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October
紫苑祭二日目 Side 翠葉 13話
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この曲はなんという曲なのだろう。
ピアノの伴奏に女性シンガーの歌がのっている。
歌詞から恋愛を歌ったものであることはわかるけれど、すべてを聞き取れるわけではないし、今はこの音楽に身を任せダンスを楽しみたい。
去年は気後れしてしまった後夜祭のダンスタイムも、今年は臆することなく楽しめている。「すべてを諦める必要はない」と言った湊先生の言葉は正しかったのだ。
「翠……?」
「ん?」
「何を考えてる?」
「……楽しいな、って。それだけ」
「そう。ならいい」
ツカサの柔らかい笑みを見て自分も微笑み返す。
曲が間奏に入ると女の子をエスコートした男子たちがフロアへ出てきて、恭しく礼をすると手と手を取り合い踊り始めた。
ゆったりとしたテンポに身を任せ、みんなでクルクルとワルツを踊る。
そうして、あっという間に短いワルツは終焉を迎えた。
誰からともなく拍手が起こり、みんなが拍手で互いを褒め称える。そして、馴染みあるカントリーダンスの曲が流れ始め、フロアにいくつかのサークルができた。
雰囲気がガラッと変わって和気藹々とした空気になる。
私とツカサは中央から離れ、比較的空いている半月ステージへ移動した。
ステージにたどり着くと、ひょい、とツカサに抱き上げられステージに座らされる。
「ありがとう……」
「どういたしまして」
ツカサはステージに掛けることなく背中を預けて立っていた。
なんとなく視線を向けると、ツカサの頭につむじを見つける。
考えてみたら、こんなアングルでツカサを見たことはないのではないだろうか。
「新鮮、かも……」
「何が?」
ツカサが振り返り、見上げてくる様に更なる新鮮さを感じる。
「普段、ツカサのことを見下ろすことなんてないでしょう? だから、新鮮」
「そんなこともないだろ? 翠がお茶を淹れて部屋へ戻ってくると、翠が立ってて俺が座ってるって状況だと思うけど?」
「そう言われてみれば……。でも、そういうときはたいていトレイを持っているから、『お茶を零さないように』のほうに神経が使われている気がする」
そんな話をしていると、沙耶先輩がやってきた。
先輩はドレスではなく制服姿だった。
「先輩は踊られないんですか?」
「こういうのは性分じゃないのよね。まだ紅葉祭の仮装パーティーのほうが楽しめるわ」
若干嫌そうに話していたけれど、すぐに顔つきが変わり話題が変わることを察する。
「さっきの話、先生方に伝えてきた」
そこまでする必要があったのかなかったのか、私には判断しかねるけれど、もしかしたら風紀委員にはそういった通達の義務のようなものがあるのかもしれない。
でも、先生に知れたらどういう事態になるのか――
少し考えれば想像ができてしまってその先を聞くのが怖い。
「姫のことだから、ペナルティを与えた時点でもういいと思ってるかもしれない。でも、学校的にはそうはいかないの。姫が怪我を負った時点で停学処分が確定」
その言葉に、「やっぱり」と思う。
それなら、私がペナルティを提示する必要などなかったように思えるし、こんなにも楽しそうな後夜祭を見ることなく帰宅したほうが良かったのではないか。
言いようのない罪悪感を覚え心が沈む。それに伴い、視線は手元に落ちていた。
「ほら、そこで俯かない。話は終わってないわよ」
言われて顔を上げると、
「学校が提示した停学期間は一週間だったんだけど、姫が提示したペナルティをすでに受けていることを汲んで、期間短縮もしくは謹慎にできないかって打診してきた」
期間短縮はわかるにしても、謹慎と停学とは何がどう違うのか……。
そう思っていると、ツカサが補足してくれた。
「停学は学校の記録に残るものだし教育委員会へ報告することになる。それに対し、謹慎の場合は記録に残らないし教育委員会へ報告する必要もない」
その言葉にほっと胸を撫で下ろす。けれど、その先には「ただし」という言葉が続いた。
「謹慎を食らった時点で指定校推薦枠は使えなくなる」
心臓が止まりそうな衝撃に、思わず両手で口元を覆う。
そんな、進路にまで関わるなんて――
「姫、当然のことよ。人に暴力を振るうってそれなりの罰を受けるものだわ。それも、双方が暴力に訴えているのならともかく、姫は一方的に暴力を振るわれたの。さらには複数人対姫ひとりということもあって、カテゴリの中でも『いじめ』に分類される。したがって謹慎期間は長いわ。学校謹慎最長の十五日。そして、今日中に姫へ謝罪し許してもらうことが条件になってる」
つまり、面と向かって対峙せよ、ということ……?
