最強幼女は惰眠を求む! 〜神々のお節介で幼女になったが、悠々自適な自堕落ライフを送りたい〜

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第11章 深淵の試練攻防戦編

180話 迷宮内攻防戦 暴食の白虎 その2

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「ゲームと言っても難しい事は一切ありません。
 何しろここは闘技場、闘技場でやる事なんて1つしかないでしょう?」

 グラトニーのその言葉に、ある者は不安気に瞳を揺らし、ある者は闘志を燃やす。

「ルールは簡単。
 今から現れる10体の魔物と1体ずつ順番に戦い勝利する事。
 諸君は魔物1体に対して10万人で対処しても構いませんし、軍勢を分けて戦力を温存するも諸君らの自由です。
 諸君らの生き残る道は1つ、勝ち続ける事です」

 そう言うや否や、グラトニーの前方の地面が輝き幾何学模様が浮かび上がる。

「1戦目は今から10分後。
 それまでに良く戦略を練って下さい」

 グラトニーの言葉を聞き、クレイネは一瞬だけ目を閉じて思慮を巡らせる。
 何故グラトニーは10分などと言う時間を態々与えたのか?
 ただの思い付きか、それとも……

「いや、その必要はありません。
 今すぐに始めて頂いて結構です」

 これから戦わなければならない10体の魔物。
 1体ずつ戦うとの事だが、敵のレベルがどれ程のものか分からない以上、戦力を分散しての様子見など愚の骨頂。
 クレイネにとって選択肢など初めから存在しなかった。

 とは言え、未だに混乱する兵士達を考慮すれば時間を与えられるのはクレイネとしても都合が良い。
 クレイネにとってこれは賭けでもあった、しかし、それでも確かめなければならない。

 グラトニーが時間を与えた理由を。
 今、地面に浮かび上がっている幾何学模様は魔物をこの場に出現させる為の転移陣と見て間違い無い。

 もしかすると、本当は時間を掛けなければ転移を使う事が出来ないのでは無いか?
 そんなクレイネの淡い期待はしかし……

「いいでしょう」

 そんな、クレイネの思惑を見透かしたかの様にニヤリと笑みを浮かべてそう言い……

 パチン

 と軽く指を鳴らした。
 それだけで幾何学模様は一瞬で完成し、眩い輝きを放ち出す。

 転移魔法によって姿を現したのは、2メートルを超える体躯に漆黒の体毛を纏う1体の魔物。
 口の端からは涎が滴り、その赤く爛々と輝く瞳がギョロリと獲物を捉える。

「初戦の相手はヘルハウンド。
 まぁ単体でも群れでも取るに足らない雑魚ですが、ウォーミングアップには丁度良いでしょう」

 目の前に現れた存在、ヘルハウンドを見て兵士達の幾人かが安堵した様に息をつく。
 ヘルハウンドはB+、災厄級でも上位にあたる存在だが、最新の魔道具による武装を整える魔教団の敵では無い。

 しかしクレイネを含めた上官達の表情は優れない。
 彼は理解したのだ、生き残る為にはグラトニーの言うゲームに勝つしか無いのだと。

 クレイネは眼前のヘルハウンドでは無く、その背後のグラトニーを鋭く見据え、覚悟を決める。
 そしてゲームが……彼等にとっての悪魔が幕を開けた。





 *





 初戦のヘルハウンドは被害も無く順当に勝つ事ができた。

「魔物は勝つ毎に強くなっていくのでお楽しみに」

 そのグラトニーの言葉通り、出現する魔物は勝つ毎にランクを上げる。
 2戦目はヘルハウンドと同じくB+ランクだが、空を飛ぶガルーダ。

 3戦目は魔法を巧みに操るAランクのリッチ。

 4戦目は空は飛べないが、強靭な鱗と圧倒的なパワーを誇るAランクの地竜。

 5戦目は凄まじい速度で空を飛び風を操るAランクの風竜。

 ここまでの死傷者は僅かに5千。
 それは装備の水準の高さだけで無く、クレイネの巧みな指示の成果でもある。
 そして6戦目、ついにAランクの壁を突破した。

 現れたのは獣の王と呼ばれる深淵の試練の深層に住む迷宮の覇者、ベヒーモス。

「さて、これで漸く門番です。
 このベヒーモスのレベルは200前後、地上のベヒーモスよりは多少強い程度です。
 ベヒーモスは深淵の試練に於ける表面の門番、これに勝てない様では話にならない」

 何気なく語られたその言葉にクレイネは目を見開く。
 表面……それは一体……?
 そしてその疑問は、僅かな被害でベヒーモスを倒し、すぐさま理解する事になる。

「6戦目を終えて、残っているのは約9万。
 おめでとうございます、諸君らには〝本当の深淵の試練〟を体験する資格が与えられました」

「本当の、とは一体どう言う意味ですか?
 深淵の試練は全100階層に及ぶ世界最大の迷宮であり、その覇者は今我等が降したベヒーモスのはず」

「それは諸君らが真実を知らないだけの事。
 疑問に思った事は無いのですか?
 何故、誰も攻略した事も無いのに最下層が100階層だと世間に伝わっているのかを」

「ま、まさか……」

 クレイネの顔が驚愕に染まる。
 優秀であり秀才である彼はグラトニーの言わんとする事を理解出来た、理解してしまった。

「真実を教えて差し上げましょう。
 深淵の試練とは、全200階層を誇る迷宮であり、100階層目まではふるいに過ぎない。
 本番に、100階層以降に挑む資格があるかを判断する為の」

 パチンと乾いた音が静まり返った闘技場に響き渡る。
 一瞬にして空中に巨大な幾何学模様が浮かび上がり、転移魔法が発動する。

「その程度の実力で、深淵の試練に足を踏み入れ。
 あまつさえ、我等が女神に楯突いた自身の無知と愚かさを後悔して死ぬが良い」

 魔法陣が眩く輝く。
 漆黒のローブを纏い、赤く光る瞳孔を虚空に向けながら宙に浮き、その全身からは背筋が凍る様な冷たく黒い魔力が溢れ出す。

 咄嗟にクレイネは自身の誇るユニークスキル〝解析〟を使い……その結果に目を見開き絶句する。

 その存在の危険度は天災級。
 Sランクとされる、国家を以ってしても対応出来ないとされる正真正銘の化け物……エルダーリッチ。

 その悍しい魔力に当てられただけで幾人もの兵士達が失神して地に沈む。
 ある者は唖然と武器を地面に落とし、ある者は恐怖に顔を歪めて膝を折る。
 レベル600を誇る絶望が闘技場に舞い降りた。
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