上 下
74 / 375
第5章 瀑水の試練編

74話 連行されて行きました!

しおりを挟む
「いやー、それにしても本当に凄まじいね」

 未だに小言を言いつづけてるフェルを視界の外に押し出すように。
 そして若干、苦笑い気味でそう言ってくる変態マゾヒストさん。

「……」

「は、ははは……」

 フェルの為に翼を片方開いていたので、バッと慌てて翼を閉じる。
 僅かに残した隙間からジッと半目を向けると。
 微妙な表情でずぅーん、と言う効果音が付いてきそうな感じで項垂れてしまいました。

 そんな反応をされると、僕が悪い事をしてるように思えて、ちょっと罪悪感を感じますね。
 しかし!  ここで安易に警戒をとけば敵の思う壺かもしれませんし……

「まぁ、そう気を落とさずに」

 コレールがうな垂れた肩をポンポンと叩くと、バッと振り顔を上げて……

「どうにか彼女の誤解を解いてくれよっ!!」

 切羽詰まった様に叫びました。

 誤解?
 と言うと、もしかして彼は変態ではないのでしょうか?

 でも、あの意味深な笑みは油断なりません。
 ゾワァっと身の危険を感じましたしね。

「ふっふっふ、お前はエルに、嫌われた!」

「そ、そんな!!」

 まるで雷にでも打たれたかの様なこの反応。
 何と言うか……彼はもしかして、いじられキャラなのでしょうか?

 うーん、わかりません。
 くっ、こんな所に来て人付き合いの無さが仇となるとはっ!!

「ふふふ、フェル、そんなに意地悪をしたら可哀想ですよ?」

「コイツは、吾の、邪魔をした。
 でも、吾は寛大、許してあげる」

 楽しげに微笑みを浮かべるアヴァリスの注意を受けて、フェルは尊大に胸を張って微笑を浮かべました。

 ふむ、あの無表情で滅多に表情を出す事が無いフェルが頬を緩めるとは!
 やっぱり変態マゾヒストさんは悪い人では無いのでしょうか?

「霊鳥の……彼女もああ言ってるんだし、どうにかしてくれ黒龍の!」

 感激した様子でフェルを見つめ、コレールに食ってかかる。
 執事服の胸ぐらを掴んで前後にブンブンと揺さぶっています。

 呆れた顔をしつつもそれを拒否しない。
 と言う事は、コレールとも親しい間柄という事でしょう。

 あの誠実を絵に描いたようなコレールに変態の友人がいるとは……
 ですが、僕はそんな事気にしませんよ!
 コレールにどんな友人がいようとも、信頼は揺るぎませんからね!!

「はいはい、わかりました。
 お嬢様、どうか彼への警戒を解いては頂けないでしょうか?」

 むぅ、真剣にそう言われてしまうと無下にもできませんね……
 しかし、かと言って完全に気を許すのもちょっと、何をされるのか分からない怖さがありますし。

 取り敢えず、顔だけは出すとしましょう。
 先程と同様に片方の翼を広げて顔を出すと、コレールがホッとした様な表情をしました。

「喜びなさい。
 取り敢えずは、話を聞いて下さるようだ」

 ん?  ちょっと待って下さい。
 もしや僕があのまま閉じ籠っていたら、変態マゾヒストさんは弁明のチャンスすら貰えなかったのでしょうか?

 それはちょっと可哀想ですね……
 まぁでも、彼はコレール達の中ではいじられキャラみたいですし。
 恐らく、どうにかなったでしょうけど。

「流石は黒龍の、頼りになる!!
 ごほん、ルーミエルちゃん、君がどう思っているかは分からないけどね。
 僕はいたって普通の常識人だよ!
 だからそんなに警戒しないで?  ね?」

「お嬢様、この者は確かにどこか抜けている変人ですが。
 それでも異常性癖者ではありません。
 どうかこの者の事をお許し頂けないでしょうか?」

「ん、アホだし、ウザいし、煩いけど。
 嫌な奴じゃ、ない?」

「ちょっ!  君たちそれって僕を擁護してくれてるのかな!?
 それとも貶してるのかな??  てか、もうこれ貶されてるよね、これ?」

 確かに、ちょっと騒がしい人ではあるようですが。
 コレール達がここまで言うのであれば悪い人ではないのでしょう。

 でも、コレールの言う許す?  とはどう言う意味でしょうか??
 うーん、まぁいいでしょう。

「わかりました。
 許します、僕の方こそ勝手に変態マゾヒストだって決めつけてしまってごめんなさい」

 取り敢えず翼をしまってペコリと頭を下げる。
 これで和解出来ればいいのですが……

「ぐっ、面と向かって言われると流石にダメージが……でも無事誤解も解けたようだし。
 分かってくればそれで良いよ」

 あ~よかったぁ、と安堵のため息をついている変態……じゃなくてリヴァイアサンさんでしたか。
 これじゃあ呼びにくいし、ちょっと長いので取り敢えず……リヴァさんと呼んでおきましょう。

 安堵したところ申し訳ないですけど。
 新たな危機が迫っていますよ、リヴァさん!!

「ちょっと良いでしょうか?」

 底冷えするような冷たい声とともに、ポンと後ろから肩に置かれた手。
 一瞬にしてリヴァさんの笑顔が凍りつく。
 デジャブ感のある、壊れたブリキ人形みたいな動作で振り返りました。

「な、何でしょうか、始祖の」

「ふふふ、そんな事も分からないのですか?」

「きゅ、九尾の……」

 顔は微笑んでいるけど目が笑ってないアヴァリス。
 リヴァさんが顔をさらに青くしました。

「貴方、先程ルーミエルお嬢様に謝罪をさせましたね?」

「そ、それが何か?」

「何かっ!?  尊きルーミエル様に謝罪されるなんて、そんな羨ま……そんな罪深き事が許されると?」

「えっ?  今、羨ましいって」

「空耳でしょう。
 それよりもここではお嬢様にご迷惑をお掛けしてしまいます。
 少しあちらに行きましょうか?」

 リヴァさんの言葉を遮って話に乱入してきたメルヴィーもまた目が笑っていません。

「あちらって、何処な……」

「ふふふ、良かったですね。
 両手に花ですよ」

 抗議の声すら遮られ、ガッチリと両肩をオルグイユとメルヴィーに握られリヴァさん。
 引き摺られるように連行されていきました。

「今日も平和ですね」

「そうだな、お嬢」

「うーん、暫くは戻ってきそうに無いですし。
 取り敢えず、この氷のリンクでスケートでもして遊びましょう!」

「そうですね、確かにああなってしまったオルグイユ様とメルヴィー様を止めるのは不可能ですからね」

「それに今回は珍しくアヴァリス様も一緒に行かれましたし、恐らく大事には至らないでしょう」

 ノアとシアもこう言ってますし。
 リュグズールもコレールも異論はないようですから、決定ですね!

「これは如何すれば良いのでしょう?」

 常識人であるプレシーの呟きは、スケートでテンションの上がっているルーミエルの耳に届くことはなかった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...