カラダから、はじまる。

佐倉 蘭

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Secret 2

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   田中も本宮も、人工知能A Iのような情報処理能力を持っているうえに、天才的なひらめきも備えているからだ。努力ではどうしようもない、先天的なセンスだ。

   そして、それこそがめまぐるしく動く世界情勢の中で、この国の金融行政の舵取りに必要な能力なのだ。
   よって、幹部候補生として上層部から求められている——真の能力なのだ。

   とはいえ……

   すでに研修は終わり田中も本宮も本庁ここに戻っている今、ようやく「次こそは」と気持ちの切り替えができつつあった、というのに……

——前言撤回だっ。山岸、覚えておけよっ⁉︎

   やっぱり、わたしのことなんてだれもわかっちゃいないのだ、ということがよぉーくわかった。


「……ところで、七瀬さん。妹さんの会社の同期で、うちの大学の子がいるって言ってませんでしたか?」

   確かに、妹の勤務するTOMITAホールディングスでは、法務部がC大閥だって聞いたことあるけど?

——課の呑み会でちらっと言ったこと、よく覚えてるわねぇ。

「今度、妹さんにセッティングしてもらって、合コンとかできませんかねー?ここじゃあ、なかなか思うような『出逢い』がなくて……」

——はあぁっ⁉︎

「残念ね。うちの妹の同期だと、あなたよりも一つ上なのよ」
   わたしは遠回しに拒否った。冗談じゃない。

「あっ、いいじゃないっすかー!一つ上の女房は金の草鞋わらじを履いてでも探せ、っていうヤツじゃないですかっ!」

——あぁ、めんどくさいヤツっ!

「合コンはまずいよ、山岸。だって、七瀬さんの妹さんって、田中さんとお見合いしたんでしょ?行けるわけないじゃん」

   うちの課に書類でも届けに来ていたのか、山岸の同期である戸川 美加みかが口を挟んできた。本宮の下で働いているノンキャリだ。

   ふつう、ほかの課の一般職ノンキャリアとはほとんど接点がないのだが、さっぱりしていてイヤミがないから、いつの間にかわたしも話すようになった。
   こんなふうにふっと話題に入ってきても気にならない子だから、各課に話し相手がいるらしく、実は情報通だ。

——でも、田中がまだ七海とお見合いしていないことは知らないんだ。

「お見合い、と言えば……本宮さんもしたんだよな。確か……華道か茶道だかの家元の跡取り娘だっけ?」
   山岸がPCのディスプレイに目を向けたまま、戸川に訊く。

「華道よ。お見合いのあと、何回か会ってるらしいんだけどさ。ちょっと困ったお嬢サマみたいなんだよね」

「へぇ……どんなお嬢サマ?」
   山岸のPCのキーを叩く音が止まった。

「お嬢サマとデートしてたら、父親の『家元』から本宮さんのスマホに連絡が入ったんだって」

「えぇーっ、やだな、それ」
   山岸が盛大に顔をしかめた。

「なんでもその流派の華展があって、お嬢サマも出展しなきゃいけないのに、まったく姿を現さないから、本宮さんに会場まで連れてきてほしいって……」

   わたしも思わず、PCの手を止めて戸川を見た。

「それで、仕方なく本宮さんがお嬢サマを連れて行ったんだけど、ふてくされた様子でテキトーにお華をけるもんだから、結局は家元の側近のお弟子さんがすっかり直していたそうよ。お嬢サマが生けたお華、素人目から見てもひどいもんだった、って本宮さんが呆れた口調で言ってたわ」

「……そのお嬢サマ、親の跡を継ぐ気なんかないんじゃね?」

「だよねー。ほんとに本宮さん、そんなお嬢サマと結婚する気なのかなー?」
   戸川は、うーんと唸って眉間にシワを寄せた。

「でも、見合いして、そのあとデートしてるってことはさ、結婚に向けてつき合いを始めたってことだろ?」
   山岸も腕を組んで、うーんと唸る。

   そこで、わたしは我に返った。

「あなたたち、そんな無駄口叩けるくらいヒマなのかしら?戸川、用が済んだらさっさと自分の課に戻りなさい。本宮から聞いたことを、ほかでべらべら喋るんじゃないの。今に大目玉を喰らうわよ?山岸、そんなにヒマなら例のデータ、共有ファイルに置いてあるから確認よろしくね。……あ、今日中にね」

   そう指示して、わたしはPCのenterを思いっきりターンッと叩いた。

   「お嬢サマ」と結婚するんだったら、金融庁ここを辞めて政治家になるってことでしょ?

——だったら、なんでリーダー研修に参加するのよ?とっとと辞退しなさいよっ!

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