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第21章 聖魔大戦編・悪魔姫の復讐

401話 それでも…… その1

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「神能・付与ノ神」

 ヤツが、魔神レフィーがそう告げた瞬間。
 それまで考えていた事が、思考が全て吹き飛んだ。

「ふふっ!」

「ッ~! がぁっ!?」

 ァァァァアッ!  頭が割れるっ!!
 何だコレは!  一体何が起きた!?

「イヤァァァァアッ!!!」

「っ……」

 リナっ!  クリスも……よくもっ!!

「グゥ……」

 この凄まじ頭痛は、恐らくヤツの、仕業……くそっ!  思考がまとまらないっ!!
 私が!  勇者である俺がヤツを!  魔神を倒さないとダメなんだ!!

「あぁぁぁっ!!」

 っ!!  アナスタシア様までっ!!

「ガァぁぁっ!!」

 動け!  喉が裂ける程声を上げて己自身を叱咤しろ!
 何をされたのかは分からない。
 だけど、何をされたのかなんて関係無いっ!!

「あはっ!」

 ヤツは、魔神レフィーは危険すぎる!!
 何としてでも、今ここでヤツを止め……

「っ!!」

 頭痛が和らいだ?
 いや、まだ余韻のように割れるような激痛はあるけど、脳が焼き切れるような筆舌に尽くし難い程では無くなった。
 いや、それよりも……

「なん、だ?」

 脳裏に焼き付くようなこの光景は、一体……

「コレ、は……」

 激しい痛みを訴えかけてくる頭の中で、知らない光景が……私の知らない記憶と感情が、まるで私自身がその場にいたかのように。
 昔の事を思い出したかのように、鮮明に浮かび上がってくる……

 嬉しい思い出、時には叱られて、それでも大好きな温かな優しい家族。
 楽しかった、家族達と過ごした幼少期。

 王子の……私の婚約者になってからの厳しい。
 いや、幼い子供に大人でも虐待としか考えられない程に厳しすぎる王子妃教育に王妃教育を受けながらも国のために、婚約者である私の隣に相応しい人間になるために死に物狂いで努力した。
 辛くも、充実した日々。

「まさか……」

 これは魔神レフィーの、彼女の記憶なのか?
 魔王の復活と、勇者となった私を後方で支援する激動の日々。
 そして……聖女であるリナの召喚を突然王宮からの使者に知らされる。

 あの時は切羽詰まった状況だったとは言え、事後報告に加えて直接説明しに行くのでも無く使者を遣わせたのは少し誠意に欠ける行動だった。
 使者から伝えられた聖女召喚の報を内心動揺しながらも彼女は、使者から伝えられた国王の命に従い各国への通達の準備を始めた。

 それからも前線で戦う私達が必要な物資を調達するための交渉に、私達が休むための休憩場所の用意などの後方支援。
 各地で戦う部隊への指示を出し、王妃教育の一環として任されている公務に加えて、前線に出ている私の分の公務をこなす。
 寝る時間も殆ど無い、想像を絶する激務の日々が過ぎ……


『君には申し訳ないが、聖女であるリナを正妻とする』


 戦いが終わり、王都へと凱旋した婚約者。
 魔王が討伐されても様々な後処理などの激務で疲労困憊の中、出迎えた私から淡々と告げられた無情な言葉。

「……っ!」

 何でも無い事だと、大した事では無いと思っていた。
 私と彼女の婚約は政略結婚、魔王との戦いの旅を通して私は恋に落ち、リナを愛した。
 だから彼女も政略の相手である私では無く、好きな者と、ここから愛する者と一緒になって欲しいと……

 しかし、これは……!  昔は考えが至らなかったが、親の立場になった今ならわかる。
 王子から婚約を破棄された令嬢がどのような目で周囲から見られるのかは想像に難く無い。
 しかもその王子が魔王を討伐した勇者、英雄と称えられた私となれば……

「こんな……」

 人知れず……裏方で身を粉にして魔王を倒す事に貢献してくれた彼女に何て事を!
 いや、人知れずでは無い、私が知らなかっただけか……私は、婚約者だった彼女に何て仕打ちをっ……!

「こんなつもりじゃ……」

 筆頭公爵家の令嬢とは言え、付与しか使えない無能などと陰口を言われる事も少なく無かった彼女が英雄と持て囃される私の言葉に逆らえるはずも無い。

 その上、本来ならば王命である婚約はそう簡単に破棄できないが、聖女であるリナを他国に取られたく無い前王である父上や国の上層部も私の意志を支持する意向を示した。

 国内随一の勢力を誇る筆頭公爵家が国王と国上層部の正式な決定に抗議してすれば魔王との戦いで疲弊した国に更なる混乱を齎す事となる。

 半生を無駄にされた悔しさを口にするわけにもいかず、引き下がるしか道の無かった彼女は私の仕打ちを粛々と受け入れた。
 そして数日後、私との婚約を破棄正式に破棄する手続きをするために召喚に従って王宮に出向き……


『きゃぁっ!!』


 偶然出会したリナが突然悲鳴をあげながら目の前で倒れ込み、即座に駆け込んできた騎士達によって混乱している内に捕縛された。
 何か不穏な視線を感じて不安だと言うリナの進言を受けて、貴族からの反発や、聖女であるリナの身を狙う者達からリナを守るために私が付けた騎士達に……

 そしてとても御令嬢に対するものとは思えない程に乱雑に取り押さえられた彼女を見下ろす嫌悪と憎悪を宿した冷たい私の視線。
 事情聴取や取調べすら行われる事なく、地下牢に繋がれた。

「っ!!」

 あり得ない……!
 公爵令嬢、それも筆頭公爵家の令嬢だと言うのに普通なら下級貴族ですら入る事なんて考えられない地下牢に?  何故……


『その女を地下牢に放り込んでおけ』


 私だ。
 サッと血の気が引いていく。
 私が騎士達に命じたから、彼女は地下牢につながれる事になったんだ……
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