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June
十八歳の誕生日 Side 翠葉 01-01話
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今年も私の誕生日は全国模試の前日。去年と同じで、会食の場でたくさんの人にお祝いをしてもらえた。まだ来年のカレンダーは見ていないけれど、もしかしたら、これは三年間続くのかもしれない。そして、明日六月五日はツカサとの初デート。
遠出するわけではないけれど、互いの自宅、またはマンション付近からは離れたところへ行く。
待ち合わせは藤倉駅の北口、時計台の下に十一時。
どうして駅での待ち合わせになったかというと――
「翠、今何か欲しいものある?」
ツカサに訊かれたのは五月末のことだった。
「欲しいもの……?」
「誕生日プレゼント、まだ用意してないから、何かあれば参考にしたいんだけど」
誕生日プレゼント……何か欲しいもの……。
ふたつのキーワードに、二ヶ月前のことを思い出す。
ツカサの誕生日前、私も同じようなことをツカサに訊いた。でも、ツカサは「とくにないけど」と答え、参考になるようなものは何も教えてくれなかった。結果、私はツカサがすでに持っているものをプレゼントしてしまったのだ。
……どうしよう。とっても答えたくない。
「……あのさ、欲しいものを尋ねただけでなんでむくれるわけ?」
「だって……私も同じことを訊いたけど、ツカサは教えてくれなかったもの」
「あぁ、そういうこと……。別に答えたくないなら答えたくないでかまわないけど」
仕返しじみたことを口にしたけれど、今欲しいもの、と訊かれても思い浮かぶものがないのだ。……でも、してほしいこと、したいことならある。
「ツカサ、ものじゃなくてもいい?」
「ものじゃなければ何?」
ツカサは心底不思議そうな顔をしていた。
「あのね、プレゼントはいらないから、その代わりにデートして?」
思い切って口にしたのに、ツカサは眉間にしわを寄せた。
「なんでプレゼントとデートが引き換えになっているのか知りたいんだけど」
「え……? だって、どっちもは欲張りすぎでしょう?」
「……誕生日くらい欲張っても罰は当たらないと思う」
「……そうかな?」
私が考え込む前に、ツカサは話題を先につなげた。
「どこか行きたい場所があるとか?」
「あ、えと……楽器屋さん? それから、本屋さんっ。それから……雑貨屋さんっ」
「……楽器屋って、前に行ったところ?」
「うん」
「本屋は駅ビルの中の?」
「うん。雑貨屋さんはウィステリアデパートの中にあるのだけど……だめ?」
「だめじゃないけど……」
ツカサの視線は呆れているように見える。
「……おかしい?」
「おかしいとは言わないけど、誕生日のお祝いじゃなくても行ける場所だとは思う」
ツカサにとってはそうかもしれない。でも、私にとっては違う。
友達とどこかへ出かけるなんてしたことがないし、好きな人とお買い物やお出かけをするのは特別なことだ。
「ほかに行きたいところは?」
急に訊かれても、提示できる場所がない。それを察したのか、
「じゃ、待ち合わせは――」
「藤倉の駅っ」
またしても、不思議そうな視線を向けられた。
「なんで駅……?」
「……待ち合わせ、したい」
「マンションのエントランスであっても、待ち合わせは待ち合わせだと思うけど?」
「……違うもの。駅がいい……」
「……わかった。じゃ、駅の時計台に十一時」
「十一時……?」
「昼時で混む前にランチに行こう」
「……うんっ!」
こんなやり取りの末、初デートの予定が立った。
家族に駅で待ち合わせしていることを話すと、「駅まで送っていこうか?」と蒼兄とお父さんが申し出てくれた。けれど、それは丁重に断わる。
デートのために待ち合わせをして、ドキドキしながらそこまでひとりで行きたかったのだ。でも、そのままを答えるのは恥ずかしくて、「バスに乗りたいの」とそれらしい理由を口にした。すると、
「でもさ、待ち合わせ時間が決まってるんだから、司っちとバス停で一緒になるんじゃないの?」
それは考えていなかった……。
「一本早いバスに乗ったら大丈夫かな?」
