2 / 460
第1章 幼少期編
02話 悲鳴
しおりを挟む
その日、世界でも有数の歴史を誇るイストワール王国が王都ノリアナの一等地に存在する広大な屋敷。
ルスキューレ公爵家の屋敷は暗く、沈んだ雰囲気に包まれていた。
手広く国内外に様々な事業を展開するルスキューレ公爵の長女にして、上2人の兄を持つ末っ子である愛娘。
両親にも兄達にも愛され……いや、溺愛されて厳しくもすくすくと成長し、まだ幼く少し我が儘なところもあるものの聡明で心優しく……
そして庭で駆け回ったり。
両親や兄達に隠れたつもりで、こっそりと刃を潰した剣を振って遊んでいるような、お転婆なルスキューレ公爵家の姫!
使用人達も含め公爵家一同の天使!!
齢5歳のソフィア・ルスキューレが先日王城で行われた同い年である第一王子セドリック・エル・イストワールとの顔合わせの席にて突然高熱を出して倒れてしまったのだ。
「「「……」」」
爽やかな朝だというのに、外とは真逆で暗く澱んだ空気が充満する一室。
ルスキューレ公爵の執務室にて一様に暗い顔をした3名の人物がソファーに座ってテーブルを囲む。
「ソフィー……」
銀髪青目の男性。
ルスキューレ公爵家が現当主、ヴェルト・ルスキューレは素晴らしく整った顔を悲しげに歪めて項垂れる。
「父上、少しはお休みになられてください」
「そうですよ、父上。
そんなひどい顔をしてたら目を覚ましたソフィーが驚いてしまいますよ?」
そんなルスキューレ公爵を労うは、銀髪に赤い瞳をした美青年。
両親譲りの整った容姿に加えて魔法の才に溢れ、大賢者が理事長を務める世界最高峰の魔法学園。
世界各地から魔法の真髄を追求する者達が集うオルガマギア魔法学園を齢15にして卒業し、それと同時に大賢者より賢者の称号を与えられた天才。
ルスキューレ公爵が長男アルト・ルスキューレ。
そして、アルト・ルスキューレの言葉に頷き少し冗談っぽく疲れた笑み浮かべるは、ルスキューレ公爵の次男。
金の髪に青い瞳、父や兄と同じく整った容姿。
魔法の才に溢れた兄とは異なり剣の才に溢れ。
オルガマギア魔法学園の姉妹校にして、オルガマギア魔法学園と共に世界三大学園に数えられるオルガラミナ武術学園で剣術を始めとしたさまざまな武術を修め。
卒業後は冒険者となり、現在はSランク冒険者〝剣帝〟として名を馳せるエレン・ルスキューレ。
「アルト、エレン、お前達も隈が凄いぞ?」
「ははは、仕方ありませんよ。
ソフィーが高熱を出して倒れてしまっているのですから」
「心配すぎて寝れませんよ」
「私もだ」
各々が可愛い愛娘、妹の顔を思い浮かべ……
「「「ソフィー……」」」
またしても深い沈黙が舞い降りる。
壁を背に存在感を消しながら、数時間はこの光景を見ている初老の執事長バルトは心の底から思った。
誰かこの重い空気をどうにかしてくれと!
バンッ!
そんなバルトの心の叫びが通じたのか、扉が勢いよく開け放たれて美しい金の髪に燃えるような赤い瞳をした美女が。
ルスキューレ公爵夫人、ユリアナ・ルスキューレがズンズンと、しかしながら優雅な所作で項垂れる男3人の前に立ち……
「貴方達、いい加減にしなさい!」
一喝。
怒鳴ったり、大声を出しているわけではないのに力強いユリアナの声に男3人の肩がビクッと揺れる。
「ユ、ユリアナ、だがソフィーが……」
「ソフィーちゃんが、そんな情けない顔をした貴方達を見ればどう思うと思いますか?」
「「「っ!!」」」
それはまさに鶴の一声。
雷に打たれたかのように固まった3人が目を見開いて息を呑む!
「バルト、カーテンと窓を開けて換気を」
「かしこまりました、奥様」
ユリアナの指示に即座に反応した執事長バルトが閉ざされていたカーテンと窓を開け放つ。
執務室に温かな光が差し、緩やかな風が吹き込んだ瞬間……
「いゃぁぁぁっ!!」
ルスキューレ公爵邸を包み込む暗く、沈んだ雰囲気を。
澱んだ静寂を切り裂くような悲鳴が公爵邸中に鳴り響き……
「「「……ソフィーっ!!」」」
突然の事に一瞬の間をおいて悲鳴を上げた娘の、妹の存在に思い至った男3人が一斉に立ち上がる。
「ユリアナっ! すぐにソフィーの部屋に……」
ルスキューレ公爵ヴェルトが咄嗟に愛妻であるユリアナに視線を向け……
「ユリアナ?」
「奥様でしたら、既に出て行かれました」
「「「っ!?」」」
妻の返事の代わりに告げられたバルトの言葉にヴェルトを始め、男3人が息を呑む。
自分達が……仮にも賢者の称号を持ち、現役のSランク冒険者として活躍するアルトとエレンですら妻の動き反応すらできなかった……
「っ! 私達も行くぞ!」
「はい!」
「わかりました!」
思考を放棄した男3人はユリアナを追って悲鳴をあげた愛娘の、妹の……ルスキューレ公爵家の天使のもとへと執務室を飛び出した。
ルスキューレ公爵家の屋敷は暗く、沈んだ雰囲気に包まれていた。
手広く国内外に様々な事業を展開するルスキューレ公爵の長女にして、上2人の兄を持つ末っ子である愛娘。
両親にも兄達にも愛され……いや、溺愛されて厳しくもすくすくと成長し、まだ幼く少し我が儘なところもあるものの聡明で心優しく……
そして庭で駆け回ったり。
両親や兄達に隠れたつもりで、こっそりと刃を潰した剣を振って遊んでいるような、お転婆なルスキューレ公爵家の姫!
使用人達も含め公爵家一同の天使!!
齢5歳のソフィア・ルスキューレが先日王城で行われた同い年である第一王子セドリック・エル・イストワールとの顔合わせの席にて突然高熱を出して倒れてしまったのだ。
「「「……」」」
爽やかな朝だというのに、外とは真逆で暗く澱んだ空気が充満する一室。
ルスキューレ公爵の執務室にて一様に暗い顔をした3名の人物がソファーに座ってテーブルを囲む。
「ソフィー……」
銀髪青目の男性。
ルスキューレ公爵家が現当主、ヴェルト・ルスキューレは素晴らしく整った顔を悲しげに歪めて項垂れる。
「父上、少しはお休みになられてください」
「そうですよ、父上。
そんなひどい顔をしてたら目を覚ましたソフィーが驚いてしまいますよ?」
そんなルスキューレ公爵を労うは、銀髪に赤い瞳をした美青年。
両親譲りの整った容姿に加えて魔法の才に溢れ、大賢者が理事長を務める世界最高峰の魔法学園。
世界各地から魔法の真髄を追求する者達が集うオルガマギア魔法学園を齢15にして卒業し、それと同時に大賢者より賢者の称号を与えられた天才。
ルスキューレ公爵が長男アルト・ルスキューレ。
そして、アルト・ルスキューレの言葉に頷き少し冗談っぽく疲れた笑み浮かべるは、ルスキューレ公爵の次男。
金の髪に青い瞳、父や兄と同じく整った容姿。
魔法の才に溢れた兄とは異なり剣の才に溢れ。
オルガマギア魔法学園の姉妹校にして、オルガマギア魔法学園と共に世界三大学園に数えられるオルガラミナ武術学園で剣術を始めとしたさまざまな武術を修め。
卒業後は冒険者となり、現在はSランク冒険者〝剣帝〟として名を馳せるエレン・ルスキューレ。
「アルト、エレン、お前達も隈が凄いぞ?」
「ははは、仕方ありませんよ。
ソフィーが高熱を出して倒れてしまっているのですから」
「心配すぎて寝れませんよ」
「私もだ」
各々が可愛い愛娘、妹の顔を思い浮かべ……
「「「ソフィー……」」」
またしても深い沈黙が舞い降りる。
壁を背に存在感を消しながら、数時間はこの光景を見ている初老の執事長バルトは心の底から思った。
誰かこの重い空気をどうにかしてくれと!
バンッ!
そんなバルトの心の叫びが通じたのか、扉が勢いよく開け放たれて美しい金の髪に燃えるような赤い瞳をした美女が。
ルスキューレ公爵夫人、ユリアナ・ルスキューレがズンズンと、しかしながら優雅な所作で項垂れる男3人の前に立ち……
「貴方達、いい加減にしなさい!」
一喝。
怒鳴ったり、大声を出しているわけではないのに力強いユリアナの声に男3人の肩がビクッと揺れる。
「ユ、ユリアナ、だがソフィーが……」
「ソフィーちゃんが、そんな情けない顔をした貴方達を見ればどう思うと思いますか?」
「「「っ!!」」」
それはまさに鶴の一声。
雷に打たれたかのように固まった3人が目を見開いて息を呑む!
「バルト、カーテンと窓を開けて換気を」
「かしこまりました、奥様」
ユリアナの指示に即座に反応した執事長バルトが閉ざされていたカーテンと窓を開け放つ。
執務室に温かな光が差し、緩やかな風が吹き込んだ瞬間……
「いゃぁぁぁっ!!」
ルスキューレ公爵邸を包み込む暗く、沈んだ雰囲気を。
澱んだ静寂を切り裂くような悲鳴が公爵邸中に鳴り響き……
「「「……ソフィーっ!!」」」
突然の事に一瞬の間をおいて悲鳴を上げた娘の、妹の存在に思い至った男3人が一斉に立ち上がる。
「ユリアナっ! すぐにソフィーの部屋に……」
ルスキューレ公爵ヴェルトが咄嗟に愛妻であるユリアナに視線を向け……
「ユリアナ?」
「奥様でしたら、既に出て行かれました」
「「「っ!?」」」
妻の返事の代わりに告げられたバルトの言葉にヴェルトを始め、男3人が息を呑む。
自分達が……仮にも賢者の称号を持ち、現役のSランク冒険者として活躍するアルトとエレンですら妻の動き反応すらできなかった……
「っ! 私達も行くぞ!」
「はい!」
「わかりました!」
思考を放棄した男3人はユリアナを追って悲鳴をあげた愛娘の、妹の……ルスキューレ公爵家の天使のもとへと執務室を飛び出した。
8
お気に入りに追加
1,673
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢ですが最強ですよ??
鈴の音
ファンタジー
乙女ゲームでありながら戦闘ゲームでもあるこの世界の悪役令嬢である私、前世の記憶があります。
で??ヒロインを怖がるかって?ありえないw
ここはゲームじゃないですからね!しかも、私ゲームと違って何故か魂がすごく特別らしく、全属性持ちの神と精霊の愛し子なのですよ。
だからなにかあっても死なないから怖くないのでしてよw
主人公最強系の話です。
苦手な方はバックで!
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
異世界転生は、0歳からがいいよね
八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。
神様からのギフト(チート能力)で無双します。
初めてなので誤字があったらすいません。
自由気ままに投稿していきます。
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる