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第6章 フェーニル王国編
87話 怒らせてはダメな人です!
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商業の中心地、フェーニル王国が誇る広大な王城の敷地内に存在する訓練場。
騎士達が訓練に励み、怒号が轟いているはずのその場所は今、静寂に包まれていた。
本来なら訓練をしている筈の騎士達は訓練場の周りに設置されている観客席に座っており、
訓練場中央にて騎士団長アレックと対峙する存在を睨むように注視する。
そんな騎士達が皆一様に怒気に包まれており、訓練場には異様な空気が流れていた。
いくら話題の商会と言えど、一商会如きが国を守る為に日夜訓練に励む騎士に勝てると言い切り、しかも相手は女性。
彼らが怒りを抱く事も無理のないことだろう。
何事かと、集まった文官達が思わず固唾を呑む程の凄まじい迫力。
そんな騎士達の怒気を一身に浴びてなお、それを全く意に返さず。
うっすらと笑みを浮かべるその姿に対峙するアレックは悪寒を覚えた。
「しかし、武器も持たずに本当にこの私に勝てるとお思いで?
こう見えても、ネルウァクス帝国が大賢者グラウス殿ともそれなり渡り合えるだけの力はありますよ?」
「大賢者?あぁ、あのお爺さんの事ですね」
「お爺さん?グラウス殿とお知り合いで?」
「いいえ、以前その方が魔法を使っているところを見た事があるだけです」
「では貴女もわかるはずだ、武器も持たずにこの私に挑むのは無謀だと!」
「無謀ですか…ふふふ」
突然笑い出したオルグイユの姿に目を見開くアレック。
しかし、自身があの大賢者と渡り合える実力者だと知りプレシャーでおかしくなったのかと半ば納得しかけたその時…
「いえ、すみません。
ただ驚いてしまいまして」
「よかった、では」
「ええ、早く始めるとしましょう」
静まり返っている訓練場にその一言は異常なほどよく響いた。
「せめてものハンデです、先手は貴方に差し上げましょう。
さぁ、どこからでもかかってきて下さい」
「……仕方ありませんね。
そこまで言うのであれば、せめて一撃で終わらせましょう。
では、行きますよ」
多少痛い目を見れば納得するだろうと、訓練用の刃を潰した剣を手にアレックは地面を蹴った。
常人を遥かに凌駕した踏み込みにより訓練場の地面が割れて舞い上がる。
アレックの踏み込みのあまりの速度に、離れた場所で見ている騎士達でさえ一瞬その姿を見失う。
文官達はからすればアレックが消えたようにすら見える程の圧倒的なスピード。
そんな速度で一気に肉薄したアレックは出来るだけ外傷を残さず、かつ一撃で意識を取り省く為の狙いすました一閃を放つ。
アレックが狙うのは、オルグイユの顎に数ミリ掠る位置。
弛まぬ鍛錬によって鍛え上げられたその剣線は狙い違わず完璧な軌道を辿り……
「あら、お優しいのですね」
目の前で起きている想定外の展開にアレックは極限までその目を見開く。
アレックの放ったその一撃は、親指と人差し指によって摘まれオルグイユに届いていなかった。
「ですが…」
ピシッ、とオルグイユが摘む剣に皹が走る。
唖然と動きを止めていたアレックは歴戦の勘から嫌な予感を覚え即座に後退を試み…背後に吹き飛ばされた。
アレックが身に纏っていた軽装でありながら普通の騎士達のそれを遥かに上回る強度を誇るアダマンタイト製の鎧が弾け飛ぶ。
「この程度では私には勝てません」
十数メートルほど地面を転がったアレックはその勢いのまま体制を起こし、視線を上げて息を呑んだ。
さっきまで、薄っすらと笑みを浮かべて微笑んでいたその顔から笑みは消え失せ。
底冷えするような冷たい紅い瞳が最初と全く変わらない位置で自身を見下ろしていた。
まるで虫ケラでも見るようなその視線に、アレックは目の前に佇む美しい女性が強大なバケモノの様な錯覚を覚え戦慄した。
「私実は怒っているのですよ?」
あまりの出来事に驚愕の声すらなく静まり返る訓練場にオルグイユの声だけが反響する。
「第一王子のノアとシアへの態度。
それに加えてあろうことか、その第一王子とルーミエル様の婚約……」
その異常に一番最初に気がついたのは誰だろうか?
