付与って最強だと思いませんか? 悪魔と呼ばれて処刑されたら原初の悪魔に転生しました。とりあえず、理想の国を創るついでに復讐しようと思います!

フウ

文字の大きさ
上 下
2 / 436
第1章 悪魔誕生編

02話 悪魔誕生

しおりを挟む
 静かな水の中を漂っているような、微睡の中にいるような不思議な感覚。
 ここはいったい何処で、どんな状況なんだろう?


『ぴろん!  個体名────の願いを確認……受諾されました。
 これより、記憶の整理を開始します』


 あぁ、そうか思い出した……私は……死んだんだ。
 私だけじゃない、お父様も、お母様も、兄様も、妹も、まだ赤ん坊だった弟も。
 優しかったメイドや執事、従者の皆んなも、相談に乗ってくれた親友も……皆んな死んだ。

 何で?  
 何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で……


『精神の異常を確認、鎮静化を実行します。
 個体名────は睡眠状態へ移行……処理を開始します』


 流れるように再生される記憶の数々。
 幸せだった小さい頃。
 殿下の婚約者になってからの王子妃教育、王妃教育で辛くも充実した日々。

 そして、強大な魔王の復活。
 空を埋め尽くす魔王の軍勢が進軍して来たのが12歳の時だった。
 アレから、全てが変わった。
 王都からは笑顔が消え、不安と恐怖から人々の心は荒んでいった。

 勇者である殿下……ノアール様は、そんな終わりの見えない暗闇の中にあって、人々を導き輝く希望の光。
 けど……ノアール様が勇者として選ばれてからも、強大な魔王を相手に戦況は劣勢。
 そして国王陛下達は、遂に禁忌に手を出してしまった……異世界召喚という禁忌に……


『処理が完了しました。
 続いて、新たな種族の創造申告へ移行……開始します』


 異世界召喚で現れたのは1人の少女。
 聖女と呼ばれる彼女の力は凄まじく、その神聖な邪を払う力によって劣勢だった戦況は瞬く間に巻き返す。

 聖女が召喚されてから僅か1年。
 私が14歳の時に魔王はノアール様達によって討ち倒され、世界には平和が戻った……ハズだった。

 いや、大多数の人にとっては、確かに平和は戻った。
 けど……その大多数に私は含まれていなかった。
 戻ってきた婚約者、勇者であるノアール様を出迎えた私が言われたのは……


 〝君には申し訳ないが、聖女であるリナを正妻とする〟


 別にそれでも構わなかった。
 私は多少魔法が得意なこと以外は、礼儀作法などをのぞいて付与と言う世間では無能やハズレと言われているスキルしか持っていない。

 そんな私よりも聖女である彼女の方が正妃に相応しい、私だって仮にも妃教育を受けてきた身。
 そんな事はわかりきっていたし、周囲がそう判断するだろうことも当然理解していた。

 そもそも、ノアール様との婚約は我が筆頭公爵家と縁を結びノアール様の後ろ盾としたかった王家から持ちかけてきた縁談。
 王妃の座なんて欠片の興味もない。

 感情を殺して常に冷静沈着。
 お茶会や夜会に他国との外交。
 常に重大な責任が付き纏う王妃なんて百害あって一利無し。

 ノアール様との婚約が解消され周りに何と陰口を言われようと、大切な家族と一緒に笑って生きていければそれで良かった。
 しかし……あの聖女はそうは思わなかった。


『申請が受理されました。
 個体名ーーーーーの転生が開始されます』


 私の存在を邪魔に思った聖女は、同じく公爵家を邪魔に思う貴族達と結託。
 ノアール様との婚約解消と今後の話し合いのために王宮に出向いた時、偶然出会った彼女が突然悲鳴をあげて倒れ込み……即座に駆け込んできた騎士達によって私は捕縛された。

 旅の中で聖女と恋仲になっていたノアール様は、私の言葉には耳を傾けもせず。
 国としても英雄と呼べる実力を持つ聖女を国に繋ぎ止めたかった事から私の主張は一蹴された。

 それから先は地獄だった。
 地下牢に囚われ、何時の間にか〝悪魔〟と言う名の悪の化身とさて、人々は魔王の復活も私のせいだと声高に叫ぶ。

 嫉妬から聖女を殺そうとしたと、国家転覆を企んでいたなどと荒唐無稽な冤罪をかけられ。
 存在するハズの無い情報を吐かせるための拷問、暴力、辱め………そして、私の心は死んだ。

 鞭で打たれようと。
 爪を剥がされようと。
 殴る蹴るの暴行を受けようと。
 回復できるからと、指や手足を切断されようと。
 辱めを受けようと。
 何も感じなくなった。

 牢の前に聖女やノアール様、国王陛下が来て何か言っていたけど、その言葉ももう聞こえない。
 ただただ、早く死にたい。
 一秒でも、一瞬でも早く楽になりたいと……


『記憶の統合が完了しました。
 転生により、全ての生態情報が初期化……実行します』


 そして、私の処刑が決まり。
 奴隷よりもみすぼらしい格好で王都中を連れ回されて見世物にされ。
 磔にされて、そしてやっと断頭台に立たされた……

 人々に石を投げられようと。
 〝悪魔〟と蔑まれ、罵声を浴びせられようと、最早どうでも良かった。

 けど……もう既に枯れ果てたと思っていた涙が流れた。
 余計な事を喋らないようにと潰された喉から、声にならない嗚咽が漏れた。

 私の大切な家族も、私を守ろうとしてくれた使用人のみんなも、唯一私を庇ってくれた親友も。
 全員が苦痛に歪んだ表情で、その首だけが晒されていた……


 〝悪魔を殺せっ!!〟


 醜い。
 私は、こんなにも醜い奴らの幸せを守ろうと、必死になって辛く厳しい教育をこなして来たの?
 こんな奴らの為に、みんなは殺されたの?

 ふざけるな……!!
 自分の中で死んだと思っていた心がドス黒い激情に染まって塗り潰されていく。

 絶対に許さない。
 たとえ何があったとしても──お前らの言う〝悪魔〟となって必ず報いを!  復讐してやるっ!!


 断罪の刃が振り上げられ……その瞬間、私は……


『……転生が完了しました。
 これにより、願いの全プロセスが終了します』


 思い出した、私は……


 この世界には存在しなかった概念。
 異世界より召喚された聖女が広めた〝悪魔〟と言う名称で呼ばれた少女。
 勇者にして大国アルタイル王国の王太子ノアールの元婚約者にして、筆頭公爵家の御令嬢であった少女が処刑された日。

 後に聖炎祭と呼ばれる事となるその日。
 人々が誰も知らないとある大陸にて、この世界には存在しなかった……


 そうか、悪魔になったんだ。


 最古にして始まり──原初の悪魔が誕生した。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

処理中です...