上 下
21 / 375
第2章 幼女誕生編

21話 前途は多難です

しおりを挟む
 善は急げと言いますし、早速帝都に入ろうとした訳ですが……ここで大きな問題が発覚しました。
 こんな重大な点を見落としているなんて……今までに無かった失態です。

 と言うか、少し考えればこうなる事は分かったハズです。
 それ程までに当然の事態の見落とし。

 小さな村などであればいざ知らず。
 一国の首都に入るために、通行料がかから無いはずが無い。

 しかし!  召喚されてすぐに追放された俺が金銭など持っているはずも無く。
 人里離れた場所にいたフェル、コレール、オルグイユの3名は言うまでもありません。

 つまり俺たちは今、一文無しという事。
 通行料が払えないと言う、商人にとってあり得ない状況に陥る大失態。

「コウキ様、こうなっては致し方ありません。
 強行突破致しましょう」

 いたって真面目な顔で、そんな事を言ってくるオルグイユさん。
 美女が真剣にこんな物騒な事を言うものだから超絶怖い。

 けど、オルグイユはまだまともな方です。
 なにせコレールとフェルはと言うと……

「人間の分際で、主様に金を要求するなど許されません。
 ここら一帯の人間達を皆殺しにした方が良いのではないでしょうか?」

「ん、それも、いいと思う。
 でも、焦土の、方がいい」

「焦土ですか……確かに、その方が我らが主様の偉大さが愚かな人にもよく理解できますね。
 しかし、この都は主様に献上すべきなのではないでしょうか?」

「ん、壊れたなら、作ればいい」

「確かに我々ならば、この都よりも素晴らしい物を作る事が可能ですが。
 それでは主様に献上するまでに多少なりとも時間がかかってしまいます」

「むぅ、質を取るか、速さを取るか。
 これは、難しい問題」

「どうしたものでしょうか?」

「コウキに、決めて貰うべき」

「しかし、このような些事で主様を煩わせる訳にはいきません」

 これで2人ともガチで言っているのだから笑えない。
 流石に許容できません。

 しかし、どうしようもない事もまた事実。
 いつまでも迷っていては、フェルとコレールがいつ暴走するかわかりませんし……







 一旦迷宮に帰った方が良いのでは?  と考えていた俺に、人の良いおじさんが救いの手を差し伸べてくれるのは数分後の事だった。

 おじさん曰く、魔物の素材をなどを門の隣にある冒険者ギルドの窓口で換金できるらしいです。
 これはまさしく、天が遣わした救いです!
 まぁ、おじさんでしたけど……

 大袈裟かもしれませんが。
 あたり一帯が壊滅した可能性もあったのだから、あながち間違いでも無いと言うこの事実。

「すみません、こちらで魔物の素材を買い取って頂けると耳にしたのですが」

「あら、新人さんかしら?」

 窓口は受付カウンターみたいな造りになっており。
 受付にいる女性、謂わゆる受付嬢に声をかけると、受付嬢は少し驚いたように目を見開きました。

 しかし、それも一瞬の事で直後には人当たりの良い微笑みを浮かべる受付嬢。
 プロですね。
 なぜ、驚いたような反応をしたのかが分かりませんけど。

 どうやら特に俺とオルグイユを警戒しているようですけど……まぁ、別ににやましい事は一切無いので別に良いですけどね。

「はい、そんなところです。
 田舎から出て来たのですが、通行料を払う為の資金を旅路の路銀で使ってしまい。
 路頭に迷っていたところ、この場所の事を教えて頂きまして」

「成る程、確かにここでは魔物の素材や薬草などを買い取らせてもらってますよ。
 冒険者カードはお持ちですか?」

 と、にこやかに微笑んではいますが……その瞳からはやはり警戒の色が窺えますね。
 う~ん、そんなに警戒されるような事は何もしてい無いと思いますけど。

 まぁ、あの草原ではかなり、やっちゃった感がありましたが……流石にその事はまだ帝都まで伝わってい無いでしょうし。
 転移の瞬間も見られていないハズです。

「いえ、持ってません」

「わかりました。
 ですがその前に……お手数ですが、この水晶に手をかざして頂けますか?」

 そう言って受付嬢が取り出したのは、直径15センチほどの水晶。

「これは?」

「これは、現身の水晶と言う物です。
 皆様はステータスプレートをご存知ですか?」

「ええ、確か古来より現存するアーティファクトだとか」

 一瞬、受付嬢の視線が鋭くなったように見えましたが。
 まぁ気のせい……ではないでしょうね。
 面倒な事にならなければいいのですが。

「冒険者ギルドではステータスプレートを模倣した冒険者カードを身分証としているのですが、これはその簡易版です」

 アーティファクトであるはずのステータスプレートを模倣するって、冒険者ギルド凄すぎませんか?

「冒険者ギルドで買い取らせて頂く場合の原則として冒険者カードを提示して頂くか、こちらの水晶で身元を確認させて頂く必要があるのです。
 お手数ですが、確認させて頂かないと買取は出来ません」

「そう言う事でしたら、構いませんよ。
 これでいいですか?」

 俺がすぐに了承したことに多少なりとも驚いたのか軽く目を見開く受付嬢。

「はい、有難う御座いました。
 もう結構ですよ」

「じゃあ次は、フェル」

「いえ、代表者お一人だけで構いません」

 全員の身元を確認をしないって……これではあまり意味が無いのでは?
 まぁ俺には関係の無い事ですし、こっちとしては手間が省けたので別に構いませんけど。

「では、買い取って頂きたい魔物ですけど、どこに出せばいいでしょうか?」

「えっ」

 驚いたような表情になる受付嬢。
 はて、何にそんなに驚いているのでしょうか?

「どうかしましたか?」

「い、いえ。
 ただ皆様、荷物を持っていらっしゃらないようでしたので」

 あぁ、成る程そう言う事ですか。
 まぁ、俺達が荷物を持っていないのは当然です。
 だって必要なものは全て〝無限収納〟に押し込めてありますからね。

「俺たちが荷物を持っていないのは持つ必要が無いからです。
 必要なものは全て亜空庫に入れていますから」

 まぁ、亜空庫と言うのは嘘ですけど。
 ユニークスキルをいきなり明かす様なヘマはしません!!

「亜空庫ですか!?」

「え、ええ」

 凄い勢いで身を乗り出してまで驚きを露わにする受付嬢さん。
 ちょっとビックリしました。

「あっ、申し訳ありません!
 ただ亜空庫を使える人は、とても貴重な人材ですので。
 では買い取らせて頂く魔物ですが、裏に解体場がありますので、そちらの方で出して頂いてよろしいですか?」

「わかりました」

「では、こちらに」

 そう言って歩き出す受付嬢の後を歩きながら、どの魔物を買い取ってもらおうかと考える。

 流石に、アラクネみたいな魔物を出す訳にはいかないでしょう。
 アラクネがどの程度のランクの魔物なのかは分かりませんが、人語を話す程の知恵がある魔物が下位の存在だとは思えません。
 その証拠に、アラクネが出て来たのは迷宮の後半でしたしね。

 もし俺がそんな魔物を出せば、冒険者でも無い子供がアラクネを討伐出来るハズが無い!!  
 と言う感じで、騒ぎになる事は目に見えています。
 目立たないように立ち回りたい俺としては、そんな騒ぎを起こす訳にはいきません。

「では、こちらに出して下さい」

 う~ん、ここは取り敢えず一番初めに仕留めたあの犬を1匹出しておきますか。

「わかりました」

 ドサリっと音を立て、その場に現れたのは紛う事なき俺がこの世界に来て初めて仕留めた魔物の死骸。
 2メートルを超える巨体の漆黒の魔物。

 あの赤く輝く2対の瞳は、ホーリーで消滅させた頭と共に消えているので首より上が無い状態ですけどね。

「う、嘘でしょ、これは!?」

 魔物の死骸を見て受付嬢が声を上げる。
 やっぱりやってしまったか。
 俺もコイツを出した瞬間にやってしまった!  と思いました。

 だってコイツは首から上が無い。
 これでは商品としての価値が、かなり低くなってしまう事は仕方無い事でしょう。

 受付嬢が声を上げると言う事は、それだけ状態が悪いと言うことに他ならないと言う事でしょう。

「ちょっと貴方!
 ギルド長にすぐに連絡をして頂戴!!」

 保存状態を謝罪し、状態の良い個体を出そうとした瞬間、受付嬢が近くにいた男の人に向かって叫んだ。

「皆様にはこれより、お話をお聞かせして頂かないといけません。
 申し訳ありませんが一緒に冒険者ギルドまで来て頂けるでしょうか?」

「は、はい。
 それは別に構いませんが。
 俺達には通行料を払えないのですが」

「そちらはご心配なく。
 我々、冒険者ギルドが手続きしておきますので」

「それは有り難いですが、本当にいいのですか?」

「問題ありません」

「わかりました。
 ではお言葉に甘えさせて頂きます。
 しかし、一体何の話をすればいいのですか?」

「それは勿論、この魔物についてです。
 事態は急を要しますから、こちらに」

 ん?  急を要する事態って、どう言う事でしょうか?

「あの急を要するとは、どう言う事なのでしょうか?」

「あの魔物、ヘルハウンドは災厄級の魔物で、一体でも上位の冒険者でないと太刀打ちできない程の強さを誇ります。
 しかも、ヘルハウンドは群れで活動する魔物です。
 ヘルハウンドの群れが現れたとなれば、それはもう災禍級と言っても過言では無い事態なのですよっ!!」

 少し呆れた様に怒鳴られてしまいました。
 そんな事より、今聞き捨てなら無い事があったのですが……ヘルハウンドが災厄級?  群れだったら災禍級と同等の脅威?

 マ・ジ・デ・ス・カ!
 まさか、あのワンちゃんが、そのまで凄い魔物だったとは思いもしませんでした。
 これでは極力目立たないと言う俺の第一目標が……はぁ、前途は多難です。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

処理中です...