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第10章 英雄台頭編
195話 怒れる悪魔
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その殺気を、怒りの波動を受けて、誰もが固唾を飲み込んで美しき少女を凝視する。
その少女からは、目の前の少女からはなんの力も感じない。
彼らの目には、容姿が整っているだけの無害な普通の少女にしか映らない。
仮に街で見かければ、決して彼女に自分達を害する力はないと一目で判断しただろう。
だが……事実として、一切なんの力も感じさせない少女は、自分達と同じように空中に佇み、仲間の首を握りつぶしている。
その異様さも相まって、誰一人として少女から視線を逸らさない。
ほんの一瞬でも少女から目を離せば……そこに待っているのは絶対的な死。
まるで本能が警鐘を鳴らしているかのように──
「なんだ……お前は?」
純白のローブを見に纏った貴公子然とした男。
その場にいた白いローブで身を包んだ者達の、リーダーである男が油断なく鋭い視線で少女を射抜きながら誰何する。
「黙れ、下郎が! 貴様如きにそれを知る資格はない。
それよりも早く私の質問に答えろ、今私は虫の居所が悪い」
「貴様如き、ね……ふふふっ、言ってくれますね。
いいでしょう、ならば愚かな貴女に私が何者なのかを教えて差し上げましょう!」
芝居がかった動作で男が腕を広げる。
「私の名はシュルト! 真の神の寵愛を受けし光の使徒が最高幹部、十使徒が1人。
第五使徒、純潔のシュルトです!!」
「真の、神……だと?」
「いかにも! そして……貴女の言う通り、今回このダンジョンでスタンピードを誘発したのはこの私です。
人間の……いいえ、生物が持つ多くの欲求の中で、最も強いモノはなにか知っていますか?」
「……」
「それは性欲です!
生物の本能として異性を求める欲求、そして性の快楽は何よりも……時に死の恐怖さえ超越する!!
ふふふ、つまり! 無知な魔物共を操る事など、この私には容易いというわけです」
まるで舞台俳優かのような大仰な仕草で語っていた言葉を、そこで一度切った貴公子然とした男……シュルトがニヤリと笑みを浮かべて少女を見据える。
「私の力には誰も抗えない。
さぁ! 死をも超越する本能に! 性の快楽に呑まれるがいいっ!!」
名乗った時、腕を広げると同時に密かに展開していたシュルトの魔力が……白く輝く光が纏わりつくように少女を取り囲む。
「覚める事のない、永遠の悦楽に眠りなさ……」
不意にシュルトの台詞が途切れる。
「……は?」
果たして、それは誰が漏らした呟きだろうか?
誰もが……光の使徒の最高幹部たるシュルトでさえも、何が起こっているのか理解できずに、ただただ唖然と目を見開く。
「赦さない」
冷たい声音でありながら、荒れ狂うような怒りを感じさせるその言葉に。
目の前の光景に……今はその少女から明確に感じる強大な力の波動に、全身の毛が粟立ち、悪寒が走る。
今すぐこの場から逃げろと。
プライドも矜持も、全てを投げ打ち……無様に転がりながら、即座に逃げろと本能が警鐘鳴らす。
しかし身体が硬直したかのように、誰一人として動かない……いや、動けない。
「私がご主人様から任された聖域を穢した、それだけで万死に値するというのに……あまつさえ、真の神だとっ!?」
「そんな、ばか、な……」
間近で、目の前でその怒りをぶつけられたシュルトが。
少女の細い腕によって、自身の胸が貫かれているという事実に唖然と言葉を溢す。
「私は、十使徒の……真の神の寵愛を受けし、神の使徒っ!
こんな事が、あり得るはずが……っ!?」
目の前の少女を。
自身の胸を刺し貫く少女の目にして、その少女から向けられる怒りの波動を一身に受けてシュルトが……その場にいた全員が息を呑む。
「ま、まさか、お前は……」
少女の怒りを、強大な魔の力を向けられ、彼らが幻視した少女の姿。
光の使徒に残っている約400年前の聖魔大戦についての情報において、絶大な力を誇ったという者達。
光の使徒が宿敵と定めている存在……
「死ね、ゴミが」
瞬間──シュルトの上半身が消し飛び、血を撒き散らしながら腰から上を失った下半身が落下する。
「あ、悪魔……」
その光景を見て、誰が唖然と呟く。
「貴様らは決して……その肉体! 魂の一片に至るまで、決して赦さないっ!!」
「ヒッ……!」
誰が恐怖に息を呑み、その場にいた全員が弾かれたように身を翻す。
そこに統率なんてありはしない、ただただ全力でその少女から、怒り狂う悪魔から脇目も振らずに逃げ始め……
「ギャァ!!」
「い、嫌だ! 死にたくっ……」
「ガハッ!?」
1人、また1人と肉片へと変わっていき……
「ガァッ!?」
腕に走った鋭い激痛に呻き声を上げながら男が……この記憶の持ち主である男が海へと落ちた。
その少女からは、目の前の少女からはなんの力も感じない。
彼らの目には、容姿が整っているだけの無害な普通の少女にしか映らない。
仮に街で見かければ、決して彼女に自分達を害する力はないと一目で判断しただろう。
だが……事実として、一切なんの力も感じさせない少女は、自分達と同じように空中に佇み、仲間の首を握りつぶしている。
その異様さも相まって、誰一人として少女から視線を逸らさない。
ほんの一瞬でも少女から目を離せば……そこに待っているのは絶対的な死。
まるで本能が警鐘を鳴らしているかのように──
「なんだ……お前は?」
純白のローブを見に纏った貴公子然とした男。
その場にいた白いローブで身を包んだ者達の、リーダーである男が油断なく鋭い視線で少女を射抜きながら誰何する。
「黙れ、下郎が! 貴様如きにそれを知る資格はない。
それよりも早く私の質問に答えろ、今私は虫の居所が悪い」
「貴様如き、ね……ふふふっ、言ってくれますね。
いいでしょう、ならば愚かな貴女に私が何者なのかを教えて差し上げましょう!」
芝居がかった動作で男が腕を広げる。
「私の名はシュルト! 真の神の寵愛を受けし光の使徒が最高幹部、十使徒が1人。
第五使徒、純潔のシュルトです!!」
「真の、神……だと?」
「いかにも! そして……貴女の言う通り、今回このダンジョンでスタンピードを誘発したのはこの私です。
人間の……いいえ、生物が持つ多くの欲求の中で、最も強いモノはなにか知っていますか?」
「……」
「それは性欲です!
生物の本能として異性を求める欲求、そして性の快楽は何よりも……時に死の恐怖さえ超越する!!
ふふふ、つまり! 無知な魔物共を操る事など、この私には容易いというわけです」
まるで舞台俳優かのような大仰な仕草で語っていた言葉を、そこで一度切った貴公子然とした男……シュルトがニヤリと笑みを浮かべて少女を見据える。
「私の力には誰も抗えない。
さぁ! 死をも超越する本能に! 性の快楽に呑まれるがいいっ!!」
名乗った時、腕を広げると同時に密かに展開していたシュルトの魔力が……白く輝く光が纏わりつくように少女を取り囲む。
「覚める事のない、永遠の悦楽に眠りなさ……」
不意にシュルトの台詞が途切れる。
「……は?」
果たして、それは誰が漏らした呟きだろうか?
誰もが……光の使徒の最高幹部たるシュルトでさえも、何が起こっているのか理解できずに、ただただ唖然と目を見開く。
「赦さない」
冷たい声音でありながら、荒れ狂うような怒りを感じさせるその言葉に。
目の前の光景に……今はその少女から明確に感じる強大な力の波動に、全身の毛が粟立ち、悪寒が走る。
今すぐこの場から逃げろと。
プライドも矜持も、全てを投げ打ち……無様に転がりながら、即座に逃げろと本能が警鐘鳴らす。
しかし身体が硬直したかのように、誰一人として動かない……いや、動けない。
「私がご主人様から任された聖域を穢した、それだけで万死に値するというのに……あまつさえ、真の神だとっ!?」
「そんな、ばか、な……」
間近で、目の前でその怒りをぶつけられたシュルトが。
少女の細い腕によって、自身の胸が貫かれているという事実に唖然と言葉を溢す。
「私は、十使徒の……真の神の寵愛を受けし、神の使徒っ!
こんな事が、あり得るはずが……っ!?」
目の前の少女を。
自身の胸を刺し貫く少女の目にして、その少女から向けられる怒りの波動を一身に受けてシュルトが……その場にいた全員が息を呑む。
「ま、まさか、お前は……」
少女の怒りを、強大な魔の力を向けられ、彼らが幻視した少女の姿。
光の使徒に残っている約400年前の聖魔大戦についての情報において、絶大な力を誇ったという者達。
光の使徒が宿敵と定めている存在……
「死ね、ゴミが」
瞬間──シュルトの上半身が消し飛び、血を撒き散らしながら腰から上を失った下半身が落下する。
「あ、悪魔……」
その光景を見て、誰が唖然と呟く。
「貴様らは決して……その肉体! 魂の一片に至るまで、決して赦さないっ!!」
「ヒッ……!」
誰が恐怖に息を呑み、その場にいた全員が弾かれたように身を翻す。
そこに統率なんてありはしない、ただただ全力でその少女から、怒り狂う悪魔から脇目も振らずに逃げ始め……
「ギャァ!!」
「い、嫌だ! 死にたくっ……」
「ガハッ!?」
1人、また1人と肉片へと変わっていき……
「ガァッ!?」
腕に走った鋭い激痛に呻き声を上げながら男が……この記憶の持ち主である男が海へと落ちた。
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