最強幼女は惰眠を求む! 〜神々のお節介で幼女になったが、悠々自適な自堕落ライフを送りたい〜

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第11章 深淵の試練攻防戦編

182話 迷宮内攻防戦 憤怒の黒龍 その1

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 何処か神聖な雰囲気を醸し出す真っ白な空間。

「これは……」

 魔教団、第五軍団軍団長であるリガードは目は見開きながらも周囲を鋭く見渡し、僅かな時間で周囲の状況を把握する。

「どうやら、我等は転移させられた様ですな」

 そう言って難しい表情を浮かべるリガードに、複数の部下を引き連れながら歩み寄って来たのは1人の男。
 初老に差し掛かってもなお覇気に満ちたその男は、余裕のある微笑を浮かべる。

「ヴァヌス殿……どうやらその様ですね。
 王都を丸ごと転移させておいて、いったい20万もの大軍をどうやって転移させたのやら……」

「確かに、世界樹から供給できる魔力だけでは不可能。
 もしかすると、敵には我等には想像もつかぬ程の魔力の持ち主がいるのやもしれませんな。
 それこそ王都を、20万の人間を転移できるだけの」

 ヴァヌス……魔教団、第四軍団軍団長はニヤリと笑みを浮かべ、その言葉を聞いたリガードの部下達が緊張した面持ちで固唾を飲み込む。

「はっはっは、考えたく無い話ですね。
 もしそうなら、我々はそんな化け物と敵対していると言う事ですからね」

「まったくですな。
 しかし化け物と言う点では強ち間違っていない様子」

「ええ、その様ですね」

 2人の視線の先にあるは、この白い空間、神々の神界と酷似した空間に於いて唯一の異物。
 重厚感溢れる漆黒の扉。

 嫌でも視界に入る巨大な扉からは背筋が凍る程、濃密な魔力が溢れ出しており、この空間の空気を重くする。

「高濃度過ぎる魔力は人の身体を壊す。
 ここが何処かはわからぬが、あの扉から距離を取った方が良かろう」

「そうですね」

 ヴァヌスの言葉にリガードが頷いたその瞬間。
 漆黒の扉の前に突如として数字の1が浮かび上がり、干からびる様にして消えていった。

「今のはいったい……」

「考えても詮無き事。
 まずは、狼狽る配下を纏めると致しましょう」

 不測の事態、情報も一切無く少しは動揺してもおかしく無いこの状況下にてヴァヌスの余裕ある微笑は途絶え無い。
 その頼もしき将の姿にリガードは尊敬の念を抱く。

 しかし、踵を返しリガードに背を向けたヴァヌスの表情は一転、側近達が目を剥く程に固く。
 その視線は細く鋭く細められる。

「ど、どうかなさいましたか?」

 軍団長のあまりの様子に、側近の1人がおずおずと声を掛ける。

「ん?  いや、すまぬ。
 儂はそんなに凄い顔をしていたかね?」

「い、いえ!  決してその様な事は」

「良い良い、自覚はある。
 しかし、そうだな……我等は過ちを犯したのかも知れんな」

「えっ?」

「儂も覚悟を決めねばならんな」

 唖然と足を止めた側近を横目に、異様な存在感を放つ漆黒の扉を一瞬振り返り鋭い視線で一瞥し、すぐ様踵を返して歩き出す。
 自身が率いる第四軍団へと向かう彼の表情には好々爺然とした微笑が浮かんでいた。




 *




 漆黒の扉から数百メートル。
 真っ白な空間であろうとも周囲の警戒を怠らず、20万もの大軍が布陣する。

「やはり、確定か……」

 その最奥。
 設営された天幕の脇に立ち、漆黒の扉を見つめていたヴァヌスがポツリと呟く。

「ん?  どうかしましたか?」

「……そうだな。
 リガード殿達には説明しておいた方がいいだろう……すまぬが、皆をこの天幕に集めてくれるか?」

「承知致しました!」

 飲み物を片手にやって来たリガードを見て、ヴァヌスは頷くと側近の1人にそう命じて立ち上がる。
 側近の動きは速く、また今が不測の事態と言う事もあって数分後には第四・第五の指揮官達が天幕に集結した。

「皆、これから儂が話す内容は機密事項だと心得よ。
 決して兵達に洩らしてはならぬ、軍全体の士気に関わる」

 そう語るヴァヌスの表情は真剣そのもの。
 いつもの余裕ある微笑すら浮かべておらず、同じ軍団長であるリガードですら気圧される程の緊張感が天幕の中を支配する。

「恐らく、第一軍団は既に壊滅しておる」

「なっ!?」

 唐突に告げられた信じられない内容に天幕に集められた者達がにわかに騒めく。

「先程、あの扉に浮かび干からびて消えていった1の文字。
 あれは第一軍団の兵達の死に方を表しているのだろう」

「そ、それは些か飛躍し過ぎでは?」

「確かに確証は無い。
 これは儂の推測にすぎん」

「でしたら」

「しかし、だ。
 戦場に於いて、勘と言う物はバカにならん
 儂の同期はたかが勘だと軽んじた者から戦場で死んで行った」

 軽く目を伏せるヴァヌスの姿に全員が一様に黙り込む。

「長年、戦に身を浸していると不思議と分かる様になるのだ。
 死地にいる感覚と言うものが」

 魔教団に入る以前は小国でありながらネルウァクス帝国と互角の戦いを繰り広げた国の将軍。
 長年戦場に身を置く老練の将の言葉には確かな重みが存在した。

「この場にいない3つの軍団。
 そしてつい今し方、あの扉に3と言う数字が浮かび黒く染まって崩れ……っ!」

 突然椅子を倒しながら立ち上がり、天幕の外に出るヴァヌスに困惑しながらも、リガードを含め全員がその後を追う。

「突然どうした、ので、す……」

 唖然とするリガードを一瞥すらせず、ヴァヌスは全身に覇気を纏わせ漆黒の扉を鋭く睨む。
 漆黒の扉は地面を揺らしながらゆっくりと開かれて行き……

「来るぞ」

 その瞬間。
 真っ白だった空間が一瞬にして黒く染まった。
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