上 下
137 / 436
第8章 悪魔姫の復讐・冒険王編

137話 潜入

しおりを挟む
「おいおい、マジかよ……」

 目の前に広がる光景に思わず唖然と声が漏れる。
 悪魔王国ナイトメアの名を聞くようになったのは一月程前からであり。
 事実、アクムス王国を下して国交を樹立したのも一月程前のハズなのだが……

「冒険者ギルドよりもデカイじゃねぇか!  本当にこれが悪魔王国の大使館なのかよ……?」

「何だ?  あんたフェニルに来るのは初めてなのか?」

「まぁな、それでお前は?」

「ん?  俺はここで連れと待ち合わせしてるだけの、ただのお忍び貴族さ。
 ここで名乗らない事は……まぁ、察してくれ」

 そう言って軽く肩をすくめる青年に、ガスターは苦笑いを浮かべながら青年の隣に並び立つ。

「お貴族様が護衛も無しにこんな場所にいてもいいのか?」

「それなら問題ない。
 今この大使館の前で問題を起こすようなバカはこの王都にはいないさ」

「ってぇと、やっぱりここが悪魔王国の?」

「あぁ、ここが魔国の大使館で間違いないよ。
 たった一夜の内に完成していた事もあって今じゃあこの通り、王都フェニルの観光名所の1つだ。
 まぁ、新国王をはじめ極一部の人しか足を踏み入れた事は無いけどな」

 僅かにスッと真剣味を宿したガスターの視線に、ただの貴族嫡男が気付けるハズもなく。
 その身に真偽を見抜くスキルを掛けられているとも知らずに、青年は多くの人で混み合っている周囲を軽く見渡しながら淡々と告げる。

「一夜でだと?」

「そう、一夜で。
 もともとこの場所には幾つかの商会の本部があったんだが、何やら前王とその派閥の貴族達と結託して色々やっていたみたいでな……」

 視線で続きを促すガスターに、青年は『仕方無い』と肩をすくめて見せる。

「前王が失脚すると即座に元々この場所にはあった商会は取り潰され。
 丁度大使館を建設するために土地を探していた悪魔王国に敗戦処理の一環として悪魔王国に割譲されたんだが……」

 そこで言葉を切った青年は頬を掻きながら苦笑いを浮かべる。

「まさか、次の日には既に元々あったハズの商館が初めから無かったかのように綺麗に消え去り。
 この光景になっているなんてね……」

「と、言われてもなぁ……」

「ま、気持ちはわかるよ?  俺も未だに信じ難いしな。
 しかし、これは紛れもない事実だよ……っと、どうやら連れが来たようだ。
 俺はこれで失礼するけど、まぁアクムス王国が世界に誇る王都フェニルを楽しんでくれよ?」

「あぁ、そうさせてもらうとするわ。
 助かったぜ、ありがとうな」

 遠くから駆け足気味に駆け寄って来た如何にもお忍びで王都を散策している御令嬢と言った感じの少女と合流し、背中越しに手を振りながら去っていく青年を見送り。
 ガスターは改めて周囲の街並みを見渡す。

「どうやら、ここが悪魔王国の大使館ってのは本当らしいが。
 邪悪な悪魔がよくもここまで溶け込んだもんだなぁ……」

 何の危機感もなく楽しげな。
 活気に溢れた王都フェニルの街並みを見ながら若干呆れたような苦笑いが浮かぶが、すぐさまニヤリと戦意に満ちた笑みに変わる。

「まぁ上手く騙せたとほくそ笑んでる悪魔共の化けの皮を、人々の前で剥がして本性を暴露してやるってのも面白ぇか」

 ノア達にもこれから敵地に潜入するって事は連絡済み。
 まぁ、万が一にもねぇだろうが、もしヤバイ事態に陥ったとしてもアレを使えば脱出は可能。

「さぁ、行くか。
 クックック、待っていやがれよ悪魔共……この俺が直々に見定めた上で完膚なきまでに潰してやる」

 救世の六英雄の名に相応しく、世界でもトップクラスの隠密スキルを発動し。
 賑わうアクムス王国が王都フェニルの人々の意識から外れたガスターは悪魔王国ナイトメアの大使館に足を踏み入れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

処理中です...