「……ふ~ん、そこまでして駅で待ち合わせしたいんだ?」
唯兄はにやにやと笑いながら寄ってきた。私は恥ずかしくなって、
「唯兄の意地悪っ」
言って自室に篭ってしまった。
「意地悪意地悪意地悪意地悪……」
ブツブツ言いながら、ベッドに置いてあったクッションをポスポスと投げる。
「……待ち合わせ、なんだか憧れるんだもの……」
言いながら、今度は投げたクッションを回収してベッドへ戻す。
「何を着ていこう……?」
ツカサはどんな洋服を着てくるのかな……。
少し想像するだけで、頬が熱を持つ。
どうしよう……私服姿を目にして藤の会のときみたいなことになったら――
ツカサの制服姿には免疫ができたと思う。部活のときに着ている道着姿もだいぶ見慣れた。でも、私服姿は見慣れた、という感覚がない。
勉強会や会食で見かける私服姿は何パターンかに決まっているし、去年の夏、お見舞いに来てくれていたときは大半が制服で、たまに私服、という感じだった。
「どうしよう、楽しみすぎて今夜眠れないかも……」
その前に、着ていく洋服を決めなくちゃ……。
クローゼットを開いてラグに座り込む。
秋斗さんとデートをしたときは濃紺のワンピースを着たのよね……。でも、今回は背伸びをする必要はない。強いて言うなら、ルームウェアっぽいものはやめよう。
チュニックにレギンス、というスタイルはルームウェアの定番。でも、そのほかのものといってもワンピースばかりだ。そのどれもがツカサの前で着たことがあるもの。クローゼットの中にあるもので、ツカサの前で着たことがないワンピースは三着。そのうちの一着はとても丈が短い黒のワンピース。
「……去年の誕生日プレゼントに買ってもらったワンピースだけど、まだ一度も着てない」
しかし、これを着ていく勇気はない。
コンコンコン――
「はい……?」
「リィ、まだ怒ってる?」
「……怒ってないよ」
横着をして座ったままドアを開けると、唯兄が「ごめんなさい」の顔でトレイを持っていた。
「これ、お詫びのお茶」
唯兄だけかと思ったら蒼兄も一緒だった。トレイにカップが三つ載っているということは、ここでティータイムにするつもりなのだろう。
ふたりは部屋に入ると、クローゼットにかけてある洋服に釘付けになった。
「明日それ着ていくのっ!?」
「それを着ていくのかっ!?」
ふたりが、「それ」と指差したのは黒いミニスカワンピース。
「……まさか。これを着ていく勇気はないよ。ワンピースを全部出して見ていただけ」
苦笑しながら問題のワンピースをクローゼットへ戻す。と、ふたりは心底ほっとした顔をした。
「で? 何着ていくの?」
唯兄に改めて訊かれ、悩んでいることを打ち明ける。
「チュニックにレギンス、ってスタイルだけはやめようと思って」
「あぁ、普段着てるルームウェアっぽいもんね」
「そうなの」
そこで再度並べたワンピースに目を向ける。
残りの二着は、今年の誕生日に唯兄と蒼兄がプレゼントしてくれたワンピースだった。
唯兄がプレゼントしてくれたのは、首周りがラウンドカットでハイウェスト切り替えのワンピース。スカートの裾がチューリップのお花を上下ひっくり返したような形になっていて、遊び心のあるデザイン。けれども、生地の色がネイビーで白いパイピング、という組み合わせのため、落ち着いた印象を受ける。
蒼兄がプレゼントしてくれたのは、白地に細いブルーのストライプが入った麻のキャミソールワンピース。ウエスト部分には、共布で作られた細いベルトがある。
「どっちもかわいくて選べない……」
ワンピースを前に困っていると、
「どっちを選んでも文句なんて言わないよ」
蒼兄にクスクスと笑われた。
「使う予定のバッグや靴に合わせたら?」
唯兄に言われて、使う予定のバッグとサンダルを見てもらう。
バッグは長方形の籠バッグ。靴は、ヒール四センチの白い皮製のサンダル。どちらも、ふたつのワンピースに難なく合わせることができる。すると、
「明日はどこへ行くの?」
蒼兄に訊かれてツカサに話したことと同様のことを答えると、唯兄が素っ頓狂な声を上げた。
「なんでデートで楽器屋? 本屋? もっとそれっぽいところに行けばいいのに」
……やっぱり、デートには相応しくない場所なのだろうか。そもそも、デートってどこへ行くものなの?
