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第9章 魔王誕生編
158話 魔神のゲーム
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「……」
長身の青年。
高い背丈に分厚い胸板、騎士の制服に身を包めば似合うだろう美丈夫。
救世の六英雄の一人にして世界最強の冒険者と名高いSランク冒険者。
冒険王と呼ばれるガスターは豪華絢爛な空間にて自身のために用意された席に腰掛ける。
その姿にいつものガスターが纏っている覇気の様な溢れんばかりの自信と、その実力に裏打ちされた力強さは存在せず。
強い意志を感じさせる視線は僅かに伏せられ、端正な顔に影を落としていた。
「ふふふ、そんなに思い詰めた顔をして……明日は雪でも降るのかしら?」
そんなガスターに冗談めかして微笑みかけるは、それぞれ魔塔を有する15の都市からなら魔法大国。
五大国が一角である魔法都市連合王国の頂点に立つ美貌の魔女、大賢者マリアナ。
「確かに、マリアナの言う通りですね。
貴方にそんな顔は似合いませんよ?」
「そうそう! 状況が状況だし、いくらガスターでも撤退するのは仕方ないよ。
だからそんなに気にしなくて良いって!」
アナスタシア教国における国王の地位である教皇。
若くしてその地位に君臨する教皇クリスが柔らかな笑みを浮かべてガスターの肩に手を置く。
そんなクリスの言葉に同意する少女。
武と礼節を尊び、実力を第一とする実力主義国家、ヴァリエ騎士王国。
五大国に比べ国土は劣るものの、保有戦力で言えば五大国にも引けを取らない準大国。
そんなヴァリエ騎士王国において女性の身でありながら史上初めて王の地位に着いた、まだ幼さすら残す若き天才。
クリスの聖騎士としての師でもある聖騎士王、姫騎士フェリシアが暗い空気を吹き飛ばす様に明るく笑う。
「皆んなの言う通りだよ。
そもそも、数十体もの悪魔の軍勢なんて、ガスターじゃ無かったら撤退する事すら不可能だったろうしね。
とにかく、ガスターが無事でよかった」
「ノアの言う通りだよ!
本当にガスターが無事でよかったわ!!」
勇者にして超大国、アルタイル王国の国王であるノアールが穏やかに微笑み。
ノアールの妻、アルタイル王国が王妃にして聖女でもあるリナが僅かに涙目になりながらも安堵の笑みを浮かべる。
そんな思い詰めた顔を、暗い顔をしている自分を慰めようと。
元気付けようとしている仲間達の。
聖女リナの姿に伏せていたガスターの視線が持ち上がり、口元には笑みが浮かぶ。
「ふっ……そうだな」
ガスターの脳裏に過るのは数日前の光景。
かつて無実の罪で殺され、世界を憎悪して悪魔に転生した存在。
悪魔の神……魔神を名乗る一人の少女の圧倒的な力の前に手も足も出ず。
ただ自分をオモチャに遊ぶ少女に完膚無きまで完全に敗北し。
あまつさえ、唯一の肉親が。
例え外道に堕ちても、下衆なクズに成り下がっても守りたかった妹が。
暴力を振りかざされ。
目を覆いたくなる様な凄惨な拷問を受け。
醜いオークやゴブリン共に犯される。
狂う事も、死ぬ事も許されず。
目の前で泣き叫び、赦しを乞い、助けを求める妹を何もできずにただ見ている事しかできない地獄……
「確かにお前らの言う通り、くよくよ考えるなんて俺の柄じゃねぇ」
そう、いくら考えたところで既にやる事は決まっている。
数十の悪魔の軍勢から撤退した……違う。
撤退したのでなく解放されただけだ。
3日前、悪魔に……世界の全てを憎悪する美しい少女のような魔神によって施行された、まさしく神話で語られる人の領域を超越した魔法。
その魔法の制約によって言動を縛られた上で解放されただけだ。
「よし、じゃあ時間になったし……各国の王達との緊急国家会議を始めようか」
ノアールの言葉に円卓に着いていた仲間達、救世の六英雄と呼ばれる皆んなが頷き。
魔道通話によって誰も座っていない円卓の席に各国国王達の姿が浮かび上がる。
「では、これより緊急国家会議を開始する。
議題はもちろん、悪魔を王とする魔国……悪魔王国についてだ。
じゃあガスター、潜入調査の結果報告を頼むよ」
「あぁ、わかった」
言動を縛られたとは言え、制約が課せられたのは細々としたモノはあるものの主に魔神についての言動のみ。
悪魔王国について正式な報告をする事も、再び敵対する事も禁じられてはいない。
これはただの暇つぶしだ。
人類を、世界を憎悪する……まさしく超越者と言える圧倒的な力を誇る魔神の遊び。
今できる事はただ一つ……この場で報告する情報を駆使して各国の王達に正しい選択を。
あの魔神と敵対しないと言う選択を選ばせる事。
「まず最初に言うが。
ハッキリ言ってヤツらの力は想像以上だ……」
「ふふふ、始まった」
遥か遠くの地、神話級の存在が当たり前のように存在する終焉の大地。
悪魔王国にて、その場を……秘匿された極秘会議である緊急国家会議の様子を覗いていた魔神が楽しそうに僅かに口元を綻ばせる。
魔神に……レフィー達に見られながら。
冒険王ガスターによる調査報告から、世界の……人類の行く末を左右する会議が幕を開けた。
長身の青年。
高い背丈に分厚い胸板、騎士の制服に身を包めば似合うだろう美丈夫。
救世の六英雄の一人にして世界最強の冒険者と名高いSランク冒険者。
冒険王と呼ばれるガスターは豪華絢爛な空間にて自身のために用意された席に腰掛ける。
その姿にいつものガスターが纏っている覇気の様な溢れんばかりの自信と、その実力に裏打ちされた力強さは存在せず。
強い意志を感じさせる視線は僅かに伏せられ、端正な顔に影を落としていた。
「ふふふ、そんなに思い詰めた顔をして……明日は雪でも降るのかしら?」
そんなガスターに冗談めかして微笑みかけるは、それぞれ魔塔を有する15の都市からなら魔法大国。
五大国が一角である魔法都市連合王国の頂点に立つ美貌の魔女、大賢者マリアナ。
「確かに、マリアナの言う通りですね。
貴方にそんな顔は似合いませんよ?」
「そうそう! 状況が状況だし、いくらガスターでも撤退するのは仕方ないよ。
だからそんなに気にしなくて良いって!」
アナスタシア教国における国王の地位である教皇。
若くしてその地位に君臨する教皇クリスが柔らかな笑みを浮かべてガスターの肩に手を置く。
そんなクリスの言葉に同意する少女。
武と礼節を尊び、実力を第一とする実力主義国家、ヴァリエ騎士王国。
五大国に比べ国土は劣るものの、保有戦力で言えば五大国にも引けを取らない準大国。
そんなヴァリエ騎士王国において女性の身でありながら史上初めて王の地位に着いた、まだ幼さすら残す若き天才。
クリスの聖騎士としての師でもある聖騎士王、姫騎士フェリシアが暗い空気を吹き飛ばす様に明るく笑う。
「皆んなの言う通りだよ。
そもそも、数十体もの悪魔の軍勢なんて、ガスターじゃ無かったら撤退する事すら不可能だったろうしね。
とにかく、ガスターが無事でよかった」
「ノアの言う通りだよ!
本当にガスターが無事でよかったわ!!」
勇者にして超大国、アルタイル王国の国王であるノアールが穏やかに微笑み。
ノアールの妻、アルタイル王国が王妃にして聖女でもあるリナが僅かに涙目になりながらも安堵の笑みを浮かべる。
そんな思い詰めた顔を、暗い顔をしている自分を慰めようと。
元気付けようとしている仲間達の。
聖女リナの姿に伏せていたガスターの視線が持ち上がり、口元には笑みが浮かぶ。
「ふっ……そうだな」
ガスターの脳裏に過るのは数日前の光景。
かつて無実の罪で殺され、世界を憎悪して悪魔に転生した存在。
悪魔の神……魔神を名乗る一人の少女の圧倒的な力の前に手も足も出ず。
ただ自分をオモチャに遊ぶ少女に完膚無きまで完全に敗北し。
あまつさえ、唯一の肉親が。
例え外道に堕ちても、下衆なクズに成り下がっても守りたかった妹が。
暴力を振りかざされ。
目を覆いたくなる様な凄惨な拷問を受け。
醜いオークやゴブリン共に犯される。
狂う事も、死ぬ事も許されず。
目の前で泣き叫び、赦しを乞い、助けを求める妹を何もできずにただ見ている事しかできない地獄……
「確かにお前らの言う通り、くよくよ考えるなんて俺の柄じゃねぇ」
そう、いくら考えたところで既にやる事は決まっている。
数十の悪魔の軍勢から撤退した……違う。
撤退したのでなく解放されただけだ。
3日前、悪魔に……世界の全てを憎悪する美しい少女のような魔神によって施行された、まさしく神話で語られる人の領域を超越した魔法。
その魔法の制約によって言動を縛られた上で解放されただけだ。
「よし、じゃあ時間になったし……各国の王達との緊急国家会議を始めようか」
ノアールの言葉に円卓に着いていた仲間達、救世の六英雄と呼ばれる皆んなが頷き。
魔道通話によって誰も座っていない円卓の席に各国国王達の姿が浮かび上がる。
「では、これより緊急国家会議を開始する。
議題はもちろん、悪魔を王とする魔国……悪魔王国についてだ。
じゃあガスター、潜入調査の結果報告を頼むよ」
「あぁ、わかった」
言動を縛られたとは言え、制約が課せられたのは細々としたモノはあるものの主に魔神についての言動のみ。
悪魔王国について正式な報告をする事も、再び敵対する事も禁じられてはいない。
これはただの暇つぶしだ。
人類を、世界を憎悪する……まさしく超越者と言える圧倒的な力を誇る魔神の遊び。
今できる事はただ一つ……この場で報告する情報を駆使して各国の王達に正しい選択を。
あの魔神と敵対しないと言う選択を選ばせる事。
「まず最初に言うが。
ハッキリ言ってヤツらの力は想像以上だ……」
「ふふふ、始まった」
遥か遠くの地、神話級の存在が当たり前のように存在する終焉の大地。
悪魔王国にて、その場を……秘匿された極秘会議である緊急国家会議の様子を覗いていた魔神が楽しそうに僅かに口元を綻ばせる。
魔神に……レフィー達に見られながら。
冒険王ガスターによる調査報告から、世界の……人類の行く末を左右する会議が幕を開けた。
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