130 / 375
第8章 世界樹決戦編
130話 名も無き少女は天使に出会う
しおりを挟む
暗い場所。
鉄と血の匂いが濃く漂い。
常に呻き声が聞こえ、恐怖と絶望に塗れた空間。
窓は当然存在せず。
唯一外界に通じている分厚い扉は、その存在感を見せつける様に閉ざされている。
「お姉ちゃん?」
下から聞こえて来たその声によって〝お姉ちゃん〟と呼ばれたその少女は、自身がその忌々しい扉を見つめていた事に気がついた。
この部屋と外界とを遮っている扉は魔道具であり、前もって登録された魔力を用いなければ開ける事は不可能。
扉が開かれるのは、2通りのみ。
1つはこの部屋に閉じ込められている実験体に、餌を与える時。
そして、もう1つは魔教団が実験体を弄ぶ時。
血を抜かれ、拷問の様な苦痛を与えられ。
最後には体をバラバラにされて、ゴミの様に捨てられる。
そんな光景を何度もその目に焼き付けて来た少女は、自分たちの行き着く末路を理解している。
それでも、例え人間達の玩具にされ様とも…… 気高くその時まで生き抜こうと。
「ううん、何でもない」
家畜の様に教団に飼われ。
屈辱と恐怖に震える事しか出来ない、名も無い誇り高き吸血鬼の少女は双子の妹を強く抱きしめ笑みを浮かべた。
ドゴォォォオン!!
その時。
これまで感じた事のない、まるで世界そのものが揺れていると錯覚する程の揺れと耳をつんざく様な轟音が鳴り響く。
「何っ!?」
「ヒィッ!!」
突然の事態に、虚な瞳で座り込んでいた者達が悲鳴を上げる。
「お姉ちゃんっ!?」
「大丈夫、落ち着いて」
そう言って、腰に抱きついて来る妹を諫めるも、その顔に困惑は隠せない。
何せ、今までこんな事は一度たりともなかったのだから。
産まれてから一度も外の世界に出た事のない少女には何が起こっているのかなど、分かるわけもなく。
たとえ、身を盾にしてでも妹だけは守り抜くと、ギュッと妹を抱きしめる。
数分か、はたまた数十分が経ったのか、時間の感覚が覚束ない不思議な緊張感。
どれ程時間が経った頃か、人間には不可能な程の微細な音を高位吸血鬼である少女は聞き逃さなかった。
それは、怒号と騒音。
部屋を隔離する扉の向こう側から聞こえて来る、その音が不意に止まり……眩い閃光と共に扉が消し飛んだ。
「どうやら、ここの様ですね」
そんな声と共に、吹き飛んだ扉……壁のあった場所から姿を現したのは10人の人物達。
執事の様な服装の男に、メイド服を着た女、普通の服装の人もいれば、幼い子供も。
しかしながら、その一見何の統一感もない人物達は凄まじいまでの存在感を放っていた。
抵抗する力を奪われ、人間に弄ばれながらも感じた事のない感覚。
高位吸血鬼である少女が初めて感じる絶対的な死。
図らずとも、自身とは次元が違いすぎると、高位吸血鬼としての勘が理解した。
この存在達であれば、1人であってもこの場にいる実験体を一瞬で皆殺しにできるだろう。
そうだとしても、たとえ無駄だとしても、少女は妹を庇う様に、妹の前に立つ。
そして、中央に立っていた執事服を着た男と視線が合わさる。
その押し潰す様な存在感に、抗う事の出来ない死の恐怖に足が震える。
それでも少女は毅然と前方を睨み付ける。
「そんなに睨まなくとも大丈夫です。
我々は秘密結社・ナイトメア。
あなた方を救出に来た者です」
そう唐突に告げられる言葉に困惑する少女たちを他所に、話は続く。
「それでエンヴィーとグラトニー、貴方達、取り逃してないでしょうね?」
「何で僕たちだけっ!?」
「勿論でございます……多分」
「ん、吾は、眠らせたから、大丈夫」
「はぁ、彼女達は私とアヴァリス殿で見ますので、皆さんは魔教団の者達の移送を頼みます」
執事服の男、コレールの言葉に他の9人が頷きを返すと同時に、8人が消えた。
「では、我々もエントランスに移動を……と言っても動けないでしょうね」
「えぇ、可愛そうに。
しっかりとした食事も与えられて無いみたいですね」
コレールが一度指を鳴らすと、それだけで周囲の光景が切り替わる。
その事実に、驚愕の表情で目を見開く少女。
「貴方達は一体……」
自然と漏れた少女のその言葉が聞こえたのか、コレールは優しい微笑みを浮かべ。
「私の名はコレール。
先ほども言った様に秘密結社・ナイトメアの者ですよ」
そう言うコレールからは、いつの間にか押し潰す様な緊張感を感じなかった。
暫くすると、先ほど消えた8人も簀巻きにされた人間達と共に転移で姿を現し、そして……
「ぐはっ!」
上空に天使が現れた。
感知範囲が広い少女は、天使と同時に人間達のリーダーが地面に投げ出された事を感知したが……
崩れた壁の背後から差し込む光を纏い、姿を現した純白のその存在。
神々しいその姿に視線を切る事が出来ず、見つめ続けた。
鉄と血の匂いが濃く漂い。
常に呻き声が聞こえ、恐怖と絶望に塗れた空間。
窓は当然存在せず。
唯一外界に通じている分厚い扉は、その存在感を見せつける様に閉ざされている。
「お姉ちゃん?」
下から聞こえて来たその声によって〝お姉ちゃん〟と呼ばれたその少女は、自身がその忌々しい扉を見つめていた事に気がついた。
この部屋と外界とを遮っている扉は魔道具であり、前もって登録された魔力を用いなければ開ける事は不可能。
扉が開かれるのは、2通りのみ。
1つはこの部屋に閉じ込められている実験体に、餌を与える時。
そして、もう1つは魔教団が実験体を弄ぶ時。
血を抜かれ、拷問の様な苦痛を与えられ。
最後には体をバラバラにされて、ゴミの様に捨てられる。
そんな光景を何度もその目に焼き付けて来た少女は、自分たちの行き着く末路を理解している。
それでも、例え人間達の玩具にされ様とも…… 気高くその時まで生き抜こうと。
「ううん、何でもない」
家畜の様に教団に飼われ。
屈辱と恐怖に震える事しか出来ない、名も無い誇り高き吸血鬼の少女は双子の妹を強く抱きしめ笑みを浮かべた。
ドゴォォォオン!!
