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Epilogue
私は彼としあわせになります〈完〉
しおりを挟むつい先刻、チャペルでの挙式が終わった。
これから披露宴会場へと移動するのだが、今は控室で二人きりで待機している。
わが国を代表する老舗ホテルの、芸能人なんかの派手な結婚式でテレビ中継が入ったりする、美しい鳥の名がついた一番大きくて広い会場で、わたしたちは結婚披露宴を行う。
わたしと将吾の左手薬指には、つい先刻交わしたブシ◯ロンのゴドロンが、しっかりとはまっていた。
「……やっぱり、これにしてよかったな」
将吾がわたしのゴドロンに、ちゅっ、とキスをする。
「でも、今の流行りは奥さんのリングにだけ、ダイヤモンドがついてるヤツらしいよ」
わたしの周りだけでも、親友の華絵は「カルテ◯エの1895のハーフエタニティ」、親戚の蓉子は「ピ◯ジェのポセションのフルエタニティ」、親戚になった亜湖さんは「ヴァン・クリ◯フ&アーペルのエステル」でビーズが一周取り巻いていて、ダンナさまとは同じシリーズであっても、違うデザインだ。
だけど、わたしと将吾は、まったくの同じデザインである。
「まったく同じデザインでないと、結婚指輪の意味がないじゃねえか」
そう言って、将吾は自分の左手の指とわたしの左手の指を絡めた。
——やっぱり、めんどくさい人だ。
わたしは、ふふっ、と笑った。
The Carp◯ntersの♪I Need To Be In Love のインストゥルメンタルが、館内のBGMで薄く流れている。
「……彩乃、すんげぇ綺麗だ」
わたしを見つめる将吾の瞳が、カフェ・オ・レ色から琥珀色になっている。
わたしは、マーメイドラインのウェディングドレスにした。
ハートカットのビスチェから膝までは身体にぴったりフィットしたミカドシルクで、膝から下のスカート部分はシルクオーガンジーが幾重にも重なった、ロングトレーンだ。
長身だからこそ着られるデザインである。
そして、髪は敢えてアップにしないで、片側に寄せて、ロールさせていた。
将吾がアップよりも下ろした髪の方が好きだからだ。
「今すぐ……おまえを抱きたい」
そう言って、わたしの耳を甘噛みする。
——まずい、まずい、まずい。
「なに言ってんのよ。もうすぐ、係の人が呼びに来るよ」
わたしは将吾を宥める。
披露宴が終われば、いくらだって「相手」をしてあげられるのに。二次会までには、ちょっと時間があるから……
「このウェディングドレスの彩乃を、思いっきり……犯したい」
光沢のあるシルバーのタキシード姿の将吾は、先刻までチャペル内の女性たちのため息を誘っていた。
——あぁ、わたしのダンナさまは、色気が半端なくタダ漏れなんですけれども……
わたしたちは、松濤のおじいさまの「許し」を得たら——おじいさまの気が変わらないうちに——速攻で入籍していた。
「彩乃、せめて、キスだけでもさせてくれ」
将吾が焦れた目で懇願する。
——先刻……とんでもなく長い「誓いのキス」をさせられてしまったんですけれども。
舌まで入れられたし……厳かなチャペル内なのに拍手喝采だったし……神父さまが呆れてたし……
——だけど……キスだけ、なら……
そう思って、ちゅっ、と将吾のくちびるにキスをすると……とんでもなく深いキスが返ってくるではないかっ⁉︎
しかも、彼のくちびるは留まることを知らず、わたしの首筋を通過して、胸元まで迫る勢いではないかっ⁉︎
どうやら、ハートカットのビスチェの寄せて上げてつくった「奇跡の谷間」に欲情しているらしい。
——困ったもんだ。
「……ダメだってぇ」
だけど、拒否する声が甘い吐息になる。これでは、逆効果だ。
そのとき、コンコンコンとドアがノックされた。
「お時間です。披露宴会場にご移動願います」
と、ドアの向こうから声がかかる。
——助かった。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
それから、わたしと将吾は披露宴会場に向かう。
もちろん、指と指を絡めた「恋人つなぎ」で。
The Carp◯ntersの♪We’ve Only Just Begun のインストゥルメンタルが、館内のBGMで薄く流れている。
わたしと将吾は、披露宴会場へと向かう。
そこは、わたしたちが子どもの頃……
——初めて出逢った場所だ。
「政略結婚はせつない恋の予感⁉︎」〈 完 〉
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