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第11章 深淵の試練攻防戦編
183話 迷宮内攻防戦 憤怒の黒龍 その2
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穢れを知らない純白を呑み込み、塗り潰すは何処までも深く、深淵を思わせる漆黒。
黒く染まった空間。
しかし、何故か視界は明瞭であり一種の神聖さすら醸し出す。
その突然の異変に誰もが呆けた様に押し黙る。
しかし、ふと我に帰った1人が困惑の声を上げ、自身の処理能力を超える出来事にパニックを起こす。
パニックは更なるパニックを引き起こし、伝染し、瞬く間に全軍に波及する。
20万もの人間の集団パニックを鎮めるのは容易では無く。
本来、兵士達を纏める立場である指揮官達が天幕に集まっている事も相まって、20万の大軍はそう時間を掛けずに自壊しただろう。
しかし、もう手の付けようの無い集団パニックは唐突に鎮静化する事になる。
誰もが押し黙り、固唾を飲み込み、その一点を顔を強張らせながら見つめる。
魔教団軍が抱くのは純粋な恐怖。
扉の奥から漏れ出す圧倒的な魔力の波動。
空間の変化など些細な事だと思える程の、絶対的な死が脳裏に浮かぶ。
抗えないと深層心理で悟っていても、一瞬たりとも目を逸らしてはなら無いと本能が告げる。
その視線の先には開け放たれた漆黒の扉。
静まり返った黒い空間に、コツコツとゆったりとした足音が響き渡る。
姿を現したのは黒い髪をした一人の青年。
纏う圧倒的な魔力と覇気は何処までも深く、吸い込まれそうな深淵を想起させながらも邪悪な悍ましさは一切無い。
たった一人の青年が発する魔力が瞬く間に空間を埋め尽くす。
人間では……最高位の魔物でも不可能なそれを当然の様に成すその存在。
青年が纏う神聖な空気も相まって20万の大軍の脳裏の1つの言葉がよぎる。
それは彼らが信奉する魔王と……魔神王と同等に渡り合った存在。
すなわち……
「神……」
リガードがポツリと呟いた言葉に呼応するかの様に、青年が伏せていた目を開き……その瞬間、20万、その殆ど全ての兵士達が死に絶えた。
青年が何かをしたわけでは無い。
それは青年にとって攻撃でも何でも無かったのだろう。
人間が知らずして地面に這い蹲る蟻を踏み殺す様に、何気ない動作の一つ。
目の前にいる煩わしい存在に少しだけ嫌悪を向けた。
しかし、それは人間にとって強大な威圧となって放たれ、それだけで殆どの人間が死に至った。
「これが……神か」
「そうです」
唖然と洩らした呟きに対する返答に、ヴァヌスは驚愕の面持ちで正面を見つめる。
十数メートル程前方に佇む青年を……
「尤も、正確には神では無く神獣ですが。
超越者と言う点では同義ですので、その認識で構いませんよ」
「神獣……もしや、貴殿は黒龍殿ですかな?」
「ええ、その通りです。
貴方は第四軍団軍団長のヴァヌスさんですね? 私の外見からその正体を正確に推測するとは、随分と博識の様ですね」
「かの黒龍殿にそう言って頂けるとは、儂もまだまだ捨てたものではありませんな」
ヴァヌスは文字通り、次元の異なる高次元の存在を前にしてニヤリと笑う。
「貴方の様な方が魔教団などに居るとは、残念です」
「この歳まで生きると、色々とありましてな。
尤も、儂などよりも遥かに長く生きる黒龍殿に偉そうに語れる事ではありますまい。
しかし、やっと合点がいきました。
貴殿ならば王都や我等を転移させる事など容易でしょうからな」
「否定はしませんが。
貴方は勘違いをなさっている」
「勘違い?」
「アレサレム王国の王都を転移させ、迷宮に侵攻して来た総勢50万の軍勢を転移させたのはお嬢様であって私ではありません」
その言葉にヴァヌスは再び目を見開き、すぐに自嘲めいた笑みを浮かべる。
「まさかとは思いましたが……貴殿のその服装」
「ええ、私はお嬢様の執事。
眷属の一人です」
何処となく嬉しそうに語る青年、コレールは打って変わって真剣な眼差しでヴァヌス達を見据える。
「私の名はコレール。
お嬢様の眷属であり、秘密結社ナイトメアの最高幹部の一人です。
さて、ヴァヌスさん、貴方達には2つの選択肢があります」
「……聞かせて頂きましょう」
「1つは我々ナイトメアに降伏する事。
もう1つは……言わなくとも貴方なら理解しているでしょう?」
仄めかす様に立ち昇る膨大な魔力。
それは脅しであり、その光景を見て抗う気力はヴァヌス達には無かった。
「生き残っている部下の命を保証して頂けるならば、降伏いたしましょう」
黒く染まった空間。
しかし、何故か視界は明瞭であり一種の神聖さすら醸し出す。
その突然の異変に誰もが呆けた様に押し黙る。
しかし、ふと我に帰った1人が困惑の声を上げ、自身の処理能力を超える出来事にパニックを起こす。
パニックは更なるパニックを引き起こし、伝染し、瞬く間に全軍に波及する。
20万もの人間の集団パニックを鎮めるのは容易では無く。
本来、兵士達を纏める立場である指揮官達が天幕に集まっている事も相まって、20万の大軍はそう時間を掛けずに自壊しただろう。
しかし、もう手の付けようの無い集団パニックは唐突に鎮静化する事になる。
誰もが押し黙り、固唾を飲み込み、その一点を顔を強張らせながら見つめる。
魔教団軍が抱くのは純粋な恐怖。
扉の奥から漏れ出す圧倒的な魔力の波動。
空間の変化など些細な事だと思える程の、絶対的な死が脳裏に浮かぶ。
抗えないと深層心理で悟っていても、一瞬たりとも目を逸らしてはなら無いと本能が告げる。
その視線の先には開け放たれた漆黒の扉。
静まり返った黒い空間に、コツコツとゆったりとした足音が響き渡る。
姿を現したのは黒い髪をした一人の青年。
纏う圧倒的な魔力と覇気は何処までも深く、吸い込まれそうな深淵を想起させながらも邪悪な悍ましさは一切無い。
たった一人の青年が発する魔力が瞬く間に空間を埋め尽くす。
人間では……最高位の魔物でも不可能なそれを当然の様に成すその存在。
青年が纏う神聖な空気も相まって20万の大軍の脳裏の1つの言葉がよぎる。
それは彼らが信奉する魔王と……魔神王と同等に渡り合った存在。
すなわち……
「神……」
リガードがポツリと呟いた言葉に呼応するかの様に、青年が伏せていた目を開き……その瞬間、20万、その殆ど全ての兵士達が死に絶えた。
青年が何かをしたわけでは無い。
それは青年にとって攻撃でも何でも無かったのだろう。
人間が知らずして地面に這い蹲る蟻を踏み殺す様に、何気ない動作の一つ。
目の前にいる煩わしい存在に少しだけ嫌悪を向けた。
しかし、それは人間にとって強大な威圧となって放たれ、それだけで殆どの人間が死に至った。
「これが……神か」
「そうです」
唖然と洩らした呟きに対する返答に、ヴァヌスは驚愕の面持ちで正面を見つめる。
十数メートル程前方に佇む青年を……
「尤も、正確には神では無く神獣ですが。
超越者と言う点では同義ですので、その認識で構いませんよ」
「神獣……もしや、貴殿は黒龍殿ですかな?」
「ええ、その通りです。
貴方は第四軍団軍団長のヴァヌスさんですね? 私の外見からその正体を正確に推測するとは、随分と博識の様ですね」
「かの黒龍殿にそう言って頂けるとは、儂もまだまだ捨てたものではありませんな」
ヴァヌスは文字通り、次元の異なる高次元の存在を前にしてニヤリと笑う。
「貴方の様な方が魔教団などに居るとは、残念です」
「この歳まで生きると、色々とありましてな。
尤も、儂などよりも遥かに長く生きる黒龍殿に偉そうに語れる事ではありますまい。
しかし、やっと合点がいきました。
貴殿ならば王都や我等を転移させる事など容易でしょうからな」
「否定はしませんが。
貴方は勘違いをなさっている」
「勘違い?」
「アレサレム王国の王都を転移させ、迷宮に侵攻して来た総勢50万の軍勢を転移させたのはお嬢様であって私ではありません」
その言葉にヴァヌスは再び目を見開き、すぐに自嘲めいた笑みを浮かべる。
「まさかとは思いましたが……貴殿のその服装」
「ええ、私はお嬢様の執事。
眷属の一人です」
何処となく嬉しそうに語る青年、コレールは打って変わって真剣な眼差しでヴァヌス達を見据える。
「私の名はコレール。
お嬢様の眷属であり、秘密結社ナイトメアの最高幹部の一人です。
さて、ヴァヌスさん、貴方達には2つの選択肢があります」
「……聞かせて頂きましょう」
「1つは我々ナイトメアに降伏する事。
もう1つは……言わなくとも貴方なら理解しているでしょう?」
仄めかす様に立ち昇る膨大な魔力。
それは脅しであり、その光景を見て抗う気力はヴァヌス達には無かった。
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