その時。
これまで感じた事のない、まるで世界そのものが揺れていると錯覚する程の揺れと耳をつんざく様な轟音が鳴り響く。
「何っ!?」
「ヒィッ!!」
突然の事態に、虚な瞳で座り込んでいた者達が悲鳴を上げる。
「お姉ちゃんっ!?」
「大丈夫、落ち着いて」
そう言って、腰に抱きついて来る妹を諫めるも、その顔に困惑は隠せない。
何せ、今までこんな事は一度たりともなかったのだから。
産まれてから一度も外の世界に出た事のない少女には何が起こっているのかなど、分かるわけもなく。
たとえ、身を盾にしてでも妹だけは守り抜くと、ギュッと妹を抱きしめる。
数分か、はたまた数十分が経ったのか、時間の感覚が覚束ない不思議な緊張感。
どれ程時間が経った頃か、人間には不可能な程の微細な音を高位吸血鬼である少女は聞き逃さなかった。
それは、怒号と騒音。
部屋を隔離する扉の向こう側から聞こえて来る、その音が不意に止まり……眩い閃光と共に扉が消し飛んだ。
「どうやら、ここの様ですね」
そんな声と共に、吹き飛んだ扉……壁のあった場所から姿を現したのは10人の人物達。
執事の様な服装の男に、メイド服を着た女、普通の服装の人もいれば、幼い子供も。
しかしながら、その一見何の統一感もない人物達は凄まじいまでの存在感を放っていた。
抵抗する力を奪われ、人間に弄ばれながらも感じた事のない感覚。
高位吸血鬼である少女が初めて感じる絶対的な死。
図らずとも、自身とは次元が違いすぎると、高位吸血鬼としての勘が理解した。
この存在達であれば、1人であってもこの場にいる実験体を一瞬で皆殺しにできるだろう。
そうだとしても、たとえ無駄だとしても、少女は妹を庇う様に、妹の前に立つ。
そして、中央に立っていた執事服を着た男と視線が合わさる。
その押し潰す様な存在感に、抗う事の出来ない死の恐怖に足が震える。
それでも少女は毅然と前方を睨み付ける。
「そんなに睨まなくとも大丈夫です。
我々は秘密結社・ナイトメア。
あなた方を救出に来た者です」
そう唐突に告げられる言葉に困惑する少女たちを他所に、話は続く。
「それでエンヴィーとグラトニー、貴方達、取り逃してないでしょうね?」
「何で僕たちだけっ!?」
「勿論でございます……多分」
「ん、吾は、眠らせたから、大丈夫」
「はぁ、彼女達は私とアヴァリス殿で見ますので、皆さんは魔教団の者達の移送を頼みます」
執事服の男、コレールの言葉に他の9人が頷きを返すと同時に、8人が消えた。
「では、我々もエントランスに移動を……と言っても動けないでしょうね」
「えぇ、可愛そうに。
しっかりとした食事も与えられて無いみたいですね」
コレールが一度指を鳴らすと、それだけで周囲の光景が切り替わる。
その事実に、驚愕の表情で目を見開く少女。
「貴方達は一体……」
自然と漏れた少女のその言葉が聞こえたのか、コレールは優しい微笑みを浮かべ。
「私の名はコレール。
先ほども言った様に秘密結社・ナイトメアの者ですよ」
そう言うコレールからは、いつの間にか押し潰す様な緊張感を感じなかった。
暫くすると、先ほど消えた8人も簀巻きにされた人間達と共に転移で姿を現し、そして……
「ぐはっ!」
上空に天使が現れた。
感知範囲が広い少女は、天使と同時に人間達のリーダーが地面に投げ出された事を感知したが……
崩れた壁の背後から差し込む光を纏い、姿を現した純白のその存在。
神々しいその姿に視線を切る事が出来ず、見つめ続けた。
11
お気に入りに追加
2,156
あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る
神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】
元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。
ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、
理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。
今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。
様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。
カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
今後とも応援よろしくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる