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第20章 聖魔大戦編

384話 静かな怒り

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「くっ……」

 吹き荒れる膨大なエネルギー。
 叩き付けられる魔力の奔流。
 一瞬でも気を抜けば意識を持っていかれて、全身がバラバラになりそうだ。

「はは……クソッ!」

 勇者であるこの私が、地面に伏して耐え凌ぐ事しかできないなんて。
 救世の六英雄、人類最強なんて呼ばれてるのにこの様か……

「っ……攻撃が、止んだ?」

 何故急に魔神の攻撃が?
 いや、今はそれよりも!

「っ!  他の皆んなみんなはっ……!?」

「うぅ……」

「リナっ!!」

 よかった、リナも他の皆んなも無事のようだな。
 並の者なら死んでいてもおかしくないのに、ボロボロとは言えあの攻撃を受けて全員が無事とは。
 全く、皆んな流石だよ。

「くっ……」

 しかし、そんな皆んなをして、ここまで一方的に追い詰められるなんて。
 いや、そもそも何故ヤツはここまで私達を追い詰めておきながら攻撃を止めたんだ?

「ノ、ノア」

「リナ?  どうし……」

 な、何だ?

「あ、あれ……」

 リナが震える指で指し示す先。
 私達の頭上に……空中に悠然と佇む、色素の薄い金の髪に金色の瞳をした青年。

 リナも……いや、この場にいる全員が感じ取ってるみたいだな。
 あの人間離れした完成された美貌もだけど。
 何より、彼から感じるこの異様な圧。

 女神アナスタシア様のモノとも。
 魔神レフィーの押し潰されるような圧とも違う。
 ただそこに居るだけで、全身の毛が粟立つ……

 本能が畏怖して、自然と私が生物として彼よりも格下だと理解させられるような。
 自然と平伏したくなるような圧。
 そして何より、彼の腕に抱かれているのは……

「魔神レフィーっ!」

 気を失っているのか?
 一体何がどうなって……

「貴方は一体……」







 ***







 剣を杖にして立ち上がって、私に誰何してくる青年。
 彼がレフィーを裏切り、あんな仕打ちをした勇者ノアールですね。

 彼がやったレフィーへの仕打ちを思えば今この場で血祭りにしてやりたい所ですが……
 彼を含め、彼等はレフィーの獲物。

 勝手にレフィーの玩具を壊して怒られたり、嫌われたりしたくはありませんし。
 何より今はレフィーを休ませる必要がある。
 仕方ありませんね、ここは穏便に済ませるとしましょう。

「私の名はファルニクス。
 この世界の管理者の1人、竜神です」

「竜、神……」

「えぇ、下位、上位、古竜。
 全ての竜種ドラゴンの頂点に位置する竜の神です」

「なるほど……竜の神、竜神ですか。
 どうりで、これで貴方から感じる圧倒的な力にも納得できます」

 さてと、これで挨拶もすみましたし帰るとしましょう。
 今のレフィーを休ませるには、悪魔王国ナイトメアにあるレフィーの自室よりも私の神域の方が適している。
 シルヴィア達に言ってレフィーを休ませる準備を整えてもらわないと。

「お初に御目にかかります。
 我々は女神アナスタシア様に仕える五大熾天と申します、以後お見知り置きください」

「竜神ファルニクス様。
 貴方様のお噂は我らが主人より伺っております」

「お会いできて光栄です」

「すぐに天界にいらっしゃるアナスタシア様の元までご案内させていただきます」

 アナスタシア麾下の熾天使が何故私に向かって跪くのかも謎ですが。
 何故私をアナスタシアの元に案内する必要が?

『あぁ、それならアナスタシアがキミとは相思相愛だって天使達に言いふらしてるからだよ』

「……はぁ」

 昔散々、付き纏われましたが。
 まだ諦めて無かったとは。
 まぁ彼等の事は無視でいいでしょう、それよりも早く帰……

「竜、竜神様っ!
 あの、助けていただき、ありがとうございますっ!!」

「ん?」

 あれは聖女ですか。
 彼女は一体何を言って……

「私からも感謝を。
 魔神を止めていただき、ありがとうございます。
 しかし、貴方が腕に抱いている者は卑劣で危険な強大な悪魔です!
 気絶しているからと言って気を抜いてはなりません」

 卑劣な、悪魔……

「早く魔神をこちらに、これ以上被害が出る前に私達全員で速やかに始末します。
 竜神ファルニクス様、貴方にもお力を貸していただきたいっ!」

「ふっ、ふふふ……」

 まさかこの私にレフィーを殺すために手を貸せと言ってくるとは。

「ファルニクス様?」

「黙れ、人間」

「「「「「「「「「「っ!!!」」」」」」」」」」

「レフィーが卑劣で危険な悪魔?
 レフィーを殺すために力を貸せ?  貴方達は私の事をバカにしているのですか?」

「ファ、ファルニクス様、一体何を……」

「何故レフィーが普段、全くと言っていい程に笑う事が無いかわかりますか?」

「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」

「笑いたくても、笑えないからです」

 それ程までにレフィーを追い詰めた奴らが、事もあろうにレフィーの事を卑劣呼ばわりとは笑わせてくれます。

「レフィーはいつも眷属の誰かと共に眠ります。
 何故レフィーが、いつも必ず誰かと一緒に寝ているのかわかりますか?
 何故よく眠たそうにしているのか、わかりますか?
 1人だとかつての悪夢でまともに眠れず、眠れてもその眠りが浅いからです」

 それ程までにレフィーのココロに、魂に恐怖を刻み込んだ者共が……

「勇者ノアール、貴方はかつて淑女の鏡とまで言われたレフィーの事を知っていますね?」

「っ……」

「何故そんなレフィーがいつも自堕落に過ごしているのか。
 子供のように無邪気に振る舞っているのかわかりますか?
 レフィーの中で荒ぶる、この小さな身体では抑え切れないほどの憎悪の衝動に駆られて世界を焦土に変えてしまわないためです」

 レフィーが危険?
 可能な限り、無関係な人間達を。
 この世界に住む者達を巻き込まないように憎悪に身を焦しながらも耐えているのに?

「聞け、人間達よ。
 レフィーは優しい、お前達がレフィーに敵対しないのならば死ぬ事は無い。
 貴方達に……敵に対峙する時のレフィーは普段は抑え込んでいる狂うほどの憎悪を露にしているだけです。
 しかし……」

 貴方達が……

「レフィーを貶め、これ程までに追い詰めたお前達が、これ以上レフィーを卑劣で危険な悪魔だと……レフィーを悪し様に罵り、侮辱するのならば。
 私がこの手で世界を焦土と化して、貴様らを皆殺しにしてやろう」
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