「姫がそれを受け入れるなら学校謹慎で済み記録には残らない。ただし、姫が謝罪を受け入れない場合は即座に停学処分が確定する」
「そんなのっ、受けるに決まってますっ」
「そっ、なら良かったわ。謝罪の場が決まったら連絡するわね」
「はい……」
どうしよう、泣きそうだ……。
すると、ツカサの手が伸びてきた。
ふわりと抱えられ、スタスタと歩いてステージ裏へと通じるドアの前で下ろされる。
「ツカサ……?」
「泣き顔、人に見られたくないんじゃないかと思って」
そう言ってステージ裏へ通じるドアを開けてくれた。
「あり、がと……」
ドアが閉まればフロアで聞こえている音がほんの少し篭って聞こえる。
そんな変化を感じつつ、涙が零れる。涙はポタポタ、と暗い足元へ落ちていった。
「翠が泣く必要はないと思うけど?」
言いながらハンカチで涙を拭ってくれ、そのまま何も言わずに抱きしめてくれた。
そうしてカントリーダンスが終わるまで、私はツカサの胸で泣いた。
その間中、「翠は被害者であって、翠が罪悪感に駆られることはない」とツカサはずっと宥め続けてくれていた。
テンポの速いワルツが流れ始め、
「これの次、スローワルツが流れるけどどうする?」
「……踊りたい。だって、せっかくダンスを踊れるようになったんだもの。でも――」
観覧席にいる三人の前で踊る気分にはなれなかった。
その人たちが罰を受けるのは自業自得だとしても、こんなにも重い処罰が下されるのなら、私がペナルティを決める必要なんてなかった。どうしたって後ろ暗い気持ちになる。
そんな気持ちを悟ってくれたのだろう。
「踊るだけならフロアに出る必要はないだろ? ここでだって十分に踊れる。でも、足は?」
「痛い……。でも、痛い思いをしたのだから、やっぱり踊りたい」
「本当、負けず嫌いにもほどがある。今無理しなくても、ダンスが踊りたいならいつだって付き合うのに」
「……ちゃんと正装してくれる?」
「そこ重要?」
「私にとっては……」
「……翠もドレスを着るなら考えなくはない」
そんな話をしながら立ち上がり、ドレスのスカートを整えてツカサに向き直る。
わざとらしくも恭しく礼をすれば、聴き馴染みのある曲が流れ出した。
それは、さっきワルツ競技で踊った曲。
「この曲、たぶんピアノで弾ける。そのくらいには何度も聴いたよね」
「確かに。今度聴かせて」
「うん」
手放しでダンスを楽しめる状況ではなくなってしまったけれど、ツカサが側にいてくれることにとても救われていた。
たぶん、ひとりだったら自分のことを延々と責め続けていただろう。
なぜ階段から落ちてしまったのか。どうして踏みとどまれなかったのか。落ちるにしても、怪我をしない落ち方があったのではないか、とどう考えても無理なことばかりを考え続けていたと思う。
泣いている間、ツカサは私が何か口にするたびに「それは違う」と逐一訂正し、私が納得できる理由まで述べてくれていた。
私が罪悪感の淵に落ちないよう、ずっと止めてくれていたのだ。
「ツカサ、ありがとう……」
「別に、俺は何もしていない」
「そんなことないんだけどな……」
「じゃ、気持ちだけ受け取っておく」
「うん」
ワルツが終わればチークタイム。
いったいどんな曲が流れるのかな、と楽しみにしていると、スティーヴィーワンダーの曲だった。
「この曲、好きなの?」
「……どうして?」
「顔が嬉しそう」
フットライトしか明かりがない中でのダンスとはいえ、すでに暗闇に目が慣れていた私たちには、相手の表情を読むことなど造作もないことだった。
