最強幼女は惰眠を求む！ 〜神々のお節介で幼女になったが、悠々自適な自堕落ライフを送りたい〜

第１２章 深淵の決戦編

192話 幼女神の試練 〝本気〟

「っ！  到達者たるこの僕を虚仮にするなんて……余程、死にたい様だね」

　憐みの視線を向けられ、ハスルートは笑みを浮かべながらも手を握り締め、屈辱に震える。

「良いだろう。
　それならばお望み通り、死んだ方がましだと思える苦痛を味わせてあげよう。
　そして君達は殺してくれと、泣きながら懇願するだろうね！！」

　嗜虐的な笑みを浮かべるハスルートの姿。
　少年の見た目に狂った狂気の嗤いをあげる……男性陣は頬を引きつらせ、女性陣に至ってはドン引きである。

「破っ！」

　鋭い声が戦場に響く。
　高笑いを続けるハスルートの背後に一瞬で移動したノッガーの一閃がその首筋を確かに捉える。

　ガギンッ！！

　ノッガーの放った一撃によって、小さなハスルートの身体は容易く吹き飛ばされて中に舞う。

「っ！」

　しかし、確かな一撃を加えたはずのノッガーの顔は僅かに歪む。
　剣から伝わってきたその感触。
　鋼鉄すらも容易く切り裂き、破壊するノッガーからしても異様なまでの硬さ。

　吹き飛ばされたハスルートは空中で体勢を整え膝を折る事も音を立てる事すらも無く着地する。
　その首筋には一筋の傷も無く……

　ピキッ

　その音にノッガーが目を見開き、ハスルートは口元を僅かに吊り上げる。
　ノッガーの持つ剣の刀身……ハスルートの首を捉えた箇所に罅が走る。

「僕は全ての金属を統べる存在。
　その程度の剣なんて僕には通用しないよ」

　そう言うハスルートの首筋には浮かぶ黒い紋様。
　その紋様はハスルートの体表を蠢き移動する。

「確かに素晴らしい速度と威力。
　けど……」

　黒い紋様に覆われた右腕を軽く振るう。
　たったそれだけで、轟音を立てながら地面が裂け、大きな溝を作り上げる。

「この通り。
　全身の強度をアダマンタイトやオリハルコンにする事も可能って訳さ」

　ただ腕を振るうだけですら、それは敵を死に至らしめる一撃と化す。
　その姿はまさに絶対強者。
　魔王の欠片に飲み込まれた日高、黒き化身を彷彿させる……しかし……

「なっ！？」

　驚愕の声をあげたのはハスルートの方だった。

「どうやら私の破滅の波動は貴方を砕き得るようですね」

　ノッガーは先程のハスルートの様に軽く微笑みを浮かべる。
　その視線の先では黒い紋様に包まれたハスルートの首筋を一筋の鮮血が滴っていた。

「尤も、これでは相討ち……いえ、得物を潰された私の方が不利ですが」

　言葉とは裏腹に淡い余裕のある微笑みを浮かべ、淡々と述べるノッガーの姿に、ハスルートから笑みが消える。

「どうやら、君達を侮っていた様だね。
　ここからは、僕も少し本気で相手をしてあげよう」

「うわぁ…ノッガーっちの攻撃をモロに喰らったのにまだまだ余裕。
　しかも、それでもまだ本気にすらならないって……」

「ははは、面白い事を言うね。
　子供を相手に本気になる大人がどこにいる？」

　ゲンナリした苦笑いを浮かべるネロに余裕綽々と言った様子で言い放つハスルート。
　首筋の傷は修復されており、そこに先程までの動揺は既に無い。

　傍目から見ればハスルートの言葉は全くの逆なのだが、この場にそんなに些細な事を気にする者は居なかった。

「子供が、子供相手に本気になる大人って……」

「支離滅裂ですね……」

　闘っている彼等の後ろで軽く肩を震わす２人のメイドを省いては……
　しかし、戦闘に全神経を研ぎ澄ませる彼等はそれに気付く事無く戦況は進む。

「まぁ…じゃあ、とりあえず本気になってもらうとしますか！
　燃え上がれっ！！」

　ネロから立ち昇る膨大な魔力が炎となってハスルートを包み込む。
　それは黒き化身を封じ込めたフェルの炎の結界を彷彿とさせる炎の竜巻を作り上げる。

「凍りつきなさい」

　イヴがスッと手を翳す。
　それだけで轟々と燃え盛る炎の柱が瞬時に凍りつき、巨大な氷柱が出来上がった。

　全てを燃やし尽くす忘却の炎に、全てを凍てつかせる絶対零度の氷の刃。
　それを同時にその身に浴びれば古竜ですら地に沈む。

　ピキリ……

　氷柱に僅かに入った罅は瞬く間に全体への広がり、砕けちる。
　それはイヴの凍てつく世界アイスワールドの結末に酷似する光景。
　しかし……

「本当に君達は我ら魔教団の障害となり得る様だね……危険分子はここで確実に始末する。
　仕方ないね……」

　砕け散った氷の粒子がダイヤモンドダストとなって降り注ぐ。
　そんな幻想的な光景を塗り潰すかの様に、ハスルートから禍々しい漆黒の魔力が吹き荒れる。

　フッと吹き荒れていた膨大な魔力が消え去り、一瞬の静寂が舞い降りる。

「君の望み通り本気で行くとしよう！！」

　ニヤリと笑みを浮かべたハスルートがその両手を地面に叩き付けた。