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【Extra Secret】あなたは知らない
Confidential 1 ③
しおりを挟む「今までに、相当な場数を踏んでいるとしか思えませんね。それに、そもそもリーダー研修のメンバーに選ばれたのって、諒志さんと本宮さんですよね?」
リーダー研修とは、金融庁の幹部候補生が外部の金融機関で次代を担うとされるスーパーエリートたちと、一緒に研鑽するプログラムのことだ。
集められた各方面の若手の精鋭たちが最新の金融システムを学ぶのが本来の目的ではあるが、金融庁は行政機関として各金融機関を監視する立場である以上、銀行・証券・保険などの分野でそれぞれの状況や意見を聞いたり、情報を交換できる人脈を形成するという狙いもあった。
特に財務省(大蔵省)と切り離されて内閣府の管轄下に置かれて以来、東京にある本庁から地方の役所へ異動することが少なくなったため、世間知らずの井の中の蛙になりやすいのだ。
今回のリーダー研修の対象者は三十代前半の総合職から各期二名ずつ、と決まっていた。
「確かに彼らが外せないのはわかりますけど、でも一期上のあの人がどうしてメンバーに選ばれているのかは解せませんね」
彼女の同期五名は、十年に一度の「豊作」と呼ばれていた。ゆえに、その前後の期は自然と見劣りし「凶作」と揶揄されている。
「……勘弁してくれ……高木。まさか、事務局長の私が選考基準を曲げて、自分の娘をメンバーに選ぶことなんてできないだろう?」
局長はまたデスクに突っ伏してしまった。
——でも、それだけじゃないだろう?
高木は心の中で思った。
——もし、彼女が「男」だったら、また違ったはずだ。
我が国の財政に関わる省庁は、旧態依然として「男社会」だ。まだまだ「女」を幹部には戴きたくないのだ。
「……仕方ないな。七瀬を——田中とでも見合いさせるか」
「なぜ、諒志さんなんです?」
高木は問うた。彼を下の名で呼ぶのは、庁内にはほかにも「田中」がいるからだ。
御三家の一角を占める中高一貫の名門私立男子校からT大の文科一類を経て入庁した田中 諒志は、「豊作」と言われる同期の中でも断トツの「逸材」だった。
その田中から乞われて、高木は彼の「補佐役」をやっている。
いつの間にか、今ではプライベートのスケジュール調整まで任されている——というか、押しつけられている。
これでは、「補佐役」を通り越して「秘書」だと高木は思う。
引き受けるんじゃなかった、と思っても、もう遅い。あとの祭りだ。
「そうだなぁ……あいつはなんだか、私と『同類』のような気がするんだが……違うか?」
——違いませんねぇ。
田中は、その神経質そうな理知的な面立ちとは裏腹に、ものすごーく女性関係が派手だった。
女優やモデル並みの美女から誘われると「デート」に出かける。決して「特定の女」に縛られることなく、いつも「同時進行」がデフォルトだ。
そして、一応渋谷とか六本木のイタリアンバールやスペインバルなど、小洒落たお店で食事はするらしいけれども、そのあとは道玄坂の奥のラブホに直行する——っていうのがお決まりのコースだ。
「七瀬も……ああいうふうに好き勝手にやってるんだから、似たもの同士で案外うまくいくんじゃないか?」
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