最強幼女は惰眠を求む! 〜神々のお節介で幼女になったが、悠々自適な自堕落ライフを送りたい〜

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第10章 アレサレム戦争編

153話 神と呼ばれる領域

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 降臨した闇の黒き化身を前に誰も一言も話さない……いや、話せない。

 視界に映る空間全てが黒く染め上げられて行くかの様な錯覚を与えられる圧倒的な重圧。
 自然と身体が震えだし、呼吸が乱れ、全身から冷たい汗が吹き出でる。

 両腕をだらんと力無く垂らし、項垂れる様に顔を伏せていたソレが、ゆっくりとその顔を覗かせる。
 果たしてそこにあるのは、全てを呑み込む漆黒。

 そこには既に日高の……人間の相貌は無かった。
 人間の形をした漆黒のナニカ、その頭部がユリウスを正面に捉え……ニタァ、と笑った様に口角を吊り上げた。

「っ!?」

 それは、一瞬の出来事だった。

「……えっ?」

 勇者の1人がポツリと呟く。
 十剣達は驚愕に目を見開き、勇者達は何が起こったのかすら認識出来ずに唖然と立ち尽くす。

 稲垣はゆっくりと自身の隣に視線を向ける、そこは今までユリウスが居たはずの場所。
 その場所に静かに佇む黒き化身。
 そしてその数メートル前方では、ユリウスが血まみれの右腕を抑えながら苦悶に表情を歪めて膝をつく。

「くっ…なんて速さと威力してるんですか……」

 冷や汗を掻きながらも苦笑いを浮かべて見せるユリウスの手には、彼の腕から滴り落ちる鮮血に染まった剣。

 何が起こったのか理解出来ていなかった勇者達も、そのユリウスの姿を見て遅ればせながらも理解した。
 黒き化身が、この化け物が、自分達の認識速度を凌駕する速度でユリウスを攻撃したのだと。

「やってくれたねっ!」

 そんな声と共に、黒き化身の身体が突然宙に舞い上がる。
 勇者達が誰1人として反応出来ない程の速度で繰り出されたフィールの蹴りの威力はによって遥か上空まで吹き飛ばされたのだ。

「燃え尽きろっ!」

「凍り付きなさいっ!」

 そこに襲い掛かる忘却の炎と白き氷結。
 一瞬にして王国軍1万を消滅せしめた、究極の一撃がたった1つの存在に向けて放たれる。

 堅牢な要塞をも容易く破壊するだろう必殺の一撃は、手を翳す。
 たったそれだけで何も無かったかの様に掻き消された。

「嘘……」

「そんなっ!!」

 その光景を前に勇者達から悲痛な叫びが漏れる中、当のネロとイヴはニヤリとほくそ笑む様な笑みを浮かべた。

「破っ!」

 両手を2人の攻撃を防ぐ為に使っていた黒き化身にノッガーの剣が届いた。
 しかし……

「これ程とは……」

 剣の刃は黒き化身の体表によって容易く受け止められ、傷一つつけられない。
 唖然と目を見開くノッガーに向かって、静かに片手を向け……

「ぐあっ!」

 デコピンの様に放たれた空気の指弾によって吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

「〝虹纏〟閃っ!!」

 ノッガーが吹き飛ばされるのと同時に、黒き化身の背後から腕を回復させたユリウスの抜刀による一撃が放たれる。

 ガキィッン!!

 黒き化身の脇腹を捉えたと思われた一撃は、脇腹に突如として現れた『歯』によって噛み砕かれた。
 宙を舞う刃の破片に目を見開くユリウスは、ノッガー同様に地面に叩きつけられる。

 誰もが黙り込み、静寂に包まれる。
 静まり返った空間に黒き化身が煙を一切立てる事なく舞い降りる。

 勇者達が手も足も出なかった十剣を圧倒するし、音すら無く地に降り立つその姿はまさに、降臨せし……

「魔神」

 黒き化身を見つめながら稲垣が唖然と呟きを漏らす。
 その呟きは勇者達全員の心境を代弁していた。

「かはっ……これは、ヤバイですね。
 ちょっと最近、圧倒的な強者と戦い過ぎな気がします」

 ユリウスは身を起こしつつ、空間を黒く塗り潰す様な圧倒的な魔力と存在感を放つ黒き化身をみて頬を引き攣らせ……

「これは……」

 目を丸くしてポツリと呟いた。

「ん、安心して、いい。
 アレは、吾が潰す」

 全てを破壊する底冷えする黒とは異なり、全てを優しく暖かく包み込む赤。
 黒をも凌駕する紅き輝きを伴い、1人の幼女が舞い降りた。
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