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Last Chapter
土下座で愛の言葉を叫んでます ②
しおりを挟むしかし、松濤のおじいさまの「ムチャ振り」にわたしの父親たちが手をこまねいていたわけではなかった。
わたしも将吾もすっかり愛し合ってるもんだから浮かれて「恋愛結婚」の気分でいるけれども、やはりそれぞれの生家の会社の利害が絡んだ「政略結婚」という「大型プロジェクト」であるから、いくら一族のドンが決めたこととはいえ「はい、そうですか」ってわけにはいかない。
もうすでに、来月の結婚披露宴への招待客からの出欠の返事が届き始めているのだ。
もし、婚約破棄だの、破談だのと、ウワサにでもなったら、せっかくの両グループの提携が頓挫したと思われて、株価にまで影響を及ぼしかねない。
わたしの耳に……つまりは将吾の耳に入るまでになんとかしなくては、とわたしの父親は日参して(実は今日も)松濤のおじいさまを説得していた。
うちのおじいさまもほぼ毎日、電話で将吾の人となりを話してくれているらしい。(将吾はおじいさまのお気に入りだから)
だけど、そんなに「いい人」なら、ますます「キズモノの彩乃」と結婚させるわけにはいかないと言われ、日々玉砕しているらしい。
海洋も動いてくれていた。
彼の祖父である神山町のおじいさまと松濤に出向いて、わたしとは「ルームシェア」をしていただけで「疚しい」ことはなにもない——まぁ、まったくないこともないんだけれども——と断言してくれた。
松濤に出向いて、といっても……実は隣の家であるのだが。
妙なところで江戸っ子気質な神山町のおじいさまは「松濤」というよく知られた高級住宅街に居を構えるのは『半可通のやるこった』と言い放ち、松濤のおじいさまのお屋敷がちょうど松濤と(知る人ぞ知る高級住宅街の)神山町との境界に建っていたため、神山町側の方の隣にお屋敷を構えた。
そんな、仲が良いのか悪いのかよくわからない二人なもんだから、神山町のおじいさまが間に入ってくだすっても、結局火に油を注いだだけだった。
最初は『もう、わしらも歳だから、若い者の行く末に口を出すな』と目を細めて言ってくれていたそうだ。
なのに……
いつの間にか『昔、おれが夕飯後に食おうと楽しみにしていた饅頭をおまえが勝手に食った』『いや、食ったのはおれじゃない、上の兄貴だ』と罵り合うようになっていった。
じいさま二人の血圧を心配した海洋が、自分の祖父を羽交い締めにして帰途……といっても隣の家についたらしい。
「……仕方ねえな。直接、行くか」
わたしを抱きしめたままの将吾が、低い声でつぶやいた。
「彩乃、あさひ証券の会長に至急アポ取ってくれ」
——ちょ、直接対決!?
わたしは、ぶるぶるぶるっと震えた。
「大丈夫だ。おれがそのじいさんに会って、予定どおり来月に彩乃と結婚式を挙げられるように、交渉するから」
そう言って、将吾は帰ってきてから初めてのキスをした。そのキスが深くなるにつれ、だんだんなにも考えられなくなってくる。
そして、そのままその夜もやっぱり……
——わたしは将吾から「キズモノ」にされた。
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