カラダから、はじまる。

佐倉 蘭

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【Extra Secret】あなたは知らない

Confidential 3 ③

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「いきなり通話してきておいて、非常識極まりないな。まずは、相手の都合を伺うものだろ?」
   高木は冷ややかな声でとがめた。
  
『あら、もしかして今、忙しかった?』

    だが、そんな彼にまったく頓着することなく、華子はしれっと言う。
   「先輩」の高木を相手にしているにもかかわらずタメ口なのは、学生の頃からだ。

「手短かに済ませてくれ」

   スマホを耳にあててキッチンに戻った高木は、ル・クル◯ゼのホーロー鍋で茹でていたパスタをほぐしながら、さらに温度が下がった絶対零度の口調で言い放った。

『あたし……やっぱり、高木先輩の代わりに「華山院の次期家元」なんて、絶対に無理だわ』

——今さら、なにを言う?

   高木はため息を漏らすのを、どうにかこらえた。

   華子が高木に代わって華山院の次期家元に推挙されたことは、すでに全都道府県にある各支部に通達し、我が国を代表する一流の老舗ホテルで大々的に「お披露目」するためのパーティの準備も着々と進んでいるのだ。
   さらに、同時にその場で、本宮を婚約者として発表することも目論んでいた。

『だって……お花が剣山に挿さらないんだもんっ』

   スマホの向こうの高木が、これから二・三人あやめそうなほど凶悪な表情で、ぐらぐらと沸き立つル・クル◯ゼの中のパスタをほぐしていることなど、華子にはまったく気づいていないのであろう。

「茎の先を割るようにして十字にはさみを入れ、枝の場合はさらにその間にも入れるんだ。そして先を尖らせるように両端を落とせば、剣山に挿さらないなんてことはない」

『そもそも、こんな初心者のあたしに、いきなり華展なんて無茶なのよっ。それに、この前デート中に、突然おとうさまが本宮さんのスマホにかけてきて、そのあと準備会場に無理矢理連れて行かれたのよっ⁉︎』

——あぁ、うるさい。

「とりあえず花器に何本か挿しとけば、あとは側近のヤツらが何とでもしてくれるだろ?」

   五百年以上も続く華道の流派なのだ。高木だって、先代家元の厳しい教えに耐えながら、子どもの頃から修練を重ねてきた。一朝一夕にはいくわけがない。

『やっぱり、高木先輩が家元になるべきだわ』

「……じゃあ、見合いの話はなかったことになってもいいんだな?」

   今まで威勢のよかった華子が、急に息をのんだのがわかった。

「君が父方の華山院の次期家元となって、本来継ぐはずだった母方の権藤の家を代わりに継いでくれる人が必要になったから、見合いしたんじゃないか。もし、君が次期家元に就くのを辞退するのであれば、その見合いの話を白紙に戻すのは当然のことだろ?」

   イケメンで長身の上に高学歴のエリート官僚である本宮のことを、華子がまんざらでもなく思っているのを、高木はしっかり気づいていた。

『ちょ…ちょっと、待ってよ……』

「だったら、自分のやるべきことをよーく考えるんだな?」
   高木はそう言い捨てて、スマホのディスプレイをタップして通話を終了させた。

   そして、ル・クル◯ゼから茹でていたパスタを一本取り出し、かじる。

「よし……ちょうどアルデンテだ」

   高木はコンロの火を止めた。


——本宮さんの方にも、少し「がんばって」もらうとするか。

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