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第12章 アクムス王国編

226話 怒れる海の覇者

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「さてと……」

 ソファーに腰掛け、セバスさんがすかさず差し出したお茶を一口。
 うん、さすがは大国たるアクムス王国が国王陛下!

 優雅で優美な、洗練された所作。
 品があるのに滲み出すような……この色っぽさ!  特にさてとっていいながらの流し目の威力はすごかった!!

 同じ女性である私ですら、そう思うんだ。
 男性のフィルとサイラスはきっと、今のアルバ様の仕草で頬を赤く染めて……

「では早速本題ですが、今回の依頼。
 クラーケンの討伐にあたって、詳しい状況を教えてください」

 あ、あれ?  おかしい。
 サイラスは……予想通り、アルバ様の色気に当てられて、頬を赤くしてるけど。
 フィルはまったく動じてない!?

「っ~!!  フィ、フィル、もしかして……」

 い、いや!  だからってなにも問題はないよ!?
 そういうのは人それぞれなわけだし!
 確かにイストワール王国の王侯貴族は、古臭い考え方の人が多い。

 同性愛なんて絶対に認めない!  って考えの人が多いだろうけど……私は違う!!
 心配しなくても前世の記憶がある私は、そういうことにも理解がある!!

「お姉様?」

「リアットさん……大丈夫です。
 あとでリアットさんにも、そういう世界があることを教えてあげますから」

 そう!  前世の記憶にもある世界……腐の世界があるということをっ!!

「ソフィー……」

「っ!」

 ま、まずい!
 このフィルの声……笑顔だけど怒ってるときの感じだっ!!

「大丈夫だから!
 たとえフィルがそうだったとしても、フィルは私の大切なお友達で仲間なのは変わらないよ!!」

「……」

 あ、あれ?  なにこの微妙な空気。
 なんで黙り込んじゃうの!?  フィルから呆れたような、ジト目を向けられてる気がするんですけどっ!!

「ふふふ、フィル殿。
 話には聞いていたけど、貴方も大変ね」

「もう慣れましたよ……」

 えっ、なんの話?

「ソフィー、一応、念のために言っておくけど……ソフィーが考えてる事は勘違いだからね?」

「うんうん、私はわかってるから」

「わかってないね……」

「いつまでも経っても覚悟を決めないからこうなるのよ。
 そうなったら今まで以上に手強いわよ?  まぁ自業自得だけれど」

「ルミエ様!  もういいんですか?」

 もっと猫ちゃんサイズのルミエ様を愛で……こほん、休んでもらっててよかったのに。

「ふふっ、今から依頼の話をするんでしょう?
 だったら私もいないとね」

 まぁ……確かに。
 猫ちゃんサイズの竜種ドラゴンの姿のときは、私とフィル以外には見えないわけだしね。
 ちょっと残念だけど、これは仕方ないか~。

「はぁ……それで、現状を教えてもらえますか?」

「本当なら今日はゆっくりしてもらおうと思っていたんだけれど、フィル殿がそう言うなら仕方ないわね。
 セバス、地図を」

「かしこまりました」

 おぉ~!  さすがはセバスの名を持つセバスチャンさん!
 アルバ様に言われて即座に、机の上に地図を広げるとは準備がいい!!

「クラーケンが出没するようになったのは一月程前、場所はこの王都フェニルの港から約500メートル程の海域よ。
 幸いな事に、まだ大きな人的被害は出ていないわ」

「王都の港から500メートルですか……不自然ですね」

「お姉様、なにが不自然なのですか?」

 ん?  まぁイストワール王国は海に面してないし、貴族令嬢たるリアットさんが知らないのは当然か。

「クラーケンとは本来、深海で生息している魔物で、陸地から500メートルなんて近くの海域に現れる事はないんですよ」

 クラーケンの生息域は陸地から、数十キロ以上離れた海域。
 にも関わらず、陸地からたった500メートルの場所に出没するとなると……なにか理由があるはず。

「ふふっ、クラーケンがそこに出没する理由なら簡単よ」

「えっ?」

 マジですか。
 さすがはルミエ様だわ!

「それで、その理由とは?」

「そのクラーケンは逃げてきたのよ」

 逃げて、きた?
 大海の怪物と称されるクラーケンが?

「ここから見える海。
 あの海の奥から感じる……激しい怒りの波動」

 いわれてみれば、海の奥からなに……

「っ!  こ、この感じはまさか!!」

「ふふっ、ソフィーも気づいたようね」

 この感じは紛れもない……

「そう、なにをやらかしたのかは知らないけど、あのクラーケンは愚かにも海の覇者を怒らせたのよ」

「海の覇者というと……まさか」

 さすがはアクムス王国の国王陛下。
 アルバ様もその異名を知ってるみたいだ。

「えぇ、あのクラーケンは怒り狂う海竜から逃げてきたのよ」

 海の奥から感じるこれは……怒れる竜種ドラゴンの気配っ!!
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