは九時。
「あと四時間弱……」
時間を有効利用するなら家事に取り掛かりたいところだけど、こんな時間から家事を始めたら子どもたちを起こしてしまうだろう。
私は家事を諦めお茶を淹れることにした。
キッチンでお湯を沸かしていると、
「母さん?」
「あら蒼樹、早いわね?」
「いや、いつもこの時間だし」
「あ、走りに行くの?」
「そう。母さんは?」
「ある人に連絡を取りたくて早起き」
「仕事?」
「……そうねぇ、仕事というよりは務めかしら」
「何それ」
「翠葉が二度と怪我をしないよう、会長にご助力いただくことにしたの」
「あぁ、なるほど。親の務め、ね」
「そっ!」
「翠葉たちにはふたりで考えろとか言ってたくせに、結局は裏で動くんだ?」
「それはそれ、これはこれ。本人たちがとらなくちゃいけない対策と、親ができる対策は別物だわ」
「ま、それもそうか……」
「コーヒー飲む?」
「いや、もう行かなくちゃ。桃華待たせちゃうし」
「あら……今日はデートなんでしょう? なのに、ランニング途中でも会うの?」
「それはそれ、これはこれ」
同じ言葉を返され思わず笑みが零れる。
「俺、知らなかったんだよね。好きな子にはこんなにも会いたくなるものだなんて」
「そう……よかったわね。大切にしなさいよ?」
「言われなくても」
そう言うと、蒼樹は洗面を済ませてそそくさと家を出て行った。
「蒼樹と桃華ちゃんは順調そうね。翠葉と司くんは――」
まだ色々手探りで歩いているようだけど、危うげな感じはしない。
「若い」という面では多少の不安はあるけれど、それは親なら誰もが通る道。
「あとは唯か……」
唯にもいい出逢いがあるといいのだけど……。
それでもまだ二十三。時間はたっぷりあるわ――
でも、頭をたたき起こして電話をかけなくては。
「会長が確実につかまるの、この時間しかないのよね」
手早く洗顔を済ませた私は、まだ人が起きてこないゲストルームのリビングで、携帯を手に取っていた。
めったにかけることのない番号を呼び出し通話ボタンを押す。と、三コール目で応答があった。
「おはようございます、会長。ご無沙汰しております、碧です」
『おぉ、久しいのう。藤の会以来じゃが、元気でおったか?』
「えぇ、元気ですわ。会長こそ、ここ数日で朝晩冷え込むようになりましたがお身体に変わりありませんか?」
『そう年寄り扱いをするでない』
「あら、失礼しました」
多少の笑いを交えつつ、本題へ切り替える。
「お電話で恐縮なのですが、今日はお願いがあってご連絡させていただきました」
『ふむ、なんじゃ? 碧嬢の願いごととあっては断われまい』
「近々、会長のお時間を少しいただけませんか?」
『ほ?』
「学校で、娘とランチタイムを過ごしていただきたいのです」
『ふむ、お嬢さんとランチとな』
「すでにお耳に入っているかと存じますが、昨夜、娘が怪我を負って帰ってきました。このようなことは二度とあってほしくないのです。そのための対策として、会長のお力をお貸しいただければと……。それが一番有効で、穏便な方法ですので」
『ふぅむ……。自分のときは相手を傷害罪で訴え退学処分に追い込んだお嬢さんじゃが、今回はずいぶんと甘い対応じゃのう』
「ふふ、いやですわ。そんな昔のことを覚えていらっしゃるなんて……。あのころは若かったんです。あれ以上の牽制の仕方が思い浮かばなかった程度には。でも、今は少し年をとって、ほかの方法も考えられるようになりました。翠葉を怪我させた生徒たちに『傷害罪』についての作文と謝罪文を書かせることを条件に、謹慎処分で納得しましたが、それだけでは不十分でしょう?」
『ふぉっふぉっふぉ……よいよい。休み明け、高校を訪れお嬢さんと共に昼食を摂ることを約束しよう』
「よろしくお願いします」
通話を切り時計に目をやる。
「まだ五時十分……」
もう一眠りすることもできるけど、どうしようかしら……。
せっかく早起きしたのだ。二度寝するのはもったいなくも思える。
仕事で出かけるのは九時。
「あと四時間弱……」
時間を有効利用するなら家事に取り掛かりたいところだけど、こんな時間から家事を始めたら子どもたちを起こしてしまうだろう。
私は家事を諦めお茶を淹れることにした。
キッチンでお湯を沸かしていると、
「母さん?」
「あら蒼樹、早いわね?」
「いや、いつもこの時間だし」
「あ、走りに行くの?」
「そう。母さんは?」
「ある人に連絡を取りたくて早起き」
「仕事?」
「……そうねぇ、仕事というよりは務めかしら」
「何それ」
「翠葉が二度と怪我をしないよう、会長にご助力いただくことにしたの」
「あぁ、なるほど。親の務め、ね」
「そっ!」
「翠葉たちにはふたりで考えろとか言ってたくせに、結局は裏で動くんだ?」
「それはそれ、これはこれ。本人たちがとらなくちゃいけない対策と、親ができる対策は別物だわ」
「ま、それもそうか……」
「コーヒー飲む?」
「いや、もう行かなくちゃ。桃華待たせちゃうし」
「あら……今日はデートなんでしょう? なのに、ランニング途中でも会うの?」
「それはそれ、これはこれ」
同じ言葉を返され思わず笑みが零れる。
「俺、知らなかったんだよね。好きな子にはこんなにも会いたくなるものだなんて」
「そう……よかったわね。大切にしなさいよ?」
「言われなくても」
そう言うと、蒼樹は洗面を済ませてそそくさと家を出て行った。
「蒼樹と桃華ちゃんは順調そうね。翠葉と司くんは――」
まだ色々手探りで歩いているようだけど、危うげな感じはしない。
「若い」という面では多少の不安はあるけれど、それは親なら誰もが通る道。
「あとは唯か……」
唯にもいい出逢いがあるといいのだけど……。
それでもまだ二十三。時間はたっぷりあるわ――
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