いつのまにか、無風だった訓練場に緩やかな風がオルグイユを中心に引き寄せられるように渦巻く。
「人間風情が、頭が高い」
怒気とともに解き放たれた魔力が立ち登り、凄まじいプレッシャーが王城を包む。
あまりの重圧に騎士達は脂汗を浮かべて固唾を呑む事さえ出来ず。
戦場に出たことの無い文官達はオルグイユから放たれるプレッシャーに耐えきれずに意識を手放した。
「私は貴方のように優しくはありませんよ」
先ほどまでと同じように微笑みを浮かべるオルグイユの姿を見て、アレックは理解した。
目の前に佇む女性が大賢者グラウスと同じく自身が至っていない人外の域に達している存在だと。
さっきの錯覚は錯覚でも何でもなく、自身が対峙しているこの存在も紛う事なきバケモノだと。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
訓練場を一瞥できる窓から観戦していましたが。
流石は騎士団長さん、結構速くて驚きました。
まぁそれでも、僕たちからしてみればまだ遅いですけど。
ですが、そんな事よりも……
「お、オルグイユって怒ると言い知れぬ怖さがありますね」
「そうなんだよ。
あの虫ケラを見るような目で表情を変えずにずっと攻撃されるんだ……」
諦念の目でそんな事を語るエンヴィーにはかける言葉が見つかりません。
だってそこにアヴァリスとメルヴィーも加わって、一体どんな地獄を見たのか……
取り敢えず言えることは、オルグイユも絶対に怒らせてはダメな人です!
これからは、出来るだけオルグイユも怒らせないようにしましょう!!
騎士達が訓練に励み、怒号が轟いているはずのその場所は今、静寂に包まれていた。
本来なら訓練をしている筈の騎士達は訓練場の周りに設置されている観客席に座っており、
訓練場中央にて騎士団長アレックと対峙する存在を睨むように注視する。
そんな騎士達が皆一様に怒気に包まれており、訓練場には異様な空気が流れていた。
いくら話題の商会と言えど、一商会如きが国を守る為に日夜訓練に励む騎士に勝てると言い切り、しかも相手は女性。
彼らが怒りを抱く事も無理のないことだろう。
何事かと、集まった文官達が思わず固唾を呑む程の凄まじい迫力。
そんな騎士達の怒気を一身に浴びてなお、それを全く意に返さず。
うっすらと笑みを浮かべるその姿に対峙するアレックは悪寒を覚えた。
「しかし、武器も持たずに本当にこの私に勝てるとお思いで?
こう見えても、ネルウァクス帝国が大賢者グラウス殿ともそれなり渡り合えるだけの力はありますよ?」
「大賢者?あぁ、あのお爺さんの事ですね」
「お爺さん?グラウス殿とお知り合いで?」
「いいえ、以前その方が魔法を使っているところを見た事があるだけです」
「では貴女もわかるはずだ、武器も持たずにこの私に挑むのは無謀だと!」
「無謀ですか…ふふふ」
突然笑い出したオルグイユの姿に目を見開くアレック。
しかし、自身があの大賢者と渡り合える実力者だと知りプレシャーでおかしくなったのかと半ば納得しかけたその時…
「いえ、すみません。
ただ驚いてしまいまして」
「よかった、では」
「ええ、早く始めるとしましょう」
静まり返っている訓練場にその一言は異常なほどよく響いた。
「せめてものハンデです、先手は貴方に差し上げましょう。
さぁ、どこからでもかかってきて下さい」
「……仕方ありませんね。
そこまで言うのであれば、せめて一撃で終わらせましょう。
では、行きますよ」
多少痛い目を見れば納得するだろうと、訓練用の刃を潰した剣を手にアレックは地面を蹴った。
常人を遥かに凌駕した踏み込みにより訓練場の地面が割れて舞い上がる。
アレックの踏み込みのあまりの速度に、離れた場所で見ている騎士達でさえ一瞬その姿を見失う。
文官達はからすればアレックが消えたようにすら見える程の圧倒的なスピード。
そんな速度で一気に肉薄したアレックは出来るだけ外傷を残さず、かつ一撃で意識を取り省く為の狙いすました一閃を放つ。
アレックが狙うのは、オルグイユの顎に数ミリ掠る位置。
弛まぬ鍛錬によって鍛え上げられたその剣線は狙い違わず完璧な軌道を辿り……
「あら、お優しいのですね」
目の前で起きている想定外の展開にアレックは極限までその目を見開く。
アレックの放ったその一撃は、親指と人差し指によって摘まれオルグイユに届いていなかった。
「ですが…」
ピシッ、とオルグイユが摘む剣に皹が走る。
唖然と動きを止めていたアレックは歴戦の勘から嫌な予感を覚え即座に後退を試み…背後に吹き飛ばされた。
アレックが身に纏っていた軽装でありながら普通の騎士達のそれを遥かに上回る強度を誇るアダマンタイト製の鎧が弾け飛ぶ。
「この程度では私には勝てません」
十数メートルほど地面を転がったアレックはその勢いのまま体制を起こし、視線を上げて息を呑んだ。
さっきまで、薄っすらと笑みを浮かべて微笑んでいたその顔から笑みは消え失せ。
底冷えするような冷たい紅い瞳が最初と全く変わらない位置で自身を見下ろしていた。
まるで虫ケラでも見るようなその視線に、アレックは目の前に佇む美しい女性が強大なバケモノの様な錯覚を覚え戦慄した。
「私実は怒っているのですよ?」
あまりの出来事に驚愕の声すらなく静まり返る訓練場にオルグイユの声だけが反響する。
「第一王子のノアとシアへの態度。
それに加えてあろうことか、その第一王子とルーミエル様の婚約……」
その異常に一番最初に気がついたのは誰だろうか?
いつのまにか、無風だった訓練場に緩やかな風がオルグイユを中心に引き寄せられるように渦巻く。
「人間風情が、頭が高い」
怒気とともに解き放たれた魔力が立ち登り、凄まじいプレッシャーが王城を包む。
あまりの重圧に騎士達は脂汗を浮かべて固唾を呑む事さえ出来ず。
戦場に出たことの無い文官達はオルグイユから放たれるプレッシャーに耐えきれずに意識を手放した。
「私は貴方のように優しくはありませんよ」
先ほどまでと同じように微笑みを浮かべるオルグイユの姿を見て、アレックは理解した。
目の前に佇む女性が大賢者グラウスと同じく自身が至っていない人外の域に達している存在だと。
さっきの錯覚は錯覚でも何でもなく、自身が対峙しているこの存在も紛う事なきバケモノだと。
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訓練場を一瞥できる窓から観戦していましたが。
流石は騎士団長さん、結構速くて驚きました。
まぁそれでも、僕たちからしてみればまだ遅いですけど。
ですが、そんな事よりも……
「お、オルグイユって怒ると言い知れぬ怖さがありますね」
「そうなんだよ。
あの虫ケラを見るような目で表情を変えずにずっと攻撃されるんだ……」
諦念の目でそんな事を語るエンヴィーにはかける言葉が見つかりません。
だってそこにアヴァリスとメルヴィーも加わって、一体どんな地獄を見たのか……
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