不安に思い始めると、蒼兄の手が頭に乗った。
「そんな不安そうな顔する必要ないよ」
「蒼兄、デートって……どこへ行くものなの?」
「どこへ行くとは決まってない。決めるのは行く本人たち」
「蒼兄は桃華さんとどこへ行くの?」
「うーん……映画とかショッピング。たまに公園を散歩したりもするし、ドライブにも行く。その時々で違うよ」
蒼兄の話を聞いていると、唯兄が右にかけてあるワンピースを手に取った。それは蒼兄がプレゼントしてくれたワンピース。
「街中に行くならフレアスカートのキャミワンピ、このくらいラフな感じがいいかもね。俺がプレゼントしたほうは、ちょっとかしこまったレストランやホテルでも通用する系。仕事に行くときにでも着ればいいし」
唯兄は言いながらクローゼットを物色し始める。
「夏とは言っても建物の中に入ったら寒いかもしれないし、上にカーディガンかシャツを羽織ったほうがいいと思うんだけど……」
「あ、それなら……」
チェストにしまってあったオフホワイトのカーディガンを取り出す。
「あ、いいじゃんいいじゃん。モモンガカーディガンってかわいいよね」
「おかしくない?」
ふたりに尋ねると、蒼兄は「文句なしにかわいい」と言ってくれ、唯兄は「かわいくないわけないじゃん」と太鼓判を押してくれた。
私は明日の服装が決まったことにほっとした。
「リィはジーパンとかはかないの? フルレングス、サブリナ、クロップド丈、なんでも似合いそうなのに」
「そういえば、翠葉がはいているとこ見たことないな。パンツスタイル嫌い?」
唯兄と蒼兄の視線を受けて、首を傾げる。
「嫌いと思うほどはいたことがない、かな……。なんとなくいつもスカート……というかワンピースに手を伸ばしちゃうから」
「よっし、今度リィの洋服を買いに出かけようよっ!」
「えっ!? 誕生日にプレゼントしてもらったばかりだよっ!?」
「今回プレゼントした洋服はそれ相応の値段だったけど、もっと安いやつ。プチプラファッション的なさ!」
唯兄は私の部屋を出ていくと、数冊の雑誌を持って戻ってきた。
唯兄が手にしていた雑誌はファッション雑誌。しかも女性もの……。
「……どうして唯兄が女性雑誌を読んでいるの?」
「ん? リィの誕プレ買うのに市場リサーチしてたから?」
雑誌にはたくさんの付箋が挟まっていて、私たちはお茶を飲みながら、唯兄のファッション談議を聞いて過ごした。
遠出するわけではないけれど、互いの自宅、またはマンション付近からは離れたところへ行く。
待ち合わせは藤倉駅の北口、時計台の下に十一時。
どうして駅での待ち合わせになったかというと――
「翠、今何か欲しいものある?」
ツカサに訊かれたのは五月末のことだった。
「欲しいもの……?」
「誕生日プレゼント、まだ用意してないから、何かあれば参考にしたいんだけど」
誕生日プレゼント……何か欲しいもの……。
ふたつのキーワードに、二ヶ月前のことを思い出す。
ツカサの誕生日前、私も同じようなことをツカサに訊いた。でも、ツカサは「とくにないけど」と答え、参考になるようなものは何も教えてくれなかった。結果、私はツカサがすでに持っているものをプレゼントしてしまったのだ。
……どうしよう。とっても答えたくない。
「……あのさ、欲しいものを尋ねただけでなんでむくれるわけ?」
「だって……私も同じことを訊いたけど、ツカサは教えてくれなかったもの」
「あぁ、そういうこと……。別に答えたくないなら答えたくないでかまわないけど」
仕返しじみたことを口にしたけれど、今欲しいもの、と訊かれても思い浮かぶものがないのだ。……でも、してほしいこと、したいことならある。
「ツカサ、ものじゃなくてもいい?」
「ものじゃなければ何?」
ツカサは心底不思議そうな顔をしていた。
「あのね、プレゼントはいらないから、その代わりにデートして?」
思い切って口にしたのに、ツカサは眉間にしわを寄せた。
「なんでプレゼントとデートが引き換えになっているのか知りたいんだけど」
「え……? だって、どっちもは欲張りすぎでしょう?」
「……誕生日くらい欲張っても罰は当たらないと思う」
「……そうかな?」
私が考え込む前に、ツカサは話題を先につなげた。
「どこか行きたい場所があるとか?」
「あ、えと……楽器屋さん? それから、本屋さんっ。それから……雑貨屋さんっ」
「……楽器屋って、前に行ったところ?」
「うん」
「本屋は駅ビルの中の?」
「うん。雑貨屋さんはウィステリアデパートの中にあるのだけど……だめ?」
「だめじゃないけど……」
ツカサの視線は呆れているように見える。
「……おかしい?」
「おかしいとは言わないけど、誕生日のお祝いじゃなくても行ける場所だとは思う」
ツカサにとってはそうかもしれない。でも、私にとっては違う。
友達とどこかへ出かけるなんてしたことがないし、好きな人とお買い物やお出かけをするのは特別なことだ。
「ほかに行きたいところは?」
急に訊かれても、提示できる場所がない。それを察したのか、
「じゃ、待ち合わせは――」
「藤倉の駅っ」
またしても、不思議そうな視線を向けられた。
「なんで駅……?」
「……待ち合わせ、したい」
「マンションのエントランスであっても、待ち合わせは待ち合わせだと思うけど?」
「……違うもの。駅がいい……」
「……わかった。じゃ、駅の時計台に十一時」
「十一時……?」
「昼時で混む前にランチに行こう」
「……うんっ!」
こんなやり取りの末、初デートの予定が立った。
家族に駅で待ち合わせしていることを話すと、「駅まで送っていこうか?」と蒼兄とお父さんが申し出てくれた。けれど、それは丁重に断わる。
デートのために待ち合わせをして、ドキドキしながらそこまでひとりで行きたかったのだ。でも、そのままを答えるのは恥ずかしくて、「バスに乗りたいの」とそれらしい理由を口にした。すると、
「でもさ、待ち合わせ時間が決まってるんだから、司っちとバス停で一緒になるんじゃないの?」
それは考えていなかった……。
「一本早いバスに乗ったら大丈夫かな?」
「……ふ~ん、そこまでして駅で待ち合わせしたいんだ?」
唯兄はにやにやと笑いながら寄ってきた。私は恥ずかしくなって、
「唯兄の意地悪っ」
言って自室に篭ってしまった。
「意地悪意地悪意地悪意地悪……」
ブツブツ言いながら、ベッドに置いてあったクッションをポスポスと投げる。
「……待ち合わせ、なんだか憧れるんだもの……」
言いながら、今度は投げたクッションを回収してベッドへ戻す。
「何を着ていこう……?」
ツカサはどんな洋服を着てくるのかな……。
少し想像するだけで、頬が熱を持つ。
どうしよう……私服姿を目にして藤の会のときみたいなことになったら――
ツカサの制服姿には免疫ができたと思う。部活のときに着ている道着姿もだいぶ見慣れた。でも、私服姿は見慣れた、という感覚がない。
勉強会や会食で見かける私服姿は何パターンかに決まっているし、去年の夏、お見舞いに来てくれていたときは大半が制服で、たまに私服、という感じだった。
「どうしよう、楽しみすぎて今夜眠れないかも……」
その前に、着ていく洋服を決めなくちゃ……。
クローゼットを開いてラグに座り込む。
秋斗さんとデートをしたときは濃紺のワンピースを着たのよね……。でも、今回は背伸びをする必要はない。強いて言うなら、ルームウェアっぽいものはやめよう。
チュニックにレギンス、というスタイルはルームウェアの定番。でも、そのほかのものといってもワンピースばかりだ。そのどれもがツカサの前で着たことがあるもの。クローゼットの中にあるもので、ツカサの前で着たことがないワンピースは三着。そのうちの一着はとても丈が短い黒のワンピース。
「……去年の誕生日プレゼントに買ってもらったワンピースだけど、まだ一度も着てない」
しかし、これを着ていく勇気はない。
コンコンコン――
「はい……?」
「リィ、まだ怒ってる?」
「……怒ってないよ」
横着をして座ったままドアを開けると、唯兄が「ごめんなさい」の顔でトレイを持っていた。
「これ、お詫びのお茶」
唯兄だけかと思ったら蒼兄も一緒だった。トレイにカップが三つ載っているということは、ここでティータイムにするつもりなのだろう。
ふたりは部屋に入ると、クローゼットにかけてある洋服に釘付けになった。
「明日それ着ていくのっ!?」
「それを着ていくのかっ!?」
ふたりが、「それ」と指差したのは黒いミニスカワンピース。
「……まさか。これを着ていく勇気はないよ。ワンピースを全部出して見ていただけ」
苦笑しながら問題のワンピースをクローゼットへ戻す。と、ふたりは心底ほっとした顔をした。
「で? 何着ていくの?」
唯兄に改めて訊かれ、悩んでいることを打ち明ける。
「チュニックにレギンス、ってスタイルだけはやめようと思って」
「あぁ、普段着てるルームウェアっぽいもんね」
「そうなの」
そこで再度並べたワンピースに目を向ける。
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唯兄がプレゼントしてくれたのは、首周りがラウンドカットでハイウェスト切り替えのワンピース。スカートの裾がチューリップのお花を上下ひっくり返したような形になっていて、遊び心のあるデザイン。けれども、生地の色がネイビーで白いパイピング、という組み合わせのため、落ち着いた印象を受ける。
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「どっちもかわいくて選べない……」
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「どっちを選んでも文句なんて言わないよ」
蒼兄にクスクスと笑われた。
「使う予定のバッグや靴に合わせたら?」
唯兄に言われて、使う予定のバッグとサンダルを見てもらう。
バッグは長方形の籠バッグ。靴は、ヒール四センチの白い皮製のサンダル。どちらも、ふたつのワンピースに難なく合わせることができる。すると、
「明日はどこへ行くの?」
蒼兄に訊かれてツカサに話したことと同様のことを答えると、唯兄が素っ頓狂な声を上げた。
「なんでデートで楽器屋? 本屋? もっとそれっぽいところに行けばいいのに」
……やっぱり、デートには相応しくない場所なのだろうか。そもそも、デートってどこへ行くものなの?
不安に思い始めると、蒼兄の手が頭に乗った。
「そんな不安そうな顔する必要ないよ」
「蒼兄、デートって……どこへ行くものなの?」
「どこへ行くとは決まってない。決めるのは行く本人たち」
「蒼兄は桃華さんとどこへ行くの?」
「うーん……映画とかショッピング。たまに公園を散歩したりもするし、ドライブにも行く。その時々で違うよ」
蒼兄の話を聞いていると、唯兄が右にかけてあるワンピースを手に取った。それは蒼兄がプレゼントしてくれたワンピース。
「街中に行くならフレアスカートのキャミワンピ、このくらいラフな感じがいいかもね。俺がプレゼントしたほうは、ちょっとかしこまったレストランやホテルでも通用する系。仕事に行くときにでも着ればいいし」
唯兄は言いながらクローゼットを物色し始める。
「夏とは言っても建物の中に入ったら寒いかもしれないし、上にカーディガンかシャツを羽織ったほうがいいと思うんだけど……」
「あ、それなら……」
チェストにしまってあったオフホワイトのカーディガンを取り出す。
「あ、いいじゃんいいじゃん。モモンガカーディガンってかわいいよね」
「おかしくない?」
ふたりに尋ねると、蒼兄は「文句なしにかわいい」と言ってくれ、唯兄は「かわいくないわけないじゃん」と太鼓判を押してくれた。
私は明日の服装が決まったことにほっとした。
「リィはジーパンとかはかないの? フルレングス、サブリナ、クロップド丈、なんでも似合いそうなのに」
「そういえば、翠葉がはいているとこ見たことないな。パンツスタイル嫌い?」
唯兄と蒼兄の視線を受けて、首を傾げる。
「嫌いと思うほどはいたことがない、かな……。なんとなくいつもスカート……というかワンピースに手を伸ばしちゃうから」
「よっし、今度リィの洋服を買いに出かけようよっ!」
「えっ!? 誕生日にプレゼントしてもらったばかりだよっ!?」
「今回プレゼントした洋服はそれ相応の値段だったけど、もっと安いやつ。プチプラファッション的なさ!」
唯兄は私の部屋を出ていくと、数冊の雑誌を持って戻ってきた。
唯兄が手にしていた雑誌はファッション雑誌。しかも女性もの……。
「……どうして唯兄が女性雑誌を読んでいるの?」
「ん? リィの誕プレ買うのに市場リサーチしてたから?」
雑誌にはたくさんの付箋が挟まっていて、私たちはお茶を飲みながら、唯兄のファッション談議を聞いて過ごした。
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