「この曲が好きというよりは、このアーティストが好きなのかな……。湊先生の披露宴で、ファーストワルツに流れた曲もスティーヴィーワンダーの曲だったでしょう?」
「覚えてない」
真顔で答えるツカサが少しおかしかった。でも、私も大差ない。
「あの曲は好きで覚えていたのだけど、この曲は、曲名まで覚えてないの」
正直に白状すると、ツカサがクスリと笑った。
「じゃ、あとで曲名を調べよう」
「ツカサも好き?」
「悪くない」
「やり直し」
「……割と好き」
小さな声で話しながら、身体は完全にツカサへ預けていた。
ロウソクの炎のようにゆらゆらと身を揺らす感じが心地いい。
ツカサの体温を感じながら、去年のチークダンスを思い出す。
あのとき、私もツカサも相手の好きな人は別にいると思って話していたから、今思えばひどく滑稽な会話をしていたと思う。でも、あのときの私たちはとっても必死で、そんな時間も今の私たちにつながる過去なのだ。
「ツカサ、未来の私たちは今日の私たちをどんな気持ちで振り返るのかな?」
「さぁ……未来のことなんてわからない。でも――」
でも……?
「俺は間違いなく翠の隣にいる」
「……そうだったらいいな」
「……翠」
「ん?」
「キスしても?」
普段なら学校ではだめ、と言うところだけど、今は――
そっとツカサの顔を見上げる。
「それ、いいように受け取るけど?」
私はコクリと頷きツカサのキスを受けた。
ピアノの伴奏に女性シンガーの歌がのっている。
歌詞から恋愛を歌ったものであることはわかるけれど、すべてを聞き取れるわけではないし、今はこの音楽に身を任せダンスを楽しみたい。
去年は気後れしてしまった後夜祭のダンスタイムも、今年は臆することなく楽しめている。「すべてを諦める必要はない」と言った湊先生の言葉は正しかったのだ。
「翠……?」
「ん?」
「何を考えてる?」
「……楽しいな、って。それだけ」
「そう。ならいい」
ツカサの柔らかい笑みを見て自分も微笑み返す。
曲が間奏に入ると女の子をエスコートした男子たちがフロアへ出てきて、恭しく礼をすると手と手を取り合い踊り始めた。
ゆったりとしたテンポに身を任せ、みんなでクルクルとワルツを踊る。
そうして、あっという間に短いワルツは終焉を迎えた。
誰からともなく拍手が起こり、みんなが拍手で互いを褒め称える。そして、馴染みあるカントリーダンスの曲が流れ始め、フロアにいくつかのサークルができた。
雰囲気がガラッと変わって和気藹々とした空気になる。
私とツカサは中央から離れ、比較的空いている半月ステージへ移動した。
ステージにたどり着くと、ひょい、とツカサに抱き上げられステージに座らされる。
「ありがとう……」
「どういたしまして」
ツカサはステージに掛けることなく背中を預けて立っていた。
なんとなく視線を向けると、ツカサの頭につむじを見つける。
考えてみたら、こんなアングルでツカサを見たことはないのではないだろうか。
「新鮮、かも……」
「何が?」
ツカサが振り返り、見上げてくる様に更なる新鮮さを感じる。
「普段、ツカサのことを見下ろすことなんてないでしょう? だから、新鮮」
「そんなこともないだろ? 翠がお茶を淹れて部屋へ戻ってくると、翠が立ってて俺が座ってるって状況だと思うけど?」
「そう言われてみれば……。でも、そういうときはたいていトレイを持っているから、『お茶を零さないように』のほうに神経が使われている気がする」
そんな話をしていると、沙耶先輩がやってきた。
先輩はドレスではなく制服姿だった。
「先輩は踊られないんですか?」
「こういうのは性分じゃないのよね。まだ紅葉祭の仮装パーティーのほうが楽しめるわ」
若干嫌そうに話していたけれど、すぐに顔つきが変わり話題が変わることを察する。
「さっきの話、先生方に伝えてきた」
そこまでする必要があったのかなかったのか、私には判断しかねるけれど、もしかしたら風紀委員にはそういった通達の義務のようなものがあるのかもしれない。
でも、先生に知れたらどういう事態になるのか――
少し考えれば想像ができてしまってその先を聞くのが怖い。
「姫のことだから、ペナルティを与えた時点でもういいと思ってるかもしれない。でも、学校的にはそうはいかないの。姫が怪我を負った時点で停学処分が確定」
その言葉に、「やっぱり」と思う。
それなら、私がペナルティを提示する必要などなかったように思えるし、こんなにも楽しそうな後夜祭を見ることなく帰宅したほうが良かったのではないか。
言いようのない罪悪感を覚え心が沈む。それに伴い、視線は手元に落ちていた。
「ほら、そこで俯かない。話は終わってないわよ」
言われて顔を上げると、
「学校が提示した停学期間は一週間だったんだけど、姫が提示したペナルティをすでに受けていることを汲んで、期間短縮もしくは謹慎にできないかって打診してきた」
期間短縮はわかるにしても、謹慎と停学とは何がどう違うのか……。
そう思っていると、ツカサが補足してくれた。
「停学は学校の記録に残るものだし教育委員会へ報告することになる。それに対し、謹慎の場合は記録に残らないし教育委員会へ報告する必要もない」
その言葉にほっと胸を撫で下ろす。けれど、その先には「ただし」という言葉が続いた。
「謹慎を食らった時点で指定校推薦枠は使えなくなる」
心臓が止まりそうな衝撃に、思わず両手で口元を覆う。
そんな、進路にまで関わるなんて――
「姫、当然のことよ。人に暴力を振るうってそれなりの罰を受けるものだわ。それも、双方が暴力に訴えているのならともかく、姫は一方的に暴力を振るわれたの。さらには複数人対姫ひとりということもあって、カテゴリの中でも『いじめ』に分類される。したがって謹慎期間は長いわ。学校謹慎最長の十五日。そして、今日中に姫へ謝罪し許してもらうことが条件になってる」
つまり、面と向かって対峙せよ、ということ……?
「姫がそれを受け入れるなら学校謹慎で済み記録には残らない。ただし、姫が謝罪を受け入れない場合は即座に停学処分が確定する」
「そんなのっ、受けるに決まってますっ」
「そっ、なら良かったわ。謝罪の場が決まったら連絡するわね」
「はい……」
どうしよう、泣きそうだ……。
すると、ツカサの手が伸びてきた。
ふわりと抱えられ、スタスタと歩いてステージ裏へと通じるドアの前で下ろされる。
「ツカサ……?」
「泣き顔、人に見られたくないんじゃないかと思って」
そう言ってステージ裏へ通じるドアを開けてくれた。
「あり、がと……」
ドアが閉まればフロアで聞こえている音がほんの少し篭って聞こえる。
そんな変化を感じつつ、涙が零れる。涙はポタポタ、と暗い足元へ落ちていった。
「翠が泣く必要はないと思うけど?」
言いながらハンカチで涙を拭ってくれ、そのまま何も言わずに抱きしめてくれた。
そうしてカントリーダンスが終わるまで、私はツカサの胸で泣いた。
その間中、「翠は被害者であって、翠が罪悪感に駆られることはない」とツカサはずっと宥め続けてくれていた。
テンポの速いワルツが流れ始め、
「これの次、スローワルツが流れるけどどうする?」
「……踊りたい。だって、せっかくダンスを踊れるようになったんだもの。でも――」
観覧席にいる三人の前で踊る気分にはなれなかった。
その人たちが罰を受けるのは自業自得だとしても、こんなにも重い処罰が下されるのなら、私がペナルティを決める必要なんてなかった。どうしたって後ろ暗い気持ちになる。
そんな気持ちを悟ってくれたのだろう。
「踊るだけならフロアに出る必要はないだろ? ここでだって十分に踊れる。でも、足は?」
「痛い……。でも、痛い思いをしたのだから、やっぱり踊りたい」
「本当、負けず嫌いにもほどがある。今無理しなくても、ダンスが踊りたいならいつだって付き合うのに」
「……ちゃんと正装してくれる?」
「そこ重要?」
「私にとっては……」
「……翠もドレスを着るなら考えなくはない」
そんな話をしながら立ち上がり、ドレスのスカートを整えてツカサに向き直る。
わざとらしくも恭しく礼をすれば、聴き馴染みのある曲が流れ出した。
それは、さっきワルツ競技で踊った曲。
「この曲、たぶんピアノで弾ける。そのくらいには何度も聴いたよね」
「確かに。今度聴かせて」
「うん」
手放しでダンスを楽しめる状況ではなくなってしまったけれど、ツカサが側にいてくれることにとても救われていた。
たぶん、ひとりだったら自分のことを延々と責め続けていただろう。
なぜ階段から落ちてしまったのか。どうして踏みとどまれなかったのか。落ちるにしても、怪我をしない落ち方があったのではないか、とどう考えても無理なことばかりを考え続けていたと思う。
泣いている間、ツカサは私が何か口にするたびに「それは違う」と逐一訂正し、私が納得できる理由まで述べてくれていた。
私が罪悪感の淵に落ちないよう、ずっと止めてくれていたのだ。
「ツカサ、ありがとう……」
「別に、俺は何もしていない」
「そんなことないんだけどな……」
「じゃ、気持ちだけ受け取っておく」
「うん」
ワルツが終わればチークタイム。
いったいどんな曲が流れるのかな、と楽しみにしていると、スティーヴィーワンダーの曲だった。
「この曲、好きなの?」
「……どうして?」
「顔が嬉しそう」
フットライトしか明かりがない中でのダンスとはいえ、すでに暗闇に目が慣れていた私たちには、相手の表情を読むことなど造作もないことだった。
「この曲が好きというよりは、このアーティストが好きなのかな……。湊先生の披露宴で、ファーストワルツに流れた曲もスティーヴィーワンダーの曲だったでしょう?」
「覚えてない」
真顔で答えるツカサが少しおかしかった。でも、私も大差ない。
「あの曲は好きで覚えていたのだけど、この曲は、曲名まで覚えてないの」
正直に白状すると、ツカサがクスリと笑った。
「じゃ、あとで曲名を調べよう」
「ツカサも好き?」
「悪くない」
「やり直し」
「……割と好き」
小さな声で話しながら、身体は完全にツカサへ預けていた。
ロウソクの炎のようにゆらゆらと身を揺らす感じが心地いい。
ツカサの体温を感じながら、去年のチークダンスを思い出す。
あのとき、私もツカサも相手の好きな人は別にいると思って話していたから、今思えばひどく滑稽な会話をしていたと思う。でも、あのときの私たちはとっても必死で、そんな時間も今の私たちにつながる過去なのだ。
「ツカサ、未来の私たちは今日の私たちをどんな気持ちで振り返るのかな?」
「さぁ……未来のことなんてわからない。でも――」
でも……?
「俺は間違いなく翠の隣にいる」
「……そうだったらいいな」
「……翠」
「ん?」
「キスしても?」
普段なら学校ではだめ、と言うところだけど、今は――
そっとツカサの顔を見上げる。
「それ、いいように受け取るけど?」
私はコクリと頷きツカサのキスを受けた。
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