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Secret 6
①
しおりを挟む金曜日だというのに、相変わらず忙しすぎて土日の休みも取れそうにない。
国会では首相の不祥事だけではなく、それに関連して不手際までもが次から次へと露見していた。
野党は、六月まである会期にもかかわらず、出せばすべての審議がストップしてしまう内閣不信任決議案をチラつかせて猛攻勢をかけていた。今や現政権は、存亡の危機に瀕している。
わたしたち各省庁で働く国家公務員たちの総意は「だからとっとと、内閣総辞職しろっ!」だろうと思う。
しかし、通常国会の「本丸」である予算案の可決がまだなので、首相が思い余って捨て身の戦法に出て「伝家の宝刀」を抜く、解散総選挙だけはやめてほしい。国民のためにも、四月からの予算が暫定執行になるのだけは回避してほしいのだ。
予算案に関しては、衆議院さえ通過すれば参議院が議決せずとも、三十日経てば衆議院の優越により自動的に議決されるのが、この国のシステムではあるが、この内閣のことだ——「強行採決」もあり得る。となれば、予算のあとに控える重要法案の審議はそっちのけで、野党と全面対決になるのは火を見るより明らかだ。
——このくっそ忙しい最中に、今度は「政局」にでもなったら、マジで過労死するよっ⁉︎
「……七瀬さん、目の下の隈がひどいっすよ?今夜は家に帰ってしっかり眠った方が……」
同じく、目の下にくっきりと陰りを拵えた山岸から気遣われる。
「山岸の方こそ、帰りなさいよ?ひどい顔になってるわよ?」
「でも、来週の月曜には参院で予算委が開かれるでしょ? 土曜に七瀬さんが、日曜に課長が、その書類をチェックできる状態にまでしておかないと……」
「おーい、七瀬、山岸っ。日曜は書類が集中するから、できれば土曜にしてくれないか? 深夜何時になっても、おれは構わんぞー」
大向こうから課長の声が飛んできた。地獄耳だ。山岸が「きょえええぇっ」と奇怪な声をあげた。
ふと課内を見渡せば、総合職・一般職問わず、みんな悲壮・悲痛な顔をしてPCのキーを叩き続けている。こうして今彼らが作成している書類のほとんどが、日曜日に(しかも深夜になるまで)課長の決済箱に堆く積まれるのだ。
——どれだけブラック企業なんだ、中央省庁は?
わたしは身体中からため息を吐いた。
「……た、た、たいへんなのよーっ⁉︎」
そのとき、戸川が課内に飛び込んできた。何事かと、課内中が彼女を見る。
「どうしたんだよ、戸川?」
今夜は完全徹夜が「決定事項」となってしまった山岸が、虚な目を彼女に向けた。
「今、高木に用事があって、行ってきたんだけどさ……」
——田中のいる課だ。
「あの、田中さんが……」
「田中になにかあったのっ?」
わたしは反射的にデスクから立ち上がった。
「田中さんが……田中さんが……」
「田中がどうしたの?」
すると、戸川は急にトーンダウンして「えっと…その…」というばかりで、まったく要領を得なくなった。
——埒が明かないわ。
「山岸……ちょっと、様子を見に行ってくるわ」
そしてわたしは、PCをシャットダウンするどころかセーブもせずに、課内から廊下に出て田中の所属する課へと向かった。
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