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第12章 アクムス王国編

231話 祈り

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「私が海竜の怒りを鎮める……?」

「そう!  竜種ドラゴンの愛子たるソフィーなら、できるはずよ」

 私が?
 あの怒り狂ってる海竜を?

「ま、まじですか……」

 ぶっちゃけ……

「ギュゥッ!  ギュォォッ!!」

 そんなのできる気がしないんですけど。
 ビーチにいる私達なんて目に入らないほどに、めちゃくちゃ怒り狂ってるし。

 いやまぁ、ルミエ様がこういってるんだから、できるんだろうけども。
 怒り狂う竜種ドラゴンの怒りを鎮める、か~。

「ん?」

 あれ?  ちょっと待って。
 怒れる竜を鎮める少女……それって客観的に見たら、それこそ完全に聖女みたいな光景じゃんか!

「う~ん」

 それってどうなんだろ?
 本来なら乙女ゲームの主人公にして、異世界から召喚される黒髪黒目の美少女エマが数百年ぶりに誕生した聖女になる。

 それに対して私は、聖女とは真反対の悪役令嬢!
 なのにまさか悪役令嬢たる私に、そんな聖女みたいな力があったとは……

「あの、お姉様?  どうかなさいましたか?」

「ん?  いえ、なんでもありませんよ」

 まっ!  細かいことはどうでもいいや!
 サイラスは……どうでもいいけど、これ以上リアットさんを怖がからせるわけにはいかない。
 今はとにかく怒り狂う海竜をどうにかするのが先決!!

「ルミエ様!  どうすればいいのか教えてくださいっ!!」

「ふふっ、わかったわ」

 執拗に何度も何度もクラーケンを攻撃する海竜。
 何があったのかはわからないけど……その怒り、私が鎮めてみせるっ!!

「やる事は簡単よ。
 海竜に怒りを鎮めてほしいと、願いながら祈ればいいだけ。
 ただし、あそこまで感情的になった海竜に祈りを届けるには、心の底から真剣に祈りを捧げる必要があるわ」

「なるほど……わかりました。
 やってみます!」

 真剣に祈りを捧げる、か。
 私の祈りで海竜を鎮められるかはわからないけど……私には前世の記憶が!
 神へと祈りを捧げる、本物の聖女エマを知っている!!

 どう祈りを捧げればいいのかわからないし。
 ここはとりあえず、真の聖女であるエマの祈り方をまねするとしよう。

「すぅ~はぁ……よし!」

 跪いて胸の前で両手を組んで目を瞑る。

「偉大なる海の覇者、その怒りを鎮めたまえ」

 海竜さん、どうか、どうか!  その怒りを鎮めてください!!

「ギュ?」

「っ!  海竜がこちらを……」

 おぉ~!  本当だ!!
 リアットさんのいう通り、目を開けたらさっきまで一心不乱にクラーケンを攻撃していた海竜と目があった。
 って、祈りに集中しないと!!

 なにがあったのかなんて、私にはわからない。
 海竜がどうしてそんなにクラーケンに怒りを向けているのかも、怒りと一緒に感じる深い悲しみのわけもわからないけど……どうか、怒りを鎮めてっ!!

「……」

 えっ、なにこの感じ……動きを止めて、こっちをジッと見つめた海竜となにか繋がったような……

「っ!」

 こ、これは!  頭の中に海竜の感情が……記憶が流れ込んでくる!?
 これは……やっぱり、なんとなくそうなんじゃないかと思ってたけど……

「貴女、我が子をクラーケンに殺されたのね」

 クラーケンは時に竜種ドラゴンすら襲うといわれている魔物。
 だからこの海竜はあんなにも、執拗に何度も何度もクラーケンに怒りをぶつけるように攻撃してたんだ。

「ギュゥ……」

 我が子を殺された悲しみは、子供がいない私にはわからない。
 でも家族を失うことの恐怖は痛いほどにわかる。

 だから海竜の深い悲しみも、激しい怒りも少しは理解できる。
 けど……そのクラーケンは既に死んでいるし、これ以上その怒りをぶつけるように攻撃を続けても意味はない。

 これ以上続けられて、王都フェニルに被害を出すわけにはいかないし。
 そんなことよりも、殺された子の冥福を願ってあげてほしい……だからどうか!

「その怒りを鎮めて……!」

「ギュ……」

 私をジッと見つめていた海竜が、ボロボロになったクラーケンの死体を一瞥し……

「キュォォォォン」

 天を衝くように咆哮をあげる。
 さっきまでの怒りに満ちていた声とは違って、どこか悲しみに満ちた声が周囲に鳴り響き……

「キュゥ……」

 謝るように、こっちに向かって一度頭を下げた海竜がその身を翻し……水飛沫を上げて大海原へと姿を消した。
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