上 下
154 / 460
第8章 王都動乱編

154話 鮮血の姫

しおりを挟む
「貴女は……」

 なんというか、不思議な感覚だ。
 なんでいえばいいんだろ……たとえるなら、穏やかな海が目の前に存在しているような。
 それでいて、どこまでも深く深く吸い込まれそうな。

 竜王の姿になったルミエ様をまえにしたときと似てるけど……この人から感じるのは悠然とした、波風が一切ない凪のよう平穏。
 どこか穏やかな、神聖さすら感じる自然と跪きたくなるような圧倒的な存在感。

「なんですか、貴女は?
 私とソフィーちゃんの楽しい楽しいアソビの時間を邪魔しちゃうなんて!」

 いや!  まったく楽しい遊びの時間じゃなかったから!!

「う~ん、そうですね……今すぐ跪いて!  地面に頭を擦り付けながら無様に赦しを乞うのなら!!
 特別に赦して、苦しむ事なく殺してあげますよ?
 うふふ~!  我ながら本当に私って慈悲深くて優しいですよね!!」

「ふむ……そこの娘」

「えっ」

 わ、私?

「この状況を端的に説明せよ」

 おぉう、綺麗にピアのことを無視した!
 あの背筋がゾワゾワする笑みを浮かべて、禍々しい魔力を放つピアを無視できるとは……って、そうじゃなくて!

「あの、その……」

 端的に説明しろっていわれても!!
 というか!  その真紅の目を向けられたら、なんかうまく言葉が出てこないんですけどっ!!

 い、いや!  落ち着くのだ私!!
 私はいずれ最強へと至る者にして、冷静沈着でありクールでカッコいい孤高の悪役令嬢たるソフィア・ルスキューレ!

「ふぅ~、実は、ですね」

 この不思議な雰囲気の美少女に綺麗な真紅の瞳を向けられたからって、戸惑うような私ではないっ!!

「その人は……こふっ!  ぅっ……」

 さっき好き勝手にお腹を蹴られたせいで、また血が迫り上がって……

「ふむ、まぁ良い。
 娘よ、無理に喋るな」

「ッ!?」

 こ、これは……

「なるほど……状況は分かった。
 それは褒美だ」

 ポンって、頭に軽く手を乗せられた瞬間に、身体中の怪我が治ったっ!!
 それに状況はわかったって……

「娘よ、お主の名は?」

「ソフィア・ルスキューレですっ!  ぁっ!」

 か、身体がふらついて……

「肉体の傷は治してやったが、流した血が戻ったわけではない。
 暫くは安静にするが良い」

「は、はぃ」

 ち、近いっ!  コケちゃいそうになったところを、受け止めてくれたのはありがたいけど……真紅の瞳が私の顔を覗き込んでぇっ!?

「して、ソフィア。
 ルミエは元気にしておるか?」

「えっ?  あ、はい。
 今はお兄様達と王都にいますけど、元気で……」

 ちょ、ちょっと待って!
 めっちゃ自然な感じで聞かれたから、普通に答えちゃったけど……な、なんでルミエ様のことをっ!?

「しかし、この場でお主と出会うとはな。
 ソフィアよ、お主は……」

「ちょっとちょっと!  このピアちゃんを無視するなんて、酷くないですかっ!?」

 確かに……完全にこの人のペースに飲まれちゃってたけど、こんな呑気に話してる場合じゃなかった!!

「とりあえず、貴女は誰なんですか?  私とソフィーちゃんの楽しい時間を邪魔しないでくれますか~。
 じゃないと……その綺麗な顔がぐちゃぐちゃになるまで痛めつけて、もう殺してと懇願させてから殺しちゃいますよ?」

「っ!」

 ピアから吹き荒れる殺気と禍々しい魔力。
 さっきまでの……私を嬲って楽しんでたときの比じゃないっ!

「貴様……ワタシの言葉を遮ったな?」

「うふっ!  何訳わかんない事を言ってるんですか?
 そ、れ、と、も!  絶対的な死の恐怖で、おかしくなっちゃいましたか~!?」

 またピアの姿が消えて一瞬で私達の前にっ……!!

「えいっ!」

「っ……!!」

 これは……

「は?」

 唖然とピアが目を見開いて呟きをこぼしてるけど……それもムリはない。
 だって……指一本で、正確には鋭い爪だけでピアの攻撃を受け止めてるんだから……

「ワタシの楽しみを妨げる、この事の意味は理解しわかっておろうな?」

「ッ!  そのプラチナブランドの髪に、真紅の瞳……ま、まさかお前はっ!!
 鮮血姫ルーナっ……」

「退け」

 謎の美少女が……ピアに鮮血姫ルーナと呼ばれた美しい少女が、苛立ちを隠そうともせずにスッと目を細めた瞬間…… 悲鳴をあげるますらなく、ピアの上半身が消し飛んだ。

「ふん、身の程を知らぬ痴れ者が」

 腰から上を失ったピアの身体が地面に倒れ込むのを、真紅の瞳で見下ろすこの少女を……鮮血姫の名を関する人物を私は、いやこの世界に住うほとんどの人は知っている。

「貴女が……」

 鮮血姫の名を知る、全ての者達は決して彼女の楽しみを妨げない。
 なぜなら、それは彼女の……苛烈で無慈悲な女王の怒りを買うことになるから。
 その女王の名は……

「八魔王が一柱ヒトリ、鮮血姫ルーナ」

 霊峰ニュクスに住う、全ての吸血鬼の頂点に君臨する、吸血鬼の女王。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢ですが最強ですよ??

鈴の音
ファンタジー
乙女ゲームでありながら戦闘ゲームでもあるこの世界の悪役令嬢である私、前世の記憶があります。 で??ヒロインを怖がるかって?ありえないw ここはゲームじゃないですからね!しかも、私ゲームと違って何故か魂がすごく特別らしく、全属性持ちの神と精霊の愛し子なのですよ。 だからなにかあっても死なないから怖くないのでしてよw 主人公最強系の話です。 苦手な方はバックで!

“絶対悪”の暗黒龍

alunam
ファンタジー
暗黒龍に転生した俺、今日も女勇者とキャッキャウフフ(?)した帰りにオークにからまれた幼女と出会う。  幼女と最強ドラゴンの異世界交流に趣味全開の要素をプラスして書いていきます。  似たような主人公の似たような短編書きました こちらもよろしくお願いします  オールカンストキャラシート作ったら、そのキャラが現実の俺になりました!~ダイスの女神と俺のデタラメTRPG~  http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/402051674/

異世界転生 転生後は自由気ままに〜

猫ダイスキー
ファンタジー
ある日通勤途中に車を運転していた青野 仁志(あおの ひとし)は居眠り運転のトラックに後ろから追突されて死んでしまった。 しかし目を覚ますと自称神様やらに出会い、異世界に転生をすることになってしまう。 これは異世界転生をしたが特に特別なスキルを貰うでも無く、主人公が自由気ままに自分がしたいことをするだけの物語である。 小説家になろうで少し加筆修正などをしたものを載せています。 更新はアルファポリスより遅いです。 ご了承ください。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

処理中です...