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第16章 若き探求者編

281話 知らなくてはならない

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 私は物心ついた頃から常に天才と呼ばれてきた。

「フィル様?」

 婚約者であるエリーと繋いでいた手に思わず少し力が入ってしまった。
 キョトンとしてるエリーも可愛いけど、これから向かう先は魔王が住う城。
 気を引き締めないと。

「ごめん。
 何でもないよ」

 王城に務める多くの使用人達。
 社交会を華やかに飾る貴族。
 家庭教師を務めている先生方。
 王都ペイディオや他の街や村で生活する多くの国民達。

 天才だと呼び讃える。
 勉学、剣術、魔法。
 父上と母上に、かつて両親とともに魔王と呼ばれる存在を打倒した父母の友である4人の英雄ですら私の才を認めて褒め称える。

 そんな私でも六英雄が1人、大賢者マリアナ様が設置したこの転移魔法陣を使わないと使用できない。
 未だに自力で使う事ができない程に高位かつ高難易度の転移魔法。

 転移魔法を自由に使用する事ができるのは、私が知っている中では大賢者マリアナ様と父上と母上の3人のみ。
 そんな転移魔法を瞬時に、何の前触れもなく発動して私とアリーの前から姿を消した銀髪の美しい少女……

「いよいよ、ですね」

 転移魔法陣が眩く光り輝き、現れるは白い輝きを放つ開け放たれた両開きの扉。

「うん……」

 あの銀髪の少女が去り際に言い残した、5年前のことを調べると良い、と言う言葉。
 その言葉通り、私とアリーは帰国後すぐに過去に起こった事について調べた。

 私達のように幼い子供でも当然のように知っている出来事。
 しかし、調べるに連れて浮き上がる違和感と数々の矛盾。
 父上達に話を聞こうとしたけど、結局はそれも六柱の魔王の出現によって有耶無耶になった。

 私達は、いや勇者ノアールと聖女リナの子供である私は知らなくてはならない。
 あの自らを悪魔だと名乗った少女のことを。
 そして彼女が去り際に言い残した5年前、今からでは6年前に起こった出来事の真実を……

「フィル様……大丈夫です!
 確かに事前に知らせもなく押しかけるのはマズイですけど、獣王国とは国交もあります。
 きっと大丈夫です」

「……ふぅ」

 全く、何が天才だ。
 これから向かうのは魔王が一柱、獣魔王レオンの居城。
 アリーが不安に思うのは当然だ。

 そんな事も察する事ができず。
 本当なら私がアリーの不安を払ってあげないとダメなのに、考え込んで黙り込んだ上に、不安でいっぱいなハズのアリーに励まされる始末。

「ふふ……」

「フィ、フィル様?」

「ありがとう、アリー」

「は、はいっ!」

「さぁ、行くよ!」

 アリーをエスコートしつつ、転移門を潜り抜け……

「フィル様」

「これは……」

 あの転移魔法陣に登録されていた座標は、獣魔王レオンの居城の中庭だったハズ。
 なのに、ここは……

「クックック」

「「っ!」」

 笑い声の先。
 そこにいるのは、数段高くなった場所にある玉座に当然のように腰掛ける存在。

「我が城へようこそ」

「獣魔王レオン……」

 やっぱり、ここは謁見の間。
 転移魔法陣の登録座標を変えるなんて、どうやったのかは分からないけど。
 流石は魔王と言う事か。

「それで?」

「「っ!?」」

 何もしていないハズなのに。
 獣魔王レオンが軽く目を細めただけで、一気に押し潰されそうになる程の重圧が……!

「先触れも無く、何の用だ?」
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