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第6章 フェーニル王国編

91話 金融を始めます!!

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 勿論、この国の人々が全員、差別思想を持っているなんて事は思っていません。
 少なくとも、イヴァル王や宰相さん、アレックさんはそう言った人では無いでしょう。

 イヴァル王の面白そうだから、と言う考え方は面白いと思いますし。
 したい事をするべきと共感もできる。
 この人とならば、面白い事が出来るだろうとは思いますが。

 それだけに残念ですね。
 もし、残念王子に会うよりも先にイヴァル王に会えていたならば、友好を築けたでしょうに……

「とは言ったものの、そうも言ってられ無いんですよね」

 残念ながらイヴァル王の提案を退ける選択肢は存在しない。
 仮にイヴァル王達が、僕達の情報を商人に漏らせば厄介な事なります。

 ここは各国の王侯貴族とも繋がりのある大商人が集うフェーニル……
 何処ぞの国が何らかの動きをしてくる可能性も十分ありえますからね。
 それに、メリットが無いなんて言ったけど、途轍もなく大きなメリットもありますし。

 チラッと視線をみんなに向けると、男性陣は僕の決定に任せる様子で僕の判断を待ち。
 フェルと僕を抱っこしているアヴァリスを省く女性陣は、テラスに出て優雅に紅茶を飲んでいます。
 勿論、フェルはこんな状況下であっても僕の隣でアヴァリスにもたれかかって寝ていますし。

 軽く溜め息をつきたくなったのは仕方無い事でしょう。
 仮にも一国の王との会談の場にて自由過ぎます。
 男性陣は良くても、障害は力尽くで取り省けば良いと考えている女性陣は流石にダメでしょう。

 そう!  僕達には人の世の常識が無いのです!!
 全員が常人よりも強い力を持っているが故に、常識を持つ者は誰も居ない。

 だからこその、帝都冒険者ギルド・ノワール事件が勃発したのです。
 人間社会の中に入り込むのであれば、そういった常識を押さえておく必要がありますよね……

「はぁ、わかりました。
 今回はイヴァル王の慧眼の勝ちです」

「では?」

「はい、認めましょう。
 貴方の推測は正しいと、それにそちらの申し出も受け入れましょう」

 僕の言葉を受けて明らかにホッとした様子のイヴァル王達。
 まぁ、コレール達が神獣なのだと見抜いていたのなら、そんな存在に喧嘩を売ってしまって焦るのも当然ですね。

「お嬢様、よろしいのですか?」

「はい、さっきはああ言いましたが。
 イヴァル王達を傘下に入れる事でのメリットも大きいですしね。
 ですが、やはりネックなのは第一王子ですね」

「その件に関しては心配無用です。
 この交渉が成功しようがしまいが、自身の勝手な考えで国を危機に晒したフリードは廃嫡処分に致しますので。
 本来であれば死罪でもおかしくないのですが……やはり俺も人の親です。
 どれだけ愚かであろうと、息子を殺す事は出来ません」

 思わず目を見開いてしまいました。
 幾ら何でも、それはちょっと厳しい気がしますが……
 それが父であり、国王であるイヴァル王の決定ならば僕に口を挟む権利などありません。

「そうですか……」

 ただ、ちょっとだけ申し訳ない気もします。
 僕達がフェーニルに来なければ残念王子とは言え、彼が転落する事もなかったでしょうに。

「無礼を働いた我が愚息に対してその様な顔をして下さるとは。
 ルーミエル嬢はお優しいのですね」

「そうでしょうか?
 例え、どれだけ報われない者でも、僕達に害をなすのであれば容赦はしませんよ」

 それがたとえ、勇者や魔王であっても……神であっても。

「やはり、貴女方の傘下に降るという我々の考えは正しかったようだ。
 では、申し訳無いのですが、フリードに掛けている魔法を解いて頂いもよろしいでしょうか?」

 イヴァル王の言葉を受けて、コレールが視線を向けて来たので肯定の意味を持って頷きを返す。

「フリード」

「音が聞こえるっ!
 はっ!  父上、この者共と何を話していたのかは知りませんが、騙されてはなりません!!
 この者共は……」

「黙れっ!
 フェーニル王国第一王子フリード・リッヒ・フェーニル。
 たった今を持って貴様を廃嫡とし、今後一切の王家の名を名乗る事を禁ずる」

 結界と拘束が解かれるや否や。
 またもや騒ぎ出した残念王子に対して、イヴァル王が有無を言わさぬ覇気と共に残酷な現実を叩きつけました。

「は?  な、何を言っているのですかっ!?」

「自身の身勝手な言動で、国家を危機に貶めた貴様に民の上に立つ資格など無いと知れ」

「バカなっ!!  俺は第一王子ですよ!?
 そんな事がある訳が無い!  俺が言った事が真実であり正義なのです!!」

「アレック」

「承知いたしました。
 衛兵!  その者を連れて行け!!」

 アレックさんの言葉を受け。
 元々待機していた衛兵さん達が部屋になだれ込み、喚き散らすフリードを引き摺って出て行きました。

 隣室に人間が集まっているのには気づいていましたが。
 てっきり賭けを無かった事にする為に僕達を襲うつもりなのだと思っていました……
 まさか、この為だったとは。

 僕達との亀裂を生んだ原因である彼を僕達の目の前で廃嫡する。
 それで、少しでも印象を良くしようとしたのでしょう。
 国家の、民の為とあらば息子ですら切り捨てる冷徹さは流石は大国の王ですね。

「一体どこで教育を間違ったのやら……」

「子育てとは、儘ならぬものですね」

「そうですね……って、ルーミエル嬢もまだ子供でしょう!!」

 失礼な。
 せっかく、しんみりしていたイヴァル王の気持ちを汲んであげたと言うのに……

「むぅ……そうであって、そうでは無いのですよ?」

「その様子を見る限りでは、とても信じられませんな」

 イヴァル王の言うその様子。
 幼女な僕がアヴァリスに抱かれて、膝の上にちょこんと座っているこの光景。
 確かに、そう言われれば反論の余地がありません……

「しかし、ありがとうございます。
 おかげで少し気が楽になりましたよ」

「そうですか、それは良かったです」

 なんか最後は結局、イヴァル王に上手くまとめられた気がするのは気のせいでしょうか?

「それで、ルーミエル嬢」

「何でしょうか?」

「あの様な賭けまでして、貴女はこのフェーニルで何を成そうとしているのですか?」

 イヴァル王の言葉を耳聡く聞きつけた女性陣が、素早くテラスから戻って来る。
 エンヴィーや宰相さん、アレックさんも興味津々と言った様子で注目してきます。

 こ、こんなに注目されると、流石に喋れなくなってしまうのですが……
 助けを求めてコレールに視線を送る。

 すると、完璧執事であるコレールは僕の意図を即座に察し、行動に移そうとして……
 コレールが動く直前に、フェルが僕をかばう様に抱きついてきたました。

「エルは、恥ずかしがり屋なの。
 そんなに、見つめたらダメ」

 おぉ!  流石はフェルです!!
 僕と一番付き合いが長いのは伊達ではありません。

「フェル、ありがとうございます」

「ん、吾はエルの、お姉ちゃん、だから!」

 ついに言葉にして言いましたね。
 僕がこの姿になって以降、日頃からお姉ちゃんアピールはしてきていましたが……

 まぁでも、深淵の試練で始めてフェルに会った時なんて霊鳥様って呼んでましたし。
 フェルに妹と言われても、嫌な気はしませんし別に良いですか。

「それで、僕が何をしようとしているのかでしたね」

 非常にご機嫌なフェルに隠れつつ、話を切り出す。
 すると、イヴァル王達フェーニル組が緊張した様子でゴクリと固唾を飲み込みました。

 そんなに緊張しなくても……
 でも、ちょって優越感を感じますね。
 ニヤニヤしちゃいます!!

「それは……銀行!
 つまりは、金融を始めます!!」
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