踊り子の夜

佐倉 蘭

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Jeté

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——えっ……う、ウソでしょう⁉︎ な、なんでわたしにっ⁉︎

   困惑するわたしに、ルシファが申し訳なさそうに言った。

「わたしもね、お客様にはオディールはただのパフォーマーだって何度も言ったんだけど……」

   いつも冷静沈着なルシファのカフェ・オ・レ色の瞳が、心なしかかげっている。

「あのう……もしかして『お相手』は、シルバーじゃなくてゴールドのお客様ですか?」

   ゴールドだったら、お店としては「断れない上客」だ。

「それがね、プラチナなのよ」
「ぷ、プラチナっ⁉︎」

   なんと「シルバー」の上である「ゴールド」より、さらに上を行く「上お得意様」だった。

——っていうか、「プラチナバックル」のお客様って本当に存在してたんだ……

   シルバーやゴールドのお客様なら何度も見たことがあるが、プラチナだけはまったくない。

「あなたにとっては契約外のことだし、お店としては無理強いはしないわ。もし引き受けてくれるのなら、もちろんパフォーマーの比じゃないくらいの報酬ギャラは弾むけど……どうする?」

——「プラチナ」のお客様って、どんな人なんだろう?

   きっと地位も名声も手に入れた「経験豊富」な壮年の男性に違いない。

——だとすれば、もしかしたら「あのこと」をお願いできるかも……

   でも、だからと言って即決するのはやっぱり怖かった。なので、わたしはダメ元で言ってみた。

「えーっと……その『お相手』とお会いしてから、どうするか決めてもいいですか?」


゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜


   プラチナのお客様は、寛大にも「それでもいい」とおっしゃってくれたらしい。

——さすが、経験豊富な壮年の男性は余裕だな。それとも、自分が断られるはずがないと思ってるのかな?

   ロッカールームに備え付けられたシャワーブースで身を清めたわたしは、ルシファから与えられた白いシルクのスリップドレスを着て、指示された二階へと向かう。

   今度は白いバックルではなく、黒いバックルを腕に付けて行かなければならない。


   地階から一階に上がった付近に男性客が一人でいた。
   ポロシャツにチノバン姿のいかにも「中年サラリーマンの休日」という出立ちだ。

   すれ違いざまに「服は違うようだけど、きみ先刻さっきフロアで踊ってた子だよね?」と耳元で囁かれる。

「ふうん……なんだ、この店の踊り子キャストだったのか」

   男の視線がわたしの手首の黒いバックルに落ちた。

「ねぇ、店の人に『そのすいかをそっと降ろせ』って言ってもいいかな?」

   わたしは男の手首を見た。青いバックルだった。

「ごめんなさい。お受けできないのです」
   そう告げて上階へと上がっていこうとすると……

「おい、ちょっと待てよ。ハプニングバーハプバーでなにお高く止まってんだよ」

   いきなり男が手を伸ばして、わたしの手首をつかんできた。

「みんな手っ取り早くセックスできる相手を見つけるために、ここに来てんじゃねえの?それに、その黒いバックルって客と寝るのが仕事の『踊り子キャスト』が付けてんだろ?」

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