上 下
155 / 460
第8章 王都動乱編

155話 お願い

しおりを挟む
「ほう、ソフィアはワタシの事を知っているのか?」

 そりゃもう!

「当然です!」

 というか、この世界の住人なら誰でも……それこそ、お年寄りから小さい子どもまで、老若男女が知っている!!
 なにせ、魔王の存在は子ども用の絵本にもなってるくらいだし。

「ふむ、ワタシの正体を知って、恐れるどころか目を輝かせるとは……流石は愛子と言ったところか」

「っ!  どうしてそれをっ!?」

「ワタシを誰だと思っておる?
 その程度を看破する事など、雑作もない事よ」

「おぉ~!!」

 すごいっ!  さすがは八魔王が一柱ヒトリ、全ての吸血鬼の頂点に君臨する吸血鬼の女王、鮮血姫ルーナっ!!

「ふふっ、愛やつめ。
 ルミエがお主を気に入るのもわかる」

「うっ、愛やつっ!?」

 あの鮮血姫にっ!  憧れのルーナ様に愛やつっていわれちゃったっ!!

「ほれ、近うよれ」

「は、はいっ!」

 や、やばい!  よくよく考えれば、私の目のまえにルーナ様がっ!!
 どこか近づき難いほどに気高く、満ち溢れた高貴で妖艶な気品。
 優雅に、美しく、他者を圧倒して平伏させる絶対的な力っ!
 まさに支配者然とした、態度と所作の数々っ!!  し、心臓がバクバクいってる!!

「ふふっ」

「ほわわ~!!」

 ルーナ様にっ!  ルーナ様に頭をなでなでされちゃったぁっ!!
 って!  興奮してる場合じゃないっ!!
 早くウェルバーとミネルバを連れて避難を!  いや、そのまえにルーナ様にお礼をっ!!  と、とりあえず……

「あ、あの!  ルーナ様っ!!」

「ん?  どうした?」

「えっと、その……ルーナ様はどうやって、ピアのあの攻撃を?」

 そうじゃないっ!!
 もう私のバカっ!  ちゃんと助けてもらったお礼をしないとダメなのにっ!!
 でも、ルーナ様にもっとなでて欲しいし……

「ピア?  あぁ、あの身の程知らずの痴れ者の事か。
 ヤツは数秒間、時間を止めておったのだ。
 まぁ、あの程度の時間停止如きで図に乗っておった時点で、程度も知れておるがな」

 じ、時間停止……なるほど、だから雷速を誇り、加速した世界を見てた私でもまったく反応できなかったんだ。
 時間の止まった世界を動けるピアにとって、どれだけ速くても関係ないわけだし……

「それよりもソフィア、お主には特別にワタシの加護も授けてやろう」

「ほぇっ!?」


『ぴろん!
 鮮血姫の加護を獲得しました!』


 ル、ルーナ様の加護……!!

「もう少し語らいたいところだが……用事があるのでな、ワタシはこれで失礼するとしよう。
 ルミエによろしく頼むぞ。
 ではソフィアよ、また会おうぞ」

 闇に溶けるように。
 最初からそこには誰もいなかったかのように、颯爽と去っていってしまった……

「っと……」

 私としたことが……つい気が抜けて、ウェルバーとミネルバを守ってる隔離結界が解けちゃった。
 まぁ、もうピアはルーナ様が倒してくれたわけだし、隔離結界はもう必要ないから問題ないんだけども……

「ふぅ……」

 やばっ!  身体がふらついて力が……あぁ、もう立ってられないわ。

「っ!  ルスキューレ嬢っ!!」

 や、やばい!  ウェルバーとミネルバのまえで情けないところをみせちゃった!!
 そもそも!  あれだけ堂々と安心しなさい、とか!  許さない、とか!  言い放ったのに、結果は手も足も出ずにこのざまっ!!

 ルーナ様が介入してくれなかったら、ピアに惨敗したのは火を見るよりも明らか!!
 恥ずかしいすぎてこの場所から逃げ出したい!  逃げ出したいけど……身体が全然動かないっ!!

「ソフィアお姉様っ!!」

「へ?」

 お、お姉様?  というか、ミネルバに抱きつかれて……えっ!  ミネルバが泣いてるっ!!
 な、なにこれ!  どういう状況なの!?

 あっ!  そっか、あれだな……ピアの亡骸!  ズバリ、ミネルバが泣いてるのはモザイク確定なピアの亡骸を見ちゃったからか!!
 まぁ、貴族令嬢が上半身が消し飛んだ死体なんて目にすれば、失神しちゃっても不思議じゃないしね。

 うんうん!  ミネルバが泣き出しちゃうのも当然だわ!!
 かくいう私も、まだ修行を始めたばかりのころは、よく倒した魔物の亡骸を見て気分が悪くなったり、食事もできなくなったし。
 公爵令嬢としてのプライドで吐きはしなかったけ、いや~懐かしいな~……

「ぅっ、ごめん、なさい……!」

「ミネルバ……」

「わたっ、私のせいで……ごめんなさい!!  私のせいで、私のっ私のせいでっ!」

 うん、まぁなんとなく察しはついてたけど……やっぱり、ピアの亡骸を見たせいなんかじゃないよね。

「ミネルバ、気にしないで。
 貴女はピアに洗脳されて操られていたの、貴女のせいじゃないわ」

「っ!  で、でも!  私がお姉様に嫉妬してっ……」

「とにかく!  結果として、こうして全員が無事だったんだから、それでいいの!!
 王都もお兄様達が守ってるだろうし、これで一件落着っ!
 そういうわけだから、あまり自分を責めてはダメ!!  わかりましたね?」

「で、でも……」

「わかり、ましたね?」

「は、はい」

「よろしい」

「ですが!  これだけはいわせてください……助けていただき、ありがとうございました!!
 そ、それから1つお願いが……」

「お願い?」

 なんだろ?

「えっと、その……ソフィアお姉様、とお呼びしてもいいでしょうか?」

「……」

「す、すみません!  図々しかったですよね、忘れてくださいませ!!」

「ふふっ、別に構いませんよ。
 それに、もうさっきから私のことをお姉様って呼んでるじゃない!」

「そっ、それは……」

「じゃあ、私もこれからは普通にミネルバって呼ぶね」

「は、はい!  ソ、ソフィアお姉様!!」

 まさか、ミネルバにお姉様って呼ばれる日が来るとは。

「あの~、ここには僕もいるって事を忘れないでくれませんか?」

「あら、ウェルバー殿下も私のことをお姉様って呼びたいのですか?」

「えっ!?  い、いや、それは……」

「ふふっ、冗談ですよ。
 っと、それより……」

「「?」」

「来たようです」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢ですが最強ですよ??

鈴の音
ファンタジー
乙女ゲームでありながら戦闘ゲームでもあるこの世界の悪役令嬢である私、前世の記憶があります。 で??ヒロインを怖がるかって?ありえないw ここはゲームじゃないですからね!しかも、私ゲームと違って何故か魂がすごく特別らしく、全属性持ちの神と精霊の愛し子なのですよ。 だからなにかあっても死なないから怖くないのでしてよw 主人公最強系の話です。 苦手な方はバックで!

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

異世界転生 転生後は自由気ままに〜

猫ダイスキー
ファンタジー
ある日通勤途中に車を運転していた青野 仁志(あおの ひとし)は居眠り運転のトラックに後ろから追突されて死んでしまった。 しかし目を覚ますと自称神様やらに出会い、異世界に転生をすることになってしまう。 これは異世界転生をしたが特に特別なスキルを貰うでも無く、主人公が自由気ままに自分がしたいことをするだけの物語である。 小説家になろうで少し加筆修正などをしたものを載せています。 更新はアルファポリスより遅いです。 ご了承ください。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

処理中です...