9 / 67
Secret 2
②
しおりを挟む田中も本宮も、人工知能のような情報処理能力を持っているうえに、天才的な閃きも備えているからだ。努力ではどうしようもない、先天的なセンスだ。
そして、それこそがめまぐるしく動く世界情勢の中で、この国の金融行政の舵取りに必要な能力なのだ。
よって、幹部候補生として上層部から求められている——真の能力なのだ。
とはいえ……
すでに研修は終わり田中も本宮も本庁に戻っている今、ようやく「次こそは」と気持ちの切り替えができつつあった、というのに……
——前言撤回だっ。山岸、覚えておけよっ⁉︎
やっぱり、わたしのことなんてだれもわかっちゃいないのだ、ということがよぉーく判った。
「……ところで、七瀬さん。妹さんの会社の同期で、うちの大学の子がいるって言ってませんでしたか?」
確かに、妹の勤務するTOMITAホールディングスでは、法務部がC大閥だって聞いたことあるけど?
——課の呑み会でちらっと言ったこと、よく覚えてるわねぇ。
「今度、妹さんにセッティングしてもらって、合コンとかできませんかねー?ここじゃあ、なかなか思うような『出逢い』がなくて……」
——はあぁっ⁉︎
「残念ね。うちの妹の同期だと、あなたよりも一つ上なのよ」
わたしは遠回しに拒否った。冗談じゃない。
「あっ、いいじゃないっすかー!一つ上の女房は金の草鞋を履いてでも探せ、っていうヤツじゃないですかっ!」
——あぁ、めんどくさいヤツっ!
「合コンはまずいよ、山岸。だって、七瀬さんの妹さんって、田中さんとお見合いしたんでしょ?行けるわけないじゃん」
うちの課に書類でも届けに来ていたのか、山岸の同期である戸川 美加が口を挟んできた。本宮の下で働いているノンキャリだ。
ふつう、ほかの課の一般職とはほとんど接点がないのだが、さっぱりしていてイヤミがないから、いつの間にかわたしも話すようになった。
こんなふうにふっと話題に入ってきても気にならない子だから、各課に話し相手がいるらしく、実は情報通だ。
——でも、田中がまだ七海とお見合いしていないことは知らないんだ。
「お見合い、と言えば……本宮さんもしたんだよな。確か……華道か茶道だかの家元の跡取り娘だっけ?」
山岸がPCのディスプレイに目を向けたまま、戸川に訊く。
「華道よ。お見合いのあと、何回か会ってるらしいんだけどさ。ちょっと困ったお嬢サマみたいなんだよね」
「へぇ……どんなお嬢サマ?」
山岸のPCのキーを叩く音が止まった。
「お嬢サマとデートしてたら、父親の『家元』から本宮さんのスマホに連絡が入ったんだって」
「えぇーっ、やだな、それ」
山岸が盛大に顔を顰めた。
「なんでもその流派の華展があって、お嬢サマも出展しなきゃいけないのに、まったく姿を現さないから、本宮さんに会場まで連れてきてほしいって……」
わたしも思わず、PCの手を止めて戸川を見た。
「それで、仕方なく本宮さんがお嬢サマを連れて行ったんだけど、ふてくされた様子でテキトーにお華を生けるもんだから、結局は家元の側近のお弟子さんがすっかり直していたそうよ。お嬢サマが生けたお華、素人目から見てもひどいもんだった、って本宮さんが呆れた口調で言ってたわ」
「……そのお嬢サマ、親の跡を継ぐ気なんかないんじゃね?」
「だよねー。ほんとに本宮さん、そんなお嬢サマと結婚する気なのかなー?」
戸川は、うーんと唸って眉間にシワを寄せた。
「でも、見合いして、そのあとデートしてるってことはさ、結婚に向けてつき合いを始めたってことだろ?」
山岸も腕を組んで、うーんと唸る。
そこで、わたしは我に返った。
「あなたたち、そんな無駄口叩けるくらいヒマなのかしら?戸川、用が済んだらさっさと自分の課に戻りなさい。本宮から聞いたことを、ほかでべらべら喋るんじゃないの。今に大目玉を喰らうわよ?山岸、そんなにヒマなら例のデータ、共有ファイルに置いてあるから確認よろしくね。……あ、今日中にね」
そう指示して、わたしはPCのenterを思いっきりターンッと叩いた。
「お嬢サマ」と結婚するんだったら、金融庁を辞めて政治家になるってことでしょ?
——だったら、なんでリーダー研修に参加するのよ?とっとと辞退しなさいよっ!
1
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ
しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる