上 下
88 / 460
第5章 魔王襲来編

88話 王都防衛戦 その6

しおりを挟む
「旦那様、騎士団の布陣、完了いたしました」

「あぁ、わかった」

 真っ直ぐに前方を見据えるヴェルトに付き従う執事長バルトが恭しく頭を下げる。

「それで……閣下、アレが例の〝五死〟ですか?」

「そうだ。
 八魔王が一柱ヒトリ、魔王ナルダバート配下の最高幹部〝五死〟の1人。
 どうかな?  リーメル君、ルスキューレ公爵家の私設騎士団団長として彼に勝てそう?」

「閣下もお人が悪い、わかってて聞いてるでしょう?
 私ではアレに勝つ事はまず無理ですね」

 ルスキューレ騎士団が騎士団長リーメルが苦笑いを浮かべて肩をすくめて見せる。

「まぁ、そうだよね。
 さて、どうしたものか……」

 王都北門にて、門を守るようにルスキューレ騎士団が布陣し。
 それを率いるルスキューレ公爵家が現当主ヴェルト・ルスキューレ、執事長バルト、団長リーメルが並び立つ。

 そんな彼らに対するは、王都の周囲に広がる広大な草原を埋め尽くす数万もの不死者アンデッドの軍勢と、それを率いる巨漢。
 魔王ナルダバート配下の最高幹部〝五死〟が1人、暴殺のドレイク。

 双方が軍勢を率いて睨み合い。
 大賢者マリアが展開した結界で分たれた場に……すぐに戦場と化すであろう場に重苦しい重圧が、緊張感が張り詰める。

「旦那様」

 そんな場所に現れたのはメイド服に身を包んだ1人の少女。

「っ!  バルト……」

「公爵邸で避難しているように指示を出したのですが……」

「はぁ、どうしてここに……ファナ」

「ふふっ、実はもしもの時のためにマリア様に頼んで転移魔法の魔道具を用意してもらっていたんです。
 旦那様、私も戦います」

「ファナ、ヤツはたった1人で簡単に都市一つを壊滅させる事もできる本当に危険な存在です。
 今はまだ睨み合ってるだけだけど、戦いが始まったら命懸けの戦場になるんですよ?」

「リーメル君の言う通りだよ。
 そんな場所にソフィーの専属である君が参戦するなんて許可できない。
 第一、キミに何かあればソフィーに顔向けできないからね……ここは危険だから公爵邸で避難していなさい」

「お言葉ですが、旦那様達に何かあればお嬢様に顔向けできないのは私も同じです。
 それに、お嬢様が危険を顧みず戦っておられるのにお嬢様の専属メイドである私が安全圏でジッとしているなんてできません!!」

「しかし……」

「確かに私には高い戦闘能力はなく、魔王の一角であるナルダバートの配下の中でも最高幹部にあたる〝五死〟の1人を相手にするには力不足でしょう。
 ですが、私は守りと回復に特化した後衛。
 戦う皆様の支援をして微力ながら皆様の力になる事くらいはできるはずです!!」

「……はぁ、素直に避難する気はないようだね。
 まったく、この一度決めたら曲げないところは誰に似たのやら……わかった。
 けど、自身の身の安全を第一に考えること、いいね?」

「かしこまりました」

 ヴェルトの言葉を受けて、ファナが真剣な面持ちで頭を下げ……

「クックック、話はついたようだな」

 楽しげな笑い声が戦場に鳴り響く。

「ならば……」

 スッと腕を持ち上げたドレイクが大賢者マリアが展開した結界に軽く触れた瞬間──


 ピシピシピシピシッ! 


 一気に結界に亀裂が走って……


 ────バリィッン!!!


 砕け散る。

「さぁ!  圧倒的な暴力の前に絶望するがいい!!」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢ですが最強ですよ??

鈴の音
ファンタジー
乙女ゲームでありながら戦闘ゲームでもあるこの世界の悪役令嬢である私、前世の記憶があります。 で??ヒロインを怖がるかって?ありえないw ここはゲームじゃないですからね!しかも、私ゲームと違って何故か魂がすごく特別らしく、全属性持ちの神と精霊の愛し子なのですよ。 だからなにかあっても死なないから怖くないのでしてよw 主人公最強系の話です。 苦手な方はバックで!

“絶対悪”の暗黒龍

alunam
ファンタジー
暗黒龍に転生した俺、今日も女勇者とキャッキャウフフ(?)した帰りにオークにからまれた幼女と出会う。  幼女と最強ドラゴンの異世界交流に趣味全開の要素をプラスして書いていきます。  似たような主人公の似たような短編書きました こちらもよろしくお願いします  オールカンストキャラシート作ったら、そのキャラが現実の俺になりました!~ダイスの女神と俺のデタラメTRPG~  http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/402051674/

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

処理中です...