上 下
398 / 436
第21章 聖魔大戦編・悪魔姫の復讐

398話 無力な勇者 その2

しおりを挟む
「ふふっ、あはっはっはっ!!」

 静まり返った戦場に響き渡る魔神レフィーの嗤い声が遠くで聞こえる。
 私達の……俺達の目の前に広がる理解の範疇を超えた光景。

 どこか現実感の無い、まるで夢の中にでもいるかのような感覚に襲われる。
 ただ愕然と見つめる先…… どこまでも続く抉れた地面、地平線の彼方まで続く平地。

「……」

 目の前に広がっていたハズの山々が。
 この大陸を東西で分断していた大山脈が……消滅した。

「うそ、何コレ……」

 隣でリナが愕然と呟く。
 まぁその気持ちはよくわかる。
 俺……私だって目の前に広がるとこの光景を、この現実をまだ飲み込めて無い。

 ほんの一瞬だった。
 魔神レフィーが放った漆黒の一撃。
 まるで視覚と聴覚が無くなったかのように視界が真っ黒に塗り潰され、一瞬世界から音が消えた。

 何でも無いように、魔神レフィーが軽く手を翳し……大山脈が消滅して次の瞬間には地形が変わっていた。
 あの身の毛もよだつような圧倒的なエネルギー、絶対的な死を感じさせる莫大な力の塊……

 嫌でも理解できた、強制的に理解させられた。
 私達では魔神レフィーには勝てない。
 それどころかアナスタシア様に加勢して彼女と戦う事すら……

「っ……!」

 くそっ!  この場にいても私達にできることは何も無い……私は無力だ。

「ふふ」

 女神アナスタシア様すら圧倒する魔神レフィーと私達とでは生物としての格が違う。
 実力の次元が違い過ぎる。
 これが神と呼ばれる存在の力……

「ぅ……」

「っ!」

 アナスタシア様……っ!

「あはっ!  おめでとう」

 くそっ!  私は何をやっている!!
 アナスタシア様が傷だらけになりながらもお1人で戦っていらっしゃるのにノアール・エル・アルタイル、お前はここでただ見ているだけか!?

「〝平伏せ〟」

「ぐっ!?」

 魔神レフィーが傷だらけのアナスタシア様を冷たく見下ろしながら淡々と命じ、アナスタシア様が顔を歪めて苦悶の声を溢す。
 アレは……私達の時と同じだ。

 動け!  動け!  動け!!
 私は勇者!  我々のためにたった1人で傷だらけになりながらも魔神レフィーと戦ってくれているアナスタシアの危機に動けなくて何が勇者だ!!
 アナスタシア様、今助けに……

「アナスタシア、お前は私に、罪を償えと、悔い改めろと言った」

「っ!!」

 魔神レフィーがチラッとこちらに視線を寄越しただけで。

「くそっ……!!」

 ほんの一瞬、目が合っただけで身がすくむ、一歩踏み出した足が、これ以上動かない……!

「ふざけるな。
 お前が、お前達が私に何をしたのかを……お前達の罪を教えてやる!」

 ふざけているのはお前だ!
 罪を教えてやるだと?  アナスタシア様が、私達が何をした!?
 魔神レフィー、お前のしている事は逆恨み以外の何物でもない。

 お前のせいで!  この戦争のせいで、一体どれだけの人々が苦しんでいると思っている!?
 どれだけの人が命を落とし、どれだけの人々が悲しんでいると!!

 私が魔神を撃ち倒さなくて誰がヤツを倒す!
 この世界の命運を、人類の命運を背負った勇者である私がヤツを……

「神能・付与ノ神」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

処理中です...