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第10章 英雄台頭編

196話 その悪魔は……

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「これはまぁ、なんというか……呆気ないな」

「自業自得ですね」

「よりによって、七大迷宮に手を出すなんてね……」

 虚な瞳で項垂れる男を見下ろしながら、各々感想を言い合い……

「カハッ!?  ハァ、ハァ……」

 男の頭上に浮かび上がっていた記憶の映像が消えた瞬間、まるで息を吹き返したかのように、男が咽せながらガルド達を睨みつける。

「貴様ら!  私にいったい何をしたっ!?」

「はぁ……それはこっちのセリフだ。
 お前らこそ、何をやらかしてくれたのか理解してるのか?」

「なんだと?
 いや、今そんな事はどうでもいい。
 貴様らの無礼な態度は許してやろう、早く私を助けるがいい」

「「「……」」」

 まるでそれが当然といった様子で言い放った男に、ガルド達3人が顔を見合わせ……

「何を言ってるんだ、コイツは?」

「残念ながら、私には理解しかねますね」

「本当に教団の連中は愚かね」

 呆れたように男を見下ろす。

「っ~!  私はこの世界を真の姿へと導く者っ!
 真実の神に寵愛されし光の使徒が幹部にして、最高幹部である十使徒がお1人であらせられる第五使徒シュルト様直属の配下!!
 主天使ドミニオンの称号を持つ、選ばれし者なのだぞっ!?」

「煩いわね」

 若干苛立った様子で、ルミエが喚き散らす男を見下ろす。

「お前がどこの誰かなんて、どうでもいいわよ。
 まったく……いつもの事ながら、コイツらの選民思想はどうにかならないのかしら?」

「なっ!?」

「まぁ、いいわ。
 そんな事より、貴方は自分達が何をしでかしたのか、しっかり理解しているのか?  って、聞いているのだけれど?」

「そんな事だとっ!?」

「くどいわよ」

「ッ──!?」

 冷たい……なんの価値もない道端のゴミでも見るかのような、感情の篭っていない冷たい瞳を。
 金色に輝く、縦長の瞳孔を……竜種ドラゴンの瞳を見て、男が驚愕に目を見開いて息を呑む。

「お前如きが、この私の質問を無視するなんて赦されるとでも思っているの?」

「こういうところを見てると、本当にそっくりだよな」

「確かに……」

「ガルド、クリスティア?  ふふっ、今何か言ったかしら?」

「いや、何も」

「気にせずに続けてください」

「そう、まぁいいわ。
 それで、もう一度だけ聞いてあげる。
 お前は自分達が何をしでかしたのか、理解しているのかしら?」

「……我々は、我々は神のご意志を遂行したまでだ!」

「だとよ」

「まぁ七大迷宮の事は最高機密。
 教団の連中が知らないのも無理はありませんしね」

「で、どうする?」

「貴様ら、いったいなんの話を……」

 ガルドとクリスティアの会話を聞いて、男が怪訝そうに顔を歪め……

「ヒッ──!?」

 背筋に走った強烈な悪寒に、短く悲鳴をあげて息を呑む。

「時間切れのようね」

 そう呟くルミエ達3人の視線の先。
 恐る恐る振り返った男の目に映るのは……綺麗な青い髪を肩口で切り揃えた、美しい1人の少女。

「ふふふっ、見つけましたよ」

 少女が楽しげに、誰もが見惚れるような。
 しかしながら、男にとっては心の臓を握りつぶされるような恐怖を抱かせる笑みを浮かべ……

「い、いやだ……」

 何気なく少女が手を翳すと同時に、男の身体が空中に浮かび上がる。

「探しましたよ。
 このダンジョン内に残っているのは、貴様で最後なんですよ?」

 ふふふっ、と楽しげに笑いながら近づいてくる……いや、一切身動きが取れず、自身の意志など関係なく引き寄せられて自ら近づいている少女に、男の顔が恐怖に歪む。

「安心してください。
 私の聖域を穢した愚かな人間共は……肉体も、精神も、魂も!  私程度の頭で考えつく限りの苦痛と恐怖を味合わせて、皆殺しにしてあげますから!!」

「ヒッ!  ば、化け物っ!」

 心底楽しげ笑う少女の姿に。
 楽しそうな見た目とは裏腹に、憤怒の激情に狂ったその瞳に、男が恐怖に引き攣った悲鳴をあげる。

「死に行く貴方に、冥土の土産として教えてあげるわ。
 このダンジョンを含め、七大迷宮は他のダンジョンとは違って少し特別なのよ」

 くぐもった悲鳴が鳴り響く。

「彼女の名前はレヴィア。
 七大迷宮の管理を任された存在……悪魔界の統治者たる大悪魔」

 血飛沫が青い海を真っ赤に染める。

「七柱存在する悪魔公」

「だ、だすけっ──」

 痛みに。
 恐怖に。
 涙を流しながら顔を歪め、助けを求めてルミエ達へ向かって手を伸ばし……

「七魔公が一柱ヒトリ
 不可侵存在とされる魔王とは比べ物にならないほどに、その怒りを買ってはならない存在」

 首から下を残して、男の身体が一滴の血液すら残さずに消し飛び……涙に濡れて、恐怖に歪む男の首が、最初から何もなかったかのように。
 海を赤く染め上げた真っ赤な血だけを残し、闇に呑まれて消